台湾のmicroSHIFT社が今年の春、9スピードのMTB用コンポーネント「ADVENT」を発表しました(というか部分的に8スピードパーツも含まれているのですが、マーケティング的には9スピードを強調しています)。
公式 ADVENT Group | Mountain Bike Components | microSHIFT
用意されているのは主に1×9/2×9で、リアディレイラー・カセット・シフターのみで構成。トリガーシフターの他にドロップバーで使える機械式ブリフター(ブレーキ・シフト兼用レバー)も用意されています。カセットスプロケットは9スピード版で11-42のみ。
そして9スピードである点以外のもうひとつの売りは、シフター・リアディレイラー・9スピードカセットの3つで$125という低価格な製品であるということです。
低価格低性能の使えない製品じゃないの? と思ってしまうが…
でも普通はこう思うはず。11速が当たり前になって、SRAMもSHIMANOも12速化の動きを加速させている時代なのに、なぜいまどき9スピードなのか。
そして9スピードというと安くて壊れやすい初心者用の、あまり真面目に考えていない製品なんじゃないか。性能だっていいはずがない。とも思いますよね。
さて、ここでmicroSHIFTによるこのADVENTというグループセットについての説明を見ていきましょう。以下、メーカー公式サイトに書かれている内容です。
なぜ9スピードなのか?
MTBドライブトレインがスピードを増やしていくにつれ、チェーンはより狭くなり、調整作業はますます難しいものになっていきます。単にうまく動かすために、すべてが完璧に調整される必要があります。現実世界では、これはメンテナンスの頻度がより多くなることを意味します。
ADVENTはそれほど気難しくはありません。9スピードチェーンはより幅が広く、カセットの歯はより厚く、ディレイラーは調整がより簡単です。システム全体が最小のメンテナンスで最大の耐久性を得るために設計されています。
シフターにはもっとお金を払うべきではないのですか?
もしあなたが世界に向かって自分は金持ちなのだと言いたいのなら、ヨットを買いましょう。
ADVENTは機能第一、にフォーカスしています。その意味は、修理可能な頑丈なクラッチ機構、高負荷下での素早い変速レスポンス、トレイル・ライディングで必要になる広いギアレンジ、です。本当によく動作するのであなたはライドに集中することができます。いつも通りのことをやるために面倒な芝生刈りをする必要がないのです。
独創的なクラッチデザイン
大部分のマウンテンバイクのディレイラーはローラー・ベアリング・クラッチを使用しています。ワンウェイ・ベアリングのまわりのフリクション・スリーブを使用します。このシステムではテンションが失われやすいのです。クラッチ・ディレイラーを所有したことがあるなら、時間が経つにつれてクラッチがあまり効かなくなってくることに気付いたのではないでしょうか。またこれは調整が非常に難しいものです。
ADVENTは革新的なラチェット・アンド・ポー・デザインを使用しています。長年にわたりハブでその有効性が証明されてきたテクノロジーです。このシステムではテンションがずっと緩みにくく、スクリュードライバーやトルクスレンチで1分もかからず再調整できます。
どんなチェーンとチェーンリングを使わなくてはなりませんか?
9スピードの美点がこれです。このチェーンは非常に標準的なものです。私達はADVENTを、アフターマーケットでは手に入らないものも含め、入手可能なあらゆる9スピードチェーンでテストしました。あるチェーンは他のチェーンよりもよくできているものだったりしますが、どれもADVENTとは相性が良いです。
チェーンリングも同様です。ただ9スピードと互換性のあるものだけを使うようにしてください。
ギア板が多くなって失われていったもの
これらのmicroSHIFTによる説明はなかなか面白いと思いました。9スピードであることの美点を単にマーケティング的に強調しているというよりも、これは本当にそうなんだろうな、と思わされる部分が多いです。
実際10速、11速とコグが増えてくるにつれてディレイラーは以前よりも精密な調整が求められるようになったと思います。
コグが増えるほどカセット全体の重量増にもつながります。コグも薄くなるので耐久性も落ちてくる(シマノではあまり言われないけれどSRAMでは歯がよく欠けるという意見をよく目にします)。
チェーンも細くなって耐久性がなくなった…とは言われます。個人的にはチェーンが切れてしまったり、耐久性の低下を実感したりということはないのですが、シングルスピードなどに乗っていると鈍感な私でも太いチェーンには独特なパワー伝達感があるのがわかり、11スピードとは違う楽しさを感じます。
ギア板が増えていくことでより段差の少ないなめらかなシフティングが可能になった一方、より細く、より細かく、そして場合によってはより弱い… といったふうにコンポーネントは退化している部分もあると言っていいはず。
そう考えると、9スピードのADVENTというコンポが単純に「低性能なシステムに逆戻りした」とは決して言えないように思います。
少ない・安い=劣っている、とは限らない
さてこのADVENTの実際の実力は、私は使ったことがないのでわかりません。ただ海外各メディアのレビューを読むと、好意的な意見が目立ちます。
もちろん大メディアが掲載しているそれらのレビューは大金を積まれて書かれているものなので鵜呑みにはできませんが、SRAMの9スピードコンポよりは丈夫で、質実剛健の丈夫なやつ、みたいなことが書かれています。
限られた予算のなかで十分に使えるコンポが欲しい、という人にとって良さそうなのは勿論、1×11や1×12を買うお金はあるけれど、必ずしもそれが最高のシステムだとは思ってない、という人が試してみてもおもしろい製品ではないかと思いました。
メンテなんかほとんどしなくても何ヶ月もシフトが狂わない、そして耐久性もある丈夫なコンポ。もし本当にそんな感じだったら、中古でクロモリのハードテールなどを買って組み付けたら楽しいんじゃないでしょうか。
ギア板が少ない。値段も安い。だから…劣っている。とは、必ずしも言えないはず。microSHIFT ADVENTがそれを証明してくれるコンポかどうかはわかりませんが、目指している方向性はそういうものに思えますし、この点は個人的に好感が持てました。
いくつかの注意点
- ADVENTのリアディレイラーは残念ながらSRAM/SHIMANOのシフターでは引けないようです(引き量が違う。ここちょっと意地悪ですねw)
- リアディレイラーにはクラッチあり・クラッチなしのモデル両方があります。また両方のモデルで型番がLで終わるロングケージは2x用です
- リアディレイラーはダイレクトマウントです
- カセットには「CS-H093A 11-42T」と「CS-H093 11-42T」の2種類があります。「A」で終わる前者のモデルは42Tがアルミ製で少しだけ軽量です。後者はオールスチール