インナーチューブには主に2つの素材があります。ラテックスとブチルです。ラテックスは軽量で、乗り味も良く、高価です。ブチルはラテックスに比べるとやや重くなることが多いのですが、空気の抜け方が遅く、安価なものが多いです。
どちらもクリンチャーやチューブラータイヤのインナーチューブとして使われています。
よく「ラテックスチューブは空気の抜けが早い」と言われます。では実際にどのくらいの早さでどのくらいの空気が抜けるのでしょうか。そしてブチルチューブと比較するとどんな結果になるのでしょうか。
というわけで、この記事ではこれら2つの異なる素材のチューブの「空気の減り方」に焦点を絞り、比較実験した結果について書いてみます。
実験対象
Vittoria ラテックスインナーチューブ ROAD
まず素材を準備します。今回はラテックスチューブの代表として「Vittoria ラテックスインナーチューブ ROAD」を使うことにします。軽量で乗り心地も良い、定番のチョイスです。サイズは700×25/28C、バルブ長51mmのものを選びました。
このチューブは軽く粉がふいていて装着しやすいのですが、やや幅があるので下の写真のようにタイヤビードの外に出てしまわないよう注意が必要です。なかなか指で押し込むのは難しいので、この状態でほんの少しだけ空気を入れると自然と中に収まってくれます。
フルに空気を入れはじめる前にビード全周を観察して、もみこみながらチューブがはみ出ていないかをチェック。大丈夫そうなら空気を入れていきます。
Panaracer R’AIR(比較対象)
比較対象のブチルの代表として「Panaracer R’AIR」を選びました。これも軽量な製品で人気です。700×23-28C、48mmバルブのタイプを選びました。
これは上のVittoria Latexよりは細いので入れやすいですが、バルブ付近でこんなふうにはみ出ることがあるので要注意。これもちょっとだけ空気を入れてあげるとスルッと内側に勝手に入ってくれます。その後は同様にビードに噛まれていないかをチェックし、大丈夫そうなら空気を入れていきます。
実験内容
今回実験する内容です。
- タイヤはMavic Yksion Elite 700x25Cを使用(x2)
- リムはメーカー不明の安物クリンチャータイプを使用(x2)
- それぞれにVittoria LatexとPanarace R’Airをインストール
- どちらも7 BARまで空気を入れる
- これらのホイールは乗車せず、同じ気温の室内で保管する
- 以後、24時間毎に、7日間にわたって空気圧を測定する
こうすることで「1日経つとどのくらい空気が減るのか」や「1週間経つとどのくらい減るのか」といったことがわかります。
空気圧の測定には「Panaracer BTG-F 仏式バルブ専用アナログメーター」を使用しました。
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実験結果
それでは早速実験結果を見ていきましょう。
ラテックスは1週間で7 BARから1.6 BARに
結果をテーブルにしてみました。すると当然ながらラテックスチューブのほうが空気の減りが早いことがあらためて明らかになりました。
経過時間 | 0日目 | 1日後 | 2日後 | 3日後 | 4日後 | 5日後 | 6日後 | 7日後 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Vittoria Latex | 7 bar | 5.9 bar | 4.9 bar | 3.9 bar | 3.1 bar | 2.4 bar | 2 bar | 1.6 bar |
Panaracer R’Air | 7 bar | 6.9 bar | 6.4 bar | 6.3 bar | 6.1 bar | 6 bar | 5.9 bar | 5.8 bar |
視覚化したほうがイメージしやすいのでグラフにしてみました。青い線がラテックスで、赤い線がブチルの空気圧変化量を示しています。見てわかるように、ラテックスは1週間で7 BARから1.6 BARまで空気圧が落ちています。5.4 BAR分落ちました。
ブチルは1週間で7 BARから5.8 BARに
一方ブチルは一週間で5.8 BARまで落ちましたが、わずか1.2 BARしか落ちていません。こうなると宿泊しながらの自転車旅行や、自転車通勤などではブチルチューブのほうが空気を入れる手間が少なくなるので運用はずっと便利であることがわかりますね。
変化率で見る
次に空気圧の変化率を見てみましょう。スタート時の7 BARからの変化率を計算して表にしてみました。
経過時間 | 0日目 | 1日後 | 2日後 | 3日後 | 4日後 | 5日後 | 6日後 | 7日後 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Vittoria Latex 変化率 | 100% | 84% | 70% | 56% | 44% | 34% | 29% | 23% |
