Rene Herse Cyclesが「グラベルレースにおいて太すぎるタイヤは不利になることがあるのだろうか」という主旨の考察記事を公開しています。独自の実験結果付きで、文脈は限定されるもののなかなか興味深い結論になっているので、ご紹介します。
出典 Gravel Myths (1): Too Much Tire? – Rene Herse Cycles
やりすぎなタイヤというものはない
以下、抄訳です。学術論文ではないエッセイ的な文章であり、前提条件がよくわからないところもあるのですが、筆者が読み込んだ上でのまとめです(全翻訳ではなく、一部分の読解です)。英語に抵抗がない方は是非原文もお読みいただければ幸いです。また、元記事の最初の2つの表を眺めながら読んだほうがイメージしやすいと思います。
スムーズな道でのロールダウン・テスト
- スピードとはつまるところ、妥協である。登りで最速のバイクとは、最軽量の壊れないバイクである。最もエアロなライドポジションとは、自分に必要な距離だけ維持可能な、最も低く、それでいて最大のパワーを出せるポジションだ。同じように考えれば、最速のタイヤとは、これから走ろうとしている地形を走行可能なタイヤの中で、最も細いものではないだろうか?
- それは誤りである。重量については、軽いほうが良いのは明白だ。エアロダイナミクスについては、前面面積が小さいほどよりエアロだ。だがタイヤサイズは、それほど単純なものではない
- 細いタイヤにとって最も有利なシナリオは、スムーズな舗装路だ。44mmと28mmのタイヤでロールダウン・テストを何度も行った。平均タイムはどちらのタイヤも全く同じだった。どちらかのタイヤが速いという結果にはならなかった
- このテストは典型的なグラベルレースのスピードで行った(29km/h)。無風・一貫した気温・全く同じライダーポジション等々、テスト条件は注意深くコントロールした。実際の速度を計測しているので、データは転がり抵抗だけではなく、エアロダイナミクスも含んでいる。ホイールは28mmタイヤにエアロ面で最適化されたEnve 45を使用した。理論上は、44mmタイヤのほうがエアロ性能で劣るはずである。リムがより細いタイヤに最適化されているからだ。しかし、これは現実世界でのスピードには反映されなかった
- ワイドタイヤがより遅くならないのは、あるいは少なくともエアロ性能でより劣る結果にならないのは、何故だろう? 現実では、タイヤ幅が数ミリ増えてもライダーやバイクの前面面積が大きく増えることはない。大部分のバイクでは、ダウンチューブのほうがタイヤよりも広い。ナロータイヤの潜在的なエアロ・アドバンテージは、小さすぎて他の様々なファクターの中に埋もれてしまう
- スムーズな道路では「やりすぎなタイヤ(too much tire)」などというものはない。少なくとも44mmまではそう言える。他のテストでは、54mm幅のタイヤでさえ有意に遅いということはなかった
普通に走る時のワット数比較(高圧ナロー・低圧ワイド・スムーズ路面・ラフ路面)
- できたてのスムーズな舗装路と、ランブルストラップ(クルマのドライバーに注意を促す波状のガタガタした部分)とでテストを行った。この2つはグラベルレースで遭遇する路面の両極である、ウルトラスムーズな路面から極度にラフな路面までをカバーする。パワーメーターを使用して、レース速度である31km/hで走ってみた。このテストは数年前に行ったもので、タイヤ幅はいまテストするなら違うものになるだろうし、空気圧も高めだが、結果は基本的によりワイドなタイヤや低い空気圧にも適用可能だろう
- 表でわかるように、(スムーズな道でも)低圧だから遅いという結果にはやはりならなかった。スムーズな路面では、25mmのタイヤでは、テストライダーは31km/hで走るために209ワットを要した。これは6.6barでも5.2barでも同じだった。これを35mmタイヤ・3.4barに交換しても違いはなかった(このほうがわずかに速いデータとなっているが、統計的には有意な違いではない)
