最近SNSやWebサイトなどを眺めていると、チューブレスタイヤを使っている人が急激に増えてきたように思います。
MAVICがロード用USTチューブレスを発売した事、カンパニョーロがボーラWTO(カーボンチューブレスリム)をリリースした事に加えて、今まで静観していたコンチネンタルが突如としてGP5000チューブレスを発表した事が後押ししていると考えています。
しかし、実際にレースで戦うプロ選手たちがチューブレスタイヤを使っているかと言うと、全くと言っていいほど普及していません。
ツール・ド・フランスやジロ・デ・イタリア、ブエルタ・ア・エスパーニャなどの最高峰レースではチューブラー率100%とも言われています。
今年の4月に開催されたパリ・ルーベで、個人的に印象に残った話がありました。
参考 Kristoff regrets ‘big risk’ after using tubeless tyres in Paris-Roubaix
クリストフ、パリ〜ルーベでチューブレスタイヤを使用後「大きいリスク」を取ったことを後悔する
UAEエミレーツのチームバイクは、本来ボーラウルトラ・チューブラーにVittoria Corsa 25Cを組み合わせた車輪を使用するところ、Alexander Kristoff選手は前年度にリリースされたばかりのボーラWTOにコルサチューブレスを組み合わせて出走したのですが、スタート地点から162km、29か所ある石畳区間のうち10か所目に辿り着くまでに2回パンク。
この時点で先頭集団に復帰するのは不可能となりました。3回目のパンクで遂にバイクごとチューブラーホイールに交換し、そのままゴールしたとの事です。
レース後のインタビューで、クリストフは「レースでチューブレスタイヤを使うのはリスクが伴う。来年からはもう使わないだろう」とコメントしています。彼はパリ・ルーベに向けて前年度からチューブレスタイヤのテスト運用を(実戦投入も含めて)繰り返していたので、農道の石畳という特殊な走行環境も影響しているとは思いますが。
チューブラータイヤは、よく「重量が軽い」とか「乗り心地が良い」とか、反面「取り付けやパンク時の対応が面倒」などとよく言われますが、では実際にチューブラーとクリンチャーを真剣に使い比べた人がどれくらい居るのかというと、ほとんど居ないと思うのですよ。
取り扱いがめんどくさい「イメージ」だけが先行してしまっている気がするのです。
今回は、チューブラータイヤを常用レベルで使用している筆者が、「どのように運用しているのか?」「メリット・デメリットは?」「各メーカー・モデルの特徴は?」に関して仔細に纏めてみました。
タイヤの規格を知る
まずは、スポーツバイクのタイヤの規格をちゃんと把握するところから始めましょう。
チューブラータイヤ
Tubularとは「管状のもの」を意味する「Tubulaire」というフランス語を語源としており(諸説あるかも)、チューブラータイヤはその名の通り管状のタイヤにチューブが内蔵された形式を指します。
上の画像はヴェロフレックスのチューブラータイヤの断面図ですが、見ての通りリムに引っ掛ける部分が一切なく(ただの管なので当然ですが)、後述する何らかの方法を以てリムに接着して使用します。
図③の部分がインナーチューブで、これを「カーカス(図⑥)」というコットンなどでできた布で覆い、トレッド(図①)の反対側で縫い合わせて閉じ込めた構造になっています。
縫い目は、図④の「Cotton Ribbon(和名:フンドシ)」で隠してあるので、外からは見えません。
1980年代くらいまでは、プロアマ問わず「ロードバイク=チューブラータイヤを使うもの」として認識されていまして、ロードの世界にクリンチャーが普及し始めたのは最近の話です。
ちなみにロード用チューブラータイヤのサイズ表記は「28インチ(たまに27インチ表記も見る)」、または「26インチ」です。
10年以上は前の話ですが、トライアスロンで26インチホイールを使うのが流行った時期がありました。また、ブリヂストンANCHORのスモールサイズのロードフレームで、これまた26インチホイールに合わせて設計されたものも昔ありました。
クリンチャータイヤ
ロードバイク以外の自転車(一般車とか)では普通に使われていたクリンチャータイヤですが、ロードバイクに転用され始めた頃のクリンチャータイヤは、21世紀現在のそれと比べるとそれはそれは酷いものばかりでした。
取り扱いだけは簡単。でも真円度は低いし、重量は嵩むわ、乗り心地は悪いわ、碌な事はない。
