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ディスクブレーキとリムブレーキ:それぞれのメリットとデメリットを再考する

この記事ではディスクブレーキとリムブレーキ、それぞれのシステムの長所と短所を網羅的にリストアップしています。スポーツ自転車、特にハイエンドモデルは既にディスクブレーキが主流であり、リムブレーキのオプションを用意しないメーカーが大半となりつつありますが、かといってリムブレーキにメリットがないわけでもありません。

リムブレーキとディスクブレーキ

人によっては明らかにディスクブレーキのほうが好ましい、あるいはリムブレーキのほうが合っている、ということもありえるでしょう。個々人が自分に最もふさわしいブレーキシステムを選ぶためのご参考になれば幸いです。

ディスクブレーキのメリット

  • 握力が弱い人でも必要なストッピングパワーを容易に得やすい
  • 故に、険しく長い峠の下りでも手が疲れにくい
  • 体重が重いライダーでも必要なストッピングパワーを得やすい
  • 重い荷物を積んだツーリングバイクでも十分な制動力を得やすい
  • 耐候性が非常に良い:雨天でもパッドとローターの摩擦力が大きく落ちることはない
  • リムが熱を持つわけではないため、発熱によるパンクのリスクがない
  • 短い距離で制動できるため、リムブレーキに比べるとライド全体の所要時間が短くなる場合がある(=この意味で「速い」)
  • モジュレーション(ブレーキの効き加減)はリムブレーキよりリニアであり、かつ挙動が予測しやすい(コントロール性が高い)
  • ディスクローターとパッドの寿命はリムのブレーキパッドよりもはるかに長い(※本記事最終セクションをご覧下さい)
  • ホイールのリムを軽量に設計できる(設計側にとってのメリット)
  • フレームが許容する限りのワイドタイヤを使うことができる(リムブレーキの場合、使用可能なタイヤ幅はブレーキーアーチの幅と高さによって制限される)
  • 同じバイクで異なるサイズのホイールを共用できる(例:700cと650bを使い分けられる等)
  • ローターとパッドはホイールの中心近くにあるため、リムブレーキに比べるとゴミや異物を拾いにくい。そのため清掃メンテナンスの頻度は減る
  • ローターサイズの変更により、必要なストッピングパワーを調整できる(場合もある)
  • 油圧ディスクの場合、ホースが長かったりワイヤリングが理想的でない場合であってもストッピングパワーに影響が出ない
  • 油圧ディスクの場合、パッドが摩耗してもピストンは自動的にパッドまでの距離を一定に保つ(リムブレーキのシューの場合、摩耗に応じてユーザーが調整する必要がある)
  • ある程度ホイールが振れてしまっても制動力に影響は出ず、すぐ走行不能になるわけでもない
  • モダンな外観であり、マッシブなカーボンフレームによく似合う(平たく言うとカッコ良い:ただし各人の好みによる)

ディスクブレーキのデメリット

  • ブレーキパッドは油に弱く、メンテナンス中は扱いに注意を要する(ケミカルを触れさせない・素手で触らない)
  • 油圧ディスクの場合は、初期セットアップやメンテナンスが決して簡単とは言えない(フルードは年に1度は交換したほうが良く、かつ作業ハードルは高い)
  • ブレーキシステム全体の重量が重い
  • 輪行時には、バイクの荷姿はやや厚めになる(ディスクローターがあるせいで必要な空間が増える)
  • 輪行時はローターが歪まないように、またフレームが傷付かないように気を配る必要がある
  • スポーク数の少ないホイールを組むのが難しい(設計・制作側のデメリット)
  • 摩擦熱で歪んだローターがパッドと擦れることによって異音が発生することがある(高級品をプロがセットアップしても避けられない。またこれはモーターサイクルや自動車の世界でも見られる現象だが、ベースとなるトルクが違いすぎるため自転車ではやや大きい問題になる場合がある)
  • 落車時にはローターが怪我の原因になりうる(レース・集団走行など。ただし現在ではエッジが丸められたローターが増えつつある)
  • ハードブレーキング直後のローターは熱を持つため、素手で触ると火傷をする場合がある
  • 新品のブレーキパッドは最大性能を得る前に「慣らし運転」が必要である
  • フォーク・フレームともにエンド部の高剛性化が必要となるため、ディスクブレーキに最適化されていないフレームでは硬質で疲れる乗り味になる場合がある
  • エアロダイナミクス面で、リムブレーキよりも不利である

