今年(2019年)の春、札幌市の住宅街でクマが相次いで目撃される事案がありました。これは北海道ツーリングを考えているサイクリストにとっても看過できない出来事でしょう。
クマが市街地にまで出没しはじめている理由は、個体数の増加なのか、餌不足なのか定かではないようですが、ヒルクライムをはじめとする山岳サイクリングでクマに遭遇する確率も高まってきているのは間違いないでしょう。
私自身、昨年秋に群馬・長野県境をサイクリング中にはじめてツキノワグマに遭遇しました。幸い何もなかったのですが、これからもそんなことがないとは限りません。
クマと遭遇してしまった場合、私達はいったいどんな行動を取るのがベストなのか。あるいは、何をしてはいけないのか。昨年の個人的なクマ遭遇事件以降、インターネットや雑誌・書籍で情報収集してきました。本記事ではそこで学んだことについてまとめてみます。
クマの種類
まずクマと言っても何種類かいます。代表的な種を見ていきましょう。
ツキノワグマ
ツキノワグマは北海道を除く本州以南に生息するクマです。胸元の月のような文様が特徴で、身長は最大でも180cm程度。雑食性で、基本的には人間を食料とは思っていないフシがあります。とはいえ襲撃されたら大怪我をするのは間違いありません。
エゾヒグマ
北海道に生息するクマです。身長は2.5〜3mとツキノワグマより大型で、ツキノワグマより肉食傾向が強いとされています。川を遡上する鮭を食べている姿が有名ですが、1度人間を食べた個体は以後、人間も食料として認識すると言われています。これまでに多くの野生動物研究者や登山家、写真家などがヒグマに襲われ命を失っています。
グリズリー(参考:北米のクマ)
これは北米に生息するクマですが、ヒグマの亜種で北海道のエゾヒグマと近縁とされています。恐らく古代にシベリアからベーリング海峡を渡って行ったヒグマの仲間と思われます。ヒグマ同様、遭遇してしまった場合は生命が脅かされるリスクが高いクマです。
北米では多くのサイクリスト、特にマウンテンバイカーがこのグリズリーに襲撃された事案が多数報告されています。
そもそもクマと出会わないようにする
最初に考えなければいけないのは、そもそもクマと出会わないようにすること、つまり予防的対策です。これについて異論を唱える人はいません。
予防は非常に軽視されがちな「当たり前のこと」かもしれませんが、ヒグマはもちろんのこと、子グマが近くにいるツキノワグマと至近距離で遭遇してしまっただけで「生きるか死ぬか」の瀬戸際に立たされてしまいます。
まずは出会わないようにすること。北海道にサイクリングに出かけたり、ヒルクライムや林道サイクリングに出かける場合は、事前にその近辺でのクマ目撃情報がなかったどうか調べておくべきでしょう。
この場合いちばん良い情報源はTwitterをはじめとするフロー情報中心のSNSです(リアルタイムの情報を取得するために便利な手段です)。「クマ+訪問予定地の地名」などで検索をかけるのが良いと思います。
持っていくもの
クマが出そうなところに走りに行く場合、次の2つのアイテムを持っておいたほうが良いようです。
- 熊よけスプレー
- ホイッスル・鈴など音が出るもの
熊よけスプレーで代表的な製品はこの「UDAP 熊撃退スプレー」のようです。主要成分はPepper、つまり唐辛子です。重量224g。
それぞれの使い方、効果については後述します。
現地でライド中に音を出すことはクマ遭遇防止に効果的なのか?
クマと唐突に遭遇してしまう前に、我々人間が近くに来ていることを示すことには一定の効果があるようです。
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特にツキノワグマについてはもともと攻撃的な性格ではなく(ただし性格は個体差による違いが非常に多いらしい)、先方も人間との戦いは特に求めていないため、熊よけの鈴には「いきなりバッタリ」を回避する効果があると言えるようです。
ただ、異論はあります。一部には「人間=食料」という連想を持つクマの個体がいるらしく、そういう個体群にとっては猟銃の銃声や人間の存在を示す鈴の音も「食料の合図」となりうる、という意見もリサーチ中に散見されました。
ここには唯一絶対の正解がないようなので、音を出す、出さないについては自分で決めなければなりません。また、出す場合も出さない場合も臨機応変に方針を変えるのも大事でしょう。
遭遇してしまったら
さて、運悪くクマと遭遇してしまったら、私達は何をすればよいのでしょうか。また、何をしてはいけないのでしょうか?
