ついに正式発表されたCannondale CAAD13。人気の高い孤高のアルミロードCAADシリーズの最新作とあって注目度が高いですが、これまでのCAAD12以前とは一線を画すデザインに世間の評価が割れています。
そこで本記事ではCBN BlogライターでCAAD10に乗られているPHILLYさん、機械工学とものづくりに詳しいkazaneさんのお2人にCAAD13についてのご意見をお伺いしました。
「ロングライド特化型のアルミロードバイク」 – PHILLY
ヘッドチューブまわりがいい
CAAD13を一言で表すなら、「ロングライド特化型のアルミロードバイク」です。
CAAD13を、デザイン面で「CAADシリーズの純粋な後継モデル」として見ている限りは、真っ当な評価はできないと思います。
(それ以前に、実際に跨って走りを確かめ、自分のポジションが出せるかどうかをチェックしなければ「真の評価」は下せません。でも今回は、ぱっと見でのエアーインプレという事でご容赦くださいませ。)
CAAD13は、旧CAADともSUPERSIXとも根本からコンセプトが異なる、全く新しいロードバイクに仕上がっているのです。
特にCAAD13ディスクに関しては、ディスクブレーキロード全体で見ても白眉です。
まず評価したいのは、ヘッドチューブまわりの構造を新型SUPERSIXと共通に「しなかった」点です。
新型SUPERSIXのヘッドチューブは、Pinarello Dogma F10のような「進行方向に伸ばした非真円断面形状」になっていて、ヘッドチューブ上面には、コラムを通す丸穴の前に三日月型の大穴が開いています。
キャノンデール純正のステム一体型ハンドルバーは、ブレーキアウターやシフトワイヤーをコラムの前に沿わせる構造になっていて、専用コラムスペーサーの方もそれに合わせた2つ穴型のものが用意されています。
三日月穴は、そのワイヤー類を束ねて突っ込む為に開けられたものですが、穴開けが本来は不要なリムブレーキ車にも、何故かこの三日月穴が開けられているところに「手抜きっぽさ」を感じていたのです。
しかもこの穴、リムブレーキ車のほうはゴムキャップで塞いであるのですが、やたら軟質なキャップなので、爪を軽く引っ掛けた程度の力であっさり外れてしまうのです。
簡単に外せると言う事は、このキャップが担っている防水性もその程度という事。
雨の中を走ると、ヘッドチューブに水がじゃんじゃん入ってくるのは避けられないでしょう。
2016年型の2代目SUPERSIXは、「雨中走行をするとヘッドパーツの下ベアリングに水しぶきが直接かかる」という構造的欠陥を抱えていたのに、それが反映されていません。
おまけに、ディスクブレーキ車の場合、ブレーキホースを三日月穴に通す以外の配線方法が無いので、ステムをベタ付けした時のルーティングが苦しくなります。
CAAD13に戻ります。
見ての通り、ごく普通の円筒形ヘッドチューブです。
ディスクブレーキ用フレームは、ブレーキホースはダウンチューブの左側面から内蔵します。
CAAD10の後期型とSUPERSIXのリヤブレーキ配線は最悪だ、というのを事あるごとに書いている気がしますが、CAAD13ディスクはここがちゃんとしているので安心しました。
また、前述の構造によるワイヤー系統へのダメージを防ぐため、SUPERSIXのハンドルは左右それぞれ45度ずつくらいしかハンドルを切れません。
そのため、縦置き輪行袋や飛行機輪行袋が使えないのです。
CAAD13は普通のフォーク・普通のヘッドパーツなので、幾らでもハンドルを回せます。
2種類のフォークオフセットがあるのがいい
次はフォークオフセットの話です。
フロントフォークのオフセット量が、55mmと45mmの2種類用意されています。
フレームサイズにかかわらずフォークを1種類しか用意しないのは馬鹿げている、というのも普段から言っている事でありますが、実はCAAD10の後期型でせっかく2種類展開にしたフォークオフセットを、CAAD12へのモデルチェンジに際してこっそり1種類に戻すという事をしていたのです。手抜きが過ぎるんじゃないか。
もしCAAD13で、再びフロントフォークを1種類にしていたら、もっとケチョンケチョンに貶していたことでしょう(笑)。
ダボ穴がいい
極めつけは、フレームの随所に設けられた「ダボ穴」です。
ディスクブレーキロードの普及と、クイックからスルーアクスルへの移行で生じた問題が「フルラップフェンダーが取り付けられない」という事です。
これは筆者のロードバイクですが、BBB製のフルラップフェンダーを取り付けています。
この手のフェンダーは、クイックに挟むか、或いはフレームのダボ穴にネジ留めするかしないと取り付けられないのですが、一般に中堅〜ハイエンドアルミフレームにダボ穴が設けられている例はほぼ無いので(SPECIALIZED ALLEZやSCOTT SPEEDSTERなどエントリーグレード車にはあったりする)、必然的にクイックで共締めする事になります。
クイック式のフレームは、ダボ穴が無くとも、条件さえ満たせばフェンダーを取り付ける事は可能です。
しかしスルーアクスルのフレームは、シャフトをフレームにねじ込む構造上、フェンダーステーの共締めが出来ず、フルラップフェンダーが取り付けられません。
これ、ロングライダー視点で考えると、結構なデメリットだと思うのです。
SPECIALIZED ROUBAIXもCannondale SYNAPSEもSCOTT SOLACEも、ここで失敗しました。
再びCAAD13の画像。
シートステーの上部と末端に、シートチューブの裏側に、フロントフォークのクラウン裏側に、それぞれダボ穴が設けられています!
