プロサイクリング

「良い仲間がいれば人は限界を超えられる」巨人エディ・メルクス、ツール・ド・フランス2021第1週を語る

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ツール・ド・フランス5勝、ジロ・デ・イタリア5勝、ブエルタ・ア・エスパーニャ1勝、ツールでは34回のステージ優勝を獲得したプロサイクリング界のアイコン、エディ・メルクスがツール・ド・フランス2021の第1週について、ベルギー誌とのインタビュー(7月5日)で読み応えのある所感を語っているので紹介します。

出典 Eddy Merckx over 1e Tourweek: “Dat Van der Poel eruit stapt, vind ik spijtig” – Sporza

今回のツールでの落車、ファン・デル・プールのリタイヤ、カヴェンディッシュの活躍、ポガチャルとエヴェネプールの話題を取り上げています。

良いチームで仲間に囲まれていれば人は限界を超えられる

  • ツール(のコース)が厳しすぎるとき、みんな尻込みしてしまう。今年のコースは極端に過酷ではないからみんな飛ばしている。だから初週は素晴らしいものになったんだよ
  • クラッシュは主に、ライダーたちが昔ほど一緒にレースしていないから起こっていると思う。選手達は今ではトレーニングキャンプに行くから、お互いのことを知らないんだ。そうするとプロトンでの対応力が不足する。お互いがどんな反応をするかもあまりわかっていない
  • 最初の週は勿論いつだって神経質にはなるし、(今回は)道もそんなに広くはなかった。それも落車の理由だ。でも選手達がもっと頻繁に(一緒に)レースしていたら落車は少なくなると思うよ
  • マチュー・ファン・デル・プールのミュール・ド・ブルターニュでの活躍は圧巻だった。最初の峠でボーナスポイントを取って次の峠で勝つためには本当に強くないといけないからだ
  • ファン・デル・プールと彼の祖父、レイモン・プリドールと食事に行ったことがある。プープー(=プリドール)はマチューがいつかツールで勝てる選手だと確信していた。しかし残念ながら私はそうは思わない
  • (ツールをリタイヤして東京オリンピックに向かうことは)私にはとてもできない。ステージレースをスタートするとき、途中退場は考えないものだ。オリンピックに出るのなら他の方法で準備するべきだ。こうしたことはサイクリング競技に良いことではない
  • ファン・デル・プールは望んでスケジュールを詰め込んでいる。誰も彼にそれを強いているわけではない。ツール・ド・フランスはその年の、そしてサイクリング界で最大のレースなのだから、ドロップアウトするのは残念なことだ
  • (マーク・カヴェンディッシュがステージ32勝を挙げたことについて)私の記録に迫ってきているのは、彼に実力があるからだよ。勿論、あれは全てマス・スプリントによる勝利だがね。私はあらゆる地形で、山岳も含めての34勝だからね。だからといって評価か変わるわけではないがね。私は再出走するつもりはない
  • カヴェンディッシュは素晴らしい、陽気な男だ。彼はいまチームに元気をもらっている。良い雰囲気のチームにいてみんな仲良くしている時、人はいつも自分の限界を超えることができるものだ
  • 正直、カヴェンディッシュがカムバックできると思ってはいなかった。サイクリングでは奇跡が起こることがある。(今回のカヴェンディッシュの活躍は)そうした奇跡のひとつだ
  • ポガチャルは落車しない限り順調だろう。何かやれそうなログリッチもベルナルもいない。でもポガチャルのほうが格上だと思う。彼は例外的なチャンピオンであり、今後数年はツール・ド・フランスを支配するだろう
  • (レムコ・エヴェネプールはポガチャルのライバルになるか?)エヴェネプールについてはコメントを控える。ポガチャルのレベルに到達するにはあと数年が必要だ。落車だけの話ではないが、ステアリングスキルも重要なんだ。エヴェネプールはステアリングをもっと練習する必要があるだろう

このインタビュー、伝説のチャンピオンだけあって興味深い洞察が満載でした。落車が増えているのは、メルクス氏によると現在のプロトンには昔あったような人間関係がなくなっていることも一因のようです。チームメンバーのことはよく知っていても、チームを超えた人間関係が希薄になっていることが伺えます。

またファン・デル・プールの実力を認めながらも、総合優勝が見えなくなったからオリンピックに目標を切り替える、というのはメルクスには受け入れられない考え方のようです。

カヴェンディッシュがメルクスの34勝に並ぶ可能性については「俺は山でもステージ優勝してるからな…」と軽くマウンティングしているところには爆笑しました。

メルクスを崇拝するカヴェンディッシュの話

しかし、個人的には「もしかしてメルクスはカヴェンディッシュに『遠慮なく勝て』というメッセージを送っているのではないか?」と思いました(個人的な考察)。

というのも、ドゥクーニンク・クイックステップのGM、パトリック・ルフェーブル氏がベルギーのNieuwsblad.beで7月3日、次のように語っているからです。

カヴェンディッシュは今回のツールで、メルクスの記録について語ることはありません。31勝の後でも、32勝の後でも33勝の後でも彼は語りません。

その理由をお話ししましょう。マークはサイクリングの歴史を熟知していて、レスペクトしているのです。彼はこのスポーツのアイコンを知っていて、その人物が何を成し遂げたのか、何を意味するのかを知っているからです。カヴェンディッシュは誰よりもエディ・メルクスを理解しているのです。

マークがチームに参加した時、私達はブリュッセルでベッセル・コック(オランダの実業家)、ズデネク・バカラ(チェコの投資家)と彼の妻、エディ・メルクス、そしてカヴェンディッシュと会食しました。その時のマークの様子は今でも覚えています。熱狂的で、興奮していて、神経質になっていました。これからサンタクロースに会える子供のようでしたよ。

だから彼はメルクスのことを話したくないのです。彼はメルクスをあまりに崇拝しているため、メルクスの記録を破ってしまったら重荷になるのではないかと思えるほどです。エディ・メルクスから何かを奪うということ、それは彼にとって本当に居心地が悪いことでしょう

つまり、メルクスを尊敬するあまりカヴェンディッシュが最後の力を振り絞れないのだとしたら…

「おい、マーク。遠慮せず俺の記録を打ち破れ。まぁお前が勝ったところで、山岳ステージの勝利は入ってないわけだしな…」

そんなふうに言われたらカヴェンディッシュも「ふざけんな、なら遠慮なく勝ちに行くぜ!」となるのではないでしょうか(※ただの妄想です)。

著者
マスター

2007年開設の自転車レビューサイトCBNのウェブマスターとして累計22,000件のユーザー投稿に目を通す。CBN Blogの企画立案・編集・校正を担当するかたわら日々のニュース・製品レビュー・エディトリアル記事を執筆。シングルスピード・グラベルロード・ブロンプトン・エアロロード・クロモリロードに乗る雑食系自転車乗り。

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