長さの単位は「メートル」、質量の単位は「キログラム」、時間の単位は「秒」。これらは、日ごろから使っていますので、何の違和感もありませんし、裏に潜む面倒な話など気にも留めません。
自転車関連では、たとえば速度の単位。これは時間あたりの移動距離つまり、「キロメートル/時」 ですが、馴染み深いですよね。そして出力は「ワット」。これなどは少々、微妙ではあります。しかし、正確な意味が何なのか、わからなかったとしても、言わんとしていることは、伝わります。
ところが、「ルーメン」。これは難敵です。
そう、ライトの明るさの単位の話です。ルーメンだのカンデラだのルクスだの・・・なんでそんなに色々あるんだ?
わけがわからないこの照明関連単位群。
これを今回は整理して、分かった気になりたい、と思います。
ライトのカタログを覗いてみれば
良くわからないですよね、ルーメンとかカンデラとか。
キャットアイのベストセラー、VOLT800のウエブカタログを見ると、
約800ルーメンの小型・軽量、ハイパワー充電ライト
との記述があります。 まず、「ルーメン」 が登場。
おなじくキャットアイのアーバン(HL-EL145)のWEBカタログを見ると、
従来モデル(HL-EL140)と比べて明るさが2倍にアップ(約400カンデラ→約800カンデラ / 約8ルクス)
今度は「カンデラ」 と「ルクス」 が登場。
また、このアーバンのWEBページに飛ぶ手前の見出しページには、さりげなく、
50 LUMEN
との記載が。なんだ、ルーメンもあるじゃないか。
そして、キャットアイの新製品GVOLT70(HL-EL551RC)のWEBカタログには、
約260ルーメン(約7,000カンデラ)
今度は「ルーメン」 と「カンデラ」。
「ええーっ、アーバンは800カンデラが8ルクスで、しかも50ルーメン?」
「ボルト800は800ルーメン、これって800カンデラとは違うんだよねぇ?」
「で、GVOLT70は260ルーメンが7000カンデラって、アーバンの数字とつじつま合わなくない?」
「ま、しかし7000カンデラってすげぇ数字だよな。でもそれが260ルーメンってことは・・・」
「う~む、全く理解不能」
「待て!オレの眼には7000カンデラという数字しか見えない。ああそうだとも、260ルーメンは見なかったことにするゼ!」
で、GVOLT70。購入してみたら期待ほどの明るさじゃなくてちょっとガッカリ、そんな人がいたとしても、それほど不思議ではないでしょう。
あれぇ?例の、『タウリン1000ミリグラム配合!』って、なんのことはない、1グラムのことだよねぇ。カンデラとタウリン、な、何だか似てる気がするゼ!!(悪寒)
…もう全く、わけがわかりませんよね。
ハイパワーLEDを使ったライトが出始めたころから「ルーメン」という単位が主流になり、VOLTシリーズですっかり定着したので、ルーメン表記が最もわかりやすいし、なじみが深いといえば、そうなのですが、いくつもある単位の関係は依然として、深い闇に包まれています。
ルーメン
消防士が放水する水量そのもの、あれがルーメンである
◆ 火災事例A ◆
「ピンポイントで激しく燃えているぞ!あの火元を水量800ルーメンでドバーッと狙え!!」
◆ 火災事例B ◆
「火勢は比較的弱いが、火が広がっている。噴射角度を大きくして水量800ルーメンで消火せよ!」
火災事例A、Bともに、使う水量は同じ。この水量を、事例Aでは狭い範囲に集中させ、事例Bでは広く拡散させています。(もちろん、水量単位はルーメンじゃなくて、リットル/秒 ですヨ)
ライトで考えると、同じ光量の800ルーメンを、どう使うのか、ということに他なりません。
当然、事例Aに相当するライトの方が、路面を明るく照射しますが、範囲が狭くなります。山道の九十九折れではコーナーの入り口が見えず、とても走りにくいライトになります。
さて、放水された水を束ねると、事例AとBは同じ水量でしたよねぇ。で、ルーメンは光の束、というわけで 『このライトの光束は〇〇ルーメン』 という風に呼ばれています。
ルーメン → 光束 → 単位はlm
カンデラ
火災事例AとBのイラストの水の色の濃さがカンデラである
事例AとBの光量は同じですが、Aの方が、噴射角度が小さいので、単位角度あたりの光束量は大きいですよね。一方、事例Bでは、噴射角度が大きいので、単位角度あたりの光束量は小さい。
単位角度あたりの光束量
これがカンデラです。
つまり、同じ800ルーメンでも、事例Aのほうがカンデラの数値が大きくなります。
例えばVOLT800の場合、明るい中央部の主配光範囲は約15度です。この部分に注目してみます。もし、この主配光範囲を、同じ光束量(ルーメン)を維持したまま15度ではなく30度にすると、どうなるか?
