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自転車がもたらす解放感の特徴は何か? マインドフルネスとの関連を考える

サイクリングはなぜ自由な感覚(freedom)をもたらしてくれるのか。解放感がある(freeing)のか。その解放感、何かから解き放たれる感覚は、自転車に特有のものなのだろうか。皆さんはどう思いますか… という議論を海外掲示板で見かけたのでご紹介します。

Freedom in Cycling

サイクリングは、私にとっては自由を意味するのですが、なぜそうなのだろう、と考えているところです。

子供時代、自転車によって「独立(=自分の力で何かをやった)」を初体験したのですが、その体験と関係があるのでしょうか?

自転車は他のアウトドア活動に比べても、解放感があると言えるでしょうか? 雪崩の危険もなく、複雑な山岳天気予報も不要、岩場で他のクライマーの登り下りを待つ必要もありません。

自転車通勤では、渋滞やバスの時刻表から自由だからでしょうか。それとも、顔で受ける風のせいでしょうか?

あなたにとってもサイクリングは「自由」を意味するものでしょうか?

自転車が「解放的」な体験をもたらすとしたら、それはなぜなのか。また、それは他のスポーツ・アウトドア活動がもたらす解放感と比べて、何か異質だったり、際立った特徴があるのだろうか。筆者も個人的によく考えるテーマなのですが、結論はなかなか出ません。

出典 Why is cycling so freeing?

自転車特有の解放感とは何か

このスレッドはコメント数が非常に多く、中には「新車を買ったら大金から解放されてしまったけどな」などという冗談もありますが、それはさておき、目立った意見をいくつか挙げてみます。

Dahon K3と横瀬駅

自転車特有の解放感があるとしたら、それは何だろう?

  • (あなたの言う)そうした解放感は、あらゆるスポーツやアクティビティについて語られているよ(=だから自転車が特別とは言えない)
  • 私にとっては、自分の力を使って素早く移動できる喜びかな。それに加えて、クルマのように視界が遮られない
  • 自転車は解放的だと思う。理由は、徒歩よりもずっと簡単にいろいろな場所に行けるから。クルマを運転するのも勿論ありだが、サイクリングでは自分の体力で目標を達成できるというのがある。それに、景色を眺める時の速度という面ではベストだと思う
  • 私にとっては、自分自身の力で何処かに行けるという満足感という意味が大きい。子供の頃の体験の話もわかるが、ノスタルジアと関係のある(=懐かしい)アウトドア活動であれば、どんなものでも解放感は覚えるだろう。自転車では「自由」は確かに感じるが、独力で何処かに行けることや、単純に顔で感じる風が気持ち良い、ということと関係が深いと思う。通勤時に渋滞を横目に先に行く優越感も、かな

まず「解放感」は自転車以外のスポーツ・活動でも得られる、という意見があり、これはその通りでしょう。モータースポーツにも、パラグライダーにも、マリンスポーツにも、登山にも、それぞれ固有の解放感があるでしょう。

自分の力で何かをやるという達成感。これはあるとしても、それは例えば登山でも同じ。徒歩より素早く移動できる… これはある。クルマには距離でこそかなわないものの、視界の広さは間違いなくある。地味ですが「顔で感じる風の気持ち良さ」も無視できないポイントだと思います(なぜならドライバーや、フルフェイスヘルメットのモーターサイクリストは感じにくいだろうから)。

クルマやオートバイが受けるような地形的制限(入れない道など)・時間的制限(渋滞など)からの束縛が少ない。風・路面からの振動・良い景色といった五感へのインプットが多い、ということもあるでしょうか。それらはサイクリング「特有」ではないかもしれませんが、要素としては大きいですね。

マインドフルネスという視点

「自転車特有の解放感」を説明するのはなかなか難しく(別に説明しなくても良いことではあるものの)、上で見たように雑多な意見が寄せられていたのですが、「マインドフルネス」や「瞑想」に関係する意見もかなり多く登場していました。これは新しい切り口の視点だと思うので、ピックアップしてみます。

  • サイクリングは手元にあるタスクに意識をフォーカスさせる。作業に忙殺されないでいると、思考が明晰になるし、どんなストレスにも、心配事にも、問題にも、建設的に対応できるようになる
  • 自転車は瞑想(メディテーション)に近いものがある、瞑想も人を自由にするものだよね
  • 自転車は確実にマインドフル瞑想の一形態だね、サイクリング中は「いまここ」にいて、覚醒している
  • サイクリングは脳内の落ち着かない猿を静かにしてくれる。瞑想も試したことがあるが、座っているだけではマインドは落ち着かなかった。何か集中が必要なものをやらなければならないのだと思う
  • サイクリング中はマインドが静かになる。世界が自分・バイク・目の前の道(トレイル)に集約される
  • 私にとって自転車はマインドフルネス瞑想のようなものだ。自分は瞬間の中に存在しているが、動く流れもそこにある。君の言うように自転車では解放感を覚えるね、現在の中にいられる
マインドフルネス(英: mindfulness)とは、現在において起こっている経験に注意を向ける心理的な過程である。 瞑想、およびその他の訓練を通じて発達させることができるとされる。…「今この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに捕らわれのない状態で、ただ観ること」といった説明がなされることもある(Wikipedia

こうやって読むと、自転車がもたらす解放感、自由になれるという感覚は、物理的・地理的な束縛や制限からの解放以外に、頭の中にある心配事や懸念といった、意識上の束縛からの解放とも大きい関係があるのは間違いないでしょう。物理でも自由になれるが、心理でも自由になれる…

ロード・オフロードを問わず、サイクリングにこうした「マインドフルネス」状態を感じ取る人は多いでしょう。強度の高いヒルクライムやレース、集中力を要するオフロードライドは勿論、サイクリングロードをゆっくりポタリングしている時でさえ、意識が様々な悩み事や心配事から離れていき、「昨日(過去)」でも「明日(未来)」でもない「今日、いまここ」に集中できる。

こうしたマインドフルネス状態もまた、自転車の専売特許というわけではないとは思いますが、自転車特有の解放感を構成する非常に大きい要素であるのは、間違いないですね(F1のドライバーもフリークライマーもめっちゃ集中して超マインドフルネス状態だとは思いますが、自転車はより身近で、比較的安全、というのが長所でしょうか)。

著者
マスター

2007年開設の自転車レビューサイトCBNのウェブマスターとして累計22,000件のユーザー投稿に目を通す。CBN Blogの企画立案・編集・校正を担当するかたわら日々のニュース・製品レビュー・エディトリアル記事を執筆。シングルスピード・グラベルロード・ブロンプトン・エアロロード・クロモリロードに乗る雑食系自転車乗り。

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