リムブレーキのメリット

  • セットアップ・メンテナンスはアマチュア・ホビーサイクリストでも容易に行える
  • ブレーキシステム全体が軽量である
  • 輪行やメンテナンス時、ホイールの脱着に要する時間が短い
  • ディスクブレーキよりもわずかながらエアロである
  • クラシカルな外観であり、細身のフレームによく似合う(平たく言うとカッコ良い:ただし各人の好みによる)

リムブレーキのデメリット

  • 峠の下りなどで、比較的大きい握力が必要になる・手が疲れる
  • 耐候性が悪い(雨天での効きが弱くなる・及び挙動が予測しにくい。ウェット用シューもあるが、その効果は限定的である)
  • ブレーキシューの寿命はディスクローターとパッドより短い(※本記事最終セクションをご覧下さい)
  • パッド位置の調整が悪い場合、タイヤと接触してパンクのリスクが増える
  • カーボンリムの場合、摩擦熱によって効きが悪くなったり、リムの寿命が短くなる場合がある
  • ディスクブレーキに比べてリムの寿命が早くなる(ブレーキ面の摩耗によって)
  • ハイエンド製品はこれから選択肢が減ってくる(高品質な新製品はマスプロメーカーからは出てこない)
  • リアブレーキの場合、フルアウターケーブルでは抵抗が大きくなりパワーが低減する
  • 超ワイドタイヤに対応する設計が難しい(重量増に繋がるだけでなく、大型化したブレーキアーチはたわみやすくなる=ストッピングパワーが低減する ※ロード用キャリパーの場合。カンチやVブレーキは例外)
  • ブレーキシューが異物を拾うとリムの制動面を傷付ける場合がある(これもリムの低寿命に繋がる)
  • ブレーキシューの摩耗に合わせてキャリパーの幅を再調整する必要がある(ただしこれはメカニカル・ディスクでも同様)
  • リムとパッドのメンテナンスはディスクブレーキに比べて頻回になる(タイヤに近い場所にあるので土埃・異物が付着しやすい)
  • クラッシュなどでホイールが大きく触れた場合、ブレーキングパワーが落ちる・または走行不能になる場合がある
  • 摩擦熱によってバーストパンクが発生する場合がある

自分に合ったシステムを考える

以上の特徴を踏まえると、例えば「私は主に上り下りのほとんどない、舗装されたサイクリングロードを走ります。雨の日に乗ることはなく、体重も軽いほうです。たまにヒルクライムを含まない輪行サイクリングも楽しみます」という方であれば、ディスクブレーキよりもリムブレーキのバイクを選択したほうが恩恵が多いでしょう。

反対に「私は体重のある大型ライダーで、雨天でも自転車通勤するし、ヒルクライム輪行に行くのが何より好きだ」という方にとっては、輪行時の重量とパッキングの手間こそあれどディスクブレーキが最適解、ということになるかもしれません。

性能面ではディスクブレーキの圧勝と言って良いのは間違いないですが、メンテナンス性ではリムブレーキの圧勝です。維持コストではディスクブレーキのほうが有利でしょう(ただし初期投資は高くなるので微妙なところはあります)。(※本記事最終セクションをご覧下さい)

これから新車を買うならディスク一択、と考える人が多いかもしれませんが、自分のライドスタイル・ライドシーンを改めて考慮に入れた上で検討してみてはどうでしょうか。

備考:メカニカル・ディスクについて

最後にメカニカル・ディスクブレーキについて一言。メカディスクのストッピングパワーはVブレーキ(リムブレーキの1種)に及ばない、という意見は多く、私も概ね同感です。しかしリムではなくディスクローターで制御することによるモジュレーションと挙動の良さ自体が変わるわけではなく、耐候性のメリットも残ります。

そのためインストールやメンテナンスの面で油圧ディスクの導入に躊躇されている方も、まずメカニカルを試してみて、将来的に気が向いたら油圧にスイッチするのもありでしょう。雨天も下りもよく走るけれど、油圧は大変だしなぁ…という場合の選択肢になるでしょう。

筆者おすすめのロード用メカニカル・ディスクはTRP SPYREです。これはニッセンケーブルのような高品質ケーブルを使って丁寧にセットアップすればかなり効きが良い製品です。しかしここ1年ほど値段が倍近くになってしまい、今は買い時ではないかもしれません。興味がある方は流通が落ち着いた頃にチェックしてみましょう。

