シリーズ「伊豆諸島を自転車で探検してみよう!」第7回では、筆者の式根島でのサイクリング体験をご紹介しつつ、訪島を考えている方向けに「こんなふうに行動を組み立てると良いのではないか」というアイデアをご提案したいと思います。
式根島は新島と神津島のあいだにある、平べったい島です。行政区域的には「東京都新島村式根島」で、お隣の新島からは連絡船で約10分という近さ。外周わずか12kmと面積も小さいため、サイクリングを主要な目的として訪れる人は、まずいないでしょう。それだけに情報が少なく、実際に走ってみるとどんな感じなのだろうと、ずっと気になっていたのでした。
式根島への上陸手段
まずは式根島へのアクセスから。東京(竹芝)または伊豆の下田から大型船やジェット船で行くか、隣の新島から連絡船で渡るかの二通りが考えられます(新島までは調布飛行場から空路もあります)。東海汽船の大型客船で行くなら、夜10時に竹芝桟橋を出発して翌朝9時に到着。ジェット船なら3時間で行けます。港は現在、野伏港の一ヵ所のみ(写真下)。
私は式根島を二度訪れたのですがが、いずれも新島から連絡船「にしき」で渡りました(写真下)。新島も式根島もサイクリングを主要なアクティビティとして据えるには単独では物足りない印象があるので、個人的にはどちらかの島に泊まって2島を一度に楽しむのがベストではないかと思います。私は新島を拠点として式根島に遊びにいく、という方法を採りました。
下は新島側の連絡船にしきの乗り場です。新島港の大型客船用埠頭の隣にあります。切符は予約制ではなく、その場で現金で購入するスタイルです。運賃は片道430円、手荷物(ミニベロ)210円でした(詳細は公式サイトを参照のこと)。朝・昼・夕方に2島間を3往復します。朝の便で渡り、夕方の便で新島に戻る場合、式根島での行動時間は8時間になります。
連絡船にしきの公式サイトには「自転車は乗せることが出来ません。なお、折り畳み自転車の場合は、折り畳んで乗せることは可。」とあります。私は折りたたみ自転車を輪行袋に入れて運びました(袋は必要だそうです)。下は船室の通路で、黒い袋に入っているのは14インチのDahon K3です。この通路以外に、待合室のような別の船室にも自転車を置けるスペースがあります。
ロードバイクは小さいものなら交渉次第かなと思います(離島には石に刻まれたようなルールは少なく、多くの物事が弾力的に運用されています)。あとは利用者の人数次第。
しかし新島と式根島は、どちらも小径車で十分に楽しめます。坂道はそれなりにあるので変速ありの自転車のほうが望ましいですが、700Cでなくとも大丈夫。もし「連絡船にしき」で両方の島を楽しみたい場合は、折りたたみ自転車を持っていくポタリング小旅行、という感じにするのが良いと思います。Brompton, Birdy, Dahon, Tyrell。そんな自転車が似合う島です。
式根島はどこを走れる?
式根島はどこを自転車で走れるのか。まずは下の地図をご覧ください。これは実際に行ってみるまでわからなかったのですが、地図の右側で赤丸で囲まれているエリアがありますよね。その拡大図が左側になっているわけですが、緑色の線で記されているトレイルはすべて自転車では走れません。完全徒歩道です。少しは走れそうなところはないかと期待していたのですが、ダメでした。
逆に言うと、島西部のこの緑色の道以外であれば、どこでも走れます。島を半周する道路があり、そこから海岸や港に降りる分岐があり、加えて村内を縦横に走る路地がある、というイメージです。自転車で走れる距離は非常に短く、ただ走るだけなら1時間で回れるように思います。そのため、自転車を停めて上の地図に記されている遊歩道も歩いてくる、という遊び方がおすすめです。
島内道路の様子と主な観光スポットなど
式根島の道路はおおむね下の写真のような雰囲気です。交通量は非常に少なく、信号は一ヵ所のみ、制限速度は30km/h。すべて舗装路で、ほぼ全域が良好な路面でした。
道案内がある観光スポットはすべて寄っていったほうがいいでしょう(そうしても時間的に余裕があると思います。海岸まで下っていって戻って来ると走りごたえもあります)。下は野伏港のすぐそばの泊(とまり)海水浴場。写真では伝えきれないほどの美しさでした。
新島や神津島から式根島を眺めていたとき、ずいぶん平べったい島だなぁ、お好み焼きかパンケーキのようだ、きっとZwiftなら”Tempus Fugit”のような平地天国に違いない、とずっと思い込んでいました。
しかし、それは完全にフラグでした… お隣の神津島ほど厳しくはないものの、村内の路地はなかなかの坂道だらけで、雰囲気も神津島に似たところがありました。
島内の道の雰囲気も、新島よりも神津島に近いと感じました。
たまにものすごい坂が出てきます。ただ距離が短いですし、なんなら自転車から降りてのんびり押し歩いても困らないくらい、時間はたっぷりあります(すると「自転車で来る意味はあるのだろうか」と思わないこともないですが…)。
徒歩でも3時間ですべての道を歩けると言われているほどの小さい島です。しかし後半で紹介するハイキングも存分に楽しむ場合、坂が多いとはいえ自転車があるとだいぶ効率的に移動できます。
