Xシフター(XShifter)という製品を覚えている読者の方はおられますでしょうか。ワイヤレス通信で機械式リアディレイラーのワイヤーを引く、という面白い製品です。シフターはボタン式でハンドルバーなどに設置でき、インデックス調整はスマホアプリで自由自在。当ブログでも2018年12月の記事で紹介しています。日本の大きい自転車メディアや自転車雑誌でも取り上げられました。
このXシフター、元々は2016年にポール・ギャラガー(Paul Gallagher)という人物がKickstarterで出資を呼びかけた製品ですが、日本国内では2019年1月頃から量産品の発売が開始されました。発売元は台湾のシクロベーション(Ciclovation)という会社で、国内代理店はトライスポーツ。
最近、もし安くなっていたら買ってみようかな? と思って調べたところ、売っているお店が非常に少ないことに気付きました。そしてシクロベーションのサイトからXシフターの製品ページが削除されていることに気付いたのです(製品マニュアルだけ残っています)。
何か嫌な予感がしました。この製品について、若干不安になるような情報は以前にも耳にしたことがあったからです。
Xシフターは詐欺?
調査を続けて行くと、英語圏の掲示板・Redditのあるスレッドに辿り着きました。「詐欺アラート:”Xシフター”またの名を”Cell Cycling”またの名を”Paul Gallagher”」というタイトルです。
出典 Scammer alert: “XShifter”, aka Cell Cycling, aka Paul Gallagher
投稿は今から2ヶ月前とあるので、今年2020年の5月頃、つまり最新に近い情報です。要約すると次のようなことが書かれています。
- XShifterは2016年の秋にKickstarterに登場した
- プロジェクトは同年12月に終了し、製品の出荷予定は翌2017年の5月とされていた
- しかし510人のバッカー(支援者)達は製品を受け取れず毎月のアップデートを知らされるのみだった
- そのアップデートは毎回「また発送が遅れます」や「ソフトウェア担当者を解雇して新しい人を雇う必要があった」「もうすぐです!」「製造と配送センターを変更する必要がありました」いった同じような内容ばかり
- 2018年6月までにはアップデートの頻度は少なくなった
- 2019年には2回のアップデートしかなかった
- バッカーには製品を受け取った人も少数はいたように思われるが、自分自身を含めて大多数の人々は間違いなく受け取っていない
- 今年(2020年)4月16日、驚くべきことに”Cell Cycling”なる会社からマーケティングメールが届いた。その内容は「Xshifterのスプリングセール」というものでKickstarterでのバッカー向けに近い値段で販売されていた
現在はCell Cyclingが販売中だが…
上を読むと、Xシフターは現在Cell Cyclingという看板のショップで販売されているようです。同サイトによると所在地は台湾・台中。会社概要、記載なし。
Cell CyclingのサイトではXシフターのMTB版・ロード版どちらも$199で販売されています。在庫あり、の表示で、送料は無料です。
Xシフター(ミニポッド)の国内定価は税別33,000円です。それに比べるとCell Cyclingでの価格はかなり安いですが、果たして注文しても届くのでしょうか?
そしてシクロベーションは現在でもXシフターの販売を継続しているのでしょうか。国内で流通しているXシフターのサポートはどの会社が行っているのか。少し複雑なことになっていそうです。
大メディアも過去に続々と紹介
Xシフターについては2019年3月27日、Global Cycling NetworkもYouTubeで紹介しています。当時開催中だった台北サイクルショーで借りた製品を試用しています。
この動画にはこんなコメントが寄せられています。
XShifterの背後にある会社には気をつけてください。私はKickstarterでの最初のバッカーの1人ですが、2年が経った今でも製品が届くのを待っているところです。
この製品は現在、Cell Cyclingという名前の会社によって販売されています(所有もされていると思います)。私の考えでは元々の発明者も関係していると思いますが、確実にはわかりません。
Cell CyclingはKickstarterでの約束を守ると言っていたので連絡してみたところ、私をリストに入れたから3月には受け取れるはずだと言われました。結果、まだ受け取っていません。このショップから購入した人達は、製品が壊れた時にサポートを得るのが難しいか、不可能でしょう。
Xシフター これは詐欺です、Kickstaterで2年間製品が届くのを待っています。彼(ポール・ギャラガー氏)は単純に、出資者全員を見捨てたのです。質問しても返事もよこしません
英国の大メディア、Bikeradarも同日、2019年3月27日にXShifterの紹介記事を掲載しています。
出典 XSHIFTER brings wireless shifting to any road bike
記事にはこんなコメントが寄せられています。
Warren Rossiter(記事執筆者)へ
Xshifterについて、そしてどれだけ多くの人々がこの男に騙されたかについて調べたほうがいいです。このベーパーウェア(=vaporware, 下記参照)を何も知らない人々に向けて宣伝するかわりに、そのことについて記事を書くべきです。彼にお金をもらっているんですか?
