馬鹿野郎! USTだのTLEだのTCSだのTLCだのTLRだの、チューブレスレディの混乱に乗じてどいつもこいつも意味不明な三文字略語を乱発しやがって…どうやらこの混乱を俺が整理しなければならないようだな…(元ネタ©momochi_gyugund先生)
というわけで今日は「チューブレスレディ」の「規格」にまつわる話題です。昨日シーラント不要のロード用チューブレスタイヤは絶滅するような気がするという記事でも触れましたが、純粋なチューブレスの製品数は非常に少なく、チューブレス系では「チューブレスレディ」が支配的なものになりつつある昨今です。
ところでそもそも「チューブレス系」って何、という方は下の記事で詳しく解説してみたので本記事とあわせてぜひお読みいただければと思います。まずクリンチャーというシステムがあり、そのサブシステムにクリンチャー・チューブレスがあり、チューブレスレディはその中のひとつ、というイメージです。
タイヤをつくっているメーカーには、ホイールをつくっているところもあります。代表的なのはフランスのMavicでしょう。アメリカではBontragerもそう。一方でドイツのSchwarbeやContinentalなどはホイールをつくっていません。
すると何が起こるかというと、マヴィックやボントレガーのようなメーカーは、自社のチューブレスレディタイヤとホイールのマッチングをはかりやすくなります。自社製品同士の組み合わせの要件を詳細に定義し、公差(設計に対して許容されるズレ)を細かく管理することで、
とユーザーに訴求できるようなモノづくりができるようになります。これはタイヤもホイールも両方手がけているメーカーにとっては大きいアドバンテージです。
こんなふうに「タイヤとホイールを一体のものと考える」仕組みを、Mavicは「WTS」と呼びました。2011年のことです。
WTSは”Wheel Tire System”の略。ホイール・タイヤ・システム。Mavicではホイールとタイヤは個別のバラバラな製品群ではなく、両方あわせてひとつの最適化されたシステムを作る、という意味です。
しかしそれは特に「チューブレスレディ」に限定した話ではありませんでした。「規格」でもありません。
WTSはマヴィックの「製品コンセプト」及び「思想」であり、自社のホイールによくマッチする自社製タイヤをバンドルして販売してはいますが、特に「規格」ではありません。WTSはブランディングであり、マーケティング用語です。
Mavic UST Tubeless マウンテンバイク界を席巻したチューブレスの規格
しかしマヴィックには「UST」という、もうひとつの三文字略語があります。”Universal System Tubeless”(ユニバーサル・システム・チューブレス)の略で、こちらは「規格」です。
USTではリム面のビードシートの寸法、ブレーキ面の高さ、「ハンプ」と呼ばれるビードをひっかける部分の形状、ビードフックの形状(四角)などホイールとタイヤ両面で細かく定義されています。
ただこの「UST」はMavicが独自に考案した規格ではなく、同じフランスのタイヤメーカーであるミシュランやハッチンソン(ユッチンソン)と共同で「UST Tubeless」として1999年に発表され、以後マウンテンバイクの世界では大きい規格になりました(参考記事)。
この「UST Tubeless」ではリムのスペックについてMavicが特許を持っているため、ホイールに「USTロゴ」をプリントしたいメーカーは製品を独立機関によって認証してもらった上でMavicに特許料を払う必要がありました。
タイヤのUST規格についてはMavicが特許を持っているわけではないので特許料を払う必要はありませんが、やはり第三者機関にビードの形状がUST規格をクリアしているかどうかなどを認証してもらう必要がありました。
なおMTB時代のUSTは、シーラントの使用は前提としないものでした(参考記事)。またリムは穴あきでも可でしたが、テープできっちりふさいで気密性を確保することは要件のひとつでした。
MTB用タイヤで知られるWTBは、シーラントの使用を前提とする「TCB」という規格を発表します。これは”Tubeless Compatible System”の略で、Mavic UST規格をクリアしたものでした。
そして様々なメーカーから、「USTの認証は受けていないもののチューブレス・コンパチブル」(=チューブレス互換)をうたう様々な「チューブレスレディ」のタイヤも発売されてきました。
