最近Instagramで「シマノの割れたクランクの画像」が回ってきました。そこで投稿者のアカウントに移動したところ、そこは「割れたシマノ製クランクの展示会」とも言えるような光景になっていました。例えば下のような画像が何十枚も貼られています。
自分の頭で考える
一箇所に大量に集められたそれらの壊れたシマノ製クランクの画像を見て、
シマノのクランクではこんなに不良が発生しているのか!
と反射的に思ってしまったら、それは結構危険なことではないかと思います。
まずここには「壊れた製品の画像」だけが集められているわけで、世界には「壊れていないシマノ製クランク」が、何十万倍か何百万倍か知りませんが、山ほどあるわけです。
また、よく読んでいくと、これらの写真の中には投稿者が使っていたものもあるのかもしれませんが、大部分は「発見」したり「寄せられた」ものであることがわかります。
この画像群を見て
これだからシマノはダメなんだ!
と思ってしまうようなら、プロパガンダ(特定の意識・行動に誘導するための宣伝活動)に支配される情報弱者になってしまいます。提示された情報を鵜呑みにするのではなく、ここで何が起こっているのかを自分の頭であらためて考えるのが大事ではないでしょうか。
この投稿者の方のコメント欄での言葉使いや、アカウント名やアカウントの育て方などを眺めていて、この方の意図が何処にあるのか、私なりの結論は出ましたが、それはここには書きません。大事なのは自分で判断する力を養うことです。
Ultegra FC-6800クランクに不良品が多い?
その上であらためて上述のアカウントの画像を眺め、破損したクランクのモデルを調べていくと、ざっとこんな感じになりました(2月12日時点。1〜2件のカウント間違いはあるかもしれません)
- Dura-Ace FC-9000:12件
- Ultegra FC-6800:23件
- Ultegra FC-R8000:3件
- 105(型番不明):1件
- Dura-Ace FC-R9100:1件
- METREA:1件
これを見て、あれらの「クラック」や「折れ」が仮に設計不良、あるいは製造不良に起因するものだと仮定した場合、6800系アルテグラのクランクだけ特におかしい設計だったか、あるいは不良品が多かったのではないかという仮設を私は立てました。
そしてこの仮設の真偽を確認するため、取材班はアマゾンの奥地…じゃなくてGoogle経由で北米の掲示板redditの森に辿り着き、次のような情報を採取してきました。
接着式の中空クランクの一部ロットに問題があった?
以下、次のページから。
出典 Which aftermarket 11-speed crankset to use with a Shimano ultegra threaded BB?
The issue with the Ultegra cranks seems to apply to only a very small percentage of Ultegra 6800 cranks manufactured in 2014-2015. Mine started to delaminate after about 10,000 miles of riding, and Shimano replaces them immediately with the next generation when my shop contacted their warranty group.
Ultegraクランクのこの問題は、2014-2015年に製造されたUltegra 6800クランクの非常に小さいパーセンテージでのみ当てはまるように思われる。私の個体は10,000マイルほど乗った後に剥がれてきた。ショップがシマノの保証部門に連絡したらすぐに次世代の製品と交換してもらえた。
105 doesn’t have the 2 bonded shell like ultegra and dura ace.
105はUltegraやDura-Aceのような接着された2つのシェルで出来てはいない
Ive got a second hand ebay 6800 crankset I put on my gravel bike last year and put more than 7,000 miles on. Doing fine. Aint gonna blow up. Small percentage had issues.
僕はebayで買った中古の6800クランクを持っていて去年からグラベルバイクで7000マイル以上使っている。問題は起きていない。壊れはしないだろうね。一部に問題があったんだろう。
以下は次のページから。
出典 Shimano Ultegra Crank Catastrophic failure!
Older Hollowtech cranksets were hollow forged. Newer ones are actually bonded together.
古いホローテックのクランクは鍛造だった。新しいのは接着されている。
This seems to be a pretty common failure of Shimano’s bonded hollow cranksets (failure of the bond).
