UCIによるロードレースでのTTポジション禁止への対策製品として注目を浴びていたオランダSPEECOの「ABB」 (Aero breakaway handlebars)ハンドルですが、バロワーズ・ベルギー・ツアーでこれを使用したヤン=ウィレム・ファン・チップ選手(Jan-Willem van Schip, Beat Cycling所属)がレース第3ステージの終了後に失格処分を受けました。
参考 Jan-Willem van Schip moet Baloise Belgium Tour verlaten door speciaal stuur
レース開始前の機材チェックでは承認済み
ファン・チップ選手が抵触したのは以下のUCI新規定であると言われています。UCIロードレースでは今年の4月1日以降、スーパータック並びに「前腕をハンドルバー上の支点」とする行為が禁止されたところでした。
Position on the bicycle
Riders must observe the standard position as defined by article 1.3.008. Sitting on the bicycle’s top tube is prohibited. Furthermore, using the forearms as a point of support on the handlebar is prohibited except in time trials.
自転車のポジション
ライダーは1.3.008条で定義されている標準的なポジションを遵守しなければならない。自転車のトップチューブに座ることは禁止する。さらに、前腕をハンドルバー上の支点として使用することはタイムトライアルを除いて禁止する。
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しかし不思議なことに、ファン・チップ選手はバロワーズ・ベルギー・ツアー第3ステージ出走前のチェックで、機材についてはUCIによる承認を受けていました。
つまり「SPEECO ABBハンドル自体は問題ない」が、このハンドルの延長ショルダーに「肘から前をドッカリと載せること」はやはり認められない、という判断が下されたことになります。
SPEECO ABBハンドルは幅狭であることによる空力効果も高いとされていますが、この「疑似TTポジション」が認められなくなった今、19万円もするこのカスタムメイド・ハンドルを買う人はいなくなってしまうでしょう。
とはいえUCIはSPEECO ABBを使用するファン・チップ選手と、クリス・フルームによる「秘技・小指掴み」をわざわざ写真入りで丁寧に禁止してもいました。
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いずれにしても今回の判断が何らかの理由で覆らない限り、SPEECO ABBをプロロードレースで見かけることはもうないかもしれません。残る「対策兵器」はUCIコンチネンタルチーム・Ribble-Weldtite所属のダン・ビンガムの使用で話題になったタイプのスーパナロー・フレアハンドルのみかもしれませんね。
Like for narrower ❤️
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これは前腕を支点にしていないのでアウトにはできないでしょう。
なおファン・チップ選手が所属するBeat Cyclingは現在この件についてUCIに抗議中で、バロワーズ・ベルギー・ツアー第4ステージへの同選手の復帰を求めている最中です。
UCIが声明文を発表
この件についてUCIは6月12日に声明文を発表しました。以下はその全文です。
UCIは、プロシリーズ・ステージレースのバロワーズ・ベルギー・ツアー第3ステージ後のBEAT Cycling所属選手、ヤン=ウィレム・ファン・チップ選手の失格処分についてその立場を明確にしたいと思います。
ファン・チップ氏はUCI規則2.2.025条項を違反したために失格となりました。同規則では「…前腕をハンドルバー上の支点として使用することはタイムトライアルを除いて禁止する。」と定めています。同選手が取ったポジションは、ライダーの安全確保を目的とするこの規則に合致しないものでした。
UCIは、ファン・チップ氏の失格に繋がった問題のハンドルバーが、今シーズン始めにメーカーによってUCI機材協議会(UCI Equipment Commission)に提示されていたことを認めます。メーカーには、このハンドルバーが現状のデザインのままではUCI規則と矛盾することを伝達し、協議会は今後さらなる評価が行われるまで、UCI認定イベントでの同ハンドルの使用を禁止しました。
さらに3月には、全てのUCIロードチームは、2.2.025条項を含むUCIの安全対策について、禁止されるポジションの視覚的な例とともに、プレゼンテーションと説明を受けています。
最後にUCIは、UCI技術協議会による決定以後、今回のベルギーでのレースの第3ステージまで、BEAT Cyclingから一度も連絡を受けたことがないことを明確に致します。
これを読むとUCI的には既に「前腕をハンドルバー上の支点として使用すること」は認められないことを明確にしており、BEAT Cyclingが独断で使用したものだ、と主張したいようです。
今回のファン・チップ選手の失格の件で問題があるとすれば、レース開始前に行われたとされる機材チェックの段階でハンドルの使用を禁止しなかったことですが、「視覚的な例付きの説明」は確かに出回っていたので、同選手の失格処分が取り消される可能性は非常に低いような気はします。
ここでひとつ穿った見方をするなら、本件でヤン=ウィレム・ファン・チップ選手とBEAT Cyclingの名前はさらに有名になったので、認知度向上のための確信犯的なプロモーション活動だったのではないか… とも思えてきますが、勿論真相は誰にもわかりません!