構造としては、U字型断面のフック付きリムに、これまたU字型断面のタイヤを引っ掛けて取り付けるようになっています。
図③はビードと呼ばれるスチールないしケブラー製の細縄で、ホイール側にビードを引っ掛ける突起が設けられていて、空気圧をかける事で初めてタイヤとしての体を成します。
図④はカーカスです。ヴェロフレックスのクリンチャータイヤは、チューブラータイヤと同じ材質・製法なので「カーカス」呼びでも差し支えありませんが、一般的なクリンチャータイヤはカーカスをゴムで固めたような状態になっているので、その場合は「ケーシング」と呼んだりします。
カーカスとケーシングには、本来は意味の違いはあまり無いはずなのですが、自転車用タイヤにおいては、チューブラーではカーカス、クリンチャーではケーシング、と呼ぶ事が多いように思います。
クリンチャーという名前は、断面のClinch(先端を曲げて保持する事)している形状に由来しています。
お気づきかと思いますが、クリンチャーというのは「リムとタイヤの取り付け方式」の名称を指すので、空気圧を保持するインナーチューブが介在するか否かは関係ありません。
要するに、タイヤをフックで引っ掛ける形式は、チューブが入っていようがいまいが「クリンチャー」なので、「チューブレスタイヤの対義語としてのクリンチャータイヤ」というのは(通じたとしても)誤用です。
チューブレスの対義語は「チューブドクリンチャー」と呼ぶのが正解でしょう。
チューブラーとクリンチャーではリムの規格や寸法が根本から異なり、同じ28インチ表記で統一すると間違いなく混乱が起こるため「700C」または「650C」という新しいサイズ表記が考案されました。
そのため、「700Cのチューブラーリム」や「28インチのクリンチャーリム」は、これまた誤用となります。ヴィットリアのチューブラータイヤのラベルを見てもらうと、コルサやルビノのサイズは「28”-23mm」と表記されています。
「大きいサイズのママチャリには27ないし28インチのクリンチャータイヤが付いているじゃないか」と反論されそうですが、一般車に用いられるクリンチャータイヤは「フックドエッジ28インチ」と呼び、これはロードバイクに用いられる「ワイヤードオン700C」とは全く別の規格なのです。
チューブレスリムの場合、700Cであっても「フックドエッジ」に分類されると思うのですが、この話は長くなるので割愛します。
タイヤの接着方法
チューブラータイヤをリムに装着するには、先ほども触れたように「接着」というプロセスが必要になります。
タイヤの接着には、大別して「リムセメント」「両面テープ」という2つの方法があります。
リムセメント
セメントといっても舗装に用いられる灰色のアレではなくて、コハク色の接着剤です。
パナレーサー製のリムセメントが入手性・作業性ともに最高なので、初心者の方は何も考えずパナレーサーを買う事を推奨します。
筆者はチューブ入りのもの(税別定価429円)を愛用していますが、これ1本あればタイヤ4~6本は貼り付けが可能です。缶入りタイプ(税別定価1,010円)は刷毛が付属していて、人によっては缶の方が作業しやすいかもしれません。1缶でタイヤ10本くらいは余裕です。
両面テープ
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最近になって、接着剤を使わずチューブラータイヤ専用の両面テープでタイヤを取り付ける方法が出てきました。
接着剤を塗布する工程がめんどくさい、という人のために開発されたものです・・・が、実際セメントとはまた別の手間がかかるため、手間が省けるのかと言われると疑問です。
ミヤタのチューブラーテープは2.5本分で1,200円、10本分で4,000円もするのでランニングコストは高め。
タイヤを取り付けてみよう
イメージ画像ばかりでは退屈なので、ここからは実際にタイヤを装着する過程を写真つきでご紹介しましょう。
今回は、筆者が普段使っているCampagnolo Bora One 35 Tubularの後輪にコンチネンタルのタイヤを装着する過程をお送りします。
用意するもの
- ホイール
- タイヤ
- リムセメント
- ラップ
- 簡易スタンド
- 後輪用クイックリリース
- 新聞紙(屋内作業では必須)
- タイヤレバー(任意)
- 100均で売っている俎板(任意)
- パーツクリーナー(任意、まず使わない)