15度から30度にしたことで、次の図の球面の照射範囲の 「面積」 は、約4倍(3.98倍)になります。すなわち、「単位角度あたりの光束量」 は1/4になります。つまり、カンデラも1/4倍になるわけです。
例えば、同じ配光設計の200ルーメンのライトと800ルーメンのライトがあったとします。
ルーメンは、光の総量のことですから、この二つのライトに同じ配光設計が適用されていたとすれば、単に、800ルーメンのライトが200ルーメンのライトよりも、同じ範囲を4倍だけ明るく照らしてくれる、という単純な話になります。
800ルーメンのライトが仮に、20000カンデラだったとしましょう。カンデラは、単位角度当たりの光量ですから、200ルーメンのライトは20000カンデラの1/4倍で5000カンデラという事になります。
ここで、200ルーメンのライトの配光設計を変更して、照射角度を半分にしたとしたら?
照射面積は先ほどの通りで約1/4になりますから、カンデラは20000になり、二つのライトのカンデラ数値が同じになってしまいます。つまり、200ルーメンのライトは、200ルーメンであることを伏せて、照射面積を1/4に設計することで、800ルーメンのライトと同じカンデラ数値を得ることができるわけです。
なーるほど、カンデラ表記を前面に出してくるライトには警戒した方が良い、ってことですね??
「ところで、カンデラは単位角度あたりの光束量だったはずだけど、いつの間にか照射面積にすり替わっているぞ?」
いやそうなんです。実は、カンデラというのは「単位角度あたり」 じゃなくて、本当は、
『単位立体角あたり』
なんです。
ほとんどの方に全く馴染みのない立体角なんていう言葉をつかうとわけがわからなくなるんで、角度ということばで代用していましたが、実際には、2次元の角度ではなく、3次元の角度である 「立体角」 で表現しなければならず、そうすると、球面の面積につながるわけです。
ここは深追いしないことにしましょう。
というわけで、見えてきましたねぇ、キャットアイのアーバン(HL-EL145)が800カンデラで50ルーメン。一方、キャットアイの新製品GVOLT70(HL-EL551RC)が7000カンデラで260ルーメン。限りあるルーメン資源をどうやって使うかで、カンデラが決まります。
モデル名 | ルーメン | カンデラ | ルーメン/カンデラ |
---|---|---|---|
URBAN(HL-EL145) | 50 | 800 | 0.0625 |
GVOLT70(EL-EL551RC) | 260 | 7000 | 0.0371 |
ルーメンをカンデラで割ると配光の傾向が大体わかる |
上の表の右端列にルーメンをカンデラで割った数値を示しています。これが配光角度(正確には配光立体角度)に関連しています。この数値が小さいほど、配光範囲を狭くしていることになります。
というわけで、GVOLT70とアーバンを比較すると、アーバンの配光がGVOLT70よりも広いことがわかります。0.0625と0.0371ですからその比は1.68というわけで、この2つのライトには、照射面積で1.7倍程度の差がありそうだ、ということがわかります。
アーバンは、GVOLT70に対してルーメンで約1/5、カンデラで約1/9ですから、相対的にかなり控えめな光量にもかかわらず拡散して使うので、眩しくないライトであると言えます。街自体が夜でも明るい市街地用として使いやすそうなライトです。
さて、光束(ルーメン:Lumen)が同じでも、光束の拡散度合いでカンデラの値は変化しました。で、カンデラは単位立体角あたりの、光束の濃さ、というわけですが、日本語名は 『光度』 と呼ばれています。この『光度』はちょっと、ピンときませんよねぇ。
カンデラ → 光度 → 単位はcd
ルクス
光源から発した光が、照射対象の道路面や壁面に当たったときの明るさを数値化したもの、それがルクスである
これまでの「ルーメン」と「カンデラ」は、光源側、つまり
『照らす側の量』
でしたが、「ルクスは」、
『照らされる側の量』
である、という違いがあります。
で、ルクスは、ルーメンを照射面積で割った値です。照射された路面の明るさに関係する量です。斜めに照射すると照射される面積が増えますので、ルクス値も落ちます。
ルクス → 照度 → 単位はlx
配光について
VOLTシリーズの配光はなかなかに対向者泣かせです。
VOLT800の主配光は比較的狭く制御されていますが、副配光がかなり野放図に広がっていて、しかもこれが結構明るいときています。田舎の山道のように自分以外に人が現れないような状況では、この明るさは非常に有効なのですが、市街地では使い難い。
汎用性の高い18650型Liイオン電池を使った場合の極限コンパクト設計を狙ったであろう一連のVOLTシリーズは、その小さい光学口径故、深い放物反射面を形成することができず、配光に関しては半ば、放置状態になっていました。
しかし、長い歴史を持つCATEYEの歴代のライトを思い出せば、それはまさに、
『変身につぐ変身』
の歴史。これでもか!と言わんばかりに、次々と新しい配光制御パラダイムを創出し、
また変身かよ!