追記:コストパフォーマンスについて

(2022年3月11日追記)本記事で紹介している各システムのメリットとデメリットは、1) 筆者自身の個人的な感想と、2) 海外の複数メディア・サイトで取り上げられている内容とをクロス参照し、合致したものを取り上げたのですが、ブレーキシューやパッドの寿命については異論をお寄せいただいたため、Twitterでアンケートを実施してみました。その結果がこちらです。

回答数はN=428で、サンプル数としては十分以上。結果は「リムブレーキ用シューのほうが消耗が早い」が28%、「ディスクブレーキ用パッドのほうが消耗が早い」が44.9%、「どちらも大差ない」が27.1%となり、「ディスクローターとパッドの寿命はリムのブレーキパッドよりもはるかに長い」と結論付けるのは適当ではないと私も感じたため、本記事の該当部分を修正しました。

アンケートへのコメントから

次に、今回のアンケートにお寄せいただいた定性的なご意見からいくつかご紹介します。何故意見が割れているのか、理解のための良い情報になると思います。

リムブレーキシューのほうが寿命が早い派

  • 新聞配達の業務でMTBを使用中。一日の走行距離は5km程だがストップ&ゴーは概ね100回、天候がどうであれほぼ毎日走る。Vブレーキだと雨が続くと半月、そうでなくとも一月半で交換。DBだとパッドの左右を入れ替えつつ(1ピストンなので)概ね1年持つ
  • 昔メッセンジャーをやっていた。オールシーズン・オールウェザー自転車に乗っていたが、あらゆる点でディスクブレーキが優秀だった。ディスクなら減るのはローターとパッドのみ。リムブレーキはホイール自体がすり減るし、ブレーキシューは下手すると一日で使い切る

ディスクブレーキパッドのほうが寿命が早い派

  • ディスクパッドの減りが圧倒的に早い。ドライオンリーだと、リム1年、ディスク2ヶ月。雨の日はリムのブレーキシューの減りが早いと思われがちだが、ディスクもレジンパッドだとあっという間に無くなる
  • 晴れメインのサンデーライダー。ディスク(レジン)で3000km弱、リムブレーキだと5000は余裕で越える。ディスクでもメタルパッドは中々減らないのでリムブレーキより持つのかもしれない

大差なし・どちらとも言えない派

  • リムブレーキはアルミリムかカーボンリムかで消耗の早さが違う。スイスストップをシマノのカーボンチューブラーホイールに使っていたがどんどん減って驚いた。アルミリムでシマノシューならリム用の方が長持ちしている
  • ディスク用パッドの方が持つが大差ではない印象。しかしディスク用パッドは片側1,000円で十分満足出来る物が買えるが、リムは倍額出さないと満足できる製品は無い。あとリムのパッドは使っていくうちに始めの頃の効きが失われやすい。定期的にヤスリがけしても長くは続かない

結局コスパはどうなのか?

私自身の経験を再考しても、確かにSwissStopのシューをカーボンリムで使う場合は減りの早さが半端でない印象があるのですが、一方で街乗り用のバイク、小径車でアルミリムの場合、そういえばあれ全然減ってないな、というバイクもあるのを思い出しました。

SwissStopについてはコメントもいただきましたが、リムブレーキシューは高級品(でよく効くもの)ほど摩耗も早い印象を受けますがどうでしょうか。また製品によっては驚くほど減らないシューも確かに使ったことがあります。

ディスク用パッドについては、レジンはメタルよりも減りが早いというのは私も同感です。シングルピストン(一部のメカニカル)とデュアルピストンでも違ってきますね。

最終的にはシューやパッドの寿命は、ライドシーン(悪天候やレースでの使用有無)以外に素材も大きく影響するように思われますが、いずれにしても「リムブレーキのほうが全体的にコストパフォーマンスが高い」とは言えなさそうである、と思いました。初期投資を考えると、ディスクブレーキのほうが高く付く場合もあることでしょう。

ご意見をお寄せいただいた皆様、どうもありがとうございました!

著者
マスター

2007年開設の自転車レビューサイトCBNのウェブマスターとして累計22,000件のユーザー投稿に目を通す。CBN Blogの企画立案・編集・校正を担当するかたわら日々のニュース・製品レビュー・エディトリアル記事を執筆。シングルスピード・グラベルロード・ブロンプトン・エアロロード・クロモリロードに乗る雑食系自転車乗り。

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