遭遇時にやってはいけないこと
調べた限り、多くの識者(ハンター、クマ専門家等)が共通して次のようなことはやってはいけないと語っています。
- パニックをおこす
- 急激に何らかの行動を起こす
- クマを威嚇する
- すぐに死んだふりをする
- クマに背を向けて走って逃げる
クマ側に攻撃意図がない場合が多くあるので、こちらからむやみに驚かせたり、興奮させたりするのは逆効果であることが多いようです。また、クマは背中を見せて逃げる動物を追う習性があるそうです。
遭遇時にやってもいいこと
反対に多くの人が「こうするべき」あるいは「効果があると思う」と言っているのは次のような行為でした。
- クマから目をそらさず、背中を向けずにゆっくりと後退し、距離を置く
- クマがこちらに近寄りはじめたら、リュックなどの荷物を遠いところに投げ、そちらに興味を振り向ける。その隙に後退する
- クマが好むような食料(トウモコロシやリンゴなど。そんなもの持ってないと思いますが…)を運良く持っていた場合、それを遠くに投げる
なおこうした手段でうまくその場を切り抜けられたら、その場には戻らないことも大事だそうです。自分が投げたリュックをクマが「自分のもの」と認識した場合、それを取りに戻るのは大変危険であるとのこと。
効果があるかどうかわかっていない行為
ところでクマと遭遇してしまった時、大声を出して威嚇したり、ラジオを大音量で流したり、持っているベルをリンリン鳴らしたり、ホイッスルをピューッと吹いたりするのは効果的なのでしょうか。
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Fielder特別編集「サバイバル読本」(笹倉出版社刊・p99)にて、東京・奥多摩で活動されている自然解説員の田端伊織氏は次のように語っています。
以前、熊と遭遇した時、ホイッスルを鳴らしたんですが、ウーッとうなってそこに伏せただけで逃げはしなかった。鈴は事前に自らの存在を示す効果はありそうですが、いざ遭遇した時、有効かどうかは疑問です。
既に遭遇してしまった場合、その段階で大声を出したり、歌ったり、ラジオを大音響で鳴らしたり、ホイッスルを鳴らしてもクマは逃げてくれないのかもしれません。むしろそれは「威嚇行為」となりそうな気もするので、要注意です。
ただ、ホイッスルも鈴も、仮にクマの襲撃から生き延びた場合、救援を呼ぶ時に役立つことがあるのでやはり持っていて損をすることはないでしょう。
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クマが襲いかかってきたら
ではクマから距離を取ろうとしても襲いかかられてしまった場合はどうすれば良いのでしょうか。
多くの識者に共通する意見は、
- 熊よけスプレーをクマの目に噴射する
- 腹ばいになり、頭と首を両腕でかばい、クマがいなくなるまで待つ
ということ。唐辛子スプレーにどれだけの効果があるかわからない、という識者がほとんどなのですが、防御姿勢については「腹や顔、首をむきだしにしない」という点では一致しているようです。
最悪の場合、背中や腕やお尻をクマの爪でガリガリやられても、内臓と頭と首を守ることができたら生還できる可能性が高まるのは間違いないでしょう。
クマと戦う、という選択肢について
反対に、「戦う」という選択肢もあります。ヒグマはもちろん、発情期だったり子グマを連れている大型ツキノワグマに襲撃されてしまった場合、その時点で死亡リスクが相当高くなります。
なら黙ってやられるくらいなら、戦ってやる、という方もいると思います。特に至近距離で正対してしまい、腹ばいになる時間さえなかったら。
その場合、「殴り合い」をしてもまず勝ち目はないようです。どんなに腕力・脚力に自信があってもクマは人間のパンチ・キックで倒れることはなく、逆に鋭い爪で一撃にされてしまいます。
そんな中、唯一有効かもしれないとされている反撃法として、
- 目潰し
を挙げる識者がいました。クマの目を狙って攻撃する。これは自分の指でも、あるいは木の枝のようなものがあればそれを使っても良い(というか枝を使ったほうが相手との距離が取れるのでベター)。
ただ最良なのはひたすらクマの顔面に唐辛子スプレーを吹きかけてあとは運を天に任せる、ということのようです。
特に気をつけるべきこと
他に特に気をつけるべきことについて書いてみます。
- クマは6〜7月頃に繁殖期をむかえるため、興奮している場合が多い。その時期の遭遇には特に注意すること
- 子グマを見かけたら、近くにはほとんどの場合親グマがいる。子グマを威嚇して子グマが唸りだすと、すぐに親グマがやってくる
- ヒグマ・ツキノワグマともに走行速度がすごい(ヒグマで50〜60km/h。ツキノワグマで40〜50km/h)
たとえこちらが自転車であっても、上ろうが下ろうが追いつかれてしまうようです。
最良のシナリオとしては、クマに遭遇したら背中を向けずにゆっくりと後退し、相手と一定の距離を確保できた段階で自転車に乗って走り去る、というのが良さそうです。