先日、下の記事で台湾Taya社によるチェーン新製品、Onze EVO-Lightを紹介しました。ローラーレスチェーンとして話題になりましたが、果たしてこれは本当に良いものなのか。ローラーがないことによるメリットとデメリットはどんなものなのか。
CyclingTipsがこの疑問をCeramicSpeedの研究開発部門のトップ、Jason Smith氏に問い質しています。長い記事なので、その中で個人的に要点と思われた部分をピックアップしてご紹介します。
出典 Sorry Taya, your new rollerless chain isn’t an innovation – CyclingTips
ローラーには摩耗を肩代わりする役割がある
- Tayaは同社のローラーレスチェーンは重量を削減でき、より静かに駆動し、より長持ちで、より効率的と言っている。これらのうちいくつかは本当かもしれないが、実際のところTayaのこの新製品はエンジニアリングの歴史における誤った退行だ
- ローラーレスチェーンは新しいものではない。1800年代後半までそれらは主流のものであり、その後ローラーチェーンが取って代わった。システムの摩耗耐性に大きいメリットがあったからだ。ローラーレスチェーンは今日でもエレベーターやホイストといったハイテンションのシステムで見られるが、それ以外の分野ではローラーチェーンが席巻している
- チェーンが伸びるのはピンが摩耗し、インナープレートホールの内径が摩耗するからだ。ローラーは摩耗ポイントとしても機能している
- ローラーの摩耗はチェーンとコグの嵌合に影響する。Tayaが、同社のローラーレスチェーンの耐久性がより高いと主張するのはまさにこのためだ(=ローラーがないから)
- CeramicSpeedの研究開発部門のトップ、Jason Smithは言う。「ローラーは伸びたチェーンのリンクが歯のトラフ(=チェーンリングやコグの凹んだ部分)に『転がり入る』ことを可能にする。出る時も同じで、ローラーがあることでチェーンは「スライドアウト(=滑りながら外に出る)」というより「ロールアウト(=転がりながら外に出る)」できるようになる
- ローラーには2つ目の目的があり、それは新品であれ、古いものであれ、ピッチが完璧でも伸びていても超重要な役割を果たす。Shimano Dura-AceやSRAMのような一流製品、あるいは他のどんなモダンなチェーンでもローラーについては同じだが、ローラーのショルダーの内径が一般的なかみ合わせ(=articulation)から起こる摩耗を肩代わりしてくれるのだ。ローラーがなければ、摩耗は歯面で起こることになる
- ローラーの内側の面は歯の表面を救うための犠牲的な摩耗面として機能するわけだ
- 「Tayaのローラーレスチェーンは、インナープレートのショルダーと歯の表面のあいだに直接的な摩耗インターフェースを生み出してしまう。この場合、摩耗はリンクのかみ合わせごとに発生する(インナーリンクが入ったり出るたびに)」とSmith氏は語る。「歯が摩耗インターフェースになるため、歯は1つおきに回転摩耗に晒される。1xセットアップでチェーンリングやカセットのコグの歯数が偶数なら、1歯おきに摩耗が出ることになるだろう
- Smith氏はまた、このローラーレスチェーンはほぼ間違いなくローラーチェーンに比べて駆動系の摩擦が高くなるだろうと仮定している
- Tayaのローラーレスチェーンがローラーチェーンよりも静かであることは十分にありうるが、ノイズは摩耗や効率性とは相関関係にない
- ローラーがないことによる重量面でのメリットはあるが、それでも11sのOnzeは116リンクの潤滑済みチェーンで248gであり、Shimano Dura-Ace HG-901 (251g)や KMC X11SL DLC (242g)に比べると大きい差はない
- ローラーレスチェーンの最大のメリットは、Tayaが語っていないことだろう。つまり製造コストだ。「潤滑剤貯蔵庫」のあるこれらのインナーリンクは他のチェーンに比べて必ずしも成形がより難しいものではない。ローラーがなければローラーを作らなくて済む。チェーンの自動組立過程もよりシンプルで速くなりうる
- 「このチェーンは退行だ」とSmith氏は言う。「ローラーレスチェーンがまず最初に発明された。その後に摩耗の問題が確認された。そこで歯の摩耗を軽減するためにローラーが発明されたんだ。ローラーは大きい問題をシンプルに解決するための偉大な発明だったんだ。Tayaの人々は150年前からの物理学上の問題が魔法のように消えてしまったと考えているのかもしれないね」
これを読む限り、Tayaのローラーレスチェーンはそれ自体の摩耗が少ないとしても、かわりにチェーンリングやコグの歯がダメージを受けるだろう、という説明は説得力が高いように思えましたが、皆さんはどう思われたでしょうか。
また重量面を見ても、伝統的なローラーチェーンであるDura-Ace HG-901と比べてもわずか3gであることを考えると大きいメリットとは思えない感じです。
駆動系のフリクションも増えるだろう、という仮設の根拠は、「スライディング・インターフェース」(滑りながら接触する面)が歯の表面に来ること、その半径(radius)はより大きくなること、半径が大きくなければスライディング・インターフェースはチェーンと歯が噛み合うたびの移動量が大きくなるからだ、とされています(このあたりの詳細は元記事をご覧下さい)。
こうなるとTaya社からの反論を是非知りたいところですが、Taya社の広報担当者はCyclingtipsに対してローラーレスチェーンの効率性に関するデータは提供できなかったそうです。
果たしてこのローラーレスチェーン、実は製造コストを削減することが目的のガッカリ製品なのか。それとも革新的な自転車チェーンなのか。どちらを信じるかはあなた次第です!