グラベルロードを除く、ディスクブレーキのロードフレームでダボ穴が設けられている例はほぼ無いので、これは非常に画期的です。
これが、CAAD13がロングライドに特化したフレームだと考える最大の根拠です。
あと、CAAD12のリヤエンドは、クイックのナットの上を剥きだしのシフトインナーがかすめ通るという、ほぼ最悪とも言える形状をしていたのですが、CAAD13になってシフトアウター受けが通常の位置に修正されました。
シマノのRD-R9100との組み合わせでシフトアウター折れが頻発するのも、メーカーとして黙っている訳にはいかなかったのでしょうか。
ロングライドに特化したフレーム
長くなったので纏めますが、CAAD13ディスクは「ロングライダーにとってのディスクブレーキの欠点を克服しつつ、悪い意味でのCannondaleらしさを断ち切った」という点に関して、僕は非常に高く評価しております。
(リムブレーキ版の方は、リヤブレーキの配線が相変わらずイマイチなので欲しいとは思いませんが)
僕は現在2台のロードバイクを所持していて、片方はCAAD10です。
今のところ、ロードフレームの買い替えや買い増しの予定は全く無いものの、将来的にディスクブレーキ車を買う事になるのは間違いないでしょう。
「その時」の候補として、CAAD13はじゅうぶん検討に値する存在であると確信しました。
あとは、展示会などで是非とも試乗してみたいものです。
ちなみに、BBは相変わらずBB30Aという独自規格ものを採用しています。
BB30について文句を言いたくなる気持ちも分かりますが、これについては僕の中で結論というか、一応の答えが出ていまして、「WISHBONEのねじ込み式BBにカンパニョーロのウルトラトルククランクを組み合わせる」のが最適なのではないか、と思っています。
寄稿者:PHILLY @Alp96Cam, PHILLY (cbn)
プロフィール:京都在住の甘党サイクリスト。貧脚ではないと自負しているが別に剛脚ではない。好物は海鮮料理と午後の紅茶ミルクティー
「どんだけ手間掛けとんねん!!」 – kazane
どうやって作るんだこれ
一応CAAD8~12までチョイ乗りした事があるのですが、今回CAAD13を見た時の感想は見た目も設計思想も一気に変えてきたなという点に興味を引かれました。あと完全に私の職業病なのですがものづくり的に作りにくそうなフレームだなと(笑)
まず最初に目を引かれたのはトップチューブとシートチューブの結合部。
どうやって作るんだこれ。
個人的想像ですが、ハイドロフォーミングでこぶを作り、こぶを一部削ってラグのようなものを作りそこにトップチューブを溶接。その溶接痕をギリギリかわしながらシートクランプの機構部を内蔵しているのではないだろうかと推測。
溶接をやった事がある方なら分かると思いますが金属の薄板ってやつは加熱すると穴がどんどん広がるのでとてもやりにくい。素材がアルミなので溶接時には不活性ガスシールドが必要。形状が複雑でただでさえ溶接しにくいのに、溶接部の裏面にもガスが必要なのでパイプ内に不活性ガスを流す手間も必要です。
そして、溶接痕が太くなりすぎないよう、熱で変形/変質させないよう、強度も保ちながら美しい仕上がりになるように溶接する。
ってこの接合部1点だけでどんだけ手間掛けとんねん!!
