自転車通勤をする人は、非アクティブな(体をあまり動かさない)通勤をしている人に比べて「健康面での様々なリスクが低い」ことを示す統計データがあるようです。これまで「きっとそうなんだろうね」と思われてはきたものの、長期的な大規模調査による統計結果はあまりなかったようです。今年2024年6月にBMJ Public Healthで研究結果が発表されています。
出典 Health benefits of pedestrian and cyclist commuting: evidence from the Scottish Longitudinal Study – BMJ Public Health (PDF)
出典 Health benefits of pedestrian and cyclist commuting: evidence from the Scottish Longitudinal Study (Web)
以下、調査方法とその結果の概要です。
- スコットランドの縦断研究は国勢調査に基づいており、我々はそこから16-74歳の82297人を選択した。対象者について、2001から2018年にかけ、入院・死亡・処方箋記録との関連を追跡した。Cox比例ハザードモデルを用い、先行する健康状態とデモグラフィック、社会経済的特徴を制御しつつ、自転車通勤者および徒歩通勤者とアクティブでない通勤者を比較した
- 非アクティブな通勤者と比較すると、自転車通勤者の全要因死亡リスクは低く(HR 0.53, 95% CI 0.38 to 0.73)、あらゆる入院のリスクは低く(HR 0.90, 95% CI 0.84 to 0.97)、心血管疾患による入院リスクは低く (HR 0.76, 95% CI 0.64 to 0.91)、心血管疾患のための医薬品処方リスクは低く(HR 0.70, 95% CI 0.63 to 0.78)、がんによる死亡リスクは低く (HR 0.49, 95% CI 0.30 to 0.82)、がんによる入院リスクは低く(HR 0.76, 95% CI 0.59 to 0.98)、メンタルヘルス問題のための医薬品処方リスクは低かった(HR 0.80, 95% CI 0.73 to 0.89)。徒歩通勤者の場合、あらゆる入院のリスクは低く(HR 0.91, 95% CI 0.88 to 0.93)、心血管疾患による入院リスクは低く (HR 0.90, 95% CI 0.84 to 0.96)、心血管疾患のための医薬品処方のリスクは少なく (HR 0.90, 95% CI 0.87 to 0.93)、メンタルヘルス問題のための医薬品処方のリスクは低かった(HR 0.93, 95% CI 0.90 to 0.97)
- アクティブな(活動的な)通勤者は、非アクティブな通勤者と比べて、身体的・精神的な様々な健康問題に苦しむことがより少ないことが判明した。こうした発見はアクティブな通勤が健康にもたらす恩恵のエビデンスを強化する
HRというところで示されているのは「ハザード比」と呼ばれるもので、これをわかりやすく書き換えると、
自転車通勤者の場合は、非アクティブな通勤者に対して
- 全要因死亡リスク:47%低い
- あらゆる入院のリスク:10%低い
- 心血管疾患による入院リスク:24%低い
- 心血管疾患のための医薬品処方リスク:30%低い
- がんによる死亡リスク:51%低い
- がんによる入院リスク:24%低い
- メンタルヘルス問題のための医薬品処方リスク:20%低い
徒歩通勤者の場合、非アクティブな通勤者に対して
- あらゆる入院のリスク:9%低い
- 心血管疾患による入院リスク:10%低い
- 心血管疾患のための医薬品処方リスク:10%低い
- メンタルヘルス問題のための医薬品処方のリスク:7%低い
となりますね。徒歩通勤者も非アクティブな通勤者と比べるとかなり有意に健康的な生活を送れていますが、自転車通勤の場合は心血管疾患やメンタルヘルス面で、おおむね2倍くらいさらに良い結果が出ているように見えますね。非アクティブな通勤者と比べるとがんのリスクも相当低減されるようです(※あくまでこの比較においては、です)。
しかしPDF版にある図表には”Traffic casualty hospitalization(交通事故による入院)”というデータがあり、徒歩通勤者の場合そのHRは0.99(非アクティブな通勤者に対して1%低い)、自転車通勤者の場合は1.98(非アクティブな通勤者に対して98%多い)という結果が出ています。
交通事故による入院リスクだけは、自転車通勤する人は電車やクルマで通勤する人に比べて2倍近く増えますが、そこさえなんとかすれば、心筋梗塞になったり肺がんになったり鬱病になったり眠れなくて睡眠薬をもらったりするといったことは、ぐっと少なくなるよ、と言うことはできそうな研究結果ではないでしょうか。