フレーム・完成車

クロスバイクのイデア・GIANT Escape R3の伝説

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どの業界のどんなカテゴリーの製品にも伝説的なプロダクトが存在します。

そして日本のクロスバイク界における伝説的なプロダクトと言えば、GIANT Escape R3。「クロスバイクと言ったらEscape R3」と呼ばれるほどの名車なのは間違いないでしょう。日本市場向けにプロデュースされた、日本でのみ流通しているモデルです。

入口としても目的としても愛されてきたクロスバイクの名車

下はEscape R3の2019年モデルの画像です。トリプル・チェーンリングにリア8速のカセット。コンポーネントのグレードは決して高くはありません。ブレーキはむかしのMTBで使われていたようなVブレーキです。タイヤは700x28Cがアッセンブルされています。公称重量はサイズSで10.7kg。

GIANT Escape R3

GIANT Escape R3 © giant.co.jp

Vブレーキというのはいまやクロスバイク完成車でしか見かけなくなったように思います。MTBのエントリーモデルでもメカニカル・ディスクブレーキが主流になったからです。

Escape R3の初代モデルが登場したのは2005年頃で、上の画像のようなデザイン・スペックになったのは2015年。以来、2019年モデルまで基本的な仕様は同じです。

「クロスバイク」という言葉は和製英語で、英語圏では「ハイブリッドバイク」と呼ばれます(逆に「クロス」は「シクロクロス」を意味することが多いです)

ハイブリッドなバイク。では何のハイブリッドなのか。ロードバイクとMTBのハイブリッドです。ざっくり言うと「高速巡航性が高いロードバイクの700Cホイールに、MTB系のコンポをかけあわせた」バイク。2019年モデルでもVブレーキとフロント・トリプル仕様のこのEscape R3は「クロスバイクのイデア」と呼んでも過言ではないでしょう。

GIANT Escape R3

GIANT Escape R3 © giant.co.jp

思えばEscape R3は熱狂的なファンを生み出してきました。このクロスバイクをきっかけにスポーツバイクの楽しさに目覚めた人。ここからよりスポーティーなロードバイクの世界に進んでいった人。あるいはここからMTBの世界に入っていた人。様々いると思います。

スポーツバイクの「入口」として人気を博した名車であるのは勿論のこと、「Escape R3自体をカスタマイズして楽しむ」という層、「R3を楽しみまくることが目的である」ユーザー層も生み出しました。

なにしろカスタマイズを楽しむにあたっては絶妙のスペックなのです。2019年モデルで考えてみても、価格は税抜¥52,000、実勢価格は4万円程度と手が出しやすい価格です。そして

  • リアディレイラーをALTUSからもっといいやつにしたい…
  • Vブレーキをテクトロからシマノに交換したい…
  • サドルをもう少し固めのものにしたい…
  • ビンディングというやつを試してみようか?
  • それとも回転がいいらしいMKSのペダルにしてみようか?
  • タイヤをいいやつに換えるだけでさらにすごいらしい
  • 軽量なホイールって本当に走りが快適になるんだろうか?
  • アンダー9kgに仕上げたい…
  • クイックリリースを軽いのにすれば…

等々、「吊るし」で乗ってもバランスの取れている高品質プロダクトであるにもかかわらず、次から次へとカスタマイズ欲求を抱かせてしまう不思議なバイクなのでした。Escape R3によって「自転車沼」に引き込まれたという方は決して少なくないでしょう。

現在はラインナップされていない上位モデルのR2やR1よりも、R3のほうが「改造欲求をそそる」1台として人気だったと思います。

2020年モデルはオフセットシートステイを採用

そんな伝説の名車・Escape R3ですが、最新の2020年モデルでフレーム形状が若干変わるようです。下の画像をご覧ください。

GIANT Escape R3 2020

GIANT Escape R3 2020 © giant.co.jp

ジオメトリ自体は、GIANT公式サイトのチャートを見る限り2019年モデルと変わらないようなのですが、シートステイとシートチューブの接合位置がオフセットされています。これは昨今のロードバイクで主流になりつつある形状です。が、実はこのオフセットシートステイ、2007年以前のR3でも一時採用されていたことがありました。

オフセットシートステイのメリットは、あくまで概念上のことではありますが、リア三角の剛性が強化され(トライアングル部のパイプが短くなるので当然)、逆にシートポスト側の「しなり」が大きくなり振動吸収性が高まる、ということが言われているようです(このR3 2020年モデルがそのような乗車感かどうかはまた別ですが)。

この2020モデルではタイヤも700x30Cへと少し太いものになり、最近のロードバイクのトレンドにちょっと寄せてきている感じがします。この5年ぶりのリニューアル、果たして吉と出るか凶と出るのか…

クロスバイクのイデア的なR3はいつまで存在できるか

2020年モデルのR3を見てふと思ったのは「クロスバイクらしいR3はいつまで存在できるのだろうか」ということです。

Escapeシリーズにはよりスポーティーなライドに振った”Escape RX”シリーズが存在しています。R3よりもトップチューブが長めです。ディスクブレーキモデルもあります。

最上位版のESCAPE RX1ではブレーキがまだVブレーキなのですが、フロントはティアグラのダブルで見た目が少しフラットバーロードに近い印象です。フォークもカーボンです。これはこれで洗練されていて格好いいのですが、R3のあの「野暮ったさ」が感じられず、少し寂しい気もします。

ESCAPE RX1 (2020)

ESCAPE RX1 (2020) © giant.co.jp

さらに昨年には「RX-E+」という電動アシスト搭載モデルも登場しました。RXシリーズのジオメトリをベースにE-BIKE化したモデル。お値段税抜き¥280,000の高級品です。

ESCAPE RX-E+

ESCAPE RX-E+ © giant.co.jp

いまでもEscapeシリーズ全体を通じて、Escapeのイメージやテイスト、アイデンティティは何となく保たれているようには見えます。

R3 2019は「最後のクロスバイク」になるか

しかし私がいまクロスバイクを買うとしたら、2019年モデルのR3になると思います。懐古趣味と言われそうですが、「THE クロスバイク」という感じのたたずまいがあるのはやはり2019年までのモデル。2020年モデルの乗り味も気になりますが、R3はもう進化しなくても良いモデルではないか。そして、そういうモデルが各社に1台くらいあってもいいのではないか。

Escapeシリーズはネーミングも良かった自転車だと思います。エスケープ、逃避。これに乗れば、退屈な日常から離れられる。自由な自分に出会える。そんなイメージを持てるようなネーミングもR3人気に一役買っていたと思います。高校生からおじさんまで、いろんな年齢層のライダーを夢中にしました。1つの時代をつくった名車であるのは間違いないでしょう。

そして「クロスバイクっぽいクロスバイク」は、R3 2019が最後のモデルになるのではないか、とぼんやり思ったりしています。

著者
マスター

2007年開設の自転車レビューサイトCBNのウェブマスターとして累計22,000件のユーザー投稿に目を通す。CBN Blogの企画立案・編集・校正を担当するかたわら日々のニュース・製品レビュー・エディトリアル記事を執筆。シングルスピード・グラベルロード・ブロンプトン・エアロロード・クロモリロードに乗る雑食系自転車乗り。

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