旅・オフロード・人。それは星による評価の対象ではない、と思った話

舗装路ではなく、ダートを走る。グラベルを走る。オフロードを走る。

その時、私達は何を求めているのでしょうか。

それらの道は、ゴツゴツしていて、一様ではなく、次から次へと表情が変わります。道の機嫌が変わります。思い通りに行かないこともある、いや、思い通りに行かないことのほうが、多いでしょう。

砂漠

オフロード、そして旅は、別の言い方をするなら、平準化されていない、均質でない体験を求めることです。

オフロード

それが楽しいから、私達は「輪行」という面倒な作業をしてまで、あるいは電車や船に乗ってまで、遠くに自転車で走りに行きます。

ある町の食堂にて

先日、ある離島に小旅行に行きました。今年はもうこの日しかない、というあたりで休暇を取り、日課にしているブログは記事をストックして、朝にスマホで公開するだけにしておいて、島に出かけました。その島に行くのは、今年2回目です。

そして今回、私はある同じ食堂で2回、食事しました。はじめて行くお店です。

1回目(それは島の初日でした)、お店に入ろうとした時に中から出てきたおかみさんに、こんにちはー! と声をかけました。

しかし、おかみさんは私の顔を黙って見つめたまま、ぷいっ、と顔をそらして外に出ていってしまいました。

む、無視された…

私はちょっとイヤな予感がしました。この店、大丈夫だろうか…

しかし、注文した島の寿司。これが最高においしかったのでした。

口に入れた瞬間、全てが肯定されました。

イヤな予感も、機嫌の悪そうなおかみさんの表情も脳裏から消え去り、とうがらし醤油で味付けされた白身魚の寿司、それ以外のすべてを忘れました。

島寿司

最高の体験は、すべてを忘れさせてくれます。ライドであれ、食事であれ、飲み物であれ。

それから2日後。その島寿司があまりにおいしかったのと、あの不思議なおかみさんが気になって、島を去る前にもう1度そこに食べに行くことにしました。

おかみさんはこの日、2日前とは別人のように機嫌が良さそうで、まるで孫にでも接するような優しい笑顔で、いらっしゃい、何にしますか、と聞いてきました。

おかみさん… 山の天気のようだ!

その日は、島海苔のたっぷり入ったラーメンを頼みました。伊勢エビの半身とサザエの壺焼が豪華に入っている、本当においしいラーメンでした。

東京に帰ってきてから、私はそのお店のことをネットで調べました。

すると、いろいろな口コミ、レビューがあり、どちらかというとネガティブな意見が多数派であることを知りました。

  • 愛想が悪い…
  • 観光客を門前払いするかのような雰囲気だった…
  • 知人がこの店に入って後悔したと言っていた…
  • 接客態度が悪すぎて笑えた…
  • 観光地にしては安いが騙されたような気分…
  • サザエや海老は出汁ガラで旨味は抜けている…
  • 1万を出すと不満を言われる…
  • 味は普通だし、量は少なく、やる気がない。店を辞めたら良いのではないか…
  • もう来ることはないだろう…
  • ちゃんとした伊勢海老が食いたかったのに…
  • 麺は固まったままの即席麺っぽい…

これらの意見は、どれも島外からの観光客によって書かれたものであるようでした。

読みながら、旅とは何だろう、と考えました。東京で暮らしている私も確かに、日常では「標準化された均質なサービス」を、お金の対価として求めています。予想と期待があり、予想が裏切られないことを、期待が満たされることを前提に消費活動を行っています。

しかしそうした行動原理を旅に求めるのは、違うのではないか、と思いました。

たった3日間の、小旅行です。旅、と呼ぶのは大袈裟かもしれません。でも、あのおかみさんが最初に見せた愛想の悪さ、2回目に見せた別人のような優しい笑顔を思い出すと、短い期間だったけれど、俺は少しだけまともな旅をできたのかもしれない、と思ったのでした。大袈裟かもしれないけど。

麺が即席麺っぽいとか、海老が出汁ガラであるとか、それは本質的なことではないのです(ついでに言うと私のラーメンに入っていた海老は身もちゃんとあったぞ 笑)。

下に、そのラーメンの写真を貼ります。このブログでは通常、埋め込む写真の横幅は最大1200pxに統一しているのですが、この写真は特別に横1600pxで貼ってみます。

磯のりたっぷりラーメン

このラーメンの特別さが、伝わってくれるでしょうか。

こんなに美しい、丁寧なラーメンを出す店のおかみさんについて、私はインターネットにマイナスの口コミを残すことができません。

それはどこか正しくないことだと思ったのです。

島で暮らしている人々の生活に流れる論理と、そこで流れている時間は、西ヨーロッパに起源を持つ現代の資本主義や、そこから発生する競争社会のそれとは、微妙に違っているものです。

そこにいつもの自分の論理やルールを持ち込むとしたら、それは何のための旅なのか。未知を求めて旅に出たのに、既知を求めてどうするんだ。

おかみさんの態度の変化も、オフロードの轍で転んだのも、自転車と一緒にその上に寝そべって空を眺めた火山のふもとのジャリジャリとしたスコリアも、私にとっては旅の良い思い出となりました。レビューサイトを運営しているくせに、旅も、オフロードも、人も、星による評価の対象ではないんだ、と思ったのでした。

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