海外で人気のGPSサイコン「Karoo 2」を手掛ける米Hammerhead社が、すべてのShimano Di2関連機能をKarooシリーズから削除するよう、シマノから要請されたそうです。DC Rainmakerが伝えています。
出典 Shimano Forces Hammerhead to Remove All Di2 Related Functionality From Karoo
6月2日以降のアップデートからDi2は非対応に
以下、同記事からの主要な情報です(すべて抄訳・概要です)。
- 6月2日(木)以降、KarooシリーズはファームウェアでDi2関連機能を削除することになる
- これはHammerheadを「競合と見なす」ことになったシマノ側からの要請・要求に応えたものだ
- Di2のバッテリーステータス、ギアインジケーター表示、Di2フードボタンによるページ切り替え、シフターモード等が消えることになる
- シマノはこれまでHammerheadデバイスとDi2を接続するために必要なライセンスと技術情報を提供していた
- HammerheadはSRAMによる買収後(※下に詳細リンクあり)もDi2ユーザーへの完全なサポートを提供してきたが、シマノは最終的にSRAMを競合と位置付け、契約はシマノ側の要請により打ち切られた
- Hammerheadはシマノ側に働きかけを行い、Di2機能の再開についてはオープンな姿勢である
- Hammerheadとシマノに状況を聞いてみたが、現在は何も進展はないようだ
ちなみに6月2日以降のファームウェア・アップデートを適用しなければDi2関連機能は使い続けられるようですが、Karoo 2では数週間おきに優れた機能改善アップデートが行われているので、事実上すべてのKarooユーザーがDi2機能を使えなくなるものと思われます。
▼ SRAMによるHammerheadの買収については今年1月に下の記事で紹介しています
Di2との通信はANT+標準ではなかった?
ところでこんな面白い話がありました。このニュースを読んでいて私も最初は「ん? 変速情報の表示等はオープン規格であるANT+の標準ではなかったのか。なぜライセンスや契約が必要なんだろう?」と疑問に思ったのですが、こんな背景事情があったようです。
- なぜDi2関連機能のためにパートナーシップが必要なのか?
- GarminやMioがはじめてDi2との接続をはじめた頃、「ANT+ ギアシフティング・プロファイル」などという標準はまだ存在していなかった
- そのかわりにシマノは「プライベートANT」と呼ばれるものの上で通信を実装した
- プライベートANTとはANTワイヤレスネットワーク上の単なる独占的チャネルないしは言語で、数多くの企業が独自情報をそこに詰め込む。時に大きい情報が、時にささいな情報が詰め込まれる
- 例えばGarminがはじめてVectorペダル用に「サイクリング・ダイナミクス」をロールアウトした時、それはプライベートANT上で行われた。最終的にそれはANT+として標準化された。Variaの「レーダー・プロファイル」も同様だったが、現在では標準化されている。「ランニング・ダイナミクス」も同様であり、これも現在では標準化された
- そうした例は変速の世界でも起こった。が、シマノだけはこのゲームに加わらなかったのだ。SRAMとカンパニョーロは(Garminとその他の企業全てと共に)ANT+ ギアシフティング・プロファイルに乗り、それをサポートした。当時、シマノも最終的にこれに加わるものと思われていた
- しかしシマノはDi2実装に必要な情報を比較的簡単に提供していたため、標準規格でなくとも誰も困る人はいなかったし、消費者も気にしていなかった
- シマノは技術的に言えばANT+という標準は使っていなかったものの、ANT+で通信を行っているかのような表現をしていたことがある
- シマノによる今回の決断は、企業としてのHammerheadに対してよりも、シマノユーザーに対して与えるダメージのほうが大きい。Hammerheadのロゴがシマノのウェブサイトに掲載されているのを見て、統合性があると考えてDi2のバイクを買った人もいるかもしれない
- シマノは競争面で、この動きによって得るものは何もない
- 私はHammerhead Karoo2を使っており、テストバイクとして最新のR9200 Dura-Aceを搭載したCannondale Synapseを使っている。このバイクは本気で買おうかと考えていたのだが、これでは買えない。自分が使えるものを制限するようなエコシステムには入りたくないからだ(このSynapseにはDi2以外の組み合わせがない)
- WahooやGarminでも同じことが起こらないと言えるだろうか。どちらもパワーメーターも製造している(※その意味でシマノと競合している)
Di2はオープンな標準規格である「ANT+」上で利用可能な「プライベートANT」というチャネルで通信する仕組みなんですね。Hammerheadのサイコンを使っているユーザーは日本にはほとんどいないとは思いますが、欧米では非常に人気が高い製品なので、今回の件は波紋を呼びそうです。
確かに一般ユーザーからすると、この対応によってシマノは得るものよりも失うもののほうが多いように見えますが、こうした決断をしなければならないほどの、看過できない何らかの問題がHammerheadまたはSRAMとの間にあったのではないかと思わされます。それとも、何か大きい戦略が動いているのか。今後の展開が気になるニュースです。