あなたの知らないシフトレバーの世界

「人力」という極めて脆弱で消耗の激しい原動力を地球上で最もエネルギー効率の良いとされる「自転車」に有効に使用するには、高度な頭脳を要するエネルギーマネージメントである「変速」が必要とされます。

この「変速」を実現する際に人とバイクの間に存在し入力接点となる物が「シフトレバー」です。

シフトレバーの無い時代の変速方法

さて時代を遡ってシフトレバーのまだ無かった頃の最も原始的な変速は、リアホイールの両側にギヤを付けておき変速のたびにホイールを外して裏返すというやり方でした。一部のシングルスピード乗りは「フリップフロップ」と称して現在でも喜々として行っています。

フリップフロップ

また少しマシな方法として、ホイールに2枚か3枚のギヤを付けておき後輪を緩め手でチェーンを架け替えて変速するという物もありました。これもごく少数ではありますが現在においてもディングルスピード乗りの常套手段でもあります。

ディングルスピード

ロッド式シフトレバーの出現

その後、走行中でも変速出来るように棒でチェーンをずらす方法が現れたのですが、理屈としては次のような単純なものです。

  1. チェーンを挟んでいるプレート付きの棒で強制的にギヤからチェーンを脱線させます(変速開始)
  2. 脱線したチェーンが次のギヤに収まるように導きます(変速完了)

CAMBIO OMAC SPORT

それを実現したのがCAMBIO OMAC SPORTでした。1947年特許取得のOMAC社製の変速ロッド。変速装置のない市販の自転車に後付けするための製品でした。

これは現代のリアディレイラーと基本的に同じ動きなので分かりやすいと思いますが、多くの競技で使われたカンビオ・コルサ(Cambio Corsa)という優秀な変速システムはもっと複雑であり確実でもあったようです。

Wレバーの出現

さて、いよいよ真打ち登場です!現在では「紐」と呼ばれているワイヤー引きのシフトレバーで、今回のテーマとなるWレバーなのです。

Campagnolo グランドスポルト

写真上はCampagnolo グランドスポルト。現在でも入手しやすく高価なものではありませんが得も言われぬ味わいがあります。

この後しばらくシフトレバーはWレバーのまま基本的に変わらず、専らディレイラーの変遷が変速の性能を劇的に進化させる過渡競争時代へと突入していきますが、このあたりは私には無縁な崇高かつ神秘的な領域なので立ち入らないことにします。

横道にそれますが、現在普通に見られるシフトレバーといえばシマノSTIデュアルコントロールレバーやカンパニョーロエルゴレバー、スラムダブルタップです。

これらはコンポーネントトータルで最高の性能が出るように設計され1変速毎のワイヤーの巻き取り量が決められていますので、あれやこれやの寄せ集めで動かしたい人々の間では絶えず苦労を生み出しています。

シマニョーロと呼ばれる苦労話は尽きません、ワイヤーを逆にクリップしたり、巻取りプーリーを高価な対策品に換えたり、ワイヤー巻き取り量の変換プーリーを途中につけたり…

とはいってもこれらも電動化、無線化の時流に従っていくようですので、EV自動車のように大手メーカーではない所から雨後の筍のように急伸してくる可能性も高いと思われるのでこの先楽しみです。

さて、色々なパーツが好き勝手に付けれたおおらかな時代、その頃を謳歌したWレバーに郷愁と憧れを持つ人々が絶えることの無いのは何故でしょう。

鉄器時代からDNAに挿入された金属へのノスタルジー、或いは縄文時代から培われた釣り糸のダイレクト感、拾い集めた物で狩りの道具を作成する創造の歴史、これらが核となっていることに私は疑いません。

すごく身近だったちょっと古いWレバーたち

最近まで、すごく身近だったちょっと古いWレバーたちを紹介します。

まずはSuntour PDL。フリクションで6sロードバイクで今でも現役で使っています。

Suntour PDL

SHIMANO 600。フリクションでデュラエースのアンダーグレードで今ならばアルテグラ相当でしょうか。

SHIMANO 600

Suntour Superb Pro。インデックスで7〜8s用ですがフリクションにして9sで使っています。

Suntour Superb Pro

参考 Wレバーの3タイプ

Wレバーにはその動作に応じて3つタイプが存在しています。

  1. フリクション: ディレイラーのスプリングの力でワイヤに引かれてレバーが後戻りしないようにするため、摩擦板で抵抗を加えたもの
  2. パワーラチェット: フリクションのバリエーションとして特に軽くて操作のよいラッチ機能を使った物もあります
  3. インデックス: スプロケットとリアディレイラーの組み合わせに対応した1s毎のワイヤーの引き量をレバーのクリックで位置決めし、確実な変速が可能な機能が追加された物も有ります

なおインデックスタイプには、フリクションモードと切り替えられる製品も存在します。

現代のWレバー

11スピード対応Wレバー

7,8s時代に終わりを告げたかの様なWレバーですが、9s時代に突入してからもまだまだ作り続けられており、11sの現代においても衰えることはありません(ひとえに世界中のエンスーの心の支えである国内メーカーヨシガイさんの孤軍奮闘によるものですが)。

最新の物でも40年前の物でもワイヤが引ける範囲内であればどんなディレイラーでも使えるフリクションタイプになっています。

  1. ENE CICLO W-SHIFT LEVER …10sまで対応
  2. ENE 11S SHIFTER…11s対応

ENE 11s SHIFTER

上の写真はENE 11s SHIFTER。カラミータデュエで使ってます。

画像で見られるように左側のフロント用と比べると、増大したリアディレイラーワイヤーの巻き取り量に対してレバーの動作角を従来の範囲に抑えるためレバーの巻き取りスプールが大きくなっています。

