Enve M735EというE-MTB用ホイールがpinkbikeのインプレ中に2回連続で破断し、欧米で物議を醸しています。
ENVE M735Eのスペックとリム破断までの経緯
まずホイールスペックです。
- 27.5″と 29″ のモデルあり。テストされたのは29インチ版
- カーボンリム、リム内幅35mm
- プロテクティブ・リムストリップ(PRS)採用
- 32スポーク・2クロス組み
- ハブはクリスキング
- スポークはSapim CX-Ray ブレイデッド・Jベンド
- 米国ユタ州にて製造
- 重量 フロント966g, リア1121g, ペア2087g(PRS,バルブ込みの実測重量)
- メーカー希望小売価格 $3,080
行われたテストの内容とリム破断の経緯は以下。
- イタリアはフィナーレ・リーグレ(Finale Ligure)のインジェニェーレ・トレイルにてインプレを実施。全長6kmで岩の多い厳しいセクションがある
- そのトレイルを2回、寄り道込みで30kmを走行
- 3回目のトレイル走でフロントリムが破断(ライダーに怪我なし)
- ENVE本社、代替のリムを送付する
- この代替品のリムにはささくれがあり、PRS装着時にインプレ担当者の指にカーボン繊維が刺さる
- よく見るとささくれが他にも多くあった
- ENVEの製品・消費者窓口バイスプレジデントに連絡すると、破断の原因はQC(製品管理)に問題があったか、輸送時あるいは組み付け時に破損したかPRSなしに硬い表面にぶつけたのではないかとのこと
- 代替リムでDolmenという岩場の多いトレイルを走ったところ、今度はリアのリムが破断。エアは瞬時に失われ、タイヤはPRSとともに脱落
- このことを連絡するとENVEはさらに代替品を送付
- しかし受け取ったリムは中に何か入っていてカラカラという音をたて、リム穴はセンターからずれている箇所があり、スポーク穴からはカーボン繊維が飛び出していた
- プロテクティブ・リムストリップ(PRS)もバルブステムを最初のリムから外す時に破れてしまい、シーリングのためにパッチを当てる必要があった
- インプレ担当者はこの時点でテストを終了することにした
動画はインプレが行われたとされるフィナーレ・リーグレのインジェニェーレ・トレイル(まさにこの場所、というわけではありませんが参考として)。
ENVE責任者からのメッセージ
このpinkbikeのインプレ記事に対し、ENVEから次のようなメッセージが寄せられました(以下、抄訳)。
ENVE責任者からのメッセージ
ENVE側で発生した問題については責任があると考えていますし、このレビューに含まれているいくつかの見解や主張について、明確な説明と、異なる視点を付け加えたく思います。
まずENVE製品で何かがうまくいかなかった時に、我々の製品の価格を根拠とする「完璧さ」に関するある種の考え方が頻繁に持ち上がります。
はっきり言いましょう、完璧さというのは、神話です。ENVEにとってそれは確かにゴールです、しかし我々は決して自分たちが完璧であると主張したことはありません。反対に、我々は日々あらゆる点においてベターになるよう努力しています。
しかしそれは長い道のりであり、我々はうわべだけの詰め物や塗装によって自社製品の不完全さを隠すようなことはしません。
そのため、我々の品質管理チームにはより多くの責任が課せられているのですが、彼らは人間であり、人間は時に間違いを犯します。
ポールはファイバー繊維が飛び出たリム、不完全に穴があけられたリムを受け取って当然だったのでしょうか? 全然そんなことはありません。我々は間違いを犯した時、責任を取りますしカスタマーを質問攻めにすることなくケアします。
ENVEの長期的な保証体制とカスタマーサポートの高い評価によって、メーカー各社はカーボンホイール市場にアグレッシブな生涯保証を導入することを強いられることになりました。
ある製品が一定の距離の中でダメージを受けた、あるいは破損した場合、それは長い時間をかけて最終的に破損したり消耗したりする製品よりも悪い、という考え方があります。
カーボンは疲労しません。もしある製品が最初のライドで破損し、他の製品が10回目や100回目のライドで破損したからと言って、それは必ずしも早い段階で壊れた製品のほうが劣っていることを意味しません。
クルマの新車に乗って駐車場を出て、はじめて道に停める時に破壊してしまうこともあります。ここで問題になっているのは、このE-MTB専用設計のM735ホイールのテスターはこの製品の能力を超えてしまったということです、しかしこれは我々のカスタマーが経験していることではありません。
私が次にポールに提案できるのは、我々のワールドカップDHチームがレースで使用しているM9シリーズホイールにグレードアップすることでしょう。
