ヘルメット

第三者機関によるヘルメットの安全性テストにはどのような意味があるか

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先日、Consumer Reportsという北米の非営利団体が3つのヘルメット製品について「安全性についてリスクがあるから買ってはいけない」という厳しい評価を下した、という内容について書きました(Bontrager Ballista MIPSが「安全リスクあり。買うな」の評価を受ける)。

Bontrager Ballista MIPSが「安全リスクあり。買うな」の評価を受ける
Consumer Reportsが次の記事で3メーカーの3つのヘルメット製品に対し「安全リスクあり。買うな(Don’t Buy: Safety Risk)」という評価を下しています。

この評価を受けたメーカーのいくつかがConsumer Reportsに対して反論しているようです。Bicycle Retailerが伝えています。

参考 Who should you trust? Helmet makers dispute Consumer Reports findings

CPSCによるテストとConsumer Reportsによるテストは目的が違う

記事の内容はざっくり言うと、果たしてConsumer Reportsのような団体のテストはどのように受け止めれば良いのか、というものです。

今回Consumer Reportsが低評価を下した3つのヘルメット製品はいずれも、それらをアメリカで販売するために必要なCPSC(The U.S. Consumer Product Safety Commission – 米国消費者製品安全委員会)のテストをクリアしています。

このCPSCのテストはヘルメットに必要な安全性要件をクリアするのが目的らしい。

しかしConsumer Reportsがやっているテストは、メソッドはよく似ているものの目的が違う。彼らが好きなように設定したテスト項目(ただしCPSCのテストと酷似した内容もある)について、市場に流通している製品を買ってきて「横並びで評価」する、というものです。

つまり今回低い評価を受けて悪い意味で話題になってしまった各メーカーは、そもそもConsumer Reportsによるテスト内容や環境は詳細には知らないし、故に想定もしていないわけです。

Bontrager Ballista MIPS Road Bike Helmet

Bontrager Ballista MIPS Road Bike Helmet © TREK

Consumer Reportsのテストはフェアなものではないのか

ではConsumer Reportsによるテスト内容はフェアではない。信頼もできない。ほとんどフェイクニュースみたいなもんだから無視して良い。と言えるのか。

ここはなかなか判断が難しいところです。

今回彼らが何個のヘルメットを同じテストにかけたのかは不明ですが、仮に小売店から買ってきた5種類のヘルメットを同じ方法でテストしたとしましょう。

すると不幸なことに、そのうち4製品はOKだったけれどもボントレガーのヘルメットだけあご紐のバックルが割れてしまった。しかも2個連続で割れた。

このテスト内容自体は、先にも書いたようにヘルメットメーカーがアメリカで製品を売るためにクリアする必要があるCPSCのテストとは全く同じではないわけです(※ただし非常によく似た、それでいてより簡易なテスト。後述)。それに、サンプルも同じではない。

しかしConsumer Reportsのテスト中に壊れた製品と、壊れなかった製品とがある。その結果を読むと、消費者心理としては「ボントレガーやばい」と思ってしまいます。

チンストラップに約4kgのウェイトを結んで、60cmの高さから落としたらボントレガーのヘルメットだけバックルが割れた。他のヘルメットのバックルは割れなかった。

相対的には、ボントレガーのヘルメットで使われているバックルの強度が他社製品のそれに対して低い、あるいはバックルのロットに何か問題がある、設計に問題がある、という判断を下すことは可能でしょうし、自然なことでもあるでしょう。

しかしテスト環境もテストメソッドもサンプルもCPSCのそれと全く同じではありません。帽体への衝撃テストについてはCPSCもCRも「ヘルメットの脆弱に見える部分」を台に落とすそうですが、その「脆弱そうな箇所」の選定にも試験者のバイアスがかかるはず。

ではConsumer Reportsのような団体は、業界にとってかなり厄介な、重箱の隅をつついてくるような迷惑な圧力団体なのでしょうか。

どうも必ずしもそうとは言い切れないところもあるようです。

CPSCのテストをクリアした後、その製品はもうテストしなくて済む

というのもCPSCのテストは、製品発売前に1度だけパスしてしまえば、その後に同じ製品に対するテストは必要ではないらしいからです(製品に大きい設計変更がなされない限り)。

するとCPSCのテスト時に使用した製品に問題はなくとも、その後に中国の生産工場で誤って品質の悪い樹脂が使われてしまったり、工場が意図的に安全性を度外視したコストカットをやってしまった場合、CPSCの基準を満たさない製品が市場に流通する可能性はないとは言い切れないでしょう(ただし大部分のメーカーはこういう抜き打ちサンプルテストは独自にやっている)。

また「大きい設計変更」はしていなくてもマイナーチェンジが発生していることもあるでしょう。

Consumer Reportsは2006年にもトレックのヘルメットについて衝撃テストを満たさなかった製品を公開していて、トレックはその後、当該モデルをリコールしたことがあるそうです。

2014年にはキャノンデールのヘルメットのバックルもテストで割れたようですが、これに対してキャノンデールは反論したものの、その後にバックルのデザインを変更したそうです。

ところでBicycle Retailerの元記事によると、約4kgの重りを約60cmの高さから落として負荷をかける、というテストはCPSCがやっているテストとほとんど同じものだそうです。

しかしCPSCによるテストよりも簡素化されているようです。CPSCによるテストでは異なる気温下で、異なるサイズのモデルを試したりとかなり厳しい。帽体の衝撃テストではヘルメットを落下させる面も複数の形状が用いられる。CRではそこまで複雑なことはやっていないそうで、CPSCのテストのほうがパスするのが難しいと思われます。

ヘルメットメーカーからすればCPSCのテストだけでいいじゃないか、という気持ちになると思いますが、そもそも「CPSCによるテストが疑問の余地のない万全なものである」とも言えないはず。客観的な統一基準でテストすること自体は業界にとって必要だとしても、それが全てと言ってしまうのも問題がありそうです。

CPSCのテストをクリアした後の製品品質を追跡・担保するためにも、Consumer Reportsのような第三者機関によるテストは決して無意味とは言えないでしょう。ヘルメットのような安全性に大きく関わる製品ならなおさらかなと思います。

実際に製品を使用する私達からすれば、両方のテストがあっていいように思いますし、むしろそのほうがありがたいとは思います。

しかしメーカーにとっては目の上のたんこぶでしょう。特に資金力に乏しい小規模メーカーは、今回のConsumer Reportsのような影響力のある団体からの報告があると一時的に販売をストップさせる必要があったりと、結構な経営的打撃を受けてしまうようです。ベンチャーには厳しい環境です。

著者
マスター

2007年開設の自転車レビューサイトCBNのウェブマスターとして累計22,000件のユーザー投稿に目を通す。CBN Blogの企画立案・編集・校正を担当するかたわら日々のニュース・製品レビュー・エディトリアル記事を執筆。シングルスピード・グラベルロード・ブロンプトン・エアロロード・クロモリロードに乗る雑食系自転車乗り。

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