パーツクリーナーは、ブレーキゾーンやタイヤサイドなど余計なところへ付着したセメントを除去する為に使いますが、あくまで念の為に用意するだけであり、無かったところで別に困りはしません。
ホイールを浮かせたまま作業するのに、簡易スタンドとクイックがあった方がいいです。
前輪の作業であってもクイックは後輪用を使います。
タイヤを伸ばす
それでは、取り付け作業へ…移る前に、装着するタイヤを伸ばさなければいけません。
必須の手順ではないものの、伸ばしておいたほうが作業の難易度が下がるタイヤは多いです。
上の画像は、Vittoria CORSA Elite21Cを、昔使っていたSUPER CHAMPIONのエトワールというリムに重ねた様子です。
リムの「内径」とタイヤの「外径」がほぼ同じになっていますね。もちろんタイヤサイズをミスった訳はありませんし、リムも通常の28インチ規格のものです。
現に、このようにリムに装着できました。
これでもまだマシな方で、これより嵌め込みがキツいタイヤの事を思えば赤子の手を捻るようなものです。
とにかく、いちど何もしていないリムに新品のタイヤを乗せてみましょう。
素手でスルスルと嵌められないようでは、本番で苦戦を強いられる事は間違いありません。
リムに乗せたら、空気を8~10Barほど充填して数時間放置します。
大抵の中堅~高級チューブラータイヤは10Bar程度なら余裕で耐えられますが、そうでもないタイヤも勿論ありますので、空気圧制限は厳守しましょう。
最近は少ないですが、リムの方で空気圧制限を設けているものも存在し、なぜかタイヤ側のそれより低いケースが多かったりします。
上の画像はTNiのカーボンチューブラーリムですが、125psi(≒8.6Bar)が上限値となっています。
10Barのストレスに耐えられないほど貧弱なリムには見えないのですが・・・。
これよりもっと軽いリム、例えばAXライトネスや昔のENVEなどのリムは、空気圧指定は絶対に守ってください。
裏技として、適当なクリンチャーリムに取り付けて仮伸ばしをする、という方法があります。
チューブラーリムの外周側にある窪みの部分で測ると、外径は約630mm強になるのですが、クリンチャーリムは622mmなので微かに小さいんです。
あまりにキツすぎてチューブラーリムに乗せられないタイヤの場合、この方法を試してみましょう。
タイヤにセメントを塗る
伸びたタイヤをリムから外し、いよいよセメントを塗っていきます。
セメント接着で最も重要なのは、リム面とタイヤ裏の双方にセメントを効かせる事です。
タイヤ裏の「フンドシ」部分にセメントを染み込ませると、これがリム側のセメントとガチガチにくっつくので、リムだけにセメントを塗る場合と比べて桁違いの接着力が得られます。
この作業を怠ると、急ブレーキでタイヤが進行方向にずれる、コーナリングや立ち漕ぎで前タイヤが剥がれて大惨事、といったトラブルを招きますので、端折らないように。
缶入りリムセメントには刷毛が付属していますが、チューブ入りには付属しません。
ゴム手袋でも良いのですが、二重に折りたたんだラップを指に巻いて作業するのがオススメです。
↑フンドシ表面が白んでいる範囲には、既にセメントを染み込ませてあります。
あまりに幅広く塗りすぎると、リム幅からはみ出してホコリを呼んだりするのですが、かといって狭すぎると接着力が落ちます。ちょうど良い塗り方を探してみてください。
封筒の口を閉じる液体糊よりは多めに塗った方がいいですが、お好み焼きソースくらい厚いのはダメです。
セメントが薄すぎると、フンドシに染み込む前に乾いてしまってペリペリとめくれてしまいますし、厚すぎると乾燥に時間がかかります。
指で強く押してもネバネバしないくらいには乾かしてしまってOKです。
↑これは、実家で冬眠していたチューブラーリムです。
セメントの膜が残っていて、同じくセメントを塗った上で完全に乾燥させたチューブラータイヤを乗せて1晩放置しました。
8Barも空気を入れていなかったにも関わらず、リムとタイヤがガッチリ癒着しているので、軽く手で押した程度ではビクともしません。
念のため書いておきますが、セメントを塗っていない新品のこのタイヤこのリムの組み合わせだと、ごくごく軽い力で脱着が可能なのです。
もちろんこれは良い事で、タイヤ裏にセメントを塗るのはこの効果を狙ってのものです。
出先でパンクした際にタイヤを剥がすのがやや難航する、というデメリットがありますが、では先ほど説明したリスクを負ってまでタイヤの貼り付けを緩くできますか?無理ですね。
