数年前からUCI(国際自転車競技連合)は選手がメカニカル・ドーピングをしていないかどうかを調査するようになっています。具体的にはバイクの内部にモーターを仕込んでいないかどうかを調べているのですが、ツール・ド・フランス2021のこれまでの15ステージについての調査結果を7月12日に発表しています。果たしてその結果は?
出典 UCI update on testing for technological fraud during the 2021 Tour de France
ツール・ド・フランス2021のバイクはいまのところ「陰性」
以下、UCIによる調査結果の主要な部分を紹介します。
- UCIはツール・ド・フランス2021のこれまでの15ステージ全てについて、技術的詐欺(technological fraud =メカニカル・ドーピングのこと)がないかどうか厳密なテストを行った
- 全ステージの開始前・開始後に合計で720台のバイクがテストされたが、結果は全て陰性だった(=違反車両は発見されなかった)
- うち606台はステージ開始前に「マグネティック・スキャン・タブレット」を使用してテストされ、他の114台についてはステージ終了後に「X線技術」を使用してテストされた
- ステージ後のテストについては、その日のステージ優勝者のバイクと総合成績トップの選手のバイクが必ず含まれることになっている
- それ以外のステージ後のテスト対象バイクは、UCIが独自の情報・調査に基づいて選定したもの、UCIのアンチ・ドーピング活動を担当する独立機関である国際テスト機関(International Testing Agency, ITA)がテスト対象に選んだアスリートが使用したものととなっている
- UCIは2016年にマグネティック・タブレットを、2018年にX線技術を導入している
- TOKYO 2020では「後方散乱テクノロジー」(backscatter technology)が使用される。これは比較的コンパクトで軽量なハンドヘルド・デバイスで、バイクの内部の映像が瞬時に映し出され、セキュア・プラットフォームで世界中何処からでもリアルタイムに共有できるものとなっている。東京オリンピックでのロード・MTB・トラック競技で使用される予定だ
- イタリアのヴァル・ディ・ソーレで行われるUCI MTB世界選手権(8月25-29日)、ベルギーのフランドルで行われるUCIロード世界選手権(9月19-26日)でもこの最新のテクノロジーを使用したテストが実施される
- メカニカル・ドーピングとの戦いは、UCIのイノベーション・マネージャー、マイケル・ロジャースの職責の1つであり、同氏は「ツール・ド・フランスでの我々のテストは徹底的で広範なものであり、スポーツサイクリングの品位を確かなものにするというUCIの欲求に沿ったものだ」と語る
- 「東京で使われることになる我々の新しい『後方散乱テクノロジー』(後述)は、サイクリングファンとステークホルダーからの信頼を確かなものにするための重要なステップのひとつだ」
- マイケル・ロジャースは、ツール・ド・フランス2021の最終6ステージでも同じペースでテストが行われると述べた
メカニカル・ドーピングは2016年に初めて発覚
メカニカルではない「伝統的なドーピング」については、今年は実はサイクリング界で陽性者が多めに発覚しているらしいのですが(理由はコロナ禍で検査回数が減っているため、その隙を突いて違反を行う選手が増えているからという憶測もあります)、メカニカル・ドーピングについては今のところ違反者がいなかったようで何よりですね。
もっともツール・ド・フランスのような晴れ舞台で万一メカニカル・ドーピングを行ってそれがバレたりしたら、選手もチームも関係者もサイクリング界からほぼ間違いなく永久追放されるでしょうから、そうしたリスクを取る動きがないのは当然かもしれません。
自転車のフレーム内部にモーターを内蔵して「不正な電動アシスト」を得ようとする人なんかいるのか、と思われるかもしれませんが、2016年にはベルギーの女子シクロクロス選手が史上初めてメカニカル・ドーピングを行ったことが明らかになっています(下のツイートで見られるバイクに仕込まれていました)。
The allegedly motorized bike #CXzolder pic.twitter.com/W8M3z9EKr0
— José Been (@TourDeJose) January 30, 2016
他にも「あまりにも強すぎる」ライダーは度々「メカニカル・ドーピングを行っているのではないか」という疑惑をかけられてきました。中でもスイスの名選手ファビアン・カンチェラーラはメカニカル・ドーピングどころか「そもそも本人がメカなんじゃないのか」というロボット疑惑もありましたね(笑)
さて、UCIの記事では「後方散乱テクノロジー」なる新技術(Wikipedia)が東京オリンピックで使用されるそうですが、これは空港のセキュリティや気象レーダーなどでも応用されている技術で、バイクの内部をその場で可視化できるようになっているものと思われます。
自転車競技で過去にメカニカル・ドーピングが行われたのは事実ですが、こういう検査方法が出てきたら今後はまず再発しないのではないでしょうか。
ちなみに元記事中の「UCIのイノベーション・マネージャー、マイケル・ロジャース」とはオーストラリア出身のプロサイクリスト、あのマイケル・ロジャースです。現在ではUCIで重要な仕事をされているんですね。