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失恋のような、擦過傷のような栗村監督のコメント

先日のジロ・デ・イタリアの中継で、解説の宇都宮ブリッツェンの栗村修監督がTwitterからの質問に回答していました。

質問は昨年暮れに宇都宮ブリッツェンからキャノンデール・プロサイクリングに電撃移籍した増田選手に関するものでした。増田選手は体調を崩しているようですが、ツール・ド・フランスなどのグランツールに出場する見込みはあるのでしょうか。そういう質問内容でした。

栗村氏は次のように回答していたと思います。

増田選手はグランツールに出るような選手ではない。移籍もスポンサー枠があってこそ。欧州プロチームのパワーメーターを駆使した高負荷トレーニングで自分の限界にぶち当たったようだが、基礎的な体力・回復力も才能のうち。増田選手より優れている土井雪広選手でさえ今年はヨーロッパで走れていない。そしてヨーロッパには土井選手より優れた選手は何千人もいる。増田選手がグランツール云々という話は問題外で、誰よりも彼自身がそのことを知っているはず。しかし日本のクライマーが箸にも棒にもかからないわけではないことは証明してくれた。

テレビから流れてくるこれらの台詞を聞いていて、私は目が醒めるような思いをしました。iMacでメールを書きながらレースを観戦していたのですが、栗村氏のこの解説の途中からキーボードをタイプする手が止まってしまいました。

恐らく質問された方やレースを観戦していた数多くの方々は、「増田選手にもグランツール参戦の見込みが決してないわけではない。諦めずに頑張れば可能性はきっとある」というコメントを期待していたのではないかと思います。私自身、「Twitterからの質問」が読み上げられた時、無意識にそうした「可能性がないわけではない」的なコメントを予期していたと思います。何故ならテレビとはそういう予定調和的なメディアだからです。

しかし栗村監督のコメントはそういう予定調和を拒否する内容でした。ある意味で非常に厳しく、増田選手とそのファンだけでなく日本の数多くのサイクルロードレースファンにとって残酷な内容だったのかもしれません。落車した後の擦過傷がヒリヒリ痛むような、そんな感じだったのではないでしょうか。あるいは愛の告白をして拒絶された時のような心痛を感じた方もいたのではないでしょうか。

しかし栗村監督の語り口には意地悪なところも、自虐的なところもなく、淡々と「現実」を語っているように聞こえました。氏の「回答」を聞いていて、つらい気持ちになった方はいるかもしれませんが、不快感を覚えた方はあまりいなかったのではないでしょうか。

かつて日本のサッカーが世界レベルになるにはあと1,000年くらいかかると言われていましたが、気が付くと数多くの選手が欧州クラブチームに在籍しています。最近では単に在籍しているだけなく、チーム内で必要不可欠な機能を果たす選手も増えてきました。プロコンチネンタルチームやプロツアーチームに在籍する日本人ロード選手も少しづつ増えてきた印象がありますが、「有力チーム在籍」と「グランツール出場」の間には非常に大きい壁があるように見えます。

その壁は、夢を信じてがむしゃらに頑張るだけで打破できるような厚さではないのでしょう。

著者
マスター

2007年開設の自転車レビューサイトCBNのウェブマスターとして累計22,000件のユーザー投稿に目を通す。CBN Blogの企画立案・編集・校正を担当するかたわら日々のニュース・製品レビュー・エディトリアル記事を執筆。シングルスピード・グラベルロード・ブロンプトン・エアロロード・クロモリロードに乗る雑食系自転車乗り。

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コメント

  1. zunta より:

    ツール放送を見ながらコメ。スタジオには栗村、増田の両氏です。

    栗村氏は増田選手から相談も受けたという話で、だからこそ、ここまで
    論評できるんでしょうね。
    にしても、今日の放送で聞かなければ、スポンサー枠という事情も
    知らないまま過ごしていたぐらいです。

    このあたりも、予定調和な一般メディアからは聞かれないことを、
    栗村氏が教えてくれた気がしました。

  2. GlennGould より:

    最近の日本人プロ選手の海外での活躍にも拘わらず辛口の意見を持つ人といえば、

    三浦恭資、市川雅敏、栗村修

    この御三方かと思います。
    彼らに共通する通奏低音は、

    『海外との差は縮まっていない』

    ではないかという気がします。

    もしかしたらそうなのかな、という気が私もしなくもありません。

  3. teruterubozu より:

    興味深い内容でした。スポーツだけでなく、ビジネスの世界でも予定調和は多いですが、
    それを相手に不快感を与えずに伝えられる栗村監督の人柄はすごいですね。
    そんなすごいコメントが発せられた中継を見られず、残念でした。

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