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サイクリング

仏あれども救いなし? 地蔵峠(長野・湯の丸高原)を目指して感じた地蔵からのメッセージ

長野県東御(とうみ)市・湯の丸高原にある地蔵峠(標高1732m)を目指してヒルクライム、その後は高峰高原・車坂峠を目指して約4kmのグラベルを堪能する、というサイクリングをしてきました。本記事ではライド前半に「グラベルへのアプローチ」として走った地蔵峠に至る道、東御嬬恋線(とうみつまごいせん)についてご紹介します(下の地図の赤枠の部分)。

小諸駅〜地蔵峠

本記事では赤枠のエリアをご紹介(小諸駅〜地蔵峠) © Google (edited)

スタート地点「しなの鉄道・小諸駅」から地蔵峠までの走行距離は約18km。上り区間は13kmほど。貧脚の筆者にとって東御嬬恋線は強度的にも所要時間的にも、この日のオードブルどころかメインデッシュになってしまいました。そしてこの道では全く想像していなかった思わぬ「敵」に大苦戦。いつかこの道を走ってみたい、という方の参考になれば幸いです。

しなの鉄道・小諸駅から出発

出発点はしなの鉄道・小諸駅です。筆者はJR東京駅から朝早い新幹線で軽井沢まで来て、しなの鉄道に乗換えました。日帰り輪行です。地蔵峠に向かうにはお隣の「滋野(しげの)駅」のほうが近いのですが、しなの鉄道は小諸止まりの電車が多い。滋野行きの電車に乗り換えるよりも、小諸から国道141号線をウォームアップ的に6kmほど西走することにしました。

しなの鉄道・小諸駅

しなの鉄道・小諸駅を出発地とした

小諸から滋野駅の北にある「牧野(ぼくや)」交差点までは完全に下りなので、体力を消耗しません。交差点のセブンイレブンで水を2本購入し、右折すると登坂開始です。

牧野交差点

牧野の交差点を右折すると登坂開始

コンビニはこの先の「浅間サンライン」との交差点付近にもローソンがありますが、その後頂上まで自販機は一箇所しかないので(後述)、飲料だけは確実に調達しておくのがおすすめです。

地蔵に見守られながら

滋野付近は隣の「車坂峠・チェリーパークライン」(リンク先に紹介記事あり)と比べると、開放感のある広々とした景色です。この近くには「大相撲史上未曾有の最強力士・雷電爲右エ門(Wikipedia)」の生家があるそうです。残念ながら今日は寄り道をする時間がありませんが、雷電にちなんだお店が散見されます。

「力士雷電の生家」の看板

東御市は大相撲史上未曾有の最強力士・雷電爲右エ門の生誕地

地蔵峠、と言うからにはお地蔵さんがたくさん待ち構えています。下は第一の地蔵・如意輪(にょいりん)観音。群馬県の嬬恋まで百体並ぶ地蔵中、最大のものとのことなので、じっくり眺めていきました。

第一番 如意輪観音

最初の地蔵・如意輪観音

何かに思いを巡らしている、柔和な表情の如意輪観音。この日の朝、東京ではポツポツと小雨、軽井沢も霧に覆われていましたが、東御は天気予報通り晴れてきました。この先、この観音様の表情のように穏やかで牧歌的なサイクリングが私を待っているのだろう。この時は、そう思っていました(※はいフラグです)。

如意輪観音

柔和な表情の如意輪観音

滋野の風景はお隣のチェリーパークラインよりも直線的で見晴らしが良く、里山的な風景が広がっていて気持ちが良いです。10月初旬ですが、まだ稲刈りの終わっていない田んぼも残っていました。信州を自転車で走るのはもう2年ぶりで、感無量です。

滋野の田園風景

滋野の田園風景。小諸より展望が広く里山的な雰囲気もある

ちなみに登坂開始地点の「牧野交差点」で既に標高660m。地蔵峠までは13kmかけて1072mを登ることになります。お隣の車坂峠は距離16km、標高は241m高い。そちらは何度も登っているのだから、今回も問題なく走れるだろう。と思い込んでいました。

第七番 如意輪観音

第七番・如意輪観音(チンターマニ・チャクラ)。「願いを叶えつつ煩悩を破壊する」と言われる

何しろこんな穏やかな地蔵が何十体もこの先の路傍で見守ってくれるらしいのです。平和しかない。問題ない。今日は楽しむぞ!