でも新型のシートポスト回りはスッキリしていいですね。個人的には好きです。
工程上順番が逆になってしまいましたが、ハイドロフォーミングは元々大掛りな油圧設備や金型やパイプへ油圧を掛ける前の下準備が必要な手間の掛かる加工方法です。ハイドロフォーミングした後のパイプは当然油まみれなので溶接前に徹底洗浄も必要。
複雑な曲面のパイプを正確な位置に保持するための治具類も用意し、溶接前にパイプ同士がピッタリ合う様にパイプの両端を正確に加工する必要もあります。溶接の出来は端面加工の正確さ、言い換えるとパイプ同士を合わせた時の隙間の管理で大方決まってしまいます。
あの綺麗な溶接痕の製品を安定して世に送り出すってだけで物凄く大変なのです。
余談ですが筆者kazaneはガス溶接(アセチレン酸素)はそこそこ自信あるのですがアルミ溶接(アルゴン溶接)はまともに出来た事がありません。めっちゃ難しいです。つまりロボに溶接をさせるにしても条件出しは大変な作業になるという事。
オマケに電動コンポへの対応の為あちこちに穴加工が増えています。
ここまで手間掛けるぐらいなら大人しくカーボンで作った方が楽な気すらします。
でも高性能低価格の自転車をユーザーに届けるためにアルミに拘り頑張るキャノンデール。超偉大。
フレームの場所によって仕事を分けている印象
リヤ三角が小さくなったのは構造的に剛性を上げ踏んだ時の反応をよくしようとしているのは明らか。乗り心地は複雑な形状のシートチューブの中央を前方へ”く”の字に撓らせ前三角の変形で確保しているのかなとまた勝手に妄想を膨らませる。
CAAD12まではフレーム全体で力を受けることで、しなやかでしっとりとしたアルミ独特の踏み味を演出している印象があったのですが、今度のCAAD13はフレームの場所によって仕事を分けている印象があるので乗り味にメリハリがありそうだなと。往年のCAADファンの意見が結構割れそうですが個人的には割と肯定派です。
しかも上位機種譲りのカムテール形状で空力性能UPときた。翼断面のアルミフレーム自体は真新しいものではないですがSuper Six Evo 譲りと聞くと期待を持って良いかと。
困った点といえば、アレですよ。名前を呼んではいけない規格とまで言われたBB30。
方々で語り尽くされている通り異音が出やすかったり保守整備がどう考えても初心者向きではない圧入式BB。
ベアリングに与圧を掛けてガッチリ保持しているとはいえ、回転軸を盛大に偏芯させながら回転する自転車のクランクはどうしても円周部に与圧の増減が起きてしまい、それが摩擦と摩耗と異音を生んでしまいます。ちょっとでも与圧を掛け過ぎたりベアリング内の隙間が小さかったりしたら今度はゴリゴリします。
※本来少々ゴリゴリするぐらいが正解なのですが自転車業界はそれを許さない。
異音のいの字でも聞こえようもんなら即BBを交換するか、BB30アダプターでねじ切りBBに改造してしまうといった心構えは必要。アダプター入れてしまうとそれはそれで剛性が変わってしまって乗り味に変化がというジレンマも起こりえます。
けど、躊躇しているうちにフレーム側が摩耗してしまってからでは遅いので…。
最後に価格面ですが、CAADシリーズは元々レース入門機としては比較的低価格かつ高性能なマシン。CAAD13になって空力性能が大幅にプラスされた。
21万とか反則もいいところ
この手間の掛かったフレームに、私も使い始めて驚いている105の油圧ディスクブレーキを奢ってカーボンフォークも付けて21万とか反則もいいところだと思います。というか反則確定でいいよ。
初心者にも(ある一点を除いて)自信を持って勧められ、末永く使い倒しながら乗れる1本じゃないでしょうか。
寄稿者:kazane @21856Kazane, kazane (cbn)
プロフィール:自転車とクルマと釣りを主な趣味とする関西人。一応機械いじって飯食ってる人です。
まとめ
どちらかというと現状では批判的な意見のほうが目立つCAAD13ですが、お2人のご意見を拝読していると様々な改良点がありそうです。細かい部分で前作までの欠点を潰していること、美しくないと言われている溶接痕にもそれなりの理由があるらしいことがわかり、大変参考になりました。皆さんはどう思われたでしょうか。
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