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プロサイクリング

スーパータックとTTポジションが禁止された場合のワット数・タイム差はどのくらい? ロードレースはより退屈なものになる?

先日UCIがロードレースでのスーパータックと、前腕をハンドルにのせるポジション(いわゆるTTポジション)を禁止し大変大きい話題になっていますが、果たしてこのルール変更の結果、プロサイクリストの出力にはどのような変化が生まれるのか。プロロードレースはどのような影響を受けることになるのか。Swiss Sideが過去の風洞実験の結果を基に考察しています。

出典 UCI Aero Position Bans – The True Impact. – Swiss Side

スーパータックが禁止された場合の影響

トップチューブに座って乗る「スーパータック」が禁止された場合のワット数の変化についてSwiss Sideが行ったシミュレーションの結果が以下の図表です。読み方はこれから説明します。

© Swiss Side

表側は上から、

  • サドルに座ったまま下る
  • トップチューブに座って下る

となっています。ダウンヒル時に座ったまま下るか、スーパータックで下るかの比較です。

また表頭のCdA, Delta To Ref, Absoluteは次の意味です。

  • CdA…空気抵抗係数(coefficient of aerodynamic drag)
  • Delta To Ref…基準値からの変化量
  • Absolute…絶対値

例えば時速50km/hで下る時、トップチューブに座るスーパータック乗りなら49Wの削減、時速70km/hでは135Wも削減できることになります。ロードレースの下りでは時速70km/h以上は当たり前なので少なくとも135W、これは大きいですね。

ちなみにこれは8%の下りを想定したシミュレーションで、10kmの下り区間につきトップスピードは5km/h違い、同サイトによればタイム差は30秒にもなるとのことです。

Swiss Sideのこの計算結果について、CBN Blogで科学系記事を多くご寄稿いただいているGlennGouldさんに有益なフィードバックをいただいたので以下にご紹介します。

この8%降坂の表は、実は、この速度で走った時(平地でも下りでも)の、空力抵抗成分を表示しています。ここで示された空力抵抗CdAでは、8%降坂は惰性走行で50km/h以上が簡単に出てしまいます。CdA=0.225では72km/hほど、CdA=0.194では77km/h程度が出るはずです。

したがって、8%降坂で50km/hってどういう意味なんだろうか?と疑問に感じる方もいらっしゃるかもしれないと思いました。

このCdAで時速50km/hで平坦路を走ると、マンパワーとして415W程度が必要となりますが、そのうちの85%程度が空力抵抗成分となります。それが表の356Wに相当します。これがトップチューブ乗りに対応するCdAで走ったとすると、308Wになる、ということは49Wだけ得します。しかしそもそも8%勾配の下り惰性走行で50km/h以上出るので、この数値は無意味と言っても良いと思います。

というわけで、8%とかいう数値はとりあえずあまり意味はなく、とにかくCdAが小さいと惰性走行で到達できるスピードが上がる、ということがDeltaの大きさからなんとなくわかる、という感じの理解でよいかと思います。

この表の空力アドバンテージの理解として、元記事では”Terminal speed difference ”が挙げられています。これが実は重要で、本来は、CdAが良くなったことで、例えば8%降坂の最終到達速度がどれだけ大きくなるのか、そして、その時に受けている空力抵抗がそれぞれ何ワットなのか、という順番で論じるべきなのですが、それをやってしまうと話が面倒になる、という配慮があったのかも知れません。この辺の話を、何となくではなく正確に理解するのは、実は少々厄介です。

ということで、Swiss Sideによる数字のプレゼンテーションは「話を伝えやすくするために重要な情報が省略されている可能性がある」ものとして読む必要がありそうです。

TTポジションが禁止された場合の影響

次にTTポジションが禁止された場合の出力変化を見ていきましょう。これは平地で10kmを走った場合のシミュレーション。

© Swiss Side

表側は上から、

  • 手をドロップ部に、腕はまっすぐ伸ばす
  • 手をドロップ部に、腕を半分曲げる
  • 手をフードに、前腕を水平にする
  • 手を使わずにTTポジションを取る

となっています。

これを見ると「手をドロップ部に、腕を半分曲げた」ポジションよりも「手をフードに、前腕を水平にした」ポジションのほうが効率が良いのも面白いですが、手を使わないTTポジションなら時速40km/hの場合に最大で24W、時速60kmの場合なら最大で79Wも省エネで走行できるというのもすごい数字ですよね。

Swiss Sideによれば、レースのシナリオで考えると、10kmの逃げを打つ選手がTTポジションを使えない場合、後方プロトンに対して得られるアドバンテージは13秒または180m分減少する、とのことです(ただしこれはプロトン先頭もTTポジションを取っていない場合)。

ロードレースはよりつまらないものになる

Swiss Sideの記事は次のような言葉で締めくくられています。

エアロダイナミクスについて言えば、今回のルール変更による影響は明確で、定量化可能で否定できないものです。

下りでのスーパータックを禁止することは空力抵抗を増加させ、スピードを減少させます。平地でロードバイクのTTポジションを禁止しても同様の結果が起こり、プロトンに対して持ちうる距離とタイムが減ってしまうため、逃げ選手が成し遂げうる効果を弱めてしまいます。

戦術的には、これはライダーとチームがアタックを計画し実行するために使えるカードを減らすことになります。

勿論、スーパータックにもTTポジションにもリスク要素はあります、何故ならバイクのコントロールレベルが落ちるからです。

しかしプロサイクリングは単に選手の体力だけでなく、バイクに乗るテクニックやスキルも競うものだ、という議論が必要でしょう。マウンテンバイクやシクロクロスのレースでそうなのですから、何故ロードレースだけ別になってしまうのでしょうか?

さらにロードレースの興奮は、部分的には戦術や逃げから生まれるものです。戦術や逃げがなくなってしまえば、レースはより退屈なものになり、エンターテイメント性は減るでしょう。

確かに選手たちの「逃げ」が見られなくなるのならロードレースの魅力は半減するように私も思ってしまいますが、UCIとしてはそのことによるサイクリングファン減少のリスクよりも、安全性などの他の面を優先させたい何らかの事情があったのでしょうか。

選手たちによる新しい工夫や斬新な戦術が登場することに期待しましょう。

著者
マスター

2007年開設の自転車レビューサイトCBNのウェブマスターとして累計22,000件のユーザー投稿に目を通す。CBN Blogの企画立案・編集・校正を担当するかたわら日々のニュース・製品レビュー・エディトリアル記事を執筆。シングルスピード・グラベルロード・ブロンプトン・エアロロード・クロモリロードに乗る雑食系自転車乗り。

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