ゆっくり行けば超えられない峠はない?

しかし調子よくペダルを回していたのも、わずか30分足らず。どうもこの道はチェリーパークラインとは勝手が違うぞ、という疑念を抱きはじめます。体感的には斜度が8%を下回ることは稀で、脚を休ませてくれるセクションは前半は皆無、それどころか10%超えも頻出します。しかも、一瞬ではなく長い。

湯の丸公園まで10kmの看板

日曜サイクリストには厳しい平均勾配

天気は快晴とまでは行かないまでも、絶好のサイクリング日和。なのに、脚が思うように回りません。どうも体調がおかしい。これは結構キツい道だ。事によると、頂上まで行けないかもしれないぞ? コロナの状況下でもZwiftや普段のサイクリングは欠かしていない。体重もベストに戻してある。何故だ?

東御嬬恋線

東御嬬恋線。スタート早々、撤退の二文字が脳裏をよぎる

でも大丈夫。ゆっくり走ればいいんだ。時間の余裕はある。徒歩の速度だっていいじゃないか。苦行ではなく、楽しみに来ているのだから。どんな峠だって、ゆっくりでも走り続ければいつかは超えられる。ヒルクライムではなく、登山だと思えば楽勝だ、と、気持ちを切り替えてライドを継続します。

想定外の敵に苦戦する

「どんな峠だって、ゆっくりでも走り続ければいつかは超えられる」ーーこれ、もしかしたら間違っているかもしれないな。と、まもなく感じはじめました。「地蔵峠・東御嬬恋線」は、お隣の「車坂峠・チェリーパークライン」よりも平均斜度が高いのは間違いなさそう。でもこの異様な体調の悪さ、これは斜度が原因なのだろうか?

違う。太陽だ。

東御嬬恋線

最大の敵、それは太陽であった

ヘルメットとウェア、バックパックに手を当てると体温以上の熱を持っていることがわかりました。そして、ここには「日陰」がない。太陽を遮るものが何もない!

早く日陰に入らないと、熱中症で行き倒れになってしまうかもしれない。「どんな峠だって、ゆっくりでも走り続ければいつかは超えられる」という励ましは、この道では美談だ、と思いゾッとします。遅ければ遅いほど、灼かれてしまう。これはまずい。2年前にチョモランマで経験したあの状況と同じだーー(錯乱)。

第二十二番 千手観音

第二十二番・千手観音。どのような衆生をも漏らさず救済する、という千本の手は貧脚サイクリストも救ってくれるだろうか

なぜこの道沿いには地蔵が並んでいるのか。それはやはり、この道が旅人にはきっと厳しいものであったからというのは想像に難くありません。あの柔和な如意輪観音は、初秋の穏やかで快適なサイクリングを予告していたのではなく、この時の私を癒やすべく先回りしていたのかもしれない…

やがて、道中最初と言えそうな木陰が前方に見えてきました。あそこで、やっと休める! 朝から既に750mlの水を消費しています。残りも同量。気温は23度にも達していないはず。しかしどんなに気温が低くとも、直射日光を浴び続ければ体温は際限なく上昇していきます。のろのろ登坂なので、風の恩恵もありません。太陽だ。ここは太陽がヤバい。

東御嬬恋線

貴重な木陰を発見。ここまで諦めなければ完走できるかも

しかしこの木陰以降、たびたび日陰スポットを見つけることができました。さらに「SAITO」というリサイクル業者さんの事務所前に自動販売機を発見。チェリーパークラインでは道中、2箇所ほど自販機があったように思いますが、東御嬬恋線で見かけたのはここだけ。ここで買えた1本の水を飲み終えたのはちょうど山頂。SAITOさんには感謝しかありません。

