タイヤ・チューブ

タイヤシステムの違いを理解する クリンチャー・チューブラー・チューブレス・チューブレスレディ

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スポーツサイクルで使用されているタイヤには、形状や構造、リムへの装着方法が大きく異なる複数の規格が存在しています。本記事では現在主流となっている4つのタイヤシステムについて解説していきます。

なおタイヤのサイズや素材、スポーツサイクルではほとんど用いられていないエアレスタイヤの話題は除外します。

クリンチャー

一般的に「クリンチャー」と呼ばれるタイヤは、タイヤの端っこの「ビード」と呼ばれる部分を、ホイールのリムの端っこにひっかけるタイプのものを言います。

クリンチャー(clincher)は英語の”clinch”に由来した言葉です。これは「突き出たものの先端を曲げたり、その部分で固定する」という意味があります。

ボクシングのような格闘技では、両腕を相手にまわして抱きつく「クリンチ」という技がありますが、あれも「クリンチャー」と同じ語源です。

この大きい構造を「クリンチャー」と呼びます。そしてこの「クリンチャー」構造を利用したタイヤシステムには、以下の2つがあります。

チューブド・クリンチャー

クリンチャータイヤの内側にインナーチューブを挿入するもの。「チューブが入っている=チューブ化された」という意味で、「チューブド(tubed)・クリンチャー」とも呼ばれます。一般的に世の中で単に「クリンチャー」というときは、このタイプのタイヤ及びタイヤシステムを意味します。

クリンチャータイヤの構造

Original illustration by Deerwood, remixed by cbn under CC BY-SA 3.0

上の図は、クリンチャータイヤシステム(チューブ入り)の構造です。

タイヤの「ビードコア」と呼ばれる部分は、鉄線だったりケブラーと呼ばれる素材だったりしますが、高級タイヤはケブラーが多いです(折りたたんだ状態で箱に入っているようなタイヤはケブラー)。ビードコアを包んでいる部分を「ビード」といい、この部分がリムにひっかかります。

このようにインナーチューブを入れる場合、リムの内側にスポーク穴が露出していてはいけないので、穴を覆い隠すリムテープが必要になります(またはスポーク穴がリム側に露出していないホイールを使う必要があります)。

チューブド・クリンチャーのメリット・デメリット

メリット

この「チューブド・クリンチャー」あるいは単に「クリンチャー」と呼ばれるシステムは、現在の自転車界全般で最も普及しているものです。スポーツ自転車の世界でも、プロロードレースの世界以外では最も普及率が高いです。

その最大の理由は「パンク修理がいちばん簡単で、しかも安価だから」ということに尽きると思います。これが最大のメリット。

タイヤがパンクしたら、インナーチューブのパンク穴をふさぐなり、チューブをまるごと交換するなりして、短時間での復旧が可能なことが多い。つまり運用がラクなシステムなのです。タイヤ自体も他のシステムより安価です。

デメリット

では性能面はどうでしょうか。まず内側のインナーチューブのぶん、足回り全体の重量が重くなります。さらに走行中、インナーチューブとタイヤの内側で常に摩擦が発生しています。これは走行抵抗につながり(これを摺動抵抗と言います)、他のタイヤシステムに比べると乗り心地が劣るとされています。

もうひとつのデメリットは、パンクした時にインナーチューブが急激に大きく裂けてしまうことがあり、そこから瞬時に大量の空気が抜けてしまいます。一気に空気圧を失ったタイヤのビードが、高速走行中にリムから外れてしまったら大変危険です。

このような理由もあり、プロロードレースでクリンチャーシステムが用いられることはほとんどありません。なぜならロードレース中はパンクしてもサポートカーが積んできたホイールごと、あるいは自転車ごと交換してしまえば良いので、クリンチャーの運用面でのメリットは不要です。性能面でも、安全性の面でも、他のタイヤシステムに劣ります。

しかし一般のスポーツ自転車愛好家にとって、このクリンチャー(チューブド・クリンチャー)というシステムは、現在のところ「非常に良い落としどころ」になっていて、根強く支持されているというわけです。

クリンチャー・チューブレス

タイヤの端っこの「ビード」と呼ばれる部分を、ホイールのリムの端っこにひっかける「クリンチャー」構造を採用しているタイヤシステムには、もうひとつあります。それは「チューブレス」です。

現在、「チューブレス」と呼ばれているタイヤシステムには、「チューブレス」と「チューブレス・レディ」の2種類が存在しますが、どちらもタイヤとリムとの嵌合(はめあわせ)面は「クリンチャー構造」です。

