先日発表されたSRAMの新しいEagle Transmissionが世界中で話題です。システム中、最も注目されているのはディレイラーハンガーが廃止されているところ。多くのメリットも挙げられていますが、海外メディアによる紹介記事のコメント欄で興味深い懸念点を見かけたのでご紹介します。
出典 SRAM waves goodbye to the derailleur hanger with new direct-mount T-Type Eagle Transmission
ドロップアウトの精度と耐久性が不安材料?
元記事のコメント欄で、読者と記事執筆者が次のように会話しています。
- Peak TorqueのYouTubeで、ドロップアウトでの精度や公差はフレームメーカーに依存するという問題について見ました。ディレイラーハンガーがなく、Bスクリューでの調整ができないのなら、(フレームの精度は)かなり高いものでないといけません。リアディレイラーを丈夫にするということは、あらゆる力がハンガーによって緩和されることなく、ドロップアウトとチェーンステイに流れていくことを意味します。(Peak Torqueは)大げさに言っているのかもしれませんが、プレスフィットBBを思い出しましょう。良いソリューションでしたが、異音が出ないような精度でフレームが作られたことは一度もありませんでした。そして今ではスレッドBBに回帰する動きがあるわけで…
- (記事執筆者からの回答)コメントありがとうございます。興味深い点ですね。しかし
- (Transmissionの)ディレイラーはMicro Tuneで調整できます。カセットに対して内側または外側にトリムできるので、理論上はドロップアウト幅、ハブ幅スペーシング、その他の要素まわりでの製造公差を軽減できます
- ディレイラーのブッシングインサート(フレームのドロップアウトに入るもの)はBBベアリングの金属とは違い、ナイロン製です。理論的には、ドロップアウトが(多くのプレスフィットBBで見られるように)完璧な円になっていなくても、ブッシングが歪みを吸収します
- ディレイラーはドロップアウトにボルトスルーし、フレームを両側から挟みこみます。リアホイールのアクスルがディレイラーを共締めします(The rear wheel axle then tightens into the derailleur)。これは驚くほど強いデザインで、110kgの人が複数回上に乗って踏んづけても大丈夫なほどです。スコットランドのTweed Valley(エンデューロ・ワールドカップと2023 MTB世界選手権のUKラウンド会場)の厳しい環境で6ヶ月テストしましたが、Transmissionディレイラーの強さ・頑丈さ、あるいはそれを取り付けていたWe Are One Arrival 152のカーボンドロップアウトに問題が生じたことは一度もなかったと自信を持って言えます
これまで衝撃吸収の役割、インデックスの不具合をある程度修正できる役割を果たしてきたディレイラーハンガーがなくなることで、リア三角に多くの衝撃が伝わりフレームに悪影響が出るのではないか、また、フレームのドロップアウト部の精度が低いと(あるいはギザのあるワッシャーで削れていくと)インデックス調整が難しいのではないか、などの懸念が上がっているようですね。
しかし、コメント主さんが言及しているPeak Torqueの動画ではTrasnmissionリアディレイラーのドロップアウトへの嵌合の仕方について解釈の誤りがあり、ディレイラー外側のプレートはドロップアウトにねじ込まれてはおらず、ある程度まで従来のハンガー的な緩衝材の役割は果たすようです(Peak Torqueは後日、この点について誤りを認める動画を出しています)。
しかしそれでもディレイラーへの衝撃がスルーアクスルを通じてリア三角に伝わり、フレームへのダメージは大きいのではないか、インデックス調整への影響は避けられないのではないかという懸念は依然として残る、というのがPeak Torqueの意見。
ドロップアウトまわりの精度を高くする必要はあるので、フレームメーカーにとっては品質管理が負担になりそうな気はします。結果的にフレームの価格も上がるのではないでしょうか。
Eagle Transmissionが非常に高価であること、ディレイラーハンガーがないこと、SRAM独自規格による囲い込み的な動きであること、といった点で、海外掲示板などではかなり多くのネガティブな意見が見られますが、一方ではこのようなイノベーションがなければテクノロジーは進化しない、いずれトリクルダウンされて安くなる、それにSRAMから安価なシステムが消えたわけではないので批判ばかりする必要はないだろう、という声も見られます。
このシステムが今後どのくらい普及していくのか、ヘビーユースでも安定して機能するのか等は、2〜3年は様子を見ないとわからないかもしれませんね。