ちなみにUST Tubelessはタイヤとリムの標準化機関であるETRTO (European Tire and Rim Technical Organization)によって維持されている規格なんだそうです。
USTはロードバイク界でも地位を確立できるか
Mavicはロードバイクの世界でも同じようなことをやろうとしているわけです。2017年に発表された「ロードUST」がそれです。
このロードバイク用のUSTは、単に「UST」と呼ばれたり、「UST Tubeless」と呼ばれたり、「ロードUST」と呼ばれたりしていますが、「シーラントの使用を前提としている」点でもともとの「UST Tubeless」とは完全に同じ規格ではないように思われます。
タイヤやリムのスペックは詳細に定義されてはいるのですが、シーラントが必要な「チューブレスレディ」です。これは1999年に発表された「UST Tubeless」規格には含まれていません。
ここが少しややこしく見えます。現在Mavicが「ロードUST」として売り出している製品を見ると、ホイールには「UST Tubeless」のロゴ(MTBと同じもの)があったりしても、いまのところ唯一のロードUSTタイヤである「Yksion Pro UST」のパッケージには「UST Tubeless Ready」というロゴがあるのです(笑)。
「UST Tubeless Ready」って、むかしMavic以外のメーカーが「UST Tubeless互換の製品」をそう呼んでいたことがあるので、一瞬わけがわからなくなりますね。
ところでなぜMavicはMTBの「UST Tubeless」をそのままロードバイクの世界に持ってこなかったのでしょうか。
これは諸説ありますが、ロード用ホイールはいまのところリムブレーキが大勢を占めています。するとリムがブレーキングで発熱します。リム幅もMTBのそれより狭い。気密性がこれらに影響されないようシーラントを必須化したりといった事情があるとも言われています。
それはさておき、ロード用チューブレスレディのタイヤ(やホイール)を出しているMavic以外のメーカーは、MTB時代同様、それぞれが自社規格(厳密に定義された規格なのか、設計思想にとどまるものなのかは定かではない)を様々な名前で呼んでいます。
シュワルベはそれを「TLE」と呼びます。Tubeless Easyの略。パナレーサーにはTubeless Compatibleを意味する「TLC」という略語があります。ボントレガーはTLR、これは”TubeLess Ready”そのまま、MTB時代から最近のロード用チューブレスレディホイールもこう呼んでいます。
こんな感じです。
Schwarbe: TLE (Tubeless Easy)
Panaracer: TLC (Tubeless Compatible)
Bontrager: TLR (Tubeless Ready)
ところで、Mavicの「ロードUST」は「UST Tubeless」と違ってまだETRTOのような世界的機関によって維持されているものではない、ただそれを目指している、という話を英語圏の記事で読みました。
Mavicが「ロードUST」でロードバイク界でのチューブレスレディ規格を統一したい、あるいは支配的な地位を確立したいと考えているのは間違いないでしょう。
そもそも「UST」のUniversal System Tublessは「チューブレスの普遍的なシステム」という意味。もともとはミシュランや、現在のマヴィックのタイヤを製造しているハッチンソンらと共同で世界統一規格を目指したものであったのです。
世界征服への意欲満々のネーミングですw
では将来的にコンチネンタルやシュワルベのタイヤに「UST Tubeless Ready」のロゴや、「UST Tubeless Ready Compatible」のような文字が現れるのか。
それはまだまったくわかりませんが、そういうことが起きてもおかしくないような気はします。ホイールを製造していないタイヤ専業のメーカーにとってはラクになるんじゃないかなという気がします。
しかしどのメーカーもユーザーを囲い込みたい思惑もあるので、最終的にMavicの「ロードUST」は「かなり強い規格」にはなりえても、天下統一までは難しいだろうとも思います。