今日も勝利の女神は、アタシだけにチュゥしてくれない。虹の彼方に行こうと思っても、坂の手前で途方に暮れる貧脚自転車乗りnadokazuです。
コメくいてー(でもやせたーい!)というわけで、本日の駄文はこちら!
新登場!タイレル「FCX」。
うどん県のスポーツ自転車メーカー、「アイヴエモーション」。同社が開発・販売する折り畳みミニベロロードには、ベースモデルの「Tyrell FX」、上位モデルの「FSX(ワイヤーが内装になったり、フォークがオリジナルのカーボンフォークになったり)」、エントリーモデルの「FXα(パーツや生産管理の調整で、よりお手頃に)」そしてお値段100万円超のスーパーデリシャス遊星ゴールデンスペシャルリザーブゴージャスアフターケアーモデル「XF(世界限定50台/すでに販売終了)」があります。
そこに、最新モデルの「FCX」が加わりました。これまでタイレルの折り畳みはアルミ(FX・FSX・FXα)とチタン(XF)がフレーム素材でしたが、FCXでは「クロムモブリデン鋼」が初採用されています。ちなみに「FCX」の「C」が、クロモリの「C」なのか定かではありません。
「FX」とは、どこが違う? ⇒ ぜんぶ違いました。
Tyrell FXと、Tyrell FCX。モデル名の違いは、1文字だけ。シリーズ共通の「スラントデザイン」が採用されていて、シルエットもかなり近似。パッと見でわかるのは、クロモリならではの細身のフレームになっていること。そしてホイールが20インチの406から、451にサイズアップしていることぐらい。
「フレーム素材とタイヤサイズを変更した、バリエーションモデルでしょ?」と思うのが、普通だし自然でしょう。
なんですが!
いろいろ見て・聞いてみると、似ているのはシルエットだけ。あとはもう、完全な別モノと言っていいぐらいです。とんでもないコダワリと技術、そして開発ご担当の方のハンパない「想い」が込められています。ものすごい熱量。
これは…ヤバイ自転車です。
開発決定から受注開始まで、ほぼ丸4年。
FCXの開発が決定したのは、2017年。1STロット生産分の受注が開始されているのは2021年5月ですから、ほぼ丸4年間が開発期間に費やされていると考えられます。
4年あれば、中学3年生は大学1年生。iPhoneなら、5SからXになります。自動車だって、フルモデルチェンジできちゃうぐらいです。それだけの時間をかけてFCXが目指したのは、公式ブログによると以下のとおり。
◆FCXの開発要件
- ミニベロの既成概念を超えた安定感のある直進性。
- ダンシング時のさばきの軽さ。
- 衝撃吸収と反発力の絶妙なバランスポイントの実現。
- シンプルで研ぎ澄まされた「佇まい」。
- メイドイン讃岐
これらがFCXの開発要件なのですが、要はカッコよくって「何じゃこれ!!」って思わず言ってしまう性能が有って、いつまでも乗っていたくなって、Tyrellの自社工場で作られた自転車って事です。
とても平易な言葉になっているので、簡単に見えちゃうかもしれません。が、1~4の要件すべてが、数値化できない領域を多分に含むものばかり。つまるところ「終わりの見えない開発目標が掲げられていた」ということですよね。そりゃ4年かかりますわ…。
結果、FCXのありとあらゆるところに、開発目標を達成するための技術と工夫が詰め込まれています。これは、もはや「意志」のレベル。
カーボンフォークは自社製造!
折り畳みできるフロントフォークはカーボン製なのですが、「自社設計」というだけでなく「自社製造」とのこと。
は???
イミワカンナイ!
カーボンフォークを、自社で製造する。その実現には、どれだけの設備投資と生産技術獲得のためトライ&エラーが必要になるでしょうか。気が遠くなるレベルであろうことは、想像に難くありません。
なんですが!
それを…やっちまったらしいです。アイヴエモーションのみなさん。
そりゃあ、選択肢としてはアリだろうが…選ぶなよ…。というか、経営判断としてアリなの!?
