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北米のインスタ自転車アカウントが続々と政治的メッセージを発信 困惑するフォロワーたち

いまアメリカが大変なことになっています。ミネソタ州ミネアポリスでジョージ・フロイドというアフリカ系アメリカ人(黒人)の方が警察官に殺害されたことがきっかけとなり、アメリカ全土で暴動が起きています。夜間は多くの州で外出禁止令が出されました。

この事態を受けて、自転車メーカー各社がインスタグラムのアカウントで次々と政治的なメッセージを発信。この問題に対する自社の立ち位置を明確にしようとしています。

そしてこうした動きを称賛するフォロワーもいれば、強い反感を持つフォロワーもいます。コメントを読んでいると、どちらかというと反感を覚えているサイクリストのほうが多いようなのですが、ひとまずバイクメーカーによるメッセージと人々の反応を読んでいくことにしましょう。

Specializedによるメッセージ

#blacklivesmatter(=黒人の命は大事だ、意味がある)というハッシュタグで最初にこの問題へのメッセージを発信した大メーカーはスペシャライズド社だったように思います。

この投稿をInstagramで見る

Cycling has a problem with race. For decades, cycling has been a walled garden of exclusion, from the community to the lack of representation to the marketing—you name it. We’re owning that we’ve been part of that problem, and with the utmost humility, we’re acknowledging that we need to work harder at being part of its solution. We aren’t looking for plaudits, and we’re not here to signal our outrage. As human beings, like yourselves, we’re deeply hurt and saddened, and we’re declaring our commitment to learning and progressing this sport and culture forward to where it deserves to be. We don’t have all the answers, we don’t even know all the problems, but we’re listening today and acting in tandem with you tomorrow. Tell us how we can be better…we’re listening. ⁠ ⁠ This is just an acknowledgement, not the work. Together We Win. #blacklivesmatter

Specialized Bicycle Components(@iamspecialized)がシェアした投稿 –

同社によるメッセージは次のようなものです。いろんな訳があると思いますが、大体こんなメッセージとして私は読みました。

サイクリングには人種の問題があります。何十年にもわたって、サイクリングはコミュニティからマーケティングに至るまでクローズドで排他的なものでした。私達はその問題の一部分を構成してきたことに責任を負っています。私達はこの問題を解決するためにより多くの努力をしなければなりません。私達は称賛されたいわけでも、怒りを伝えたいのでもありません。人として、あなたたちと同じように、私達も深く傷付き悲しんでいます。そして私達はこのスポーツと文化が、それに相応しいものとなるようこれを理解し、前進させる決意を宣言します。私達は全ての答えを知っているわけではありません。問題の全てさえ知っているわけではありません。しかし私達は今日、耳を傾け、明日はあなたと一緒に行動します。私達はもっと何をやれるのか教えて下さい… 私達は耳を傾けています。これは単なる現状認識であり、仕事ではありません。共に私達は勝利します。#blacklivesmatter

これに対しては、マーケティング的な活動ではないか、という批判もありますが、スペシャライズドの場合は同社が具体的にどんなアクションをできるか教えてほしい、というインタラクティブな投稿となっているので、コメント欄でも「これこれこういう団体に寄付をしてはどうか」という前向きな提案が見られます。

SRAMによるメッセージ

SRAMはMTBアカウント、ロードバイクアカウント、傘下のZIPPアカウントで一斉にこんなメッセージを発信しました。これはMTBアカウントへの投稿から。

自転車は自由を意味するものであるべきです。もしあらゆる人々が通りを安全に、差別や暴力の恐怖を感じることなく移動することができないのなら、その自由に意味はありません。SRAMは社会的な一体性(inclusivity)を信じています。ジョージ・フロイド氏の身に起きたことは恐ろしく悲劇的な不正義でした。私達はもっとやらなければいけないことがあると知っています。私達は熟考し、耳を傾け、学んでいくつもりです。私達は個々人のコミュニティにおいて、サイクリング・コミュニティにおいて、これからサイクリストとなる多くの人々との関係において、より良い行動を模索していきます。#blacklivesmatter

これに対しコメント欄ではこんな反応が見られました。

  • フォローを解除した
  • 全ての命が大事なんだ!(All lives matter!)
  • 違う!人種や性別、セクシャリティ、国籍といったものでその人の命が大事かどうかを決めるべきではない。人間である限り、その人の命は大事なんだ! 人間の命が大事なんだ!(Human lives matter!)
  • (自転車は)政治的なものにはならないだろうと思っていた私の人生の一部分だったのだが… こうなってしまった。(政治には)関わるな
  • いまSRAMに乗ることが最高に誇らしい
  • サイクリングは社会が与えるストレスや政治的な議論から逃れるための場のひとつだ。いまがストレスに満ちた時代だということは理解するが、日常的な会話から距離を置くための安全な空間のひとつが失われそうな気がしている

「自転車に政治を持ち込まないでほしい、自転車は政治的なことから自由になれるから好きなんだ、こんな話は楽しいSNSでは読みたくない」という拒否反応が非常に多く見られます。

