チェーン・チェーンリング・カセット

台湾TayaがOnze EVO-Lightを発表。回転するローラーのないチェーンにはどんなメリットとデメリットがある?

チェーンは基本的に4つの部品から構成されています。アウタープレート、インナープレート、ローラー、そしてそれらを接合するピン。しかし台湾のTayaは、2年前からこの中の「ローラー」を排除した新しいタイプのチェーンを開発していたのですが、それがついに量産され市場に出回る運びとなりました。

Taya Onze EVO-Light

© tayachain.com

とりあえず発表されたのは「Onze」という11スピード用チェーン。「Onze(オンズ)」はフランス語で「11」の意。今年中には12スピード用チェーンも出るとのことなので、その製品名は「Douze(ドゥーズ)」(仏語で「12」の意)になることでしょう。

公式 Rollerless Series | Technology | TAYA Chain Group

ローラーレスチェーンのメリットとは

同社によると、ローラーレスチェーンには次のようなメリットがあるとのこと。

  • ローラーがないことによるダイレクトでソリッドな接触は、ローラーが他のパーツから独立している場合に比べて、駆動系において5〜8%のエネルギー損失を削減することができる。(インナープレートの)「共成形(co-shaped)」構造によりペダリングの力が効率的に伝達される
  • およそ5%の重量増が達成される
  • プレートに正確に成形されたローラーはチェーンリングとチェーンホイール(原文ママ)との緊密な隣接を保証する。このチェーンは駆動系において滑らかで静かな転がりを強化する
  • アウタープレートのUシェイプのコンテナは通常のチェーンに比べてグリスの保持率を133%にまで高める

簡単に要約するなら、「エネルギー損失が少なく、より軽量で、より静かで、潤滑性能をより長く維持できるので摩耗も少ない」チェーン、ということになるでしょう。これだけ見れば良いことづくめで、かつてこうした構造のチェーンが存在しなかったことが不思議に思えます。

ローラーに相当する箇所がないわけではない

しかしこの製品、確かに単独で回転するローラーがないチェーンではあるのですが、上と下の2枚の画像でわかるように、2枚のインナープレートの内側が盛り上がるように成形されていて、その2つが合わさって「ローラー的な役割」を果たしています。

aya Onze EVO-Light

© tayachain.com

保守的な人々による疑問

この製品はBikerumorの記事経由で知ったのですが、読者コメント欄を見ると懐疑的な声が見られます。

こうした新しい製品、イノベーションを謳う製品には、保守的な人々による疑問や否定が付き物です。それらは正しいこともあれば間違っていることもあるので、最終的に誰もが自分自身の考えを持つのが何よりも重要です。

Bikerumorのその記事では、たとえば「このチェーンが本当に効率的だとしたら、既に他のメーカーがやっているはずだ」という声がありました。これは確かになるほど、そうだよね、と思わされます。

この「ローラー機能をインナープレートと一体化させたシステム」が本当に有効なものであれば、シマノやスラム、KMCのような名立たるメーカーがこれを採用していない理由は確かになかなか思いつきません。

しかしだからといってこの「イノベーション」には意味がない、と断言するのも早計かもしれません。大メーカーがこれを採用していないのは特許絡みかもしれないし、他に何らかの大人の事情が絡んでいる可能性も、なきにしもあらずです。「誰もが慣例的にやっていないこと」をあえてやってみることが技術革新に繋がることも多々あります(その第一弾が失敗に終わったとしても)。

他には「回転するローラーが存在しないと、リアやフロントの変速時に、脱線が確定するまでのあいだフリクションを減らすローラーが存在しないわけだから、カセットやチェーンリングの摩耗が増えるんじゃないの」という意見もありました。

これも確かに、感覚的には納得できる意見ではあります。

だとすると、もしかしたらこのローラーレスチェーン、シングルスピードやトラックバイクでは結構良かったりするのかもしれない、などと思ったりもします。

いずれにしても3ヶ月〜1年、1000〜3000kmでの実際の使用を経た上で、カセットスプロケット(またはその1枚1枚であるコグ)やチェーンリングに不自然な摩耗が見られないかどうか、また走行抵抗は本当に減るのか、という点についての定量的な実験がないと、なんとも判断が難しい製品でしょう。

そして、それらの長期使用レビューや実験結果によって、これは実は面白い製品かもしれない、という結果になることも十分にありうるので、最初から全否定するのではなく、さてこいつはまたバッタもんなのか、それともいいとこを突いてきたのか、お手並み拝見! という感じで、楽しみながら使ってみると面白い製品なのではないかと思いました。

チェーンにおけるローラーって、どういう役割を果たしているんだろう。そのローラーが回転せずに、インナープレートに一体化された丸い部分がその機能を代行することによって、どんなメリットまたはデメリットがあるんだろう? これについて明確な考えまたは実験結果や数理的なシミュレーション結果を持ち、かつ自分以外の人に言語で伝えられる人は、ものすごく少ないでしょう。

例えば誰もが携帯していると思われる「ミッシングリンク(KMC)」や「クイックリンク(シマノ)」や「パワーリンク(SRAM)」。これって回転するローラーがないですよね。

しかし下の記事で紹介したように、最人気自転車系YouTuberの1人、Berm Peak(旧Seth’s Bike Hacks)のSeth氏はマスターリンクだけで作ってみたチェーンで変速性能には何の問題もないと語っています。

マスターリンクだらけのチェーンを作ってみたらどうなった?
チェーンを簡単に着脱できるマスターリンク。スラムではパワーロック、シマノではクイックリンク、KMCではミッシングリンク等々、チェーンブランドによって名称は違いますが、現在では圧入式のチェーンピンに代わって主流のパーツとなっています。 ...

ということはチェーン自体、そしてカセットやチェーンリングの長期的な摩耗度が焦点になりそうな気はします。

著者
マスター

2007年開設の自転車レビューサイトCBNのウェブマスターとして累計22,000件のユーザー投稿に目を通す。CBN Blogの企画立案・編集・校正を担当するかたわら日々のニュース・製品レビュー・エディトリアル記事を執筆。シングルスピード・グラベルロード・ブロンプトン・エアロロード・クロモリロードに乗る雑食系自転車乗り。

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