最近少し気になるニュースがありました。私は写真やカメラも趣味として楽しんでいるのですが、「アサヒカメラ」という有名な月刊写真誌が6月19日発売の7月号をもって廃刊するらしいのです。
参考 アサヒカメラも休刊、純広告11ページに激減で白旗、カメラ7割減が直撃
カメラ界の老舗雑誌が事実上の廃刊に
公式には廃刊ではなく、朝日新聞出版のニュースサイト「AERA dot.」で不定期に情報発信、ということになっていますが、同誌が正式にデジタル版に移行するわけでもなく、事実上の廃刊です。理由は売り上げ減少に加えて広告収入の落ち込み。そこに昨今のコロナ禍が拍車をかけた、ということのようです。
さて、このアサヒカメラという雑誌は1926年創刊の、かなりの老舗です。どの業界にも「2強」がありますが、「アサヒカメラ」に対しては「日本カメラ」というライバル雑誌(1950年創刊)が存在します。
この関係は自転車雑誌の「サイクルスポーツ」と「バイシクルクラブ」の関係にそっくりなんですね。
アサヒカメラと日本カメラ以外にも写真雑誌はいくつかありますが、今年の4月に「月刊カメラマン」という雑誌が廃刊になりました。
この「月刊カメラマン」は、雰囲気的にはだいぶ前に廃刊となった「ファンライド」という自転車雑誌に似たところがありました(もう覚えている人はいないかな? いつもかわいいお姉さんが表紙だった月刊誌です)。
もし「サイクルスポーツ」が休刊・廃刊となったら、やっぱりびっくりしますよね。今回の「アサヒカメラ」というカメラ・写真雑誌の事実上の廃刊は、そのくらいの衝撃がありました。
しかし私自身、アサヒカメラを毎月買っていたかというと、そうではありません。今年になってからは1冊も買っていませんし、去年は1冊か2冊しか買っていないと思います。
なぜでしょうか。その理由をあらためて考えてみると…
- 新製品情報はウェブのほうが速い。速報性ではウェブに勝てている部分がない
- 情報の専門性や正確性でもウェブの有名メディアに勝てなくなってきている。カメラやレンズの場合は特に性能を定量的に数値化して評価できるところが多く、その評価方法も国際的に標準化されているため、業界の権威や怪しい専門家を必要としない
- 明らかに年齢層の高い読者(60歳以上)を意識した紙面づくりとなっていて、自分の価値観と相容れないことが多くなった
- ウェブやインスタグラム等のSNSにおける新しい写真表現を取り上げない・認めない・否定する保守性が感じられる
- デジタルフォトグラフィーの話題を扱っていながら超高解像度のサンプル写真が見られるわけでもない
といったところでしょうか。
それでもたまに買って読むことがあったのは、例えばカメラ系ライターに赤城耕一さんという方がいて、私はこの方の文章を読むのがすごく好きなんですね。とっても味があって面白いんですよ。
レンズのMTF曲線とか、センサーの高感度性能の情報といったものはウェブメディアを見たほうが情報が多く、見やすく、しかも速いのは間違いないのですが、じゃあ赤城耕一氏のコラムをウェブで簡単に見られるかというと、そうでもないんですよね。
この赤城耕一氏のコラムというのは、私の中では、たとえば月刊サイクルスポーツにおける石田ゆうすけ氏のコラムに近いものがあります。それか現在のバイクラの岩田編集長がサイスポ編集長だった頃のイラストレーターMDムサシ氏とのツーリングコラム。あるいはケルビムの今野真一氏の論考。辻啓氏のコラム。山崎健一氏の「ファッキンジャップくらいわかるよ、コノヤロウっ! 」のようなコンテンツ。
それらは簡単に置き換えが効かない強力なキラー・コンテンツであり、個人的にはこういう方向を強化していくとメディアもわりと生き延びられるのではないか… と思ったりもするのですが、それも素人考えでしょうか。この方面もあんまり儲からないのかな…
自転車月刊誌もいつか廃刊になる?
自転車月刊誌もいつか廃刊になるでしょうか。これは、「紙の雑誌」としては、遅かれ早かれそうなる日が来るような気もします。
いや、そうでしょうか。というのも、自転車業界が果たしてそうなのかはわからないのですが、日本では「内容がつまらないことをやっていても何となく生き延びられる・存続できてしまう」互助的な仕組みが、社会の様々なレイヤーに存在しているからです(良くも悪くも。雇用が確保できる、という意味では良い仕組みなのかもしれません)。
だから、誰も紙の自転車雑誌を必要としていなくても、そして実際に誰も読まなくなっても、これから数年、数十年とまだ自転車雑誌は存在できるのかもしれません。
しかし「雑誌の紙バージョン」は少なくとも終わる可能性は非常に高いと思います。
ここでカメラ業界に話を戻すと、興味深いのが「アサヒカメラ」のライバル誌である「日本カメラ」という雑誌は休刊になってはいないことです。
個人的には「日本カメラ」のほうが早く終わると思っていたのですが、実際はそうはなりませんでした。
この理由は、「日本カメラ」はデジタル版のカメラ小売店ポータルサイト(J-カメラ)を持っていて、それが貴重な収益源となっていることらしいです。
アサヒカメラにはそれがないんですね。また、母体となっている朝日新聞もいま経営的に体力がないという理由もあるでしょう。
今後、自転車雑誌が生き延びていくとしたら、何らか意味で「ウェブに足がかりを持っているところ」が生き延びていくように思います。
真にデジタルな誌面に期待したい。が…
ところでサイクルスポーツもバイシクルクラブも、amazonで電子版を読むことができます。
しかし、それは紙の誌面をスキャンしてpdf化しただけ、みたいなところがあって、いまのデジタルメディアでできることのメリットを最大限に活用しているとは言えないと思うんですね。
どういうことかと言うと、例えばサイクリングロードの紹介記事なら、デジタル化された雑誌内にフォトギャラリーがあってそれらのサムネイルをクリックすると高解像度の写真が見られるとか、コース情報を.gpx形式などでダウンロードできるとか、商品レビューなら動画レビューを埋め込む、といったような話です。
勿論それらはKindleのような形式だとまだ十分にうまくできないのかもしれません。専用アプリで配信するようになると自由度はもっと上がると思いますが、幅広いオーディエンスにリーチするためにはKindleのような知名度の高いプラットフォームで、しかもサブスクで読んでもらったほうが有利ですよね。
そういう事情もありますが、個人的に今後生き延びられる自転車誌は、次を満たせるようなものだと思います
- 専門性・正確性においてウェブメディアに負けないコンテンツを提供できる(自転車の場合はカメラの世界と違って評価基準が標準化されていないものが多いので、まだこれが可能かもしれません)
- ウェブでは読めないカリスマ的なコンテンツを増やす
- デジタルメディアの強みを少しずつ確実に取り込んでいき紙媒体の廃刊に備える
皆さん自転車雑誌読んでますか?
さて皆さんは自転車雑誌、読んでますか。CBN Twitterでアンケートを実施してみました。その結果は…!?
自転車雑誌、どのくらいの頻度で買って読んでいますか?(紙版・電子版どちらも可。サブスク含む)
— CBN (@cbnanashi) June 3, 2020
最近自転車雑誌は全く読んでいない、という方も、是非このサイスポとバイクラの7月号を読んでいただき、その上であらためてこれらの雑誌には価値があるのか、それともないと思われるのか、ご意見をお聞かせいだけると嬉しいです。