もっとも、この処理をしたチューブラータイヤであっても、チューブレスタイヤの脱着よりは苦労せずに済むと思いますが。
リムにベッドを作る
リム側にもセメントを塗るのですが、いきなりステーキ、じゃなかった、いきなりセメントを塗って接着に臨むのではなく「ベッド」を作っておいたほうが後々便利です。
↑先ほどのTNiリムです。度重なるセメント塗布によって1mm近い厚さのセメント膜が形成されています。
この、直接タイヤとは接触しないリムセメントの膜を「ベッド」と呼びます。2年くらい使い込んだリムなので、ベッドはカリカリに乾ききっていますが、この上から新たにセメントを塗る事で接着力が復活します。
ベッドを作る理由ですが、出先でパンクした際の対処方法に関係があります。それは後ほど。
セメントを適量リムの上に絞り出し・・・
ラップを巻いた指で塗り広げます。
タイヤ裏に塗るよりは薄め、を意識してください。薄く塗ってはさっさと乾燥させ、3層4層とセメントの膜を上塗りしていきます。
ボーラの場合、外周部にニップル穴が開いていないので、セメント塗りが非常に容易です。
バルブ穴やニップル穴にセメントをこぼしてしまうと後々面倒なので気をつけましょう。
タイヤを乗せる
最終工程、タイヤを装着しにかかります。
まずは、先ほどこしらえたベッドの上に、セメントを1層塗ります。
このセメントは、ベッドとタイヤをくっつける為のセメントなので、ベッドのセメントとは目的がやや異なります。
表面を軽く指で触ってみてください。
画像のように、糸をひくようでは乾燥時間が足りません。
あまり強く押さえる必要もないですが、軽く触れても指にセメントがくっついてこないくらいには乾燥させてください。
気温や湿度で変動しますが、だいたい10~20分は待ちます。
この間、とくにやる事はありませんので、ホイールをブン回すなどして暇を潰しましょう。
指で触ってもくっつかなくなりました。
これだけ乾燥させれば、作業時に指がセメントまみれになるのも避けられます。
タイヤを乗せていくのですが、クリンチャータイヤと違いバルブを斜めに突っ込んでしまうと、もう修正ができません。
バルブをバルブ穴に真っ直ぐ通し、タイヤのバルブ両脇をリムに強く押し当てて圧着させてください。
嵌め込みがキツいタイヤは、ホイールを地面に突き当てて、上半身全体で体重を掛けながらでないと嵌まりません。
この時、くれぐれも新聞紙や布切れの上で作業しないようにしてください。リムセメントが紙片や繊維を巻きこんで、取り返しのつかない事態になります。
100均で売っているプラスチック製の俎板や、硬い木の板(ベニヤ板は不向き)があれば、それを土台にしてもOKです。
タイヤが全周に渡ってリムに上がったら、すぐさま空気を1Barだけ入れます。2Barは入れすぎです。
とりあえず嵌めただけのタイヤは、リムに対して真っ直ぐに取り付いていませんので、右に左に偏っているタイヤを真中に寄せる「センター出し」が必須です。
やり方はごく単純で、ホイールを軽く回転させ、タイヤの右か左いずれかの脇っぱらを注視します。
例えば左サイドを見ていたとして、一様の高さにあるはずのカーカスとフンドシの境目が、リムに沈み込んでいる箇所は「タイヤが左寄り」、逆にリムからの距離がグワッと広がっている箇所は「タイヤが右寄り」です。
偏っている箇所で、タイヤを持ち上げて真ん中に寄せなおす、という作業になるのですが、この時に2Bar入っていると、タイヤとリムの圧着がきつくなって作業に支障がでる、逆に空気が入っていないと、タイヤが真円を保てないためセンターが出せない、というのが、タイヤに1Barだけ空気を入れる理由です。
センター出しは、タイヤ装着の中で唯一、スピーディな作業が求められます。
モタモタしているうちにセメントが硬化して、タイヤがリムから剥がせなくなってしまうからです。
ここでついつい焦ってしまうというのが、セメント嫌いになる主因です。
慣れる事が大事なんですがね。「センター出しがうまくできない、こんなホイール使うのや~めた!」と、すぐに匙を投げてしまうようでは一生上達しません。
上の画像、分かりにくいですが、CAMPAGNOLO®の2つ目のO~®直下でタイヤがずれています。
画像はホイールの左側面から撮っているので、タイヤは右寄りです。ここを手で持ち上げて、真ん中に寄せておきましょう。
嵌めにくいタイヤは、バルブ穴の反対側あたりで、どうしてもセメントがタイヤサイドにくっついてしまいます。
上の画像でも3か所ほどセメントを巻き上げていますね。もっとキツいタイヤで、尚且つ慣れていない人がやると、こんなものでは済みません。