これによって実現したのは、委託先での生産では望めない高い仕上がり品質の担保。そして、より攻めた設計での試作です。フロントホイールのポジション決めには、それこそミリ単位でのチューニングをされたのだとか。
もう、これだけでお腹いっぱいです。
参考 Tyrell Factory Blog【開発ストーリー FCX編 vol.5 進捗状況のご報告】
折り畳みに新しい仕様を導入して、手間増。でも…。
折り畳み方式については、従来モデルと根本的に変わったわけではありません。が、FCXでは、いくつかのパーツが新たな仕様に変更されています。
・クイックで固定するターンステムを、スキュワーで固定する方式に変更。
・シートポストとシートステーの固定に、新規開発されたパーツを採用(こちらもクイックではなく、スキュワーでの固定)。
・シートチューブから取り外したシートステーを、チェーンステー上に新設したキャッチャーパーツで保持。
その結果、折り畳みの作業については、「何度もスキュワーを締め付ける作業」が加わっています。つまり従来モデルより、手間が「増えている」。
え?ふつう逆じゃね?と、思ってしまうところです。
なんですが、クロモリフレームが持つ「しなり」を、有効に働かせるためには各接合部の固定力を増すことが不可欠。これも、開発目標を達成させるための「必然」。という説明には、納得せざるを得ませんでした。
「今までにない走行性能のフォールディングバイク」とは、「折り畳み部分が悪戯してフレームのしなりが有効に働かない事を解消する。」って意味なんですよ。
それでは、どうやって有効な「しなり」を作るか・・・
FCXでは新しい折り畳み部分の設計を取り入れて、連結箇所の固定力を大幅にアップさせ、チューブのしなりや反発力がしっかりと機能するようにしています。(中略)
FCXのシートステーはしなりを活かす為に細いチューブを使用していて、ステー単体で自立の脚と出来る程に強度が有りません。
そこで、シートチューブから取り外したシートステーを、チェーンステーから取り出したキャッチャーで保持して折りたたむ方式を考えました。こうする事で、折りたたんだ際の強度を意識する必要がなくなり、折りたたむことで走行性を犠牲にすることが無くなりました。
Tyrell Factory Blog【開発ストーリー FCX vol.3 FCX でしか味わえない走りの楽しさとそのロジック 「しなり」について】より引用
エンブレムもスペシャル版。
「FCX」のエンブレムは、125万円の「XF」と同じ意匠。スペシャリティモデル用が、惜しげもなく奢られています。
タイレルのブランド的には、FCXが「トップモデルと同等のポジションに属する」という明確な意思表明。こんなところからも、ハンパない力の入れ具合が窺えます。
どんな一台に仕上がってる?
FCXに跨がって、ペダルを踏み込む。次の瞬間、掛け値なしにこう思いました。
「何じゃこれ!!!」
終わりが見えないはずの開発目標、完全に達成されてませんか?
以下、素人の感想になりますが
・べらぼうに乗り心地がイイ!
自分はロードバイクのチューブをラテックスチューブに変えても、乗り心地の変化を明確に感じ取れないレベルの鈍感野郎です。が、それでもFCXに乗って走ってみたら、FXとの違いは明確に感じとれました。
サスペンション機構は装備されていないのに、路面からの細かな振動の伝わり具合が明らかにマイルド。
・気持ちよく進む!
乗り心地には、ちっとも固さを感じません。それなのにペダルへの入力が、ぜんぶ推進力になっている印象。実に気持ちよく進みます。
乗り心地の良さと相まって
「どこまでも走って行けそうだ…」
という感情に支配され、試乗中なのにこのままロングライドに出かけてしまいたい衝動に駆られました。
1点、「フレームのしなりを使って、リズムよくダンシングで加速する」みたいな部分だけは、実感できませんでした。これはFCXのせいではなく、試乗コースにフル加速するようなシチュエーションがなかったこと。そして自分が自転車乗りとして、へっぽこ過ぎることに起因します(涙)。
そして塗装はもちろん、カドワキコーティングのパウダーコーティング。べらぼうに美しい仕上がりです。
それにしても「Tyrell FX」といえば、折り畳みとは思えない剛性感の高さで、すべての入力を推進力に変えていくような走りが魅力。実際、自分も購入からずっと、その走行性能の高さに依存しまくってきました。
それが、新モデルではクロモリ?? なぜわざわざ剛性感を落とす方向に!? そこはカーボンじゃないの!?
