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内径25mmのリムで28mmタイヤは将来レースでは使えなくなる? ETRTOの新基準でタイヤ・リムブランドが対立

ETRTOによるタイヤとリムに関する新基準で「リム内径とタイヤの表示サイズ」は「最低でも5mmのオーバーラップ」がなくてはならない、とされたらしく、そのことを巡ってリム(ホイール)ブランドとタイヤブランドが対立しているようです。Cycling Weeklyが報じています。

出典 Is the bike industry divided over new tire and wheel rim-size regulations?

以下、長い記事から要点のみピックアップしてみました。

  • ベルギーに拠点を置くETRTO(European Tyre and Rim Technical Organisation)はフックレス・リムと、それに対応するロードバイクタイヤの安全性について議論してきた。彼らの決定はあなたのライドに影響を与えるかもしれない
  • ETRTOの新基準は、リムの内径と、それに嵌められるタイヤのサイズのオーバーラップが最低5mmとなるべし、と述べている。つまりこれまで人気だった「内径25mmリムに28mmのタイヤ」という組み合わせが、新しいガイドラインから外れてしまうのだ
  • MavicのグローバルPRマネージャー、Michel Lethenet氏によると、この変更は「25mmリムにマウントした28mmタイヤがリムから外れることがある、と示した世界トップレベルのあるタイヤ製造メーカーに由来するものだ」と語る
  • Hunt Bike Wheelsの製品・商業リードマネージャーであるPatrick Blake氏は「大きい話になっているのは、内径25mmのフックレスリムに28mmタイヤという組み合わせが本当にエアロなプロファイルを生み出すことが証明されているからなのです」と語る。「なのにETRTOはここにきて、この組み合わせは安全ではないと言い、25mmリムには最低でも30mmのタイヤを履かせることを推奨したのです。これらのホイールはいきなり遅くなってしまうことになります」
  • Zipp, ENVE, Chris Kingはどれも内径25mmのフックレスオプションがあり、いずれも最適なパフォーマンスを得るためには28mmタイヤの使用を推奨している。これらのブランドが今回のETRTOによる決定に不満を持つのは明らかだ
  • この議論の目的は基本的に、タイヤがリムから外れないことの責任は誰にあるかを決めるためになされているように見える。責任はリムを作る会社にあるのか、それともタイヤを作る会社にあるのか?
  • Zippは公式声明文で「ETRTO標準化会議への参加者として、互換性テーブルが変更されるだろうことは知っていました。更新されること自体は理解しますが、その結果は私達の立場と矛盾するものです」と語った。「Zippは内径23mm・25mmの、プロによって実績が証明された複数のホイールをテスト・設計・開発してきました。過去数年で、25mmリムと28cタイヤという組み合わせが安全であること、パフォーマンス上の恩恵を与えることを示すのに十分な数のホイールが使われてきたと思います」
  • ENVEも同様の立場を取る。「ETRTOからの大雑把な推奨は、こまかい違いを捉えきれていません」と同社の製品・ブランド・バイスプレジデントのJake Pantone氏は語る。「新しいガイダンスには『表示(labelled)』タイヤサイズという言葉も見られます。これならプロダクト・マネージャーは、昨日28としていたものを29にしてしまえばいいだけだ、と思うでしょう。内径21-25mmリムから外れた複数の30mmタイヤは指摘できますし、適切に製造された内径25mmリムから外れないよう製造された28mm(表示の)タイヤのリストもあります。ETRTOによる『推奨』はガイドラインであって、標準や司令ではありません」
  • ZippやENVEと反対の立場にあるのがContinentalとMavicだ。いずれもETRTO委員会に参加している
  • Continentalは「ETRTOによって採用された推奨と標準は、リム・タイヤ・バルブメーカー間に産業標準を確立するための共通の土台です」と語った。「…これらの標準は互換性とエンドコンシューマーの安全確保を意図しているのですから、弊社はETRTOの推奨に同意します」
  • Mavicの回答も同様であり、Lethenet氏は「タイヤの取扱説明はETRTOの公式な推奨に基づくことになる」と述べた。25mmリムでの28mmタイヤについては、「その組み合わせはETRTOのルールからは削除され、もうすぐISOルールにも組み込まれるでしょう」と述べた
  • ETRTOとISOは両者とも、この件については協議中だと述べた(ISOはタイヤとリムの標準に修正を加えているところだと述べた)
  • この変更が(国際標準である)ISOでもなされた場合、推奨に従わないブランドにとってはリスクとなる。ソックスの長さを守らないライダーを失格にするUCIのような組織体が、メーカーが独自にテストしたホイールをスタートラインに持ってくるのを認める可能性ははほとんどない
  • HuntのBlake氏は「何が安全で何が安全でないかを示す責任が、ホイールブランド側にあることが問題となっています。存在するあらゆる標準を理解するには、相当な知識のある消費者である必要があります」
  • Zipp「新しい互換テーブルからはZippが推奨する組み合わせが削除されていますが、現行のテーブルは『PSD(Previous Standard Data=以前の標準データ)』というETRTOのセクションに移行され、これらの組み合わせが安全でまだ使用可能であることを示します」
  • だがこの結果、事故が起こったらどうなるだろう? MavicのLethenet氏は「ある会社が規範に従っていないとしたら… その会社はリム・タイヤのデザインが事故の原因とは関係がないことを証明する必要があるでしょう。反対に、規範に則った製品であれば、責任を自分だけで引き受ける必要はなくなるでしょう」と語る
  • ENVEのPantone氏は「こうした推薦は性能の向上よりも最小公分母を包括するためのものに思える。結果として消費者は混乱し、(製品への)信頼も低下する」
  • HuntのBlake氏は「内径25mmリムで25mmタイヤを使った場合、指定空気圧を超えた時以外はタイヤが外れた事例を見たことはありません」と語る。「しかし新しい標準に準拠していくのはタイヤブランドでしょうし、すると既存のリムとの互換性が将来的に問題になってくるでしょう。そのため旧標準の組み合わせを使うのは今のところ問題ないとしても、2年後には内径25mmのフックレスリムに対応する28mmタイヤを入手するのに苦労する、という状況になるでしょう。ないがしろにされるのは消費者です」

記事中でも強調されているのですが、内径25mmのフックレスリムと28mmタイヤの組み合わせが現在危険であると判断されたわけではなく、今後も「かつての規格」として使い続けられるのでユーザー側は特に心配する必要はないと思います。

しかしUCIがETRTO/ISOの基準から外れた組み合わせを積極的に認可する理由は確かにないと思うので、これから特にホイールブランド側で推奨タイヤ幅の数字が違ってくるなど混乱が出てきそうな気はします(その結果、内径25mmリムに対しては30mmタイヤが徐々に主流になってきたりして)。

エンドユーザーにとっては混乱しかないように見えますが、ライアビリティ(法的責任)やマーケットでの覇権争いといった「大人の事情」が背景にあるのだろうか、とも思いました。穿った見方をすると「西欧 vs. それ以外の国」という構図もあったりするのでしょうか?

著者
マスター

2007年開設の自転車レビューサイトCBNのウェブマスターとして累計22,000件のユーザー投稿に目を通す。CBN Blogの企画立案・編集・校正を担当するかたわら日々のニュース・製品レビュー・エディトリアル記事を執筆。シングルスピード・グラベルロード・ブロンプトン・エアロロード・クロモリロードに乗る雑食系自転車乗り。

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