俗に「接着式」と呼ばれる、現代のモノコックフレームとは異なるラグ接合式カーボンフレームが存在します。かつては先進的だと持て囃されたラグ接合バイクも、いまや作っているメーカーは片手で数えられるほど。
今回は、そんな接着式カーボンフレームのひとつ、LOOK KG481について触れていきます。
ラグ式フレームとは
自転車界にカーボンという素材がフレームの材料として持ち込まれ始めた頃、フレームは現在のようなモノコック構造ではなく、水道管の継手のような「ラグ」と呼ばれる金属製のパーツでカーボン製チューブを繋ぎ合わせる方法で製造されていました。
中でも有名だったのが「TVT」と「Vitus」の2大フランスメーカーで、前者はLOOKとTIMEの前身として有名です。
LOOKもTIMEも、フレームチューブの製法に違いはあれど、かつてのTVTの面影を残していると言えるでしょう。
LOOKが初めて作ったフルカーボン製フレームは1988年モデルのKG96ですが、これはアルミラグ接合式のカーボンチューブでした。パイプさえカーボン製であれば「フルカーボン」を名乗っても良い、という風潮が当時はあったのです。
Vitusは「ヴィチュー」と読みます。現在、Wiggleの傘下に「Vitus(ヴィータス)」という自転車メーカーがありますが、こちらは名前だけを引き継いだ全く別のブランドで、ヴィータスのバイクにヴィチュー要素は特にありません。
あとはイタリアの「ALAN」でしょうか。LOOKやTIMEほどの知名度は無いものの、かつてはCOLNAGOのシクロクロスフレームなどを代理で生産したりしていました。
LOOKは名車586を出すまでの間、モノコックフレームの製造にはそれほど長けていませんでした(LOOK社内の強度検査が厳しすぎただけかもしれませんが)。例えばKG481(アルミラグ)とKG486(モノコック)では486のほうが100g以上も重たく、その後の世代のフラッグシップモデルは585と595で、これらはいずれもカーボンラグ接合です。
ラグ式カーボンの草創期のフレームは、長期的にストレスを掛け続けるとチューブとラグの接合が外れるという欠点がありました。
つい先日も、とあるフォロワーさんのヴィチューのシートチューブが抜けてしまったのを写真で見かけたばかりです。
もちろんメーカー側がこんな欠陥を放置するはずもなく、接合方法の変更などもあり、後の世代のフレームではチューブのすっぽ抜け事例は激減していきました。
という事はですよ、LOOKが作った最後のアルミラグ式フレームであるKG481は、事実上アルミラグのバイクの中では最もチューブが抜けにくい車体になるのでは?というのが、僕が未だにこんな前時代的なロードバイクに乗り続ける理由のひとつです。
実際、KG381やKG481に現役で乗っておられる方は何人か知っていますが、塗装が割れたりしても経年使用で抜けてきた話は聞いた事がありません。
あとは、単純なルックスの好みですね。
シンプルなホリゾンタルフレームが大好きなので、これがもしスローピングフレームであれば今ほどの愛着は湧いていなかった…のかもしれません。
LOOKの法則性
LOOKのロードバイクの名前(3桁の数字で表す)には法則性があったのをご存じでしょうか?
現代のLOOKでは、
- 百の位が7ならロード、8ならトラック、9ならMTB
- 下2桁が65はエンデュランス、85は山岳用、95はエアロ
という法則がありますが、これは昔のLOOKとは特に関係がないものです。
2005年デビューの585より前のバイク、486や481、451など百の位が4以下のロードバイクは、3桁の数の前に「KG」「AL」「TI」など2文字のアルファベットが付いていて2004年以前のモデルか2005年以降のモデルかが一目で判別可能になっています。
2004年以前のLOOKのフレームの3桁数字を、1つずつ分解してみます。
まずは一の位。これは、フレームチューブの材質と構造を1~6の数字で表します。
- 1→アルミラグ+カーボンチューブ
- 2→チタン
- 3→クロモリ鋼
- 4→アルミ
- 6→フルカーボン(モノコック構造)
5が欠番になっていますが、こうなっています。
ちなみに2が使われたのは、TI292とTI282の2つだけでした。
3のクロモリに関しては、当時のLOOKはコロンバスのチューブを主に使用していました。
現在のLOOKはタンゲなどを使っているようです。
十の位には2~8の数字が使われ、数字が大きいものほどグレードが高くなります。
プロ選手に供給される(フラッグシップ)モデルは8という事ですね。
9を使わないのは、
「下2桁が96のフレームはカーボンモノコックのトラックレーサーないしTTバイク」
という法則性があるため空けてあるのです。
百の位は年代です。
数字が小さいものは、年代も若いという事です。
これらの法則性を把握した上で 旧LOOKの番号を見ると、それがどのようなバイクなのかが一瞬で分かります。例えば、
- KG386はカーボンモノコックフレームのトップグレードの3世代目
- TI292はチタンフレームのトップグレード
- KG243はクロモリパイプの中堅グレード
- KG171はアルミラグ+カーボンチューブのセカンドグレードの1世代目
などといった具合です。