とか、思いっきり思っていましたが、まさかこんな方向性がありえるとは。完全に脱毛…じゃなくて脱帽です。
完全受注生産。つまり、やりたい放題できる。
「執筆時点では」という前置きはつきますが、FCXは完全受注生産とのこと。それがどういうことかというと、「事前の相談で、カスタマイズし放題」。
- キャリア装着用のダボ穴を追加したい。
- ダウンチューブ下部にもボトルケージ台座を設けたい。
- eTAPを使うので、変速ワイヤー用の穴あけ加工は無しで。
などなど、カスタマイズのお願い余地がありまくりです。フロントバッグ取り付け用台座の追加だって、全然お願いできてしまうでしょう。オルトリーブやリクセン、ブロンプトン用フロントバッグの無加工装着だって夢じゃない!
しかも、クロモリフレームなのでダボ穴の追加や取り外しなどを含め「あとから変える」ことだって、余裕でできてしまいます。
もしかして…究極のフォトポタ自転車を仕上げることも…できてしまう…のか?
そんな1台は、おいくらなのかしら?
これまで培われた知見のうえに、こだわりと想いと技術と意志が詰め込まれた1台。さて、その対価として、どれだけの日本銀行券が必要になるかというところですが
◇フレームセット希望小売価格:¥328,900(税込み)
※フォーク、ヘッドセット、トップカバー、スペーサー、コラムクランプ、シートクランプ、FDバンド付属◇コンポレス完成車キット希望小売価格:¥363,000(税込み)
※完成車からコンポーネントパーツ(FD、RD、BB、ブレーキ、クランク、チェーン、カセットスプロケット、コントロールレバー)を除いたセットTyrell Factory Blog【開発ストーリー FCX編 vol.6_1 FCX Unveil !! その2】より引用
「フレームセット」と「コンポレス完成車キット」2ラインで、そのまま乗り出せる「完成車」は用意されていません。まぁ、こんなモデルを選ぶ人は、電動デュラエースが装着されていたところで、好みのコンポに総取っ替えしちゃうでしょうから妥当すぎる判断ですね。
中の人によると、フレームセットではなく「コンポレス完成車キット」のほうがオススメ。乗り味を標準装着されている「ホイールありき」で仕上げているから、とのこと。
というわけで、用意すべき日本銀行券の枚数は、手持ちのコンポを流用しないのであれば軽く50枚以上になるでしょう。…ゴクリ。
まとめ…?
素人の勝手な思い込みを、はるかに超える技術とこだわり、そして開発ご担当の方の「意志」が詰め込まれていた、Tyrell FCX。この1台につぎ込まれた圧倒的な熱量は、こんな駄文では絶対に伝わりきりません。ぜひ開発の方が執筆された、公式ブログに目を通してみてください。
参考 Tyrell Factory BlogのFCX関連記事
いま(執筆時点)「外泊証明書にしては妙にでっかい書類」にサインしてしまえば、栄えあるファーストロットのオーナーです。ちなみに自分が試乗に行ったとき、グリーンサイクルステーションではホンの1時間ちょっとのうちに、2台が成約完了していました。わかります。これ試乗したら、虜になっちゃいますよね。
ロードバイクや、折り畳み自転車の購入を検討している方は、購入モデルの最終決定の前に是が非でも「Tyrell FCX」を試乗してみてください。ブロンプトンとTyrell FXを持っている自分が「ロード含めた手持ちの自転車と、カメラ機材を全部売り払えば買えるかも…」という、無謀な衝動に駆られたぐらいです。乗ってみて、絶対に損はしませんから。たぶん、きっと、おそらく。