クリス・フルームが2月12日に”Do Time Trial Bikes Belong In Road Cycling?”(タイムトライアルバイクはロードサイクリングの範疇に入るものなのか?)という動画を出しています。前半は、若い頃に自転車店で働いていたためメンテナンス好きであることなど楽しい話もあるのですが、メインの話題はロードレースにおける安全性。
タイムトライアルバイクは安全でも公平でもない
まずフルームはツール・ド・フランスのようなロードレースにグラベル区間が含まれるようになってきていること、パヴェがメインのクラシックレースはエキサイティングなのは理解できるが、ポジション争いのためにフロントがわずかに接触しただけで数ヶ月の準備が台無しなる、サイコロで決まるようなものは如何なものか、と疑問を呈した後、TTバイクについて次のように述べました。
(動画6:30頃から抄訳)
今朝タイムトライアルバイクに乗っていても考えさせられたことがあります。私の勝利の大部分は常にタイムトライアル(以下TT)を含むものでしたし、私はTTが好きです。TTとは技術であり、スキルであり、本当に繊細なもので、きちんとしたプロサイクリストになるために知っていなくてはならないものが多くあるのです。
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しかし今朝TTバイクに乗っていて思ったのは、最近の出来事の影響もありますが(=エガン・ベルナルの練習中の事故のことと思われる)、TTバイクは私達が理想とするような乗り方で道路を乗るようなものではないのです。ツール・ド・フランスにTTがあるとしても、最近は少なくなりましたが1時間もあるし、1時間のTTに備えておくにはTTバイクでシミュレートする必要があります。
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しかしクルマもなく信号もないような、文字通り1時間乗れるような閉鎖された道路が、近所にどれくらいあるでしょうか。実際はありませんし、TTバーを握っている時はすぐ近くにブレーキはないし、それほど安全とは言えない。レース中に閉鎖された道路で恐ろしい事故が起こることはありますが、交通があって人が横断するような道路での事故は話が別です。
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私が疑問に思っているのは、ロードサイクリングでTTバイクは本当に必要なものだろうか、ということです。TTバイクでのトレーニングと実際のレース、両方が抱えている危険性や、使う機材の差を考えると、TTはロードバイクでやったほうがずっと均一な条件になるのではないか。ずっと公平になるのではないか。R&Dやエアロ性能や風洞実験よりも、個々のライダーのスキルがずっと重要視されるようになるのではないか。
タイムトライアルは普通のロードバイクでやってはどうか
個人的には同意しかない、という内容です。グランツールにパヴェやグラベルセクションが含まれるのは、観戦者としては面白い。パリ・ルーベも当然エキサイティング。しかしグランツールを狙っている選手にとっては大きいリスクでしかない、ありがたくないものであることは想像に難くありません。
タイムトライアルバイクについては、確かに高価なので資金力のあるチームのほうが有利でしょうし、若手がタイムトライアルの練習をしようと思っても良いバイクを買うのは難しい。危険なだけでなく、お金持ちが勝ちやすい。ならノーマルなロードバイクでTTレースをやるのが理想的ではないか、というのは納得の論です。
TTバイクの極限まで効率を追求した外観はテクノロジーの結晶として独特の美しさがありますが、レース観戦していても、個人TTもチームTTも私自身はあまり楽しめないですね。TTの日は大体見なかったりします。でも普通のロードバイクによるTTバイクだったらちょっと見たい。個々人がどんなスキルで1秒でも速くしていくのか、興味を持てます。
それにしてもフルームさん、話し方が本当にうまい。単に不平不満を述べるというより、明確な根拠を述べた後に代替案も提案しているあたりが素晴らしいですね。言葉遣いも慎重で、メチャメチャ知性的な人だなと唸らされます。