プロサイクリストの多くは骨密度が低く、引退後も骨密度は完全には回復しないかもしれない、という主旨の少し怖い研究結果を見かけました。オランダHAN応用科学大学のLuuk Hilkens氏らによる「プロフェッショナル・サイクリング・キャリアの様々なステージでのエリートサイクリストにおける低骨密度とそれに関連するリスク要因」という共同研究です。
プロサイクリストは骨がもろい?
以下、論文の概要の抄訳です。
- 研究目的:プロフェッショナル・サイクリング・キャリアの様々なステージでの男性・女性エリートサイクリストにおける低骨密度(low bone mineral density, low BMD)の有病率を評価し、低骨密度の潜在的なリスクファクターを特定すること
- 研究方法:この横断的調査では、キャリア序盤・キャリア中盤・引退後(early career, advanced career, and post-career)の93人の男性・女性エリートサイクリストを対象とし、臀部・大腿骨頚部・腰椎と全身への二重エネルギーX線吸収法骨密度検査、血液採取、トレーニング及び負傷履歴の評価、骨に特有の身体活動についてのアンケート(BPAQ)を行った。後退型段階的重回帰分析を行い、骨密度と、キャリア序盤及び中盤(つまり現役)のサイクリストにおける潜在的な予測因子との関係を探求した
- 研究結果:男性エリートサイクリストではキャリア序盤・キャリア中盤・引退後で、腰椎における低骨密度がそれぞれ27%, 64%, 50%の割合で見られた。女性エリートサイクリストではキャリア序盤・キャリア中盤・引退後で、腰椎における低骨密度がそれぞれ45%, 45%, 20%の割合で存在することが示唆された。回帰分析の結果、骨密度と関連する主な要因としてBMI、骨折発生数、骨に特有の身体活動、トリヨードチロニン(T3)が同定された
- 結論:低骨密度はエリートサイクリストにおいて、特にキャリア序盤の女性、キャリア中盤の男性及び女性サイクリストで高い有病率を示している。これらの低骨密度値は、引退後のエリートサイクリストにおける低骨密度症の相当な有病率を考えると、プロフェッショナル・サイクリング・キャリアを終えた後も完全に回復しない恐れがある。探索的データ解析の結果、低骨密度は現役エリートサイクリストにおける低BMI、骨折発生数、骨に特有の身体活動の欠如、利用可能なエネルギーの不足(low energy availability)と関連があることが示された
じゃあどうすればいいの?
統計学の難解そうな用語がたくさん登場していますが、平たく言うと次のようなことが言える・考えられるのではないでしょうか。
- プロサイクリストは骨がもろい
- 引退して年をとってからも骨密度は低いままで骨折リスクは高くなる
- ぶっちゃけ痩せすぎなのも原因(低BMI)
研究者の1人Luuk Hilkens氏はこの論文についてツイートもしているのでこちらもご参考にどうぞ。
Several studies have indicated a high prevalence of low bone mineral density (BMD) in elite cyclists. Our recent viewpoint in @japplphysiol covered the potential causes, consequences and treatment options of low BMD in this population.https://t.co/s0O1IRqsqD
2/n pic.twitter.com/yGMq9XQcl4
— Luuk Hilkens (@luukhil) January 9, 2023
対策としては、骨に負荷がかかるような運動をもっとすること。カルシウムとビタミンDの摂取を意識すること、利用可能なエネルギーを増やすこと等々が考えられそうですね。また、BMIが低い時期はレース期間のみに限定するなど。発汗によりカルシウムが極度に失われる懸念も上のイラストからは読めますね。
もっと食べる。ボディマスを増やす。足腰の筋トレをやる。走ったり歩いたりハイキングしたりして骨に衝撃を与える。日光を浴びてビタミンDをもっと合成(これはサイクリストならいつもやっているかな?)ということも言えたりするでしょうか(筆者の感想)。競技者に限らず、高強度サイクリングがメインの方は少しだけ意識したほうが良いかもしれない内容ですね。
アーモンド小魚をおやつにするのも良いのではないでしょうか。あとはオフロードライド。適度な衝撃が加わると骨にも良いと聞きます。エレベーターを使わず階段を使うのも良いのではないでしょうか。