シリーズ「伊豆諸島を自転車で探検してみよう!」第6回では、自転車で走る神津島(こうづしま)の主な走行ルートを私の体験をもとにご紹介します。また神津島に行くのなら人気の天上山(てんじょうさん)のトレッキングも楽しみたいという方も多いと思うので、それとサイクリングをどう絡めるか? というモデルコースもご紹介します。
神津島は伊豆諸島の「神」々が「集」って水の分配について話し合ったという伝説がある島で、古くは「神集島」とも記されていたそうです。
神津島へのアクセスなど
最初に神津島へのアクセス情報を書きます。次の3つの交通手段があります。
- 調布飛行場から新中央航空で約40分
- 東海汽船のジェット船で竹芝桟橋から3〜4時間
- 東海汽船の大型客船で竹芝桟橋から10〜12時間
地図上では東京都内からの神津島までの距離は八丈島までの半分くらいに見えるのですが、船の場合は「東京〜神津島方面(大島経由)」と「東京〜八丈島方面」の2つの航路があり(※下田〜神津島航路もあります)、大型客船で行く場合は八丈島に行くのと同じくらいの時間がかかります(半日弱。夜10時に竹芝桟橋を出て翌朝10時に神津島に到着)。
飛行機やジェット船ならそれほど時間はかからないのですが、荷物の制限が出てきます。軽量なロードバイクか小径車+バックパック程度の手荷物が全てで民宿を利用する、という場合ならそれもありですが、バイクパッキング・ツーリング派は恐らく大型客船を選ぶことになるでしょう。
大型船の場合、自転車は輪行袋に入れて船内へ持ち込む(無料)、または輪行袋に入れて受託手荷物にする(600円)、または自転車を袋に入れず受託手荷物としてコンテナに預ける(1800円)という3つの方法があります。袋入りでない自転車をコンテナに預ける場合、竹芝桟橋では受付が20〜21時限定。神津島では出航50分前までに預けます。
運賃は、オフシーズンなら大型船の二等船室(最安)で概ね往復1.3〜1.5万円(三宅島に行くのと近い料金)。ジェット船なら2.3〜2.5万円という感じです。
神津島での滞在日数について
神津島でどんなサイクリング活動をするとしても、一泊では時間が足りないかなと思います。というのも、どの交通手段で訪島しても初日の活動開始は10〜12時頃以降になり、翌日の出発もほぼ同じ時間帯になるため(ターミナルだから)時間の配分が少し悩ましいのです。
しかし帰路を飛行機にすると15時台の便もあるので、往路は船、帰路は飛行機にすると一泊でも行動時間は増えるかもしれません。
一泊を何度か繰り返して楽しむ、というのももちろんありでしょう。個人的には二泊以上の滞在がおすすめです。
島を俯瞰してみよう
神津島の細かい走行ルートを見る前に、島全体を俯瞰してみましょう。下は神津島郷土資料館で撮影した島の立体模型です。神津島は八丈島・新島と同じようにひょうたん型をした島で、北部にどデカい山、南西寄りに小さめの山があります。人は西の前浜港近くの集落に固まって住んでいます。比較的平坦な島南部は農耕地が多い印象を受けます。
島の東西を結ぶ道は新島や八丈島ほど平坦ではなく、きつめの峠道になっています。また、島北東部の海岸側をぐるっと回る道路はありません。このあたりの制約は新島と似ています。山や谷の配置も、あらためて考えるとやはり新島に似ているなぁと思わされます。伊豆大島と三宅島が兄弟島と言えるなら、神津と新島も兄弟島と言えるかもしれません(兄弟、というより姉妹という雰囲気かな?)。
下も郷土資料館にあったジオラマです(どの島でも郷土資料館にはこうしたおもしろい展示物があるので立ち寄るのがおすすめ。ネットでは得にくい情報が盛りだくさんです)。写真左側が北になっています。いちばん高い山が天上山。中心に見えているのが高処山(こうしょさん・たかどやま)、右のピーク付近が秩父山。
天上山の山頂は、イメージだけかなり雑に説明すると「伊豆大島・三原山の裏砂漠の白いバージョン」のようなもので、特殊な事情がなければ行動計画に組み入れたいところです。
神津島の主な走行ルート
神津島を自転車で楽しみたい場合、どんな道があるのかを見ていきましょう。まず大部分の島民が暮らしている前浜港寄りの集落は、下の写真のような狭い坂道が多いです。対面通行できる広さはないので、ポタリング観光する時はクルマの往来を妨げないように気をつけましょう。なお信号は前浜港前の一カ所だけだと思います。
次のセクションからは集落以外の道路を見ていきます。
前浜港と多幸湾を結ぶ2つの峠越えルート