百の位が1や2の世代に関しては、このような法則が確立されたばかりの頃だったのでKG191はモノコックフレーム(しかも十の位が9)、KG156はアルミラグ接合、などなど例外もたくさんあります。
金属フレームは2が初代のものもちらほら存在しました。
そして、KG481。
アルミラグ+カーボンチューブのトップグレードで4世代目、という事がすぐに分かります。
「KG」の文字が印字されていないのは、このフレームが2005年モデルである事と関係があります。
2005年は、585のデビュー年なのです。
「585は今までのLOOKとは違うんだ!」という主張のためでしょうか、585以降のLOOKフレームは頭にKGやTIやALを付けるのもやめていきました。
「一の位が5→カーボンラグ」という法則を追加すれば別に外れている訳でもないのですが、フレームのジオメトリーが585からは激変したので、やはり別物にはなっています。
KG481は2005年までは販売していたので、カタログ上での整合性を取るために481表記に改められました。
このモデル、2004年にKG381iからモデルチェンジしてデビューしたものが翌年には585に取って代わられた、2年限りの短命なロードバイクだったのです。
KG 481のココがイイ!&ココがダメ!
LOOKを語る上で絶対に欠かせないのが、フロントフォークの話です。
KG481SLのフレーム重量は1,300~1,400gほどあり、現代のカーボンモノコックフレームとは比べ物にならないほど重たいのですが、フロントフォークはコラムカット前の重量がなんと295gしかありません。
このフォークはそこから更にコラムを切り詰めた結果、実測で267g!という驚異の軽さを実現しました。
加えて、軽いだけではなく平地で40km/h以上でダンシングしても、峠の下りで飛ばし気味に曲がっても、思い切りブレーキを掛けたって弱さを感じないくらいには硬いのが凄いところ。
しかもこのフォーク、爪の先もコラムもフルカーボン、果てはヘッドベアリングの下玉受けまでカーボンで一体成型するという、あまりに時代を先取りし過ぎた先進的なフォークだったのです。
しかし、このフォークには一つ、どうしようもない欠点がありまして・・・
フォークオフセットが43mmと非常に短く、低速域でハンドルを切るとシューズの先端とフロントタイヤが干渉します。
LOOKはフロントフォークのオフセットが45mm以上のものを用意しないという悪癖が昔からあり、この傾向は765や795が登場する年まで改善されませんでした。
KG251などの廉価グレード車にはオフセット50mmのフォークが付いていたりしたので、何故それを上のグレードに反映させなかったのかは不明です。
フフフ…Zefalのフレームポンプがこれ程までに似合うカーボンフレームはなかなか無いでしょう。
それはさておき、KG481のシート角は72.5°に設定されていて、サドル後退幅がガッツリ稼げるのが特徴です。
今のセッティングでは、オフセット0mmのシートポストでありながら後退幅は50mm取ってあり、中・長距離において絶妙なポジションが得られます。
今日のロードバイクでシート角が73°を割っているフレームはまずありません。
ジャスト73°で良いなら、サーヴェロのロードフレームはだいたい該当します。
ホリゾンタルフレームならBMCですね。
サーヴェロのほうがフォークの設計は優れているのですが、BBrightという独自規格BBがキャノンデールばりに鬱陶しいのが玉にキズです。
肝心の乗った感じですが、さすがにゼロ加速では微かなもたつきがあります。
横剛性やBBまわりのねじれ耐性も今どきのフレームには劣りますが、足回りを高剛性なホイールが支えてくれているので中~高速域の感触も悪くないですし、登坂も軽快です。
ヘッドチューブは上下同径ではあるものの、フォーク剛性が高いのでブレーキングやダンシングでよれる感じはしません。
ただ、僕の体重がそもそも56kgしか無いので、これにもっとパワーのあるライダーが跨れば頼りなさを感じるとは思います。
段差や舗装の継ぎ目を踏んだ時の突き上げは、しっかりといなしてくれているのが分かります。ここは流石ですね。パリ・ルーベに使用されるだけの事はあります。
481に限った事でもないですが、LOOKはシートチューブ側のボトルケージ位置がヘンです。
普通のボトルケージをポン付けすると、2つのケージが異様に上に寄って取り付く事になり大変カッコ悪いので、パタオ74など調整範囲の広いボトルケージの出番です。
が、残念ながら481のボトルケージ位置はそんな小手先の微調整で何とかなるものではなく、BBとボトルケージとの隙間を埋めつつダブルボトル化するのは無理だという事が判明したため、パタオ74をダウンチューブに取り付けボトル位置を限界まで下に下げています。
フレームポンプでシートチューブ側のボトルケージ穴を潰しつつシングルボトルで運用しているのは、そういう意味もあります。
仕様の変遷
我が家の481は、幾度かの仕様変更を経て現在のスタイルに落ち着きました。
最初期。ホイールはゾンダ、コンポーネントはスラムRED 10速の2012年モデル。
組みつけに必要なパーツが足りず、ブレーキとクランクセットをもう1台のロードから拝借していました。
カーボンホイールに交換。これ以降はしばらくチューブラータイヤで運用します。
クランクをFC-6700に替えたのですが、これが失敗だった!