リサイクルのSAITOさん

SAITOというリサイクル業者さんには自動販売機が。感謝しかない

ちょっとでも日陰を見つけたら、道の反対側に渡ってでもすぐ休憩を取る必要がありました。地蔵峠への道中、最大の障壁は斜度ではなく、陽光。天気の良い日ならなおさらでしょう。夏なら俺は死んでいる、と確信しました。横倒しにした自転車の隣で体育座りをしている中年男性を見て、ドライバーの方々は不審者だと思ったことでしょう。

千曲バス 四十番停留所

日陰を見つけたらすぐ休憩。千曲バス「湯の丸公園線」は令和2年の冬以降廃止されたという

でもまぁ、野垂れ死にそうになったら、バスがあるじゃないか。輪行袋は大きいけど、乗客も少ないだろうから駅までならなんとかなるんじゃないか、と既に撤退を視野に入れつつ「千曲バス・四十番停留所」の時刻表を見ると、次のように書いてありました。

湯の丸高原線(夏季・冬期)の運行につきまして運行継続が困難のため、令和2年冬期から廃止する運びとなりました。…長年にわたりご利用いただきまして、誠にありがとうございました。

このバスに限らず、行く先々で様々なサービスがコロナの影響で廃止・縮小されているのを目撃しました。多くの施設が閉鎖、レストランではメニューが簡略化されていました。

山頂へ

さて「SAITO」さんを超えたあたりから徐々に頭上を覆ってくれる木々が増えはじめ、標高の高さも相まって体温が下がってきてくれました。最初の日陰に入る前に諦めなくて良かった、としみじみ思います。山頂近くでは徐々に紅葉もはじまっています。この調子だと10月下旬には見頃ではないでしょうか。

東御嬬恋線の山頂近く

東御嬬恋線の山頂近く。そろそろ紅葉の季節

下は第七十番・馬頭観音。馬の守護仏、ということは自転車も守護してくれるのか。斧や刀を手にした憤怒の姿は「チンタラ走ってないで気合入れろ」ということなのだろうか… それにしても路傍に並ぶ数々のお地蔵様、かつての旅人の励みになったことでしょう。救済の地蔵があるということは、そこに苦しみがあるからに他なりません。苦しい。どうしてこうなった…

第七十番・馬頭観音

第七十番・馬頭観音

「どんな峠だって、ゆっくりでも走り続ければいつかは超えられる。そう、日陰さえあればね」というわけで、ようやくゴールの「湯の丸高原」に到着しました。これは車坂峠のように頂上をチラ見せされることもなく、3つか4つのつづら折りの果てにあっけなく現れてくれました。それにしても、チェリーパークラインより「平地ボーナス区間」が本当に少ない。

湯の丸高原入口

ようやくゴールの湯の丸高原入口が見えた

この「湯の丸高原」入口=地蔵峠、です。標高は1732mで、お隣の車坂峠(標高1973m)より241m低いですが、破壊力はワンランク上、と感じました。というか非競技系・貧脚日曜サイクリストの私はこの時点でほぼ完全に破壊されていた、と言っても過言ではありません(この記事を打ち込んでいる時点でもまだ目と口が半開きです)。

湯の丸高原(地蔵峠)の看板

湯の丸高原(地蔵峠)の看板

地蔵峠中、百体あるというお地蔵さんは八十体目がここ地蔵峠に鎮座していました。十一面観音像。「遠くにある苦しみや災いを見逃さず一度に見抜くため」に顔が十一面あるのだそうです。麓で太陽に苦しむ私のことも見守ってくれていたのかもしれません。

八十番・十一面観音像

八十番・十一面観音像(エーカダシャムカ)。「現世での利益」と「来世での果報」をもたらすと言う

残りの二十体の地蔵はこの先、群馬県の嬬恋側にあるそうです。嬬恋方面は霧に包まれ、雲海の下にありました。ここを草津方面に下っていけば、みんな大好き渋峠に向かうこともできます。渋峠も通行止めやコロナのせいでずっと行けてないなぁ。今年はワンチャン行けるかな?