西の前浜港と東の多幸湾(たこうわん・たこわん)を結ぶ道が2つあります。下の写真は多くの方が利用するであろう「神津本道」経由の道で、「秩父山登山口」付近をピークとした峠道になっています(高処山展望台から南下して降りる道もこの付近に至ります)。道幅が狭いのでクルマへの配慮が必要です(走らせてもらっている、という気持でいましょう)。ピークに至る坂は、どちら側からも厳しいものがあります。
下は天上山への登山口がある北側の峠道で、こちらは生活道路としてはあまり使われていない印象があり、比較的走りやすくなります。眺望も楽しめるので島を半周する時は積極的に通ってみると良いでしょう。
前浜港から赤崎遊歩道に至る海岸沿いルート
前浜港から北部の観光スポット「赤崎遊歩道」に至る海岸沿いのルートは、神津島の中ではいちばん平坦に近い道だと思います。位置的にも走行感的にも、伊豆大島の「サンセットパームライン」を想わせるところがあります。
途中で、後で紹介する「林道天上山線」への分岐があります(下の写真はその分岐で天上山線側から撮影したものです)。
海岸沿いの道を走り続けると、やがて赤崎遊歩道に至ります。伊豆大島であれば位置的には「乳が崎」のような終端です。
赤崎遊歩道の先には「大黒根トンネル」がありますが、工事は相当昔から中断されていて、再開する予定はないそうです。北部の「返浜(かやすはま)」という遊泳可能な海岸に繋げる予定だったのかもしれません。
島の南を半周するルート
島の南半分をほぼぐるりと回れるルートがあります。前浜港からまずはキリスト者・ジュリアおたあの十字架に向かいます。ジュリア氏は大島・新島を経て最終的に神津島で亡くなったとも言われているのですが、一説には大坂を経て長崎に渡ったという話もあります。神津島は神道だけでなくキリスト教とも縁の深い、不思議な島です。
ジュリアの十字架の先には名所「千両池」と「神津島灯台」があります(写真は千両池)。こうしたところも観光したい場合、ロードクリートのシューズでは無理なのでSPDシューズかフラットソールのシューズが良いでしょう(またはトレランシューズなどを別途携行しましょう)。
なお千両池から先は、下りに下らされた挙句行き止まりになるのでそのつもりで走りましょう(空港側には抜けられない農道になっています)。
千両池の手前で神津島空港への分岐路があります。この道で島の東側に抜けます。
道はやがて星空観察に向く三浦湾展望台へと至ります。三浦湾展望台からは下りとなり、神津本道に突き当たると左に行けば先に紹介した峠道のピーク付近に至り、右に行くと多幸湾への下りになります(多幸湾キャンプ場を経て北側の峠道に出られます)。
ちなみに他に星空観察に適した場所としては「よたね広場展望台」「高処山展望台」「ヘリポート(ジュリアの十字架近く)」「赤崎遊歩道」があります。自転車ならどこでも選び放題ですが、赤崎遊歩道以外はどこもきつい登りが入ります。
林道天上山線
島の北部を走れる3つの林道を見ていきましょう。まずは林道天上山線。西の海岸路沿いの「めいし遊歩道」付近で右に分岐があり、ここから入っていけます。
ひたすらまっすぐ走ると島東部の「観音浦」に至ります。鬱蒼とした雰囲気の林道です。観音浦の先にある観音堂(地元の人は「おかんのー・おかんのーさま」と呼んでいた)はハイキング経験者なら行動計画に組み込むのもありでしょう(しかしすごく時間がかかります。ロープによる崖道下りあり)。
天上山線から見る山の北東部の連なりの崖は「中国の雲南省です」と言われたらちょっとだけ信じそうになるくらい、幽玄な雰囲気があります。
林道神戸山線
林道神戸山線は天上山線の最初の分岐として現れる道です。これは個人的に坂好きのサイクリストにはおすすめしたい道です。長い長い登りを苦しむ楽しめる道です。距離・斜度・雰囲気ともに伊豆大島の「月と砂漠ライン」に似たところがあるように思います。
標高自体はそれほど高くはならないのですが、きつい。
終点はその名の通り「神戸山」という標高269mのピークで、ここは雰囲気が新島の石山そっくりで驚きました。さらに驚いたのが現地では「神戸山(石山)」と表記されていたところ。
この神戸山は新島の石山同様、かつてコーガ石(抗火石)の採掘場だったようです。新島との連続性を強く想像させる山です。
林道宮塚山線
林道宮塚山(みやつかやま)線も天上山線から分岐する3つ目の林道で(2つ目は返浜に至る下り)、天上山の登山口のひとつ「白島6合目」に至ります。隣に宮塚山という336mのピークがあるのでこの名になったようです(ちなみに新島にも利島にも宮塚山という名前の山があります)。
宮塚山線終点の白島6合目には駐車場・トイレがあります。なお島には前浜港・集落を除くと自動販売機はほとんどないので(北部なら赤崎遊歩道近くの「どんたくハウス」にはあったかも。あとは秩父山登山口前と空港)、林道巡りをする時は飲料の準備をお忘れなく。