しかし「チューブレス」システムは、クリンチャーとほぼ同義語の「チューブド・クリンチャー」にはあるインナーチューブが存在しないため、独立した別のタイヤシステムとして世間的には認知されています。よってこの記事でも、チューブレス系システムについては後半で別システムとして紹介します。

チューブラー

チューブラーと呼ばれるタイヤシステムです。”Tubular”とは「チューブ状の、管状の」という意味で、タイヤ全体が裂け目のない1本のチューブのような形状をしています。内側に、エアを保持するインナーチューブを内包しています。下は代表的なチューブラータイヤのひとつ、コンチネンタル社のコンペティションという製品です。

ホースとかウナギみたいな形状です。ふくらんだインナーチューブがどこまでも大きくならないよう、布や合成繊維でできた伸縮性のないケーシングでつつまれ、タイヤのトレッド面(道に接触する面)に弾力性のあるゴムを貼り付けたような構造です。

ホイール(リム)への取り付けは、「接着剤による接着」という、簡易かつ原始的な方法で行われます。この接着方法には2つあり、1つはリムセメントといって、リムに刷毛でセメントを塗る方法、もう1つはチューブラーシステム専用の両面テープをリムに巻く方法があります。

チューブラーのメリット・デメリット

メリット

チューブラーシステムはタイヤの構造自体がクリンチャータイプよりもシンプルです。また、ホイールへのタイヤの脱着も、慣れや体力が必要になるケースはあるにしても「貼るだけ」というシンプルなものです。

特に高級なチューブラータイヤであればタイヤの真円度も高く、いわゆる「センター出し」という作業をほぼ行う必要がない場合さえあります。

そしてインナーチューブとケーシングとのあいだの摩擦がクリンチャー(チューブド)よりも少ないことから、より良い乗り心地を得られます。インナーチューブがリムに「噛まれる」こともないため、急激にタイヤが大きく変形する際に発生する「リム打ちパンク」のリスクも減ります。

もともとパンクしても急激に空気圧が低下しないシステムであることに加え、さらにシーラントを入れて運用されることも多いためパンクはとてもしづらいです。総合性能が非常に高いシステムです。

デメリット

しかしチューブラータイヤは運用面でクリンチャー(チューブド)に劣るという意見が一般的です。非常に手慣れた方であれば、パンク時の復旧はチューブラーのほうがむしろクリンチャーより早い、ということもあるようですが、タイヤとリムが様々な条件でかなり強く接着される場合があり、はがすのが難しい場合があります。

またチューブラータイヤは事実上「使い捨て」のシステムであり、パンクしたらタイヤごと新品に交換する必要があります。そのためサイクリング時には予備のタイヤを携行する必要があります。かさばります。

予備タイヤを1本だけ持っていく場合、パンクできるのは1回だけです。このためロングライドでは少し心配です。

チューブラータイヤには安価な製品もありますが、一般的にはクリンチャータイヤよりも高価です。そのため使用開始直後なのに運悪く釘などを踏んでしまい、シーラントでもふさげないような穴ができてしまったら、基本的にそのタイヤはそこで終了です。

あまりパンクしないものの、パンクしたら即終了、というところがあるので、コストパフォーマンスが良いのか悪いのかなかなかよくわからないタイヤでもあります。

それでもチューブラーがプロロードレースで主流である理由

それでもプロロードレースの世界では現在でもチューブラータイヤが支配的です。その理由は、上であげたような運用面・コスト面でのデメリットはレース中には全く問題にならないからです。レース中のパンクは、サポートカーがホイールまたは自転車の交換で対応します。

サポートカー

また高速で走行するレースでは、パンク時のタイヤの挙動も非常に大事です。チューブラータイヤはパンクしても急激にエアが抜けにくいだけでなく、タイヤが接着剤でリムに密着しているので、エアを失ってもクリンチャーのように外れてしまうことがありません。

このようにタイヤとしての総合性能と安全性の面でのメリットが非常に大きいので、レースの世界ではチューブラーが主流となっています。

チューブレスとチューブレスレディ

今度はチューブレス系です。現在「チューブレス」という言葉が、2つの異なるシステムに対して使われることがあります。ややこしいのですが、片方が「チューブレス」でもう片方が「チューブレスレディ」です。

どちらもクリンチャーの項目で解説したように、リムとの嵌合(かんごう)方式では広義のクリンチャーシステムですが、独立したインナーチューブを使用しない点が異なっています。