Fujiによるメッセージ

Fujiによるメッセージです。

Fujiは社会的不正義に傷つけられている人々と共にあります

するとちょっと興味深いコメントが見られました。

  • 警察向けの自転車の製造を停止するんだろうね? 違うのか?
  • 警察との契約を破棄して若い黒人のサイクリンググループに寄付して下さい
  • じゃあ警察専用モデルの生産をすべて停止して法執行機関とのあらゆる契約を即座に終了しなさい。あなたたちの製品は法執行機関が守らなければならないはずの人々を抑圧し虐げるための武器として使われています。あらゆる法執行機関に対して製品やサービスを提供し続けることは無垢な市民に対する犯罪でしょう

どうやらFujiは警察用バイクを生産・供給しているらしく、そのことを突っ込まれてしまっているかたちです。Fujiとしてはこの発信をすることで面倒なことになったかもしれません。いや、それとも発信しなかったらさらに面倒なことになったのでしょうか?

Cannondaleによるメッセージ

Cannondale Bicycles(@ridecannondale)は次のようなメッセージを発信しました。

私達は自転車が自由と独立、進歩を運ぶ乗り物であると信じています。ですから私達は今日、これらの価値を守るために立ち上がります。私達は人種差別から未来を奪うために声をあげます。私達のライダーに力を与えるために。私達の従業員に力を与えるために。お互いに力を与えるために。

いいね!が多いコメントを紹介します。Fuji同様、キャノンデールも警察用バイクを生産・供給しているらしくその点が突っ込まれています。

  • もし自転車が自由の運び手であると考えているのなら、全ての警察用モデルの生産を即時に停止し、法執行機関へのあらゆる製品の供給を停止しなさい。法執行機関は耳を傾けられるべき大衆を抑圧し、虐げるための道具として自転車を使っています。
  • じゃあ今度は暴動と略奪と放火に対して声をあげてもらおうか。それができないなら他の全ての卑怯な会社のように美徳シグナリング(=特定の道徳観を発信すること)を続けるがいい。またひとつフォロー解除する会社が増えた
  • これからやろうとしている努力について詳しく教えて下さい。どんなふうにあなたたちが力を与えるのか教えて下さい。そしてそれを実行して下さい

Cory Williams氏(nationsnumber1beast)によるメッセージ

最後に”nationsnumber1beast”というニックネームで有名なCory Williams氏によるメッセージを紹介します。同氏はSpecializedやRaphaのサポートを受けているライダーで北米の自転車シーン、特にインスタでは絶大な支持を誇るカリスマ的なサイクリストです。

私は経歴は戦いでした。私はアメリカのトップサイクリストの1人でしたし、ある時は自分の年齢では最高の選手だったこともあります。私はナショナルチャンピオンになり、あるステージレースでも勝ち、グリーンジャージを手に入れ、20以上のステート・チャンピオンシップで勝ち、ジュニアとしてナショナルロードレースのトップ20に入っていましたが、ナショナルチームでアメリカ代表になったことは一度もありません

「自転車に政治を持ち込むな」はもう認められない?

メーカー各社とも、メッセージを読んでいて個人的には純粋にマーケティング的な活動であるとは思いませんでした。むしろマーケティング的な意図があったとしたらリスクも多いはずなので、やはりサイクリング界にもれっきとして存在する人種差別にあらためて直面し、解決を模索しない限り自転車にもアメリカにも未来はない、という純粋な危機感に駆られたメッセージだったように思います。

いろんな軋轢や悩み事、イヤなことから自由になれるはずの自転車。しかしそこで得られている自由は、果たして本物の自由と言えるのか、という問いをメーカー各社が発しているように思います。

プロロードレースの世界でも数年前からアフリカ系の選手が活躍するようになっていますが、やはり人種の問題は厳然として存在しているように思いますし、自転車のマーケティングや広告でも黒人の選手が起用されることはまだ一般的ではありません。

2019年2月に「SRAM RED eTap AXSのプロモーションで使用された1枚の写真が話題に」という記事で紹介したのですが、SRAMは以前から人種差別問題に敏感だったように思うので、今回のメッセージ発信も必然性があったと思います。

SRAM RED eTap AXSのプロモーションで使用された1枚の写真が話題に
正式発表されたばかりのSRAMの12速ワイヤレスコンポーネント・RED eTap AXS(アクセス)の話題が世間を賑わせていますが、同社がプロモーションで使用した1枚の写真も話題になっています。この写真には、よく考えると少し変わったところが...

アメリカは、そして私達は、これからどうなっていくのでしょうか。日本にいる私には、何かまとめのような感想を書くことはできません。

著者
マスター

2007年開設の自転車レビューサイトCBNのウェブマスターとして累計22,000件のユーザー投稿に目を通す。CBN Blogの企画立案・編集・校正を担当するかたわら日々のニュース・製品レビュー・エディトリアル記事を執筆。シングルスピード・グラベルロード・ブロンプトン・エアロロード・クロモリロードに乗る雑食系自転車乗り。

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