- ラフな路面では、25mmタイヤを超高圧で走った場合、スムーズな路面に比べて2倍ものパワーが必要になっている(468w。124%のワット増)。35mmタイヤ・中庸な空気圧(3.4bar)の場合、50%のパワー増だけで済んでいる(313w。この違いは統計的に有意である)
- ラフな路面だけを見ると、25mmタイヤの空気圧を単純に下げる(6.6barから5.2barへ)だけでも、82ワット(17%)が節約できている。35mm・3.4barタイヤに換えるとさらに73ワット節約できた。25mm/6.6barと35mm/3.4barを比べると、後者は155ワット少なく済む。1/3少ないパワーで済む。これは大きい。もちろん大部分のグラベルは、ランブルストラップほどラフではないが、言いたいことは伝わるだろう
- この傾向はよりワイドなタイヤ、より低い空気圧でも続いていく
- タイヤ幅がわずかに増えるだけで、エアボリュームはかなり大きくなる。エアボリュームが大きいということは、よりサスペンションが効くということであり、より振動が少なくなることである。その結果、速度が上がる
- ラフな路面におけるタイヤの転がり以外に、(スプリント時などの)加速に対する反応など、考慮すべき要素は他にもある。理論上、最軽量のホイールが望ましい。ワイドなタイヤはラバーの使用量が多くなるため、必然的に重くなる。(しかし)(わずかに)重いタイヤの影響は比較的小さいもので、タイヤを速く転がせてきた結果、フレッシュな脚を維持できているのなら、大体タイヤの重さの埋め合わせにはなる
- ライドの大部分がスムーズな舗装路だとしても、ワイドタイヤのほうが明確に遅いということにはならない。そして舗装路が終わると、ワイドタイヤ(そして低圧)が有意に速くなる。ラフな路面におけるワイドタイヤのアドバンテージは巨大だ。スムーズな路面でのワイドタイヤのディスアドバンテージは、かりに存在した場合の話だが、現実世界では測定できないほど小さいものだ。だからコースの95%がスムーズな路面であっても、ワイドタイヤが良い選択肢になるのだ。なぜなら残る5%のラフな路面において得るられるものが非常に多いからだ。ワイドタイヤは、耐久性がより高いという長所もある(ゴールするためにはパンクしてはいけない)
タイヤ選びの参考情報にしてみよう
最初の「ロールダウン・テスト」とは、坂道をペダリングせずに一定速度からただ下っていくテストのことかと思います。大きい話としては「滑らかでスムーズな舗装路なら高圧ナロータイヤでも低圧ワイドタイヤでもスピードに大きい差は出ない、ガタガタで荒れた道なら低圧ワイドタイヤのほうが圧倒的に少ないパワーで済む」という主張になっていると思います。
ロールダウン・テストの部分については、エアロ効果を考慮する際に意味のある速度域ではない・15秒という短いデータを基に数時間のグラベルレースを語るのはいかがなものか、という意見もあるようです(海外掲示板Redditに元記事への感想スレッドがあり、いくつか批判が見られます)。
転がり抵抗・空気抵抗・空気圧・タイヤ重量の関係が整理されていないので(元記事の文脈でこれを整理するのは無理だとも思いますが)いまひとつピンとこないところもあるのですが、全体的には「登り」という要素を完全に度外視するのであれば、グラベルレースをやらない人にとっても学べるところのある内容ではないかと個人的には思いました。
特に(ランブルストラップのような)ガタガタの路面では、低圧ワイドタイヤがもたらす省エネ効果は驚きました。
元記事のニュアンスとしては「次のグラベルレースは大部分がスムーズな路面だから、極太タイヤを使っても意味ないな、いやむしろ少し細めのほうがいいんじゃね?」という考え方には根拠がない、という反駁であって「タイヤはいつでも太ければ太いほど良い」という内容ではありません。自分にとってちょうど良いタイヤ幅を考える時の参考材料として読むのが良いと思いました。