こういう時は、慌てずにセメントが乾くのを待ちましょう。タイヤを貼って5分くらい待てば、こびりついたセメントは指でこすって落とせます。
センター出しの難易度は、リムの寸法と形状、タイヤの精度でだいたい決まります。
今回使用した、ボーラワン35にコンチネンタル・スプリンターは、センター出しが最も容易な組み合わせのひとつです。
センター出しが済んだら、空気圧を10Barくらいにまで上げておきましょう(しつこいようですが、空気圧指定は厳守するように)。
24時間寝かせれば完璧ですが、待ちきれなければ10時間くらいでもまぁ大丈夫でしょう。
くれぐれも、貼り付けたその日のうちに走りだすのはやめてください。
これで、リムセメントを用いたチューブラータイヤ装着は完了です。
よくあるかもしれない質問
パンクした場合どうやって対処するの?
パンクしたタイヤをその場で剥がし、スペアタイヤに入れ替えます。つまり、予備のタイヤを携帯する必要があるという事です。
セメントでしっかりと接着したタイヤは、出先でのタイヤ交換作業に手こずる事があります。剥がれにくいように貼っているので当然です。
なので、チューブラータイヤ使用時であってもタイヤレバーを携行しておくと便利です。リムとタイヤの間に突き刺して、てこの要領でタイヤを引き剥がします。
僕は普段カンパニョーロのタイヤレバーを1本だけ持つようにしていますが、最も使い勝手が良いのはマルニのプラスチック製のやつです。
ピナレロからは「チューブラータイヤ専用タイヤレバー」なるものが出ていますが、別にあれである必要も感じません。
出先でパンクしたら、セメントもその場で塗らないといけないの?
セメントを塗る必要はありません。その為に、前項で「ベッド作り」に時間を割いていたのです。
これは僕が普段携帯しているスペアタイヤ、Vittoria CORSA Elite 23Cです。
元々は普通に使っていたものです。トレッドがいい感じにすり減ってきたので、剥がしてスペアタイヤにまわしました。シーラントの類は特に入れていません。
後輪がパンクした時にバルブエクステンダーを移す手間を省くため、予めバルブは延長してあります。
という情報はどうでもよくて、タイヤの裏を見てください。黄ばんではいますが、カピカピに乾燥したセメントが残っていますよね。ホイールに取り付けて使用していた頃のセメントの残滓です。
このセメントが、リム側にできたセメント膜とくっつく事に期待しているのです。
先ほどのボーラワンですが、敢えてベッドを1層だけにして、セメント少なめの接着をしてありました。
3か月ほど使った後で、今回の記事の為にタイヤを剥がしたのですが、ご覧の通りベッドが根こそぎ持っていかれました。
仮に、ここへ先ほどのセメントたっぷりスペアタイヤを乗せたところで・・・とても信用できませんよね。
ベッドをちゃんと厚く作っておけば、タイヤを勢いよく剥がした程度では失われませんし、残ったベッドとスペアタイヤ側のセメントがくっつく事で、多少立ち漕ぎしたりブレーキをかけた程度で剥がれたりはしなくなります。
もちろん、自宅でセメントを塗り足してしっかり貼るのに比べれば接着力は落ちますので、急坂の下りで40km/hも50km/hも出すとか、長時間ハードブレーキングにさらすとか、そういうのは厳禁です。
「ベッドがしっかり形成されたリムに、予めセメントを塗っておいたスペアタイヤを取り付けるのなら」、出先でのタイヤ交換にリムセメントの塗り足しは必要ありません。
最後にパンクしたのが1年以上前なので、画像がこれしかありませんでした。
毎朝通過している交差点に差し掛かったところ、「バスッ!」という音と同時にリヤタイヤがパンクしました。
フロントタイヤは何もなかったので、ただ単にタイヤが寿命を迎えただけの可能性があります。当該タイヤは捨ててしまったので、原因は不明のままです。
ピントが全く合っていない・・・。
パンクしたタイヤを剥がしたところ、リムにはしっかりとセメントが残っていた為、先ほどと同じスペアタイヤを装着して事なきを得ました。
この時、歩道に自転車を停めてからタイヤを剥がし、スペアに替えて再発進するまでにかかった時間は約5分です。
クリンチャータイヤの場合、パッチないしチューブ交換でのパンク修理を行いますが、チューブラーはタイヤを丸ごと替えてしまうので、パンクの原因をいちいち調べなくて良い、という点で便利なのです。
持っているスペアタイヤの本数以上にパンクしたら?
