シッティング(英語では”seated”)のヒルクライム中はサドルノーズを下げると効率が改善される、という科学的な実験結果が公開されています。英Road.ccが論文を紹介しています。
出典 Nose-down saddle tilt improves gross efficiency during seated-uphill cycling – PubMed
出典 Time to change The Rules? Tilting your saddle nose down by eight degrees is more efficient in seated-uphill efforts, researchers find | road.cc
つまり「水平な地面に対して並行」が良い?
実際の研究論文は5000円ほどする有料版なのですが、最初のソースではアブストラクトを読むことができるので下に翻訳します。
- 概要:坂道を登ることは競技サイクリスト、レクリエーション・サイクリストにとって課題である。限定的なエビデンスに基づくものではあるが、数人の科学者がヒルクライム中にサドルのノーズを下げるとサイクリングの効率が最大6%まで改善すると報告している
- 研究目的:サドルノーズを単純に下向きにティルトさせることで登坂中の効率が増大するのかを調査した(その結果パフォーマンスが改善すると推測される)
- 方法:19人の健康的なレクリエーション・サイクリストに複数回の5分間のテストを行わせた。ポジションはシッティング、出力は~ 3 W kg-1 、巨大なカスタムメイドのトレッドミルの傾斜を8°に設定した。サドルはライド面に対して平行な状態と、8°のノーズダウンの2つの条件を試した。被験体の酸素消費率と二酸化炭素生産量を、呼気ガス分析システムで測定し、5分間の各実験のうち最後の2分間の平均代謝力を計算した
- 結果:平行なサドルポジションに比べて、サドルノーズを8°下げると全効率は 0.205から0.208へと改善した。平均的な増加量は 1.4% ± 0.2%, t = 5.9, p < 0.001, CI95% [0.9 to 1.9], dz = 1.3.
- 結論:この研究結果により、登坂中の効率を向上させる、革新的なサドルの新しい装置やデザインへの機会を提供する。他の角度の斜面でのサドルのティルト効果や、効率改善の背景にあるメカニズムはさらなる調査が必要である
この実験方法は、上げた斜度分をそのままサドルのノーズダウン角に適用することで、水平な地面との仮想的な並行をキープする、という内容に見えます。つまり「登りではサドルを下向きにする」という言い方もできますが「登りでもサドルは(水平な地面に対して)平行を保つ」ことで効率が改善される、ということのようです。
ノーズ可変装置は既に存在する
すると「ライド中に自在にサドル角を変えられる仕組みがあれば良いのでは?」と思ってしまいますし、上述の研究論文もそうしたデバイスの提案に繋げたいようですが、2021年1月に下の記事で紹介した「乗りながらサドル角度を変えられるカナダ発のクランプアダプター・SwitchGrade」のことを思い出しました。つまり、もう存在しています。
SwitchGradeは当時のプロトタイプで170gあり、これ以外のアプローチもあるかもしれませんが、将来的にはドロッパーシートポストと並んでサドルノーズをリモートコントロールできるシステムが生まれたりするのでしょうか(傾斜に合わせて自動的に水平を保つサドルなども面白そうですね)。
road.ccの記事では、この記事の冒頭に埋め込んだクリス・フルームのバイク写真も紹介されていました。フルーム氏は少し前下がりが好みなのでしょうか。
ガチのクライマーの方は既に経験的にわかっていることかもしれませんが、定量的な実験結果が出てきたのが面白いですね。ほぼ登りだけのヒルクライム大会では皆さんサドルノーズを下げていたりするのでしょうか。経験談など是非ご共有いただければ幸いです。