式根島は温泉が有名なので、是非寄っていきたいところですね。しかしのんびり浸かるには、日帰りだと組み立てが少し難しいかもしれません。下は有名な地鉈(じなた)温泉。新島の有名なサーフスポットである「シークレット」に至る「堀切階段」を思わせる地形で、長い階段を降りていった先に露天風呂があります(水着着用で24時間入れます)。
その地鉈温泉の湯が「松が下雅湯(まつがした・みやびゆ)」という、式根島港そばの温泉に引かれています(写真下)。ここは比較的道路の近くなので、浸かっていく時間は作りやすいかもしれません。でも温泉をたっぷり楽しみたいなら式根島で一泊したほうがいいと思います。
私はこの松が下雅湯で足湯を楽しみました。どの温泉も24時間入れます。真夜中に来たら星もきれいできっと素晴らしいだろうと思いました(いつか絶対にやりたい)。
雅湯のすぐ近く(歩いて3分くらい)にはもうひとつ「足付温泉」という温泉もあります。式根島の主な温泉は地鉈温泉・松が下雅湯・足付温泉の3つで、どれも島の南部に集中しています。時間がない時は足湯だけ楽しんでいくのもありでしょう。
ハイキングしない手はない
さて、先述のように式根島でのサイクリング活動はあっという間に終わってしまうので、ハイキングも楽しんでおきましょう。式根島のハイキング、本当におすすめです。私、かなり驚きました。少し歩くだけで、ものすごい絶景が見られるんです。運動強度も低いので、歩き慣れていない方でも全ての遊歩道を回れると思います。
式根島ハイキングのおすすめの組み立て方は、「神引(かんびき)展望台」の入口(写真下)に自転車を停め、ここから遊歩道を歩きはじめて、またここに戻ってくるというものです。
下が神引展望台。奥に見えているのは新島です。絶景ですが、新島の石山同様、ここには自転車では入ってこられません。
これも神引展望台からの眺め。式根島はリアス式海岸が美しい島で、宮城県の松島になぞらえて「式根松島」とも呼ばれています(植生も松などのコニファーが中心)。奥に見えているピラミッドっぽい形の島は利島、その奥が伊豆大島です。
下は神引展望台の入口から歩いていける「唐人津城(とうじんづしろ)」という名所で、新島の石山や神津島の天上山の魅力を箱庭のように凝縮したかのような、入江近くの素晴らしい丘でした(「づしろ」とは「人や魚の集まる場所」という意味で、ここに何らかの「城」があったわけではないようです。唐人=過去に外国船が漂流したからこの名が付いたという説があります)。
何の案内板も注意書きもないのですが、結構危ない「岩ヤ」向けコースがしれっとあったりして、驚きました(一般的な注意力があれば歩ける稜線ですが、突風が吹くとかなり危ない)。神津島であれば1時間ほど頑張って歩かないと見られないレベルの風景が、式根島なら軽く15分散歩するだけで見られてしまう。そんな感じなのです。ダイナミックな自然がすぐそばにあるのです。
唐人津城からは御釜湾遊歩道を歩き、島の西部をぐると回って神引展望台の入口に停めた自転車のところまで戻りましょう。下の写真は御釜湾の展望台から撮ったものですが、神津島の手前に見えている岩が伊豆大島の筆島みたいでおもしろいですね。
さらに時間があるなら、神引展望台から「出逢い橋」まで、神引湾に面したトレイルも歩けます。式根島のハイキングコースはそれがほぼ全て。歩くのが好きでないという方でも、神引展望台と唐人津城だけは外さずに行ってみたほうが良いと思います。
式根島は観光地としてすごすぎた
私は式根島の大ファンになりました。サイクリング、という意味では、走れるところは想像していたよりもずっと少なくて、平地のサイクリングを存分に楽しめるのではないか、伊豆大島のサンセット・パームラインのような道が延々と続いているのではないか、となんとなく期待していたのですが、全然違いました(実際はプチ神津島とも言えそうな坂地獄なのであった…)。
なら、式根島に行ってガッカリしたのかというと、いやいやいやいや、私の中で式根島は伊豆諸島の中で、純粋に観光を楽しむのであれば一二を争うほど風光明媚な島でしたよ。
まぁ、サイクリング目的で行く島ではないとは思います。ただ新島とペアで訪れる前提であれば、自転車を持っていくと楽しさが倍増するのは間違いないです。
伊豆諸島の島々のなかでサイクリングをガッツリ楽しみたいなら、ボリューム面からするとおすすめはやはり伊豆大島・八丈島・三宅島という順番になり、式根島と新島は上位にランクインはしません。しかし「今すぐにでも、もう一度行きたい島はどれ?」と聞かれたら、私は「式根島だ」と即答するかもしれません。それくらい素晴らしいところでしたよ。
サイクリング的には、やはり新島と一緒に楽しむつもりで行ったほうが良いかな、と思います。あとは神津島もすぐそばですから、3島を1回の訪問で、4〜5日かけて巡るというのもいいと思います(ただ「連絡船にしき」を使うならミニベロ前提にはなるでしょう)。
あと私はソロで行ったのですが、式根島はカップルに特におすすめしたいと思いました。彼女や奥さんに式根島旅行をプレゼントしたら、間違いなく喜ばれると思いますよ。家族旅行にもいいと思います。小さいけれど、伊豆諸島の魅力がぎっしり。式根島はそんな島でした。