ポール・ギャラガー氏の主張
XShifterの発明者、ポール・ギャラガー氏はKickstarterのプロジェクトページで2020年2月9日、”Corona Virus”というタイトルで近況を報告しています(当時、氏は台湾に滞在中)。それを読むと、いまコロナで物流が止まっているから発送が遅れている、という主旨の内容を書いています。
皆さんは私の先のコメントを読む必要があります。現状を理解する必要があります。1月には出荷準備をしていましたが、そのタイミングでパンデミックが来ました。世界中のほぼ全てのビジネス同様、私達も自由に身動きが取れない状況です。パーツの調達が困難です。台湾への調達、台湾からの出荷いずれも困難です。香港にまだ少し在庫があるのですが、低コストの配送方法がありません。すべてエクスプレス便で発送しなければなりませんが、それは現在非常に高額です。もしこの製品を本当にいま欲しいのであれば、自分自身で送料を調整する必要があるでしょう。私達はいまそれに対応することはできません。
しかしコロナ問題の以前から2年にもわたり最初の約500ロットの大半がバッカーの手元に届いていないことを考えると、これは苦しい言い訳と言われても仕方なさそうです。
説明に対してバッカーの1人が次のようにコメントしています。
ちょうどいまCell CyclingからXシフターのディスカウント・オファーのメールが届きました。私達Kickstarterのバッカーたちはいつ製品を受け取れるのでしょうか?
それに対するポール・ギャラガー氏からの返信はありません。
自転車操業に陥っている?
今回この記事を書くにあたって数多くのサイトを閲覧しましたが、Kickstarterの出資者(バッカー)達が製品を受け取れていないにもかかわらず他の会社やショップサイトからXシフターが販売されているのは、最初の出資者達に製品を送るための資金を調達することが目的ではないか、つまり自転車操業状態に陥っているのではないか、という声がありました。
しかしそれが本当だとしても、そもそも最初に得た出資金はどこに行ってしまったのだろうという疑問は残ります。また出資者への十分な説明が全くない状態でシクロベーションという会社がXシフターを販売したり、Cell Cyclingという謎のショップから出資者に「Xシフター安売りセール中!」というメールが届く、というのはどうにも納得が行かない話ではあります。
現状、市場に出回っている実物を買うのであれば、使用にあたっては問題ないかもしれませんが、長期的なサポートや、専用アプリのバージョンアップには不安が残ります。また謎の海外通販ショップから買うのもかなりリスクが大きいように見えます。
ポール・ギャラガー氏は詐欺師である、と明確に非難する人々もいれば、Kickstarterで投資したお金を無駄にしたくないのでとにかく今でも製品の到着を信じて待っている、という人々もいます。
この一連の出来事の不思議なところは、Xシフターというきちんと動作する面白い製品が、数量不明ではあるもののちゃんと市場に出回っていて、使っている人もいること。そしてギャラガー氏が単なる詐欺師であれば姿をくらまし音信不通になってもおかしくないと思うのですが、Kickstarterでは定期的に近況報告をしているところ、などです。
ギャラガー氏は何らかの法的な問題を回避しようとしているのでしょうか。それとも本当に最初のバッカー達に製品を送るつもりでいながらも、思い通りに行かない特殊な事情を抱えているのでしょうか。
なお調べてみたところKickstarterはプラットフォームにすぎず、手数料は取るもののプロジェクト創始者と出資者間のこのようなトラブルには介入しないようです。オークション出品者と落札者間のトラブルには関知しないヤフオク!に近い立ち位置でしょうか。
参考 Kickstarter、失敗したプロジェクトでの返金責任について明言
またKickstarterの出資者は基本的に客(カスタマー)ではないので、クレジットカード会社に返金を求めることも難しいと言われています。