チューブを入れるクリンチャー。ウナギのような管状のタイヤをリムに貼りつけるチューブラー。チューブを使わずシーラントでタイヤの気密性を確保するチューブレスレディ。
現在メジャーなこれら3つのタイヤ=ホイールシステムにはそれぞれの長所・短所がありますが、純粋に「作業性」という観点で比較してみた時、どのシステムが総合的に優れていると言えるでしょうか。また、システムごとにどのような手数やスキル、体力などが必要になってくるのか。本記事で考察してみます。
新品のタイヤを新品のホイールに装着して走り出すまでの手数
まずはまっさらの状態のホイールに新品のタイヤを装着し、走り出せるようになるまでの手数を比較してみます。結果は下の表のようになりました。なおCL=クリンチャー(チューブド)、TU=チューブラー、TL=チューブレスレディの略です。
CL | TU | TL | |
リムにテープを貼る | ◯※1 | ◯ | ◯※1 |
バルブを装着する | ✕ | ✕ | ◯ |
石鹸水を塗る | ✕ | ✕ | ◯※2 |
タイヤをはめる | ◯ | ◯ | ◯ |
チューブを入れる | ◯ | ✕ | ✕ |
シーラントを入れる | ✕ | ◯ | ◯ |
空気を入れる | ◯ | ◯ | ◯ |
手数合計 | 4手(3手) | 4手 | 6手(4手) |
ただし備考がいくつかあります。
※1 リムにスポーク穴がない場合リムテープやチューブレステープは不要になる
※2 Mavic Road USTでは石鹸水の塗布は手順に含まれていない
リムにスポーク穴のないホイールを使う場合、クリンチャーの手数はわずかに3。これは少ないですね。
チューブラーの場合、シーラントは必須ではないのですが、現状では入れて運用している人のほうが多いでしょう。入れない場合は一応これも「3手」となりますが、現実的には「4手」とカウントしたほうがフェアだと思います。なお今回はリムセメントではなくチューブラーテープの使用を想定しています。
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そしてやはりチューブレスレディの手数がいちばん多くなるようです。最大で6手。ただ最も作業性の良いMavic USTでなおかつリムにスポーク穴がない場合、チューブラーの「4手」と同じです。
パンクからの復旧時に必要な手数
とはいえ「新品のタイヤを新品のホイールに装着する」場合の作業手順は、さほど重要ではないと考える人も多いでしょう。なぜなら自宅での作業時、時間はたっぷりあるからです。より興味深いのは「路上でのパンクから復旧する時の手数」でしょう。下の表で比較してみました。
CL | TU | TL | |
タイヤを外す | ◯ | ◯ | ◯ |
シーラントを拭く | ✕ | ✕ | ◯ |
バルブを外す | ✕ | ✕ | ◯ |
チューブを外す | ◯ | ✕ | ✕ |
チューブを入れる | ◯ | ✕ | ◯ |
タイヤをはめる | ◯ | ◯ | ◯ |
空気を入れる | ◯ | ◯ | ◯ |
手数合計 | 5手 | 3手 | 6手 |
チューブレスレディは、たとえMavic Road USTであってもパンク時に発生する作業の数は変わりません。最多の6手という結果になりました。※チューブを入れての復旧を想定しています。
そしていちばん手数が少ないのがチューブラーです。ここではリムに残ったチューブラーテープをそのまま使い、シーラントも入れずに使い古したタイヤを貼りつけてゆっくり安全に帰宅するような状況を想定しています。
チューブラーはこの場合、帰宅したらテープを交換したり、良いタイヤに変えたりシーラントの再注入といった作業が発生するので、あまりフェアな比較ではないかもしれませんが、「出先での作業数」という一点のみに絞って見ると、チューブラーはやはり「楽な」システムであるように思われます。そしてチューブレスレディはやはり手数が多くなります。
必要なスキル・体力・作業場所も比較してみよう
手数以外に、作業に必要なスキルや体力、作業場所なども比較してみます。
CL | TU | TL | |
スキル(慣れ・熟練) | ほぼ不要 | やや必要 | 必要 |
体力 | ほぼ不要 | 必要な場合がある | 必要な場合がある |
作業場所 | ほぼ選ばない | やや選ぶ | やや選ぶ |
まずスキル面。クリンチャーもチューブをビードで噛まないように入れるなどのスキルは必要ですが、この3つの中では最も「スキル要らず」と言って良いと思います。そのため「ほぼ不要」としました。
チューブラーについては、タイヤの「センター出し」などは最近の製品では不要なことが多いですが、シーラントの注入はややスキルを要します(こぼさずにきれいに入れる場合)。
チューブレスレディについては、バルブの適切な締め加減、適切な量のシーラントを上手に入れる、バルブまわりのビードの状態に気を配りつつタイヤをはめる、場合によってはビードを上げるため高速でポンピングする、等の様々なスキルが要求されるシステムと言え、手数以外にも知識や経験が要求される点ではやはり「初心者向けのシステムではない」と言えるような気がします。
次に体力面を見ます。クリンチャーでもホイールとの組み合わせによってはタイヤがなかなかハマらないものがありますが、組み合わせさえ決まってしまえば特に腕力がなくても作業は可能。
一方チューブラーは、チューブラーテープを使用する場合の話ですが、ライド環境やタイヤの経年劣化状況によってはリムから剥がすのに大変苦労する(体力を要する)ことがあります。
チューブレス系もホイールとの相性によりますがタイヤがなかなかハマらないことがあると言われています。またビードが上がらない場合は高速で多くの回数をポンピングする場合があり、チューブラーとは別種の体力が要求される場合があると思います。
最後に作業場所ですが、タイヤのインストール時や路上でのパンク修理時、クリンチャーであれば大体どんな場所でも周囲を汚さずに済みますが、チューブラーとチューブレスレディはシーラントを扱うためやや気を配る必要があります。
室内での作業時はもちろん、チューブレスの場合はパンク時にタイヤ内のシーラントを拭き取る必要があり、そのシーラントもそのへんに放棄して良いわけではありません。その作業は場所を選ぶでしょう。
まとめ:作業性が最も良いシステム・最も悪いシステムはどれか
さてここまで各システムの作業時の手数、必要とされるスキル・体力・作業環境等を眺めてきましたが、総合的に考えてみていちばん作業性が良いシステムはどれになるでしょうか。
これは予想していた結果ではありますが、やはり作業性においてクリンチャーに勝るものはない、という感じがします。次にシーラント前提のチューブラー。次にチューブレスレディ、という順番になると思います。
作業性の良くないものはアマチュア・愛好家のあいだでは決して普及しません。
ではチューブレスレディには未来がないのでしょうか?
個人的にはMavic Road USTならわりと明るい未来があるかもしれないと感じています。
というのもRoad USTは上で書いてきたような「手数」を減らし、かつタイヤとホイールの製造公差をコントロールすることで「特殊なスキル」を極力必要としないような方向を目指しているからです。この方向で品質を維持できるのなら、作業性の面ではいずれチューブラーを超えるようになる気はします。
でもねぇ。クリンチャーは絶対になくならないと思います。とするなら、クリンチャーは今よりもさらに進化していくのは明白です。需要が大きいシステムなので、競争も激しい。各社「より乗り心地がいいクリンチャー」の開発に力を入れることになるでしょう。
それに対してチューブレスはどこまで戦えるのか。
行く先はなかなか見えてきません。
■メンテナンスTips■
サドルバッグやツール缶に使い捨てタイプのニトリル手袋を入れておくと便利です。使用後は表裏を反対にしてまるめて持ち帰ります。軍手よりかさばりません。
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