どうしようもありません。その時点で走行不能に陥ります。
これももしかすると、チューブラータイヤの食わず嫌いの理由になり得るのかもしれません。
が、よく考えてみると、これって「クリンチャーホイールを使っていて、予備チューブは持っているもののパッチやタイヤブートは携帯していない人」にも同じ事が言えますよね。
俺はパッチ携帯してるわい!と仰る方もおられるでしょう。ですが、チューブラータイヤには「2回以上パンクする可能性が低い」というメリットがあるのです。
クリンチャータイヤでパンクしたとして、チューブドかチューブレスかに関わらず大抵の場合はタイヤの損傷を伴います。もちろんタイヤブートや布ガムテープでの修復を試みるところでしょうが、同じ箇所で再び損傷する可能性が付きまといます。
新品のタイヤであれば弾き飛ばせるであろう小さな異物を、パンクするレベルで傷ついたタイヤで防ぎきれるのか?場合によっては微妙ですね。
チューブラータイヤの場合、パンクの原因に関わらずタイヤ丸ごと交換が基本ですから、1回目のパンクで如何にタイヤが傷ついていようが全く関係ありません。スペアタイヤが新品のタイヤであれば尚更です。
「パンクするたびに高いタイヤを丸ごと廃棄しないといけないのか!」という声もよく耳にします。それ、チューブレスタイヤでも同じ事が言えると思うんですが・・・。
タイヤを貼り直す時は、古いセメントは剥がすの?
剥がしません。古いセメントの上に新しいセメントを重ね塗りしてしまって構いません。
ネットで調べると、「タイヤ交換時には古いセメントを落としてください」などと書いているサイトが多いですが、せっかく作ったベッドをわざわざ手間暇かけて取り除く必要性は皆無です。
リムにこびりついたセメントを剥離するには、パーツクリーナー程度の分解力ではとても太刀打ちできませんので、「リムセメントリムーバー」なる超ドギツイ有機溶剤で数時間かけて溶かさなければいけません。
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古いセメントを剥がさないと接着力が落ちるから、というのが「剥がす派」の言い分なのかもしれませんが、そもそもリムーバーを以てしても容易には溶かせないセメント膜の影響で接着力が落ちるイメージが全く湧きません。
先ほどもサラッと触れたように、ベッドそのものにも多少の接着力がありますので、タイヤ交換のたびに剥離するのはナンセンスです。
↑これはキシリウムESチューブラーですが、私物ではなく友人のホイールです。タイヤ交換をお願いされたので、ついでに写真を撮らせてもらいました。
リム表面にちょこちょこ付着している茶色い物体が、乾燥して変色したリムセメントの残りカスです。その上からセメントを塗っていますが、もちろん接着力に悪影響はありません。
スペアタイヤの準備方法は?
リムセメントの場合、セメントを携帯しない代わりに、スペアタイヤにセメントが塗布されている必要があります。
元々使用していたタイヤを「おさがりスペア」にするなら、剥がしたタイヤにはセメントがこびりついているので、そのまま折りたたんでポケットに入れるなりサドル下にぶら下げるなりすればOKです。
しかし、新品のタイヤをスペア専用にするなら、セメントを予めタイヤに塗っておかなければいけません。前章の手順「タイヤにセメントを塗る」と同じやり方で構いません。
タイヤにセメントを塗ったら、手で思いっきり握ってもセメントが全くくっつかなくなるまで乾燥させてください。リム高が30mm以上あるホイールをお使いの人は、バルブエクステンダーを使ってバルブを長くしてから折りたためば、新品スペアの完成です。
スペアタイヤをサドル下にくくりつける方法は、CBN本館で詳述していますので併せてご覧ください。
cbn チューブラタイヤのサドルへの固定
GlennGouldさんは「1列巻き派」、僕は「2列巻き派」です。どちらか好きな方で巻いてください。
サドル下にタイヤを2本固定したい場合、「1列巻き」にしたタイヤを左右に2本並べて輪ゴムとベルトで縛ります。
嵌めやすいタイヤ、嵌めにくいタイヤの違いは?