湯の丸高原から見た嬬恋側

湯の丸高原から見た嬬恋側。雲海のようだった

湯の丸高原・地蔵峠にはレストランや自販機があります。ここで大休止。今日のライドの目的は、地蔵峠までの道を以前から走りたかったということもあるのですが、この先にあるグラベルロード「湯の丸高峰林道」の探索です。どんなに疲れていようが、この先に行かないのならわざわざ700x43Cタイヤの重いグラベルロードでやってきた意味がない!

湯の丸高峰林道の入口

車坂峠のある高峰高原に至る道

地蔵峠自体は、展望が良いわけではありません。でも大丈夫。それはこの先のお楽しみ。ヘルメットの顎紐を締め、フルフィンガーグローブに手を入れます。

さぁ、ゲームの始まりだ!

▼ 続きはこちら

長野・標高2000mのグラベルを走る【湯の丸高峰林道・地蔵峠〜車坂峠】
長野県東御(とうみ)市の「湯の丸高原・地蔵峠(標高1732m)」からお隣の「高峰高原・車坂峠(標高1973m)」まで全長約9km弱の「湯の丸高峰林道」をグラベルロードで走ってきたので、現地の様子をご紹介します(下の地図の赤枠の部分)。東京か...

東御嬬恋線〜地蔵峠の基本情報・有益情報

東御嬬恋線〜地蔵峠を走ってみたい方のために基本情報をまとめます。

  • アクセス:長野側からは「しなの鉄道・滋野駅」が至近、「小諸駅」からも登坂地点までは下りのみなので大差なし。JR東京駅から日帰り可(新幹線・電車で約1.5〜2h)
  • 走行距離・獲得標高:約13km/1070m(滋野の牧野交差点から頂上まで)
  • 難易度(貧脚基準):高。平均斜度が8%以上。10%以上区間も頻出するため強度高し。文中で触れたように日陰が少ないため夏場や好天の日は熱中症に注意
  • 見晴らし:景観的には隣のチェリーパークライン・車坂峠のほうが楽しめると思った

そして是非とも併せてお読みいただきたいのが、CBNに投稿されているGlennGouldさんによる地蔵峠の走行記です。筆者がこの道を走ってみたいと思ったのは氏のご投稿がきっかけです。この投稿を拝読して12年も経ってから、ようやく訪問できました。

cbn 地蔵峠

隣の車坂峠と双子のようなこの道は、滋野駅を起点とすると、標高差は約1170m。対する車坂峠は標高差が約1300m、いずれも平均勾配は8%を超えます。こちらのほうが地味な道ですが、まさに双子のような関係です。
(…)
それにしても容赦ない登坂です。車坂峠に続いて似たような手ごたえの登坂はちょっと堪えます。高度を上げていくと、気が遠くなるというか、眠りたくなるような気分。苦し気持ちイイ感じ?上りながらデジカメを操作するのが最早、至難の業となってきました。
(…)
9月末というのに、気温が上がり過ぎで、暑い。真夏と全く同じウエアで登坂しますが、汗ダラダラ。きつい~。
(…)
車坂峠に勝るとも劣らない、この地蔵峠。開放的な場所です。ぐぁ~着いた!という感じ。

健脚ベテランの同氏でさえ「きつい」と漏らされているくらいですから、貧脚の私がどれほど苦戦したかはお察し下さい。

仏様はたくさんいるのに、救いなんかどこにもないじゃないか。一息つける日陰さえろくにない! と絶望しながら上り続けた地蔵峠への道。しかしこの思いは、頂上に着く頃にはこう変わっていました。

そうか。救いようがないからこそ、仏がいるのだ。誰も助けてくれはしない。逃げ場さえない。地蔵は、助けてくれるのではない。ただそばにいて、見守ってくれるだけなのだ。そして、それが救いという言葉の意味なのだろう

著者
マスター

2007年開設の自転車レビューサイトCBNのウェブマスターとして累計22,000件のユーザー投稿に目を通す。CBN Blogの企画立案・編集・校正を担当するかたわら日々のニュース・製品レビュー・エディトリアル記事を執筆。シングルスピード・グラベルロード・ブロンプトン・エアロロード・クロモリロードに乗る雑食系自転車乗り。

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