チューブレス

チューブレスタイヤは、タイヤの内側にインナーチューブに相当するエア保持層が貼りつけられています。これがあることによって、タイヤ側の気密性が保たれます。

チューブレスタイヤ・ホイールの構造

Original illustration by Deerwood, remixed by cbn under CC BY-SA 3.0

一方「チューブレスホイール」はリム面にスポーク穴が露出していません。このためリム側から空気が漏れるということがなくなります。そしてビードが外れにくくなるよう、嵌合面がせりあがっています(この部分を「ハンプ」と呼ぶ)。

チューブレスのメリット・デメリット

図からもわかるように、チューブドのクリンチャーよりもシンプルなシステムです。またパンクした時は、タイヤの内側にパッチを貼って修理することも、インナーチューブをつっこんでチューブド・クリンチャーのように使うこともできます。

タイヤの総合性能は、原理的にはクリンチャーを超え、チューブラーに匹敵、またはそれを超えうるポテンシャルも持っています。インナーチューブとケーシング間の摩擦もなく、乗り心地が良く、低圧で運用してもパンクのリスクが少ない。転がり抵抗も軽減される。パンク時のエア漏れもクリンチャーのようなバーストになることは少ない。

一方でタイヤの脱着が簡単でないケースがあります。これはタイヤとホイールとの組み合わせによって大きく変わります。なんでもない組み合わせもあれば、絶対にはめられない組み合わせもあると聞きます。

チューブレスレディー

チューブレスレディーの「レディー」(ready)は「準備ができている・対応することができる」という意味。つまり本来的には完全なチューブレスではないものの、チューブレスのようにできる、ということです。

チューブレスレディタイヤ・ホイールの構造

Original illustration by Deerwood, remixed by cbn under CC BY-SA 3.0

チューブレスレディータイヤの内側には、チューブレスタイヤのようなエア保持層がありません。そのためタイヤの内側にシーラントという液体で膜を貼る必要がでてきます。

またチューブレスレディホイールは、リム面にスポーク穴が露出しています。ここは当然ふさがないと空気が漏れるので、チューブレステープという専用のリムテープを貼る必要がでてきます。

チューブレスレディーのメリット・デメリット

チューブレスレディーのメリットはチューブレスのそれに準じますが、シーラントを使用するため、パンクのリスクをさらに軽減させられるという点があります。パンクのリスクはチューブラータイヤなみに低くなると言えます。

チューブレスレディーのデメリットもチューブレスのそれに準じますが、これらにシーラントの扱いの難しさが加わります。

シーラントの品質や注入方法、注入量によってタイヤの性能に影響が出るという性能面での懸念はもちろん、初心者はシーラントを入れるのが難しかったり、パンク時やタイヤ交換時に液体が飛び散らないよう気を使うところがあります。

それでも最近はこのチューブレスレディー・システムの人気が高まってきています。

チューブレスとチューブレスレディの組み合わせについて

タイヤ側にチューブレスとチューブレスレディがあるだけでなく、ホイール側にもチューブレスとチューブレスレディがあります。これらはいずれもどのような組み合わせで使うことも可能ですが、どんな組み合わせでシーラントが必要になるのか、あるいはリムテープが必要になるのかは、論理的に考えればすぐにわかります。

リムに穴があればチューブレステープが必要になり、タイヤの内側にエア保持層がないタイヤ、つまりチューブレスレディタイヤであればシーラントが必要になります。

と、ここまでは原則的な話。チューブレスタイヤでもメーカーがシーラントの使用を「推奨」する製品もあります。このあたりは、基本的にメーカーの指示に従うのが良いでしょう。

最後に

最後にここで1冊の本をご紹介します。月刊サイクルスポーツの2月号です。

この本のp.74から、自転車ジャーナリスト安井行生氏による「チューブレスタイヤ運用術」という特集記事があります。

このセクションは現在のチューブレス(レディ)タイヤ・チューブレス(レディ)ホイールの概況や、そもそもチューブレスとはどういうシステムかについての非常に詳細な内容となっており、大変参考になります。

本記事の執筆にあたっても「チューブレスタイヤ運用術」を参考にさせていただきました。資料的な価値も非常に高く、おすすめです。これからチューブレスを試してみたい方は是非読んでみてください。

著者
マスター

2007年開設の自転車レビューサイトCBNのウェブマスターとして累計22,000件のユーザー投稿に目を通す。CBN Blogの企画立案・編集・校正を担当するかたわら日々のニュース・製品レビュー・エディトリアル記事を執筆。シングルスピード・グラベルロード・ブロンプトン・エアロロード・クロモリロードに乗る雑食系自転車乗り。

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