とユーザーを唸らせ続けてきたわけです。そこに現れたGVOLT70。
対向者に優しくなったこのライトを嚆矢として、配光を徹底制御したライトを世に問うてほしいなあ、と思うわけです。ついでに26650あたりのLiイオン電池を使って電池容量を一気に倍増して、光学径をもう少し大きくしたライトも出してほしいなあ。
参考までに、次のライトはGENTOSのGF-014RG。外径37.5mmで光学径も余裕があり、フォーカスコントロールまでついています。LEDと反射鏡の相対位置を変えて、円配光の範囲を制御することが可能です。いずれCATEYEはVOTL800クラスで、こういったベーシックな手法ではない、遥かに凝った自転車向け配光を創出することでしょう。(という希望的観測)
これからのカタログ表記に望むこと
四輪のヘッドライトには「道路運送車両法の保安基準」が定められており、配光設計に相応の注意が払われています。一方で、自転車用ライトでは、「夜間、前方10メートルの距離にある交通上の障害物を確認することができる」 といった、いかようにも解釈できるような規定しかありません。
四輪のヘッドライトの路面配光は、例えばこんな感じ。横軸が左右幅方向、縦軸が奥行き方向で、グラフ内に書かれた数値の単位はルクスで、路面の明るさです。
路面を照射する明るさ(ルクス)の分布は、左奥に伸びており、左奥には光が届きますが、対向車の眩惑を抑えるために右奥は届かないように配光制御されています。四輪のヘッドライトは小さい光源に対して反射鏡やレンズなどの光学サイズが大きいので、こんな風に精密な配光制御ができるんですねぇ。
上の図は、ロービームの事例として示しましたが、ロービームであっても左側は比較的、奥まで照射するわけです。つまり、右歩道をこちらに向かって走ってくる自転車は自動車ライトの光を強く受けることになります。
渋滞道路でクルマがズラリと並んでいたりすると、そりゃもう、光の洪水となるわけで、自分の足元すらよく見えない、などという事にもなりかねません。そういう意味からも、右歩道の夜間自転車走行は危険ということになります。
あ、もちろん、右側走行の国では、配光がこれとは逆になっています。輸入車として日本に入る外車はちゃんと日本向けに調整されていますが、並行輸入車には注意した方がいいかも。(脱線)
というわけで、自転車ライトでも、こういう配光図がカタログに載っていると、とても助かると思うわけです。例えば、
地上90センチの高さで、20度だけ下向きに設置した場合の路面配光図
とかとか。
次のような配光図でライトの配光特性を比較することができると、便利ですよねぇ。
メーカーの積極対応を期待します。
まとめ
ルーメンはライトから出てくる光の束の全量である。
カンデラはその光の束の使い方である。
これでライトの明るさの単位がわかった気になった!
注意
この記事では、ルーメンから話が始まっていますが、実は、照明単位系はカンデラが先に定義されます。わかりやすさに主眼をおいてルーメンから話を始めただけですので、そこはご了解ください!
また、ここまで読んで、ルーメンとかカンデラとか、何となくわかったような気がした、という方。これ以上詳しい話を調べたりすると、今度はわからなくなるかも知れませんよ!
実は、照明系の単位の定義はあまりわかりやすいとは言えません。単位時間当たりの光のエネルギー、つまりワットが、人間の眼の感度を反映したカンデラ、さらにルーメンと紐づけられるのですが、その紐づけ方も意外と面倒だったりします。マシンヴィジョンの視力から明るさを定義するとどうなるんだ、とか、いろいろ気になったりします。
いずれにしても、ライトから出てくる光の総量がルーメンで与えられ、これを絞って使えばカンデラが大きくなり、拡げて使えばカンデラが小さくなる。同様に、絞って使えばルクスは大きくなり、拡げて使えばルクスは小さくなる、ということで、おあとがよろしいようで。
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