アメリカ・ユタ州に本拠を置くハイエンド・カーボンホイールのENVEがタイヤ事業に参入しました。製品第1号は「SESロードタイヤ」。これがなかなかおもしろいコンセプトというか、立ち位置の製品です。
リアルワールド・ファストなタイヤとは
ENVEはこのSESロードタイヤを”Real-world Fast(リアルワールド・ファスト)”な製品であると謳っています。現実世界で本当に速いタイヤ、という意味です。計算流体力学や風洞実験の数字だけ良くてもリアルワールドで速いとは言えないぞ、というメッセージです。
トレッドを薄くしすぎて途中でパンクしちゃったらレースで勝てないじゃないか。楽しみのライドだって台無しになるじゃないか。だから耐久性を犠牲にするような転がり抵抗の低さは追求しない。でも耐久性と高寿命を意識しつつ、転がり抵抗も限界まで抑えてみました。良いバランスを模索してみました。という感じのタイヤらしいです。
Flat Less, Ride More. – パンクの回数を少なくしてもっと乗る回数を増やそう、とも公式サイトには書かれています。
面白いのはENVEの製品ページに、Bicycle Rolling Resistanceという有名なタイヤ抵抗測定サイトによる性能テストの結果が掲載されているところです。これを見ると転がり抵抗では、たとえばContinental GP5000 TLに余裕で負けています。というかここで勝とうとしていないのが面白い(笑)。
勿論、タイヤメーカーとしては新参になるので、いきなり業界の雄であるコンチネンタルやシュワルベの人気タイヤを超える性能の製品を出すのは無理に決まっています。だからちょっと違う土俵で戦ってみよう、という発想は面白いと思います。
あとは転がり抵抗軽減の方向での高性能化も限界に来ていたりするんじゃないでしょうか。パソコンでも今はCPUではなくGPUの時代です(って関係ないかw)。
エアロ性能は同社のSESホイールとセットで使った場合に最大化されるように設計されているそうです。というかENVEは様々な人にこのタイヤを使ってほしいというより、完成度の高い自社のホイール=タイヤシステムを作ろうということなのだと思います。この動きはMavicは勿論、最近のGIANTのCADEXなど、顕著になってきていますよね。
リムはフックレスとフックド、どちらにも対応。チューブレスレディですがチューブドでの運用も可能。このあたりも使い勝手の良さを考えて作ってある感じですね。普段使い、汎用性を意識しています。飛び道具ではありません、毎日使って下さい!という感じです。
なおいきなりタイヤの製造を自社で始められるほど甘い業界でもないので、製造はチェコの大御所、TUFOに委託しているそうです。開発もTUFOと共同。というわけでTUFOのタイヤを愛用されている方には気になる新製品ではないかと思います。
サイズは4つでタンサイドもあり
今回発表されたSESタイヤはロード・ロードレース・トライアスロン・タイムトライアル・オールロード向けとされ、サイズは 25c (255g), 27c (265g), 29c (275g), 31c (285g)の4サイズ。カラーはブラックの他、それぞれのサイズでなんとタンサイドも選べます!
サイズですが、29cなどは内径19mmのリムで使うと28mmになるそうです。
なおENVEサイトでの直販価格はいずれも$75となっています。
高いレベルでバランスを取ってみた
ENVEサイトでの製品紹介文を読むと、”holistic real-world tire performance”(リアルワールドでのトータルなタイヤ性能)といった、ややふんわりとした、抽象的とも取れるキャッチコピーが見られます。
凡庸な性能のタイヤをレトリックで着飾っただけじゃないのか、という意見も出るかもしれませんが、個人的には「高いレベルでバランスを取ってみた」というこの方向性は、実際悪くないのではないかと思いました。あとは実際使ってみてどうなのか、そこそこ速くてしかも丈夫というのは本当なのか、というところだけですね。
余談:動画の雰囲気がイイ!
それと完全に余談ですが、このタイヤの紹介動画がめっちゃカッコ良かったです。
音楽がイヤだ、という意見がコメント欄にあったりして、万人受けする表現は難しいなと思いましたが、編集も音楽もいいセンスしてるなー、と個人的には思いました(10回くらい見てしまったw)。
最近の海外のスポーツサイクルの紹介動画はどれも無意味にスピードランプ(スピードに緩急を付ける動画編集のテクニック)を多用していたり、無駄にシネマティックな表現だったりそのわりに音楽が安っぽかったりするものが多いのですが、上の動画は丁寧に作ってある感じがして好感が持てました。
近年は一部のカーボンホイールの耐久性の問題や、タイヤサイドが裂けるのはうちじゃなくてタイヤメーカーが悪い、といった論争などであまり良いイメージがなかったENVEですが、最近ちょっと元気でいい感じですね。