スペシャライズドの創業者で現CEOのマイク・シンヤードは、子供の頃、ADHD(注意欠陥多動性障害)の傾向があったんだそうです。Bikeradarにそんな記事が掲載されています。
子供の頃、彼は学校の授業に集中できないのは自分がスマートでないからだ、頭が良くないからだ、と思っていたそうです。彼は高校を中退します。その後、自転車に乗るようになってかなり性格が変わり、カレッジに通うようになり、そこは卒業できたのだそうです。
しかしシンヤード氏、息子が生まれると、むかしの自分に似た傾向があることに気づいたようです。息子さんも学校をやめようとしている。最初は「そんなことやめろよ」などとたしなめていたそうですが、そんな時、「自転車は私のリタリンだ」というタイトルの、ハーバード・メディカル・スクールの医師による論文に出会ったそうです。
リタリン(メチルフェニデート)というのは、米国でADHDの子どもに処方される代表的な処方薬です。
Wikipedia
しかしこの薬は覚せい剤に似ているところがあるらしく、米国でも日本でも若者による濫用が相次いでいることも有名。先日観た「プレミアム・ラッシュ」という映画でも、コロンビア大学の法科に通う学生が「リタリン飲めば司法試験なんか余裕だぜ」みたいなことを口にしていたのが印象的でした。
ADHDの治療にはリタリンが有効ではあっても、やはり副作用がひどいのでADHDの子どもを持つ親としてはそういう薬に頼りたくないわけです。
マイク・シンヤード氏は、自転車に乗ることがリタリンのかわりになる、という確信を持ったそうです。自転車に乗ることは、単にペダルを踏むだけではなく、様々な感覚刺激を受けることであり、バランスを取るために自然と集中力が発揮されます。新鮮な空気も吸える。
そして学校の授業前、あるいは就学中、ADHDの子どもに自転車で遊ばせたら、彼らの集中力が改善されたというデータが得られはじめているらしく、彼はスペシャライズドの基金を通じて、スタンフォード大学の協力のもと、”Riding For Focus”(集中するために自転車に乗る)という活動を開始。
スペシャライズドは学校が自転車を購入する際に補助金を出し(買ってもらう自転車はスペシャライズド製でなくとも良い)、2016年以降、20,000人を超える児童が学校で自転車に乗るようになったそうです。なおアメリカでは11人に1人がADHDと診断されているそうです。
この活動は現在アメリカ合衆国で行われていますが、シンヤード氏は将来的にイギリスでもこうした活動を展開していくことを考えているようです。
これはスペシャライズドよりもずっと大きい話であり、自転車産業よりもずっと大きい話なんだ。自転車には子どもたちを大いに助けるポテンシャルがあるんだ。
…ところで、子どもたちに自転車に乗ってもらうように仕向けるのは大変なことではないよ。自転車は楽しいから、うまくいくんだ。
…(このプログラムに参加する)学校はスペシャライズドの自転車を使う必要はない、どんな自転車を使ったっていい。繰り返すけど、これはスペシャライズドよりも大きい話なんだ。
私の個人的な目標は、5年後に現在を振り返って、なぜ子どもたちを薬漬けにしていたんだろう、と自問するようになることさ。
…これは私がやってきたことのなかでいちばん大きいことだと思う。自転車は学校教育の一部になると思う。医者が子どもに処方するのは、自転車に乗ること、であるべきなんだ。
世の多くの起業家はADHDの傾向があると聞きます。テスラやSpace Xのイーロン・マスクは次から次へと考え事が浮かんでしまい、ろくに服も着られないんだそうです。
マイク・シンヤード氏にも似たようなところがあったのでしょう。現代の社長にはこういう変わり者が多いです。しかし一定の集中も伴わなければ、大成するのは難しいですよね。
スペシャライズドの自転車は、自転車をはじめたばかりの頃に乗っていたスタンプジャンパー以来縁遠くなっているのですが、1台欲しくなってきました。