スラムのフロントメカとシマノの6700クランクは絶望的なまでに相性が悪く、アウター×トップかインナー×ローのどちらかで音鳴りが起こります。
草津温泉での1枚。この時フォロワーさんに見せていただいたeTrexがきっかけで、GPSコンピュータが欲しくなったのです。
1日の獲得標高は2,000mを超えていましたが、こんなときに限ってサドルのチョイスを間違えてしまい地獄を見ました。
将軍塚の展望台より。前輪をアルミリムの手組ホイールに変更。下りでのブレーキングに気を遣わなくていいのは気持ち良いです。
きゅうり!
↑夕飯の席で誤って酒を飲んでしまい、自転車を押しながら一人さびしく帰った日の写真
コンポをカンパニョーロ11速に変更、クランクもウルトラトルクにしたので変速調整がバッチリ決まりました。
フリーボディの都合でホイールをゾンダにしています。
洗車中…
BBBのフルラップフェンダーを取り付けてみました。
最近は使ったり使わなかったりです。
後輪がボーラワンに。前輪は前回と同じリムで新しく組み増しました。
ただ、ホイールよりステムを交換した事のほうが個人的にはインパクト大でした。
そして現在。
とある方に譲っていただいたキシリウムESに履き替え、ひとまずの完成形です。
こんな感じで、1台の自転車に対して色々なパターンを模索していくのが好きだったりします。
これでも試行回数としては少なめで、もう1台のロードバイクはコンポの載せ替えだけでも2年間で5回は行っていました。恐ろしや。
*ぬまのなかにいる*って、こういう状況を言うんですね。
スペックリスト
執筆時点での大まかなスペックです。
ペダルとホイールはたまに変更します。
- フレーム:KG481 PRO MAX SL / HM Carbon
- フォーク:HSC5SL
- コンポーネント:カンパニョーロ11速
- ハンドル:シマノPRO PLTエルゴ C-C380mm
- サドル:ASTVTE STARLINE VT
- シートポスト:BBB Skyscraper Φ25.0mm
- ホイール:MAVIC KSYRIUM ES / カンパニョーロ BORA ONE 35
- タイヤ:Vittoria CORSA EVO Tech 23C / Continental Sprinter 22C
- ペダル:LOOK KEO SPRINT
推定重量:ペダル込み7.3kg
後輪は、クリアランスが狭すぎて23Cのタイヤが限界です。
○81系フレームは可変式リヤエンドを採用しているので、後輪の取り付け位置を後ろにずらせば一応は25Cが使えますがそうまでして25Cを使う気もないですし、何よりエンド固定ボルトが固着しているので無理です。
エルゴパワーは当然11速のものですが、11速ウルトラシフトのレコードのブラケット体にヴェローチェのブレーキレバーを移植して使っています。
ブラケットは左右セットで24,000円くらいなので、11速のエルゴパワーを丸ごと買うより遥かにお得です。
シマノのコンポを使わない理由をたまに訊かれますが、ブレーキレバーが重たいからです。現行デュラエースのST-R9100は380gくらいありますが、これはヴェローチェの10速エルゴパワー(しかもアルミ製)より重たいです。
加えて、シマノのFD-7900以降のフロントメカはフレームにかかるストレスが尋常ではなく、こんな古い設計のフレームが耐えられるとも思えないのです。
スラムも悪くないのですが、性能うんぬん以前にスモールパーツの入手性が極端に悪い点がネックになり、使用をやめました。
最後に
アルミラグのカーボンフレームは、技術的にも性能面でもとっくに廃れた存在ではあるものの、後の世代のものは10年でも20年でも乗り続ける事が可能です。
僕はというと、フレームが潰れるまではコイツと付き合っていくつもりです。
ぼろぼろになるまで乗りこむのも趣があって良いですし、思い切って再塗装してあげるのもまた一興。
エアロ?ディスクブレーキ?知らんな。
俺には481さえあれば十分だ。