ツール・ド・フランスでのステージ優勝34回を誇るプロサイクリング界のレジェンド、エディ・メルクス。マーク・カヴェンディッシュが彼の記録に並ぶのか、あるいは超えてしまうのかが今年のツールの大きい楽しみになっていますが、同氏は2日前、伊La Gazzetta dello Sport誌で心中を次のように話したそうです。
出典 Eddy Merckx: I won’t lose any sleep if Cavendish beats my Tour de France record – Cyclingnews
マイヨ・ジョーヌも5着持っているが何か?
- カヴェンディッシュが私の記録に並んだとしても問題はない。そのことで私は眠れなくなったりはしない。私の記録に並んでも、祝福するつもりだ。何故なら34ものスプリントを勝利するのは簡単なことではないからだ
- 私達には違いがある。私はツールで34勝を挙げたが、そこにはスプリントも、山岳も、タイムトライアルも下りでのアタックも含まれている。今でも家に飾ってある5枚のマイヨ・ジョーヌと、私がそれを96日間着ていたことも忘れないでほしい。これは多いとは言えないだろうか?
- 勿論、私は彼が成し遂げたことの価値を下げようとしているのではない。彼には困難な時期があったし、サイクリングを再び愛してくれたこともある。カヴェンディッシュは若いサイクリストに素晴らしいメッセージを与えている
カヴェンディッシュのステージ勝利は「スプリントでの勝利だが…」は、下の記事で紹介したベルギーメディアとのインタビューでも同じことを言っていました。この御大メルクス氏の発言、個人的には悪意があるわけではなく恐らく「天然」なのだろうと思いましたが、国内外では「大人気ない」という意見も多く見られます(笑)。
海外での反応
メルクス氏のこの発言について、海外掲示板Redditでは次のような感想を目にすることができます。
- メルクスは真実を言っているだけだ。カヴェンディッシュが成し遂げたことは偉大だが、メルクスと比べることはできないし、それはみんなが知っていることだ
- カヴェンディッシュは間違いなく、時代を問わず最強のスプリンターの1人だ。しかしメルクスは生きている世界が違う、彼は何もかも勝利した。…カヴェンディッシュは自分のためにチームが多くの仕事をしてくれる時代を走っているが、メルクスは何もかも(さらにずっと印象的なことを)自分の力でやったんだ
- メルクスがカヴェンディッシュの活躍を喜んでいるのを見たことがない。もしメルクスが本当にカヴェンディッシュとは完全に次元の違うチャンピオンだったのなら、彼は自分の記録が破られることを喜んだほうが良い。記録は破られるためにあるものだ
全体的には「カヴェンディッシュが素晴らしい選手なのは間違いない。しかしメルクスは次元の違う選手だったし、時代や戦術も同じではないのだから比べるのはおかしい」という意見、さらに「メルクスは異次元の怪物だったことは誰もが認めるところなのに、当の本人が比較を持ち出しているあたりが謎だ」といった内容が目立ちます。
表面上はカヴェンディッシュの大活躍を祝福しながらも「俺のほうが本当はすごいのだが…」的なことを口走ってしまうメルクス。こういう負けず嫌いの性格だったからこそあの前人未到の記録を打ち立てることができたのではないか、という気もしてきます。
ちなみにメルクス、ライバルにほとんど何も与えることなくマイヨ・ジョーヌを着続けているタデイ・ポガチャルのハングリー精神を、次のように高く評価しています。
- ポガチャルはレースのリーダーであることを恐れていない。省エネのためにマイヨ・ジョーヌを譲り渡すライダーもいるが、私は一度も理解できたことがない。強い選手なら、なぜレースの先頭とリーダージャージのシンボルを他人に譲るのか?
エディ・メルクスは小さな勝利も他の選手に譲らないことで有名で、その貪欲さから「カンニバル(人食い)」と呼ばれたりもしていました。また、この性格が多くのアンチを発生させてしまい、1975年のツールでは観客にパンチされるという事件まで発生しています。メルクス氏はポガチャルに若き日の自分の姿を重ねているのかもしれませんね。
今回のメルクス氏の発言を見ていると、もはや「マウンティング」や「負けず嫌い」という言葉が生易しいものに思えてきます。勝利に対するほとんど異常とも思えるこの執念と気質を、2021年のこの現代に再び感じ取ることができたのも、多くのサイクリスト・レースファンにとっては貴重な経験となっているのではないでしょうか。今年のツール、本当に面白いですね!