一般的に、タイヤ全長が短い(=空気を入れた状態でのタイヤ全体の直径が小さい)ものほど嵌めにくい傾向にありますが、僕はタイヤサイドの柔軟性も関係あると思っています。
Vittoriaの21C以下のタイヤはだいたい径が小さいですが、嵌めにくいかと言われるとそこまででもありません。
対して、コンチネンタルのコンペティション19Cなどは、タイヤ径こそVittoriaと同じくらいではあるものの、比較にならないくらい嵌めづらいです。
径の小さいタイヤを装着する際に、タイヤをリムの接線方向に伸ばすようにして取り付けていく事をするのですが、この時のタイヤの伸びやすさとサイドの柔らかさがだいたい比例しているように感じるのです。
サイドが硬いコンチネンタルやTUFOは嵌めにくく、同じくらい内径が小さいはずのVittoriaやVeloflexで嵌めにくいという声をあまり聞かないのはそのせいです。
チューブラータイヤのメリット・デメリットまとめ
結局のところ、チューブラーホイールのメリットって何なんでしょう?
軽い
まず一つ、クリンチャーとの決定的な違いが「外周部の重量」です。
一例を挙げてみますと、現行カンパニョーロ・ボーラ35チューブラーのリム重量は320g前後ですが、これがクリンチャー版になるとリム重量が410gを超えます。
410gって言ったらあれですよ、MAVICのキシリウムSLと大差ないですよ奥さん。だったらキシリウム買いますよね。
クリンチャーリムは、タイヤを引っ掛けるビードフックに「空気圧に抗う耐久性」が求められるので、軽く作る事がそもそも無理なんです。
しかも、これがリムブレーキになると、リムのビードフックは「空気圧」と「ブレーキシューによる圧迫と摩耗」という強烈なストレスにさらされるため、軽量化はますます困難を極めます。
タイヤに関しては、最近話題の実測40g未満のチューブを使えば、チューブドクリンチャーとチューブラーで最も軽い組み合わせが同等くらいにはなるでしょう。
ボーラ35で320gくらいと書きましたが、これはクリンチャーリムと比較すると超軽量ですが、カーボンチューブラーリム全般で見れば平均よりやや軽い程度です。
パンクからの復帰が早い
先ほども触れましたが、リムセメントで接着している場合に限るものの「パンクしたタイヤを剥がして新しいタイヤを装着するだけ」で作業が終わる手軽さは捨てがたいものがあります。
僕がチューブラータイヤを常用する理由は主にこれです。例えば、雪が降るような極寒の季節に出先でパンクして、凍える指先でチューブにパッチを貼って、タイヤに亀裂や異物刺さりがないかチェックして、リムに噛みこまないようにチューブを入れて、と作業するのを想像するだけで気が滅入ります。
もちろん、自宅での作業にかかる時間で言えばクリンチャータイヤの比ではありませんが。
転がりが軽い
これに関しては、僕も未だに説明ができません。かつてVittoriaにオープンコルサCXというクリンチャータイヤがありましたが、あれは何度使ってもイマイチだったのに、チューブラーのコルサエリートは非常に軽快に転がるのです。
チューブはどちらもブチルゴムなので差はありませんし、何ならタイヤとしての格はオープンコルサCXの方が上です。
これについて、「チューブをカーカス内に完全に閉じ込めてしまうから、チューブとカーカスの摩擦が少なくなって転がりが軽く感じる」という主張を聞いた事はあるものの、いまいち説得力に欠けます。クリンチャータイヤだって、手で脱着できるとはいえタイヤとリムテープでチューブを閉じ込めている訳ですしおすし。
あくまでも想像ですが、チューブラー特有の転がり軽さは、リムとタイヤを接着しているところに起因しているのではないでしょうか。
両面テープやセメントなどを一切抜きに、「リムにタイヤを乗せただけ状態」でのタイヤの振る舞いは、クリンチャータイヤのそれに近いと思うのです。
そこから接着というプロセスを経る事で、タイヤとリムとの位置関係が「ビクともしない」レベルで不動のものになる、という考えです。
逆に、デメリットは何でしょうか。
家での準備が面倒
まあ、これに尽きるでしょう。リムセメントも一種の有機溶剤ですから、パーツクリーナーよりも刺激が強い液体と長時間向き合わねばなりません。
屋内での作業は控えるべきですし、何より時間がかかります。
