よみもの

スポークの音の高さだけを頼りにして振れのないホイールを組むことはできますか?【理論 vs. 現実】

CBN BlogはAmazonアソシエイトとして適格販売により紹介料を得て、良質なコンテンツの作成とサイト運営のために役立てています。当サイト内のリンク経由で Amazonにてお買い物 していただくと、大変助かります。ご支援ありがとうございます

ホイールのスポークは、指ではじくと特定の高さの音がします。この音を頼りにホイールを組むことはできるでしょうか、という主旨の議論を海外掲示板で見かけました。とても学ぶところの多い内容だったので、ご紹介します。

Park Tool TM-1

Park Tool TM-1(筆者所有)

出典 Theoretically all spokes should have the same tone if new

スレッドから目立ったコメントをピックアップしてみました(抄訳)。

  • (スレ主さん)ホイールを楽器用のチューナーを使ってチューニングすることはできるでしょうか? 理論的には、スポークがすべて新品なら同じ音(トーン)になるはずですが
  • 理論的には、(目標とする)正しいテンションの周波数を知っているなら、近くまで持っていけるかもしれません。しかしホイールごとに違うでしょう。そのためコツをつかむまではテンションメーターを使ったほうがいいですね(9いいね)
  • (上の人に)スレ主さんが考えているのは、すべてのスポークのテンションが均一なら、特定の音が出るだろうということです、あと音高(ピッチ)や音色(トーン)とは関係なく、テンションが同じなら同じように響くのでは、ということだと思います(6いいね)
  • あとリムが完全な円なら、という前提もね(5いいね)
  • さらにスポークのすべての交差部が、正確に全く同じところに位置していることもね(4いいね)
  • あとホイールは対称形のもので、ディッシュはダメ(2いいね)
  • (スマホのチューナーを使えばできる、という意見に対して)できるんだろうけど、でもさ! 目的はすべてのスポークのテンションを均一にすることではないのさ。目的は、まっすぐなホイールを作ることだ。そしてそのためには、スポークごとに異なるテンションが必要になるかもしれないんだ。もし新品の、完璧にまっすぐなホイール(リム)で完璧に同じ長さ(と直径)のスポークだったなら…(3いいね)
  • 私はホイールの振れ取りをする時、目と同じくらい耳も使います。音が下がったり上がったりするスポークは、大体問題のある箇所と一致します、ただその相関関係は絶対的なものではありません(4いいね)
  • 数学は素晴らしいし、良い出発点になる。しかし理論的なものにすぎないんだ。スポーク、ハブ等々は完璧なものではないだろうし、多くのホイールでスポークテンションは変わってくると思うよ(2いいね)

読んでいて、少なくとも次のような条件を満たすのであれば、各スポークは同じ音高に近付いてくるのかなと思いました。

  • リムが完全な円形である
  • ハブフランジも完全に円形でスポーク穴も完璧に同じ位置にあり穴のサイズも完璧に同じである
  • スポーク長はどれも完全に同じである
  • 交差組みの場合、スポークが重なる部分も一切の誤差なく同じである
  • スポークの材料がすべて均質でどれも同じ強度である…

と、ここまでリストアップしてきてバカらしくなってきました。

だって、そんなものないじゃない!!

つまり理論上は正しくとも、その理論を適用する先の現実は、いろんな要因でいびつなところがあり、規格から外れていたりします。そもそも工業製品では、目標とする数値に対する上下への振れ幅として許容可能な数値を「製造公差」などと呼ぶこともあります(プラスマイナスX%とか0.Xmm等々)。

スポークの音の高さは、参考にはなる。しかしリムの歪んでいるところから伸びているスポークとか、品質の悪いスポークとか、同じテンションをかけても同じ音高にはならない場合がある。

さらに「そもそも最終的な目的は、スポークに均一なテンションをかけることではなかろう。振れのないホイール、そして振れにくいホイールを制作することが目的ではなかったか。そのためには、現実世界における部品の状態や製造公差、作業時のいろんな制約を考えに入れながら、理論を参考にして製品を理想に近付けていくことだ」という主旨の提案がありました。

この話は、ホイール組み以外にも通用する、勉強になる話だなぁとと思いました。代表的なものには、メーカーの取扱説明書にこのボルトは◯Nmで締めるって書いてあるから、何が何でもその強さで締めなければならないのだ、という原理主義的な考え方です。

しかし、実際は地上にあるどんなネジのスレッドもナットも、さらには計測器であるトルクレンチも、完璧な精度のものは存在しないので、振れ幅を持った現実を考慮に入れながら、観察と経験をベースに調整する作業が必要になります。理論やツールは、目的そのものではなく、目的に近付くための手段です。

本当に優秀な、信頼できるメカニックさんがいるとしたら、こういうことを理解していて、一様でない様々な現実をよく観察して仮説を立て、それに対応するソリューションを提供できる人のことを言うのだろうと思いました。

著者
マスター

2007年開設の自転車レビューサイトCBNのウェブマスターとして累計22,000件のユーザー投稿に目を通す。CBN Blogの企画立案・編集・校正を担当するかたわら日々のニュース・製品レビュー・エディトリアル記事を執筆。シングルスピード・グラベルロード・ブロンプトン・エアロロード・クロモリロードに乗る雑食系自転車乗り。

マスターをフォローする
CBN Blog
タイトルとURLをコピーしました