R’Air 変化率 | 100% | 99% | 91% | 90% | 87% | 86% | 84% | 83% |
これを見ると、割合的には
- ラテックスチューブの空気圧は7日後には23%まで下がる
- ブチルチューブの空気圧は7日後には83%まで下がる
ということが言えます。ただ、これは7 BARではじめた時の数字であり、実験中はライドで使ってない時の結果なので、あくまで参考値です。現実的にはどちらももう少しだけ減るのではないでしょうか。チューブの銘柄、タイヤの太さやリムによっても結果は違うでしょう。
減り方はリニアでない
グラフや変化率を見ていて気付くのは、ラテックスもブチルも空気圧の下がり方がずっと同じ比率ではないということです。ラテックスは最初の3日間はきれいにほぼ1 BARづつ減っていくのですが、3 BARあたりからの落ち方はゆるやか。
ブチルは1日後には0.1 BARしか減っていなくて、2日後には0.5 BARとやや大きめに下がるのが不思議です。その後の減り方はかなりゆるやか、というか微減に留まっています。
ラテックスチューブは「空気が早く減る」だけでなく「毎日多く減る」ように見えます。一方ブチルは、2日目にやや多めに減るが、その後の減り方はかなりゆっくり、という特徴があるように見えます(もっと長いスパンで測定するとどちらも同じような変化の仕方になるような気もします)。
実験結果まとめ
今回の実験結果を箇条書きでまとめます。
- ラテックスは7 Barから開始すると最初の3日間、1日にほぼ1 Barづつ空気が減る
- ラテックスは1週間後には1.6 Barまで減ってしまう
- ブチルは7 Barから開始すると24時間後もほぼ減っていない(変化率で言うと1%しか減らない)
- ブチルは1週間後でも5.8 Barを保持
この実用的な解釈は、
- ラテックスはライド前に必ず空気圧をチェックしたほうが良い
- ラテックスは3日空気入れていないと相当ヤバい
- ブチルは翌日空気入れなくても全然平気
- ブチルは1週間空気入れなくてもほぼパンクリスクなし
みたいなところでしょうか。
実験を終えて
今回の実験は、もともとは単純に「ラテックスって24時間でどれくらい空気が減るんだろう」という疑問を確かめるためにはじめたのでした。しかしやっているうちに「翌日はどれくらい減るんだろう。その翌日は…」と興味が湧き、空気圧の経時的な変化を調べることにしました。
やってみて面白かったのが、空気圧変化量が線形的ではなく、指数関数的である、ということです。ただそれが何の役に立つかはわかりません(笑)
そしてブチルチューブの空気保持力の優秀さをあらためて実感しました。月曜日の朝に7 BAR入れて、翌週の月曜朝に5.8 BARということになります(実際に通勤で毎日ライドしたらもうちょっと減りそうですが)。そして最初の24時間ではほとんど空気が抜けないように見えます。48時間経っても0.6 Barしか減りません。
ラテックスチューブについては、最高の乗り心地と性能を楽しむには、旅行中ならやはり毎日チェックしないといけないですね(というか、タイヤの空気圧は乗るたびに測定するのが基本ではあります)。
他に、「5 BARからはじめた時は空気圧の下がり方はどうなんだろう」とか「チューブレスはどうなんだろう」といったことも調べたくなりました。タイヤの太さによっても結果はかなり変わりそうです。こうやって実際に実験してみると、新たな疑問が次々に湧いてくるのが非常に面白いですね。
追記:この記事で紹介した実験データをonittyさんがより詳細に解析して下さいました。大変ためになっておもしろい内容なので是非あわせてお読みください。
Vittoria LatexとPanasonic R’Airの実測重量
参考までに今回の実験で使用した「Vittoria ラテックスインナーチューブ ROAD」と「Panaracer R’AIR」の実測重量情報を掲載しておきます。
Vittoria Latex | Panaracer R’Air |
---|---|
86g | 79g |
Vittoriaは700×25/28C、バルブ長51mmのものです。R’AIRは700×23-28C、バルブ長48mmのものです。計測はチューブを束ねるゴムバンド(R’Air)を外し、バルブキャップは付けた状態で行いました。
R’Airの軽量さが際立っています。普通のブチルチューブはこんなに軽くありません。「軽量さ」と「空気の抜けの少なさ」という2点だけで見るならR’Airの圧勝です。重量差はわずかなのでなかなか悩ましい選択ですが、自分にどちらが向いているかは「両方使ってみないとわからない」というところでしょうか(笑)。
この2つのいずれかを選ぶにあたって他に参考にしたい重要な属性には「乗り心地の良さ」と「耐パンク性」などがありますが、それらについてはいずれ別記事で書いてみたいと思います。
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