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ASOがツール・ド・フランス2021の非公認動画をYouTubeから一掃 「ウィリー選手権」を開いた人気チャンネルからも動画が消える

ツール・ド・フランス2021を主催するASO (Amaury Sport Organisation) が7月14日、YouTube上にある「非公認(ライセンス許諾していない)ツール・ド・フランス2021動画」に対して一斉に削除申請を出し、海外で大きい話題になっています。

「動画を再生できません」のYouTubeメッセージ width=

単に「ツール・ド・フランスのテレビ放送を無断転載して収益化し、主催者の権利を侵害している」ようなコンテンツが対象であれば、こうしたことはYouTubeでは全く珍しくないのですが、今回は少し事情が違います。一体何が起こっているのでしょうか?

参考 ASO Blocks All of Tour de Tietema TDF Content – Reddit
参考 Tour de Tietema – YouTube

一般人が撮影したレース映像もASOに権利がある

今回最も大きい影響を受けたのはオランダの人気YouTubeチャンネル「Tour de Tietema」です。このチャンネルでは過去数年、ツール・ド・フランスやジロ・デ・イタリアに実際に足を運び、選手達との交流も交えつつエンターテイメント性の高いコンテンツを配信してきており、特に若年層から大きい支持を集めています。

今回のツールでも同チャンネルは第15ステージの最後の上り区間でコッソリと「ウィリー選手権」を開催。数人の選手がこれに応じ、クベカ・ネクストハッシュ所属のマキシミリアン・ヴァルシャイドが174メートルのウィリーを決めて「優勝」しました。下がその模様ですが、この動画は現在Tour de Tietemaチャンネルからは削除されています(下は有志によるミラーですが、これもいずれ消えるかも)。

この動画からもわかるように、これは本人達が独自に撮影・編集しているクリエイティブなコンテンツで、日本の法律では公道でのイベントを撮影したこのようなコンテンツに主催者が財産権を主張するのは難しいところがあります。東京オリンピックでも一般人が撮影した「聖火リレー」の映像をSNSにアップして良いかどうか、だいぶ前に話題になりましたよね。

日本では基本的に「公的空間」で何を撮影してどのように使用しても「基本的には」問題ありません。しかしその動画の中にプライバシーを侵害する内容があったり、「たまたま映り込んだ」以上の頻度で木村拓哉さんやミッキーマウスが映っていたり、その部分の比重が大きかったりすると肖像権や商標権の侵害になる場合があるなど、一概に判断できない難しい問題ではあります

しかしASOはツールの開催にあたり道路の使用権を自治体からレンタルしたり買い取っているため、レース開始前のキャラバンの移動からレース終了まで、その様子を撮影して公開するにはASOにライセンスフィーを支払う必要があるのだそうです(ツール開催時のコースがASOの私有地のような、日本の法律で言うと「施設管理権」が及ぶような領域になっているそうです)。

つまりASOによる今回の動画削除申請は、フランスの法律的には問題がなく、Tour de Tietemaは収益化しているチャンネルなのにASOにライセンスフィーを支払っていなかったのだから仕方ない、という声も聞かれます。

ASOとツール・ド・フランスの利益になるか

さて、今年のツール関連動画を削除されたTour de Tietemaは現時点で登録者数が10.8万人。過去1年の動画の再生回数は、ざっと見たところ平均で10〜15万回。この「登録者数vs.再生回数」の比率は相当に優秀な数字で、視聴者が「観たい」と思わせるエンゲージングな動画を出している証拠とも言えるでしょう。

Tour de TietamaとTour de France公式チャンネルの画面

一方、ASOが運用するYouTubeの「Tour de France公式チャンネル」は登録者数こそ38.1万人もいるものの、動画再生回数は数百〜数千。これは残念ながら「権威と知名度はあるものの魅力的なコンテンツを作れていない」チャンネルの典型例と言えます。

Tour de Tietemaはサイクルロードレースの面白さ・魅力を若い人に伝えるチャンネルとして非常に人気があり、こうしたチャンネルの動画を削除してもASOにメリットはないのではないか、という声が聞かれます。