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天上山登山と組み合わせたい場合
さて、神津島に来たからには天上山も登りたい。その場合、サイクリング活動とどう組み合わせたら良いのか。私の経験をベースにご提案します。
白島6合目〜山頂とのピストン
一つ目の選択肢は、先に紹介した林道天上山線〜宮塚山線で白島6合目まで登ってくる。そしてここに自転車を停め、山頂まで登山して帰ってくる、というものです。
普段登山はしないという方でも、自転車でここまで登ってこられる方であればたぶん山頂まで歩けると思います(登り1時間弱)。伊豆諸島の神々が水の分配についてここで協議したと言われる有名な「不入が沢(はいらないがさわ)」に至ります。ここから山頂エリアを2時間ほどたっぷり周遊して白島6合目へ下山します。
天候が変わりやすいのでレインウェア必須です(下の写真は上とは別の日に撮影)。
▼ 私が自転車ツーリングで愛用しているレインウェアの記事です。おすすめ。
このピストンルートでは、次に紹介する黒島登山口スタートに比べると「登っていく時の開放的な海側の景色」こそあまり楽しめないものの、それでも天上山歩きの体験がスポイルされることは全くないので、アリよりのアリな選択肢であると思います。
黒島登山口〜白島登山口〜黒島登山口
もう一つの選択肢は、島を東西に横切る峠道(北のほう)沿いにある「黒島登山口」に自転車を停めて登り、「白島登山口」に下山した後に黒島登山口に戻ってくるパターンです。
このコースでは登りの時、振り返ると素晴らしい景色を楽しめます(最高地点まで約90分)。白島登山口から登るとこの爽快感は味わえないので、特別な事情がなければ白島登山口(の0合目)から登っていく必要はないかなと思います(白島6合目からならサイクリングと組み合わせやすく、時短にもなるのでアリ)。
白島6合目から登山口までは鬱蒼とした茂みのなかを淡々とスポーツモードで下ることになるでしょう(結構きつめ。足元注意)。
白島登山口から自転車を停めた黒島登山口までは距離にして600mほど。約30分ほど歩くと辿り着きます(ただしここでまた坂が登場して軽く絶望します。どこをどう動いても坂また坂。それが神津島だ!)。
まとめ
この記事では「いつか神津島でサイクリングしてみたい」という方の参考になってくれたらいいな、という気持ちで、なるべく概略的な情報に絞って書いてみました。私自身の印象も交えて書いていくと3万字くらいになってしまうので細かくは書かないことにしましたが、少しだけ感想を書くと「とにかく坂がすごい」という言葉に尽きます。
斜度だけで見るとそこまで「ドラマティックな激坂」が連続するわけではない(と思う)のですが、前浜港〜赤崎遊歩道の海岸沿いの道を除くと、どこからどう走りはじめても「とりあえず10%の坂をどうぞ」という感じなのです。アップダウンも多めです。生活に必要な道が坂だらけなのです。
あとは風がすごいです(特に冬)。上の写真のような坂道でも、追い風になると荷物を積んでいなければ踏まずに勝手に登っていくくらいの風が吹くことがあります(誇張なし)。
この坂と、この風。もし神津島で生まれていたら、私は積極的に自転車に乗る人間になっただろうか、とよく疑問に思います。実際、自転車に乗っている人はあまり見ません。もしかしたらE-BIKEとの相性が良いかもしれません。
そういえば10年以上前だったか、有名な自転車雑誌で「E-BIKEで神津島を楽しむ」という感じの特集をやっていたような記憶があります。なるほどうまい場所を選んだなぁ、と今になって思います。E-BIKE乗りの方は自転車をコンテナで運んでもらえば、滞在時間に限りがあってもあちこち巡れるかもしれません(うまくやれば初日に白島6合目〜天上山ピストンコース、夜は展望台まで走って星空観察、翌日に早朝からその他の道も存分に楽しんで帰る、という計画もできそうです)。
私は神津島に行くようになって、はじめてE-BIKEに乗る自分を具体的にイメージできました。乗る予定はないのですが、この島で観光をメインに据えるサイクリングを楽しみたいのならE-BIKEを検討しない理由はないな、とも思いました。
神津島は、自転車で走行可能な総距離こそ伊豆大島や八丈島には及ばないものの、体力の消耗度は私にはとても高く、厳しい島だな、といつも思います(帰宅してからも一週間くらい疲労が抜けません!)。しかし、好きなので繰り返し訪れています。読者の皆様も一度是非行ってみて下さいね。自転車で走れる伊豆諸島の島としては、秘境度もいちばん高いと思います。
路面的にはどこも荒れたところはほとんどなく、ミニベロでも走れると思います(でも多段ギア必須。あと登れなければ押して歩けば問題なし)。