ドゥクーニンク・クイックステップのフランス人ライダー、ジュリアン・アラフィリップがツール・ド・フランス2020の第2ステージをチューブド・クリンチャータイヤで優勝したことで話題になっています。
参考 Tubed clinchers just won their first Tour de France road stage since 1992 (CYCLINGTIPS)
ツール・ド・フランスでは28年ぶり2度目
CYCLINGTIPSの記事によるとチューブド・クリンチャータイヤを使用した選手がツール・ド・フランスでステージ優勝を勝ち取ったのは28年ぶり2度目。1992年にClaudio Chiappucci(クラウディオ・キャップッチ)が第13ステージで同様に優勝しているそうです(アラフィリップのステージ優勝当初は「ツールで初めてチューブドクリンチャーでステージ優勝!」と喧伝されましたが実際は2度目だったのでした)。
読者の多くの方がご存知のように、プロサイクリングで最も普及しているタイヤタイプはチューブラーです。チューブラーは、ホイールへのインストール時に糊やテープで接着する必要があり、その点で手間こそかかるものの、転がり抵抗の低さ、パンクしてもリムからタイヤが剥がれない、パンクした状態でもしばらく乗り続けられるという、性能と安全性の両面でメリットがあります。そしてそもそもパンクに強いタイヤでもあります。
しかし近年はチューブレス(レディ)タイヤがじわじわとプロサイクリングの世界でも使用されるようになってきました。チューブレスは転がり抵抗の面でチューブラーを凌駕している製品があり、シーラントを併用することでパンクのリスクも低減できます。現状、レースではまだまだチューブラーが支配的ですがチューブレスの使用率も上がってきています。
一方、タイヤの中にインナーチューブを入れる「チューブド・クリンチャー」タイヤがプロサイクリングで使われることは非常に少ないです。インナーチューブはタイヤの内側で摺動抵抗とエネルギー損失を生み出します。パンクにも弱い。ラテックスインナーチューブと組み合わせると転がり抵抗がチューブラーよりも軽くなることはあるものの、チューブドは「アマチュア・愛好家向け」というイメージが強い製品です。
ジュリアン・アラフィリップはその「チューブド・クリンチャー」タイヤでツール・ド・フランスのステージ優勝を勝ち取ったのでした。今年のツールの大きい話題のひとつとなるでしょう。
チューブド専用のRoval Alpinist CLXとRapide CLXを使用
アラフィリップが使用していたタイヤはドゥクーニンク・クイックステップをスポンサードするSpecializedのS-Works Turbo Cotton。ホイールはSpecialized傘下のRovalの新作、Alpinist CLXでした。
Rovalは今年になってAlpinist CLXとRapide CLXという2つの新しいホイールを発表しました。いずれもディスクブレーキ専用、かつチューブド・クリンチャーのみに対応しているモデルです。チューブレスには対応していません。
Rapide CLXはリムハイトの高いオールラウンドなモデルですが、Alpinist CLXはクライマー向けのホイール。フロント・リアともリムハイトは33mm、重量はリムテープ込みでペア1,248g(フロント562g, リア682g)と超軽量です。
アラフィリップが使っていたインナーチューブの銘柄についてはまだ明らかになっていませんが、安価なブチルチューブではなく、転がり抵抗の少ないラテックスチューブだったことはまず間違いないでしょう。
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なぜチューブドだったのか?
しかし気になるのは、なぜアラフィリップは、いやドゥクーニンク・クイックステップは、そしてスポンサー企業であるスペシャライズドは、このAlpinist CLXを使わせたのか、というところ。
CYCLINGTIPSの記事には、
レースという文脈ではチューブド・クリンチャーはチューブレスより優れている点はない。より速いわけではないし、シーラントもない。Rovalのこれらのホイールはチューブレスに対応していないが、その理由について同社から納得の行く説明はまだ聞けていない
とあります。
スペシャライズド公式ブログ(日本語版)には次のようにあります。
エンジニアはAlpinist とRapideのチューブレス対応のメリットとデメリットを評価しました。現在のチューブレス技術を考慮すると、我々は99%のパフォーマンスロードライダーのベストな選択はチューブド・クリンチャーだと信じています。
(中略)
チューブドとすることで、より軽量で完成度の高いホイールをパフォーマンスロードライダーのために提供できるからです。チューブレスにしていた場合、使用する素材量が増え、結果的に増えた分の重さでチューブレスタイヤのメリットが損なわれていたでしょう。
これら2つのホイールには、明確な目的がありました。Alpinist CLXホイールではRoval史上最軽量のクリンチャーホイール、Rapide CLXホイールではエアロ性能、軽さ、安定性の比類なきバランスの実現です。
このような断固とした目標だけでなく、あなたの理想の走りを実現できるようにするパフォーマンスも達成するには、チューブドであることが条件でした。私たちはチューブレスタイヤの可能性も当然理解しており、チューブドのクリンチャーホイールの性能を上回るチューブレスホイール/タイヤを作れるようになれば、その時はそれがベストになるでしょう。
スペシャライズドは今後も当分、プロ向けの機材としてチューブド・クリンチャーを推し続けていくつもりなのか。また、プロサイクリングの現場でチューブド・クリンチャーがますます使われていくことになるのでしょうか?
それはまだわかりませんが、もしかするとこれは扱いが決して簡単でないチューブラーは勿論、チューブレス対応のホイールを推し続けても一般の愛好家にはまだまだハードルが高い。多くの一般サイクリストがチューブド・クリンチャーが愛用し続けている。そのセグメントに向けてRovalのホイールを売っていきたい。そのためにクイックステップは新作Alpinist CLXやRapide CLXで活躍してほしい…
と、そういう思惑があるのかな、と個人的には推測しましたが、読者の皆さんはどう思われるでしょうか。