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SRAMがGPSサイコン「Hammerhead」を買収した意味を考察(妄想)する:背景にはシマノとの覇権争いがある?

SRAMが1月19日に人気急上昇中のGPSサイコンブランド「Hammerhead」の買収を発表しました。買収は昨年12月30日に完了していたそうです。これが意味するところを考察すると面白い業界事情が見えてきそうなのですが、まずは買収の内容から確認していきましょう。

出典 SRAM acquires cycling computer brand Hammerhead (Bicycle Retailer)

HammerheadはSRAMと共に「好機」を探っていく

以下、米Bicycle Retailerの記事から引用します。

  • 買収を伝えるニュースリリースにおいて、SRAMはRockShox, Zipp, Time Sportペダル, Truvativ, Quarqを含む同社ポートフォリオのもとで、Hammerhead Karoo製品群の開発を続けると語っている
  • Hammerheadの最新GPSサイコン「Karoo 2」は2020年後半に登場し、同社は昨年度、7倍の成長を遂げた。同社製品ユーザーは合計100万時間以上のグラベル・舗装路・トレイルを走っているという
  • SRAMの成長バイスプレジデントClint Weber氏は「Hammerheadは受賞歴のある製品群を持つ素晴らしいブランドなので、我々は彼らのイノベーション方針について何も変えるつもりはありません」と語る
  • 我々はこの買収に興奮していますし、チームはあらゆるブランドの駆動系で動作するようなテクノロジーと、品質の高いヘッドユニットの設計・製造・販売を続けて行くでしょう
  • HammerheadはSRAMポートフォリオの中でスタンドアローンなブランドに留まり続け、SRAMと共に未来のオポテュニティー(好機)を探っていくことになる
  • 消費者・ディーラー・販売網はHammerheadのこれまでの販売・修理・保証チャンネルを利用できる
  • Hammerhead CEOで共同創設者のPieter Morgan氏は「SRAMのポートフォリオに加わることで、私達はより急速なイノベーションと事業拡張を遂げられるでしょう」と語った

▼ Hammerhead Karoo 2関連の参考記事です

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「好機」とは何か

この記事には興味深い読者コメントが寄せられています。

エレクトロニクスが自転車コンポーネントにますます統合されていく中で(良かれ悪しかれ)、SRAMによるこの動きはますます賢明なものになっていくだろう。最新のCannondale Synapseがコンピューターとライトを統合しているのを見るといい。キャノンデールはLezyneとGarminからテクノロジーを買っているが、SRAMはサプライヤーごと買ったわけだ。賢い。

最新のCannondale Synapse 2022モデルについては昨日紹介しましたが、その記事を書いていて私はなんとなく「キャノンデールによるSmartSenseという新しいレーダー・ライト・バッテリーの統合システムは、将来的にシマノとの協業を前提としているのではないか」と感じていました。

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個人的な憶測の域は出ませんが、SmartSenseのセントラル・バッテリーは機能的にもバイクへの設置箇所的にもShimano Di2のそれと近いものがあります。SmartSenseが将来的にDi2やGarminのヘッドユニットにも直接電源供給できるようになったら、大きいエコシステムが生まれることでしょう。

仮にそんな日が来たら、ディレイラー毎にカートリッジ式バッテリーの充電が必要になるSRAMは、フルワイヤレスという魅力はあるものの「Cannondale / Garmin / Lezyne / Shimanoアライアンス」による統合的エレクトロニクス・システムから一歩見劣りする状況に陥るのではないか。

Shimano 12 speed Di2 Dura-AceもUltegraも「なぜフルワイヤレスではないのか。SRAMのフルワイヤレスのほうがカッコいいぜ!」という不満の声も聞かれましたが、SmartSense(またはそれに類似したエコシステム)との統合が実現すれば「これ、便利じゃない?」と形勢逆転に繋がりそうな気もします。

SRAMはそういう状況を見据えて、エレクトロニクス分野で劣勢にならないよう、まずはHammerheadを買収したのではないか。勿論バッテリーやライトやレーダーといったアクセサリーの統合はまだ見えてきませんが、SRAMがSpecializedやTREK陣営と手を組んでCannondale/Shimano陣営と戦う、という構図になってきたりしないでしょうか?

プレスリリースにある「オポテュニティー(好機)」とは、スポーツ自転車に組み込まれる統合エレクトロニクス、その新しいエコシステムがメインになるのではないか。

充電は… SRAMらしく「ワイヤレス充電」を用意していたりして。Hammerheadは「あらゆるブランドの駆動系で動作する」ものであり続けるとは思いますが(シマノユーザーを切るメリットがない)、将来的にはやはり「SRAM主導のエレクトロニクス・システム」に最適化されたものになり、ユーザーの囲い込みを図っていくことになるのではないでしょうか。

著者
マスター

2007年開設の自転車レビューサイトCBNのウェブマスターとして累計22,000件のユーザー投稿に目を通す。CBN Blogの企画立案・編集・校正を担当するかたわら日々のニュース・製品レビュー・エディトリアル記事を執筆。シングルスピード・グラベルロード・ブロンプトン・エアロロード・クロモリロードに乗る雑食系自転車乗り。

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