ポールのようなライダーがE-MTBでこの製品を使う際の要求に応えるために、我々はもっとやることがあるでしょうか? あります、ENVEはベストであり続けることにコミットしています。
この製品は彼のテストをパスしなかったにせよ、E-MTBライダーにとってのパフォーマンスと活動範囲を改善するために限界を押し広げているのです。
M7ホイールのE-MTB以外への適用については、我々のプロテクティブ・リムストリップ・テクノロジーは素晴らしいものです。ストリップの装着時に注意しないと裂けることもありますが、前例のないプロテクションを提供しており、これを導入して以来、旧型のM70と新型のM7とでは保証カバー率が3%から1%に減ったのです。
最後に、価格のことについて。このレビューでテストされたホイールセットはクリスキングハブを使用した専用設計です。このクリスキングのハブはE-MTBで使用するための耐久試験・信頼性要件をクリアするためにE-MTB専用設計となっています。
これらのハブは安価ではなく、ホイールセットの価格を現在の価格にまで押し上げてしまいます。我々はENVEホイールをより多くの人々が買いやすくなるよう模索しています。
その証拠として、我々のMシリーズにI9ハブを使用することによってMシリーズの価格は$2550にまで抑えることができました。これは過去の価格より10%安くなっています。
ポールとPinkbikeに、我々の見解を共有する機会を与えてくれたことを感謝します。
– Jake Pantone, プロダクト・アンド・コンシューマーエクスペリエンス・バイスプレジデント
欧米での反応
以下、Redditより。
- 不良品は理解できるが…私がENVEについて気に入らないのは彼らの傲慢な態度だ。「はっきり言いましょう、完璧さというのは、神話です。ENVEにとってそれは確かにゴールです、しかし我々は決して自分たちが完璧であると主張したことはありません」。これはひどい態度だよ
- 完璧さがゴールであると言い、同時に完璧さとは神話だ、と言うような会社には大きい懸念を抱く。達成不可能な目標を持っているのはおかしな話だ。とても「SMART」ではないね
- 「クルマの新車に乗って駐車場を出て、はじめて道に止める時に破壊してしまうこともあります。」という部分で、俺は読むのをやめた。アホらしいほど無関係な話だし、読者をバカにしている
- E-MTBのスペックがダウンヒルバイクのそれよりも劣っているとしたらショックなんだが…
- ENVEがE-MTBライダーはこんなにハードなライディングはしないと考えているとしても、このホイールはペアで2.1kg近くもあって、エンデューロ・ワールドシリーズでずっと使われてきたアルミのMavic Deemax Proよりも300g近く重いんだ。そしてずっと高価だ。なら何のためにお金を払っているんだ?
pinbikeによるENVE M735Eの評価
pinbikeは今回テストしたM735Eを次のように評価しています。
ハイエンド・アルミホイールの2倍の価格でありながら、ENVE M735は何ひとつ良い結果を提供しなかった。複数回にわたる破断やその他のマイナーな問題を考えると、私はこのホイールを推薦することはできない。あなたの地元のトレイルがラフで岩場が多い場合は特に。
私が思ったこと
このENVE M735Eテストをめぐる一連の情報を読んで思ったのはとにかくENVE責任者の対応が残念だな、ということ。ENVEホイールについてはCBNレビュワーの方にも愛用者が多く、価格は確かに高いとしても非常に優れたリムをデザイン・製造するブランドだというイメージを持っていました。
今回テストされたENVE M735Eは、どんな環境でテストされたのかは詳しくはわかりませんが、テスターはいつも同じトレイルをアルミホイールで乗っていてこういう問題が起きたことは一度もないと書いています。すると特に過酷なテスト環境でもなかったのかなと想像します。
ENVE担当者のメッセージには個人的に理解に苦しむ部分も多かったです。まず言い方で損しているな、という点。それと同時に、ENVEのE-MTBライダー向けのリムはよりハードなライドをする人向けの製品よりも強度的に劣っているとも読めてしまうので、えっそれってありなの? と思いました。
もちろんENVE M735Eがこういう製品だったからといってENVEのすべてのホイールがダメだということには全くなりませんが、少なくとも3つ送られてきて3つとも問題があったこのホイールについては、設計そのものや品質管理の面でちょっと手を出しにくい、とは思いました(私が奥多摩で使う分にはたぶん何の問題もないだろうけど)。