プロサイクリング

ピエール・ラトゥールが恐怖症を赤裸々に語る「下りでビビって死にそうになる、それが俺の人生だよ」

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ツール・ド・フランス2023・第9ステージのピュイ・ドゥ・ドームでマイケル・ウッズに続いて2着でゴールインしたピエール・ラトゥール(TotalEnergies)が、フランスメディアとのインタビューで自身のダウンヒル恐怖症について赤裸々に告白しています。

出典 « Crever de trouille en descente, c’est ma vie » : sur le Tour de France, Pierre Latour en souffrance

以下、インタビュー記事の抄訳です。

Q: ステージ終了後にあなたは時々「ライダーとしてよくクソなことをやってしまう」と言っています。どういう意味なのでしょうか?

ピエール・ラトゥール:下りでどうしてもある種の恐怖心を克服できないんだ。そのせいでプロトンの後ろに戻るハメになって、また戻ってくるために無駄な力を使わざるをえなくなるんだ。その結果、いつも逆方向に走っているみたいになる。全部、頭の中で起こっている。それはわかっているんだけど、その恐怖は僕自身よりも大きいんだ。

Q: その恐怖はどこから来るのでしょうか?

A: 2019年のツアー・オブ・オマーンでの大落車で、橈骨と左手の舟状骨の2ヶ所を骨折したせいも勿論ある。でも他にもあったんだ。あと特に、下りではよく、ちょっと湿ったところがあるとホイールが動いてしまう。すると、何もかもが消えてしまうような気がするんだ。何もコントロールできないまま、真空の中に入っていくような感覚になって怖くなる。乗っている飛行機がエアポケットに入るみたいな感じだ。するともう終わりだよ、下りは詰まってしまう。カチカチになってしまい、あの恐怖にまた落ちてしまったとわかるんだ。頭の中では、まるでホイールの下にもう地面がないような感じになっているんだ。

Q: 具体的に、それはどんなふうに起こるのでしょう?

A: 悪循環なんだ。他のライダーたちが突っ込んできているのに、僕はブレーキングする。だから連中がすぐ近くでかすりそうになりながら抜いていく。すると飛行機に追い抜かれるような気持ちになってさらに怖くなってしまうんだ。連中の空気の流れを感じて、さらにこわばってしまう。僕はブレーキングする緊張のかたまりにすぎないものになる。わかってほしいのは、そういう時、前腕は片方50kgづつあるように感じられることだ。僕は完全に麻痺してしまう。

Q: どうやってそれを治そうとしてきましたか?

A: あらゆることをやったよ。ソフロロジー、精神分析、メンタルの準備、催眠治療までやった。するとしばらくのあいだは良くなる。でも下りでほんの少しでも不快感があると、頭が爆発してしまうんだ。アルコール中毒患者が1杯飲んでしまった時みたいに。すると振り出しからの再出発みたいになる。強調しておきたいんだけど、新しい落車がなくとも、何でもないようなわずかなスリップでそうなってしまうんだ。何もかもブロックされてしまう。たとえば今年は、ツール・デュ・ジュラまでは何もかもうまくいっていたんだけど、ちょっとした落車でひどい精神状態になってしまった。その後に新しいことを試してみた。オートバイのサーキットに行って、自分にその軌道を取れるかどうか、コーナーの速度に慣れられるかどうか試してみたんだ。本当だよ

Q: 今回のツールでは自分の下りをどうやってコントロールしていますか?

A: ひどかったのはピレネーのアスパンとトゥルマレーだった。でもブレークしていたから、先頭集団に戻るためにハードに行ってはいなかった。ゆったり下ったよ、そうしたかったから。それにカーブは正確にライン取りした。もし緊張してしまったら細切れのターンになってしまい、さらにこわばってしまうからね。スローペースになってバカみたいになる。

Q: 他にどんな危険があるのでしょう?

A: 道を横切るちょろちょろした水のような濡れたところが見えると、ブレーキングしてしまう。濡れたところでいちばんやっちゃいけないことだよ。無線で教えてもらっても意味がない、聞く精神状態じゃないんだから。でもたまに、チームメイトのアントニー・トゥルジスやトニー・ギャロパン(Lidl-Trek)のような信頼できるライダーのホイールを探して追ったりはする。彼らはあまりリスクを冒さずに下れるのを知っているから、安心できるんだ。僕は下りでは障害者だと言える、 バンプの上では保険マックスで走る男だ。下りでビビりまくる、それが僕の人生だよ

Q: 先日のツール・ド・スイスでの下りで亡くなったジーノ・マデルのことは、さぞお辛かったでしょうね…

A: (沈黙)うん、下りではひどい怪我を負うことは知っていたし、自分でも何度も経験した。でもあの日、死ぬことだってあるんだってわかった。怪我とは違うんだよ。ジーノはフランス語がうまかったから、よくおしゃべりしていたんだ。でも一瞬で彼はいなくなってしまった。喪に服する気持ちになってしまった。こういうことを言うと、バカだと思われるのはわかっている。100位で終えるのではなく50位で終えること以上に、僕の人生には価値があるんだ。

Q: なぜそうしたことを言うのですか?

A: 落車している連中がいるのに、軽い気持ちでバカみたいに下っていく集団をレースで見たことがあるからさ。時々、自分にちゃんと問いかけないといけないよ。前にいるなら、あるいは制限時間内に戻らないといけないなら、加速するのは構わない。でもそれ以外なら、何だってあり、というわけじゃないんだ。なのにまるでビデオゲームのようにやっている連中がいるのさ。

Q: ライダーたちはあまりにリスクを冒しすぎているのでしょうか?

A: 僕にはそれを言う資格がないと思う、だって僕は十分にリスクを取っていないから! でもディスクブレーキは危険を増しているとは思う。以前なら、ブレーキングは漸進的な(=少しづつ効く)ものだった。今では一瞬で効くから、ぎりぎりまでブレーキングを遅らせるんだ。

Q: こうした恐怖について語るのは容易なことですか?

A: 下りの時の僕の顔を見てください。僕の気持ちが現れていると思います。見てもらったほうがわかりますよ。でも他のライダーたちも僕と同じくらい怖がっていると思います、言いたがらないだけで。雇い主に叱られたくないんだろうと思います。

どんな選手にも得意分野・苦手分野はありますが、下りに大きい恐怖を覚えるという人でも、ツール・ド・フランスでステージ2位に入賞したピエール・ラトゥールに勇気付けられる人は多いのではないでしょうか。余談ですが、ディスクブレーキがレース全体の高速化とクラッシュの発生頻度に関係しているかもしれないと思える意見も、興味深く読みました。

著者
マスター

2007年開設の自転車レビューサイトCBNのウェブマスターとして累計22,000件のユーザー投稿に目を通す。CBN Blogの企画立案・編集・校正を担当するかたわら日々のニュース・製品レビュー・エディトリアル記事を執筆。シングルスピード・グラベルロード・ブロンプトン・エアロロード・クロモリロードに乗る雑食系自転車乗り。

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