動作角が抑えられたのと同時に1s当たりのレバー位置が細かくなりより精密な操作を要するようになりましたが、操作に慣れれば素早い変速が可能となります。

【ENE CICLO】 CICLO 11S SHIFTER シマノ・カンパ11段対応
ヨシガイ
売り上げランキング: 200,416

WING SHIFTER

これらはダウンチューブに取り付けるスタンダードなWレバーですが、やはり最適なエネルギーマネージメントのためにハンドルバーに取り付けて操作性を向上させたいという願望も決して消え去ったわけではありません。

そこで登場したのがかのサンツアーの名品コマンドシフターを現在に蘇らせたWING SHIFTERです。

WING SHIFTER

WING SHIFTER

ウイングの名の通りブラケットを握った親指への干渉を避ける形状となっています。STIやエルゴなどの横シフトに慣れていると縦系のひねりはまさにWレバーだと嬉しくなってしまいます。ハンドルバーの広い範囲で操作可能なのでランドナーなどに最適な感じがしました。

Gevenalle

さて、これを目にした方或いは実際に使っている方も居られるかと思いますが、Gevenalle(ギブネール)です。

Gevenalle

Gevenalle

Surly Cross-Checkに装着してます。

Gevenalle

竹自転車にも付けてます。

「レトロシフト」と聞けば思い当たる方も居られるかと思います。

簡単に言うとブレーキレバーにWレバー用台座をボルト止めした物になりますが、ブラケットを握った状態での抜群の操作性とWレバーの利点である引きの軽さ、メンテナンス性の良さ、故障の少なさ、一気に変速可能な瞬発性は他に無いものです。

もちろん手持ちのWレバーを取り付けて使うことも出来ます。

Gevenalle

写真上はGevenalleの台座にダイアコンペWレバーを取り付けた状態。

しかしながらSHIMANO 11sを使っている場合にはインデックス対応したGevenalleシフトレバーを使うことをお勧めします。シクロクロス用として実戦投入されているだけのことはあり、ストレスフリーな操作性はより走りへの集中力を維持する助けとなるでしょう。

また、MTB用とロード用でワイヤーの巻き取り量が異なるのでそれぞれに応じたシフターと取付可能な台座が用意されています。

  • シマノロード11sにインデックス対応したGevenalleCX
  • シマノMTB11sにインデックス対応したGevenalleGX

実はこのブレーキレバー、TEKTROの製品をベースにしているようなので既成のテクトロブレーキレバーと互換性があります。つまり使うバイクのブレーキタイプとリアディレイラーのタイプに合わせて幾通りも組み合わせることが可能なのです。

例えば機械式ディスクブレーキやVブレーキのバイクであれば、TEKTRO RL520にGevenalle GX台座とシフトレバーを取り付けることでXTやDEORE等のRDと11-46tカセットスプロケットのMTB11sを操作出来ます。

キャリパーブレーキやカンチブレーキのロードの場合であればTEKTRO R100にGevenalle CX台座とシフトレバーを取り付けることで105のRDに11sカセットスプロケットといった組み合わせが使えます。

シクロクロスバイクのようなカンチブレーキやミニVブレーキのバイクに11−46tのフロントシングルを使いたいとあればTEKTRO R100にGevenalle GX台座とシフトレバーを取り付けXT等のMTBのRDを引くことが出来ます。

Gevenalle GX1
DEORE XTでフロントシングルにした26インチMTBの650Bリム化に合わせてブレーキをMrコントロールロングレンジVに交換し、Gevenalle GX1を取り付けた買い物バイク。

Gevenalle CX2
TRP CX8.4ミニVブレーキとSHIMANO 105(2✕11s)仕様にしてGevenalle CX2を取り付けたTNI CX-EXTRA

Gevenalle GX1
VブレーキとDEORE XT(1✕11s)仕様にしてGevenalle GX1を取り付けたTNI CX-EXTRA

Gevenalle GX1
VブレーキとDEORE XT(1✕11s)仕様にしてGevenalle GX1を取り付けたSURLY Cross-Check

(TEKTRO R100が入手出来ない時は似た金型で作っていると思われる「UPANBIKE ロードバイク トラックバイク 自転車 ハンドルバー ブレーキレバー セット」を使用しています。)

TEKTRO(左)とUPANBIKE(右)
TEKTRO(左)とUPANBIKE(右)

以上、今まで使用したWレバーのご紹介でした。

アマゾン・南極・アウトバックでも動作するWレバー

コンポーネント化されたシフターには無い融通性とバイクを組み上げる時に発想の広がりを誘うこのようなシフトレバーはこれからも消滅する事なく生存し続ける気がしますがどうでしょう?

時代遅れのようなWレバー、もう既にノスタルジアにしか価値を見いだせない物だと思っている方!

電動化や無線化が進んだとしても、渡河や沼地などのハードな走行、或いはアマゾンや南極、オーストラリアのアウトバックのようなバッテリー充電の困難な旅等でも頼りになるシンプルさは、たとえ街乗りであっても存在感を魅せつけてくれると思いますよ。

あと、これは秘密なのですが、実は重さも引きもとっても軽いのですよ、Wレバーって。


寄稿者:DINGLESPEED @dingle_speed, stone_n_roll (cbn)
プロフィール:現在四国の西の端の下の方に生息中で、主に足摺岬から四万十川にかけて出没します。自転車のガラクタを集めては歓喜し妄想を形にした挙句、留まることなく次の獲物を物色する懲…