シマノの接着式中空クランクセットではよくある不良みたいだね(接着剤の不良)。
…it looks like it’s only the Dura Ace FC-R9000 and FC-R91000, Ultegra FC-6800, and XTR FC-M9000 “race” crankset (not the FC-M9020 “trail” crankset) that are bonded rather than hollow forged. Can’t quite tell for certain, but the Ultegra FC-R8000 might have gone back to hollow forged instead of bonded? Image-searching for “Ultegra crank failure” has a large number of 6800 cranks with failed bonds; doing the same search for “Dura Ace crank failure” or “XTR crank failure” comes up empty… but I’ll bet Shimano sells a massively larger number of Ultegra parts than Dura Ace or XTR, so the lack of DA/XTR photos doesn’t say much.
鍛造中空構造でなく接着式なのはDura Ace FC-R9000とFC-R9100, Ultegra FC-6800, あとXTR FC-M9000 “レース” クランクセット (FC-M9020 “トレイル” クランクセットではない)だけみたいだね。確証があるわけではないが、Ultegra FC-R8000は接着式でなく鍛造式の中空に戻ったのだろうか? 「Ultegra クランク 不良」で画像検索すると接着不良を起こした大量の6800クランクの画像が見つかる。同じように 「Dura Ace クランク 不良」や 「XTR クランク 不良」と調べてみても何も出てこない… でもシマノはDura-AceやXTRよりもかなり多くのUltegraを販売していると思うから、Dura-AceやXTRの画像がないのはあまり意味がない。
以下は次のページから。
出典 CTTO
The overwhelming majority of these failures seem to happen on Ultegra cranks. 105 seems to be unaffected for some reason. Quite interesting.
この不良の大部分はアルテグラのクランクで発生しているようだ。105は何らかの理由で影響を受けていない。非常に興味深い。
Ultegra is certainly more used than Dura-Ace. But if it were an inherent design flaw with the hollow arms, one should suspect to see quite a few 105 5800 with the same type of failure as those are used more than Ultegra.So, my best guess is that there were a bad production batch of Ultegra 6800.
Ultegraは確かにDura-Aceよりも使用者が多い。しかしこれが中空クランクの設計上の瑕疵によるものだとしたら、5800系105のクランクの多くでもこの不良が見られたはずだ、だってアルテグラよりもユーザーが多いんだからね。というわけで6800系アルテグラの一部ロットに問題があった、というのが僕の推測だ。
The word is that corrosion inside the DS arm is causing adhesive failure. Apparently this is mostly happening in hot places near the ocean.
噂によるとドライブサイドのクランクの内部での腐食が接着不良を起こしている。海のそばの暑い土地でこの不良が起きているように見える。
等々、なかなか興味深い情報・考察がザクザクと出てきました。
勿論、これらの情報の真偽は誰にもわかりません。しかし複数の人からの情報を総合的に判断して、たぶんこういうことが起こっているのかな、と自分なりに考えてみることはできるでしょう。
まとめ
私個人が理解したこと・推測したことのまとめです。
- シマノ製クランクで割れたものがあったのは事実であるようだ
- いちばん多く割れたのはFC-6800だったようだ
- FC-6800の一部ロットでのみその不良は発生していた可能性がある
- FC-6800以外にも、中空構造で鍛造式でなく、接着式のクランクの一部ロットに問題があった可能性がある
- 特定のロットで使われた接着剤の品質に問題があったのではないだろうか
- 特定の環境で中空クランク内部の腐食がはやく進み、その結果接着剤に悪い影響が与えられたのだろうか
という感じなのですが、すると最初に紹介したInstagramのアカウントにある割れたMETREAや割れた105クランク、そしてヒビが入ったUltegra FC-R8000などは、FC-6800の不良とは別の原因によるものと考えたほうがいいような気がします。
特にMETREAのペダル軸の破損や、Dura-Aceクランクの締結ボルト付近のクラックなど、ユーザーによるトルク管理のミスを思わせる画像もいくつかあります。
勿論、真相はシマノによる公式発表がないと誰にもわからないでしょう。いずれにしても、割れたシマノ製クランクの画像をバーッと並べて「シマノ、ダメ。不買。」とやるのは、何かちょっと違うんじゃないかなという気はします。
せっかくならredditで何人かの方が考察されていたように、どのモデルがどんな原因で問題を起こしていたのかを考えていくほうが、はるかに有意義な行為でしょう。
プロパガンダは他人を支配するための道具であり、リサーチと考察は自分を自由にするための道具です。
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