▼ 選手達にも人気のTour de Tietema。アルペシン・フェニックス公式Twitterアカウントが「ウィリー・コンテストにはまだ参加できるかな?」と投稿

以下は海外掲示板Redditでの反応です。

  • 皮肉なことは、ツール・ド・フランスの公式TwitterアカウントがTour de Tietemaの画像や動画を複数の投稿で使っていたことだ。ウィリー・コンテストについても投稿していたよ
  • 若いオーディエンスにリーチする方法を知らず、デジタル・プラットフォームで有益なことを行う能力のない組織がこれをやるのは信じられないほど滑稽だ
  • Tour de Tietemaは文字通りASOのために働いている。レースについてのオルタナティブ・コンテンツを作って若い視聴者を引っ張ってきていたのに、ASOは恐らくレースの一部を撮影したという理由でブロックしてしまった
  • ASOはパイを大きく取ろうとしたつもりで、少しづつパイを小さくしていることに気付いていない。これで得られるものはゼロか、巨大な何かのほんの少しのパーセンテージにすぎない

しかし今回の動画一斉削除については、ASOが作業を依頼した外部の会社が機械的に削除申請を出してしまったのではないか、という声もあります。ASOとTour de Tietemaはツールのプロモーションについてある程度良好な関係を持っていたようにも見えるので、動画が復活する可能性もありそうです。

Tour de TietemaはInstagramTwitterで今回の動画削除について報告し、現在ASOと何らかの交渉を行っている模様です。

追記:ASOとの交渉は決裂

Tour de Tietemaの運営者、Bas Tietema氏がTwitterでその後のASOとの話し合いの結果について報告しています。

残念ながら前向きなお知らせはできません。私達の今年のツール動画は未だASOにブロックされたままです。私達は昨日から問題解決のために全力で動いていました。

私達はASOと電話で話しましたが、ASOはレースの映像権規則の侵害をYouTubeに申請したそうです。ASOはこの問題を何らかの方法で解決できる可能性は全くないとしているため、私達がレース中に撮影したフッテージを含む動画は今後も復活することはないことを意味します。

私達はASOの規則を尊重しますし、私達の唯一の意図は伝統的なレースレポートの外側でストーリーを伝える動画を制作するというものでした。

ASOは連絡なしに動画をブロックしたことや、レース映像を含まない動画も誤ってブロックしたことについて謝罪しました。後者の動画はまた見られるようになります。さらに、ASOと私達が将来どのように協業していけるか、話し合いできる可能性が示唆されました。私達はこれに感謝しています。

サポートして下さった皆様に感謝します。これまでのツール動画を復活させることができず、ツールの残りについても新しい動画を撮影できないことを申し訳なく思います。

ASOとの交渉は決裂したようです。Tour de Tietemaの今年のツール動画のいくつかには公式レース映像も若干含まれているものがあったらしく、それがトリガーになったのではないかという話もあります。

ちなみにYouTubeで人気のロードレース・チャンネル、Lantern RougeはASOの公式映像を使用した解説動画をアップしていますが、彼はライセンスフィーを支払っているんですね。ASOとしては公平を期すために今回の措置はやむなし、といったところかもしれません。

それでも「突然動画の削除申請をするのではなく、事前に警告したり、ライセンスフィーの支払いを促したりすることはできなかったのか。しかもASOはTwitterでTour de Tietemaの仕事を使用してツールの宣伝をしたこともあったのだから、全くフェアではない」という意見が多く見られます。

確かにASOはもう少しやりようがあったように思えます。今回の件でASOは損をすることはあっても、得はしないでしょう。

しかし唯一救いがあるとしたら、今回の件でTour de Tietemaの知名度がさらに高まったことです。チャンネル登録者も増えるでしょうし、ASOとの対話のテーブルに付くことができれば、今後はさらにおもしろい動画を作れるようになるかもしれません(来年以降、ですが…)。

著者
マスター

2007年開設の自転車レビューサイトCBNのウェブマスターとして累計22,000件のユーザー投稿に目を通す。CBN Blogの企画立案・編集・校正を担当するかたわら日々のニュース・製品レビュー・エディトリアル記事を執筆。シングルスピード・グラベルロード・ブロンプトン・エアロロード・クロモリロードに乗る雑食系自転車乗り。

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