あと、これは人にもよるでしょうが、その日の気分で履くタイヤをコロコロ換えるような事はまず無理でしょう(僕は昔やっていましたが時間とセメントの無駄です)。
もっとも僕は、洗車・チェーン洗浄・グリスアップよりはめんどくさくない、くらいにしか考えていませんが。
要は慣れの問題だという事です。10回も自力でタイヤ交換をすれば、最初に感じためんどくささも多少マシになります。
荷物がかさばる
知りませんがな。と一言で片づけるのもアレなので、もうちょっと書きます。
↑これは先ほども紹介したスペアタイヤですが、このようにサドルの下にベルトで縛って固定しています。
ベルトとタイヤの間にタイヤレバーを1本突っ込み、二酸化炭素ボンベとインフレーターはジャージのポケットに入れておきます。
パンク修理時に必要なのは「予備のタイヤ」だけなので、パッチだチューブだタイヤブートだと色々必要なクリンチャーと比べて、明らかに荷物が増えるというほどでもない気がするのは僕だけでしょうか。
サドルバッグの取り付けスペースが無くなる、サドルバッグには修理道具以外にも色々と入れたいのに、という意見には同意します。
ちなみに、スペアタイヤ1本で走る距離は50~60km以内です。それ以上遠くへ行く時は、スペアを2本に増やします。
僕の友人には何人かチューブラーホイール持ちがいるので、一緒に走る時はスペアを共有する事もあります。
オススメのチューブラータイヤ
「チューブラータイヤの特性は大体わかった、では一体どこのタイヤなりホイールなりを買えばいいのだろうか?」
一口にチューブラータイヤといっても、タイヤメーカーによって、あるいは同じメーカー内でも銘柄によって性能は全く異なるものです。
チューブラータイヤには、大きく分けて3種類のタイヤが存在します。
- レースまたはロングライド向けハイエンドタイヤ
- 普段使いに最適、中堅グレードタイヤ
- ひたすら安い廉価グレードタイヤ、またはライオンタイヤ
ハイエンドタイヤ
基本的にはグリップ性能と重量の軽さを重視しており、メーカーによってはラテックスチューブを入れる事で乗り心地の向上を図っているものも多いです。
重量は160~270g。それなりの耐久性を持ったものが欲しいなら、200gを割っているタイヤには手を出さないのが賢明でしょう。
- Vittoria CORSA G+
- Continental GP4000SⅡ
- Continental Competition
- Veloflex Sprinter
- Veloflex Record
- Challenge Criterium
- SPECIALIZED Turbo
- SOYO UPSTREAM
- TUFO Elite JET <160g
基本的には、どれも定価1万円前後はするものばかりです。ContinentalとTUFOのタイヤはブチルチューブですが、上に挙げたそれ以外のメーカーは全てラテックスチューブです。乗り心地が良くなるのと、コーナリングでの踏ん張りが強くなる代わりに1日で4Barくらい空気が抜けます。
かつてVeloflexにはServizio Corse(セルヴィツィオコルセ)という名タイヤがあったのですが、数年前に廃版となりました。それの事実上の後継モデルが、同社のレコード22Cです。ペラペラのタイヤなので、パンクは割としやすい方ですが、極上の乗り心地と最強クラスのコーナリンググリップが特徴の逸品です。
また、パリ・ルーベやツール・デ・フランドルなどのクラシックレース向けに作られたタイヤというのが幾つかあり、大抵は幅25~28Cです。
しかし、チューブラータイヤはクリンチャータイヤより一回り細いものが適していると言われており、特に日本のような綺麗な舗装路を走る分にはオーバースペックかもしれません。
カペルミュールで自転車に乗る機会がある方は是非どうぞ。
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個人的なオススメは、コンペティションの22Cです。このタイヤを一言で言い表すなら「グリップと耐久性の鬼」です。
僕はコンペティションの19Cを常用していますが、19Cとは思えないくらいグリップが強く、それでいて擦り減りにくいという他にはない強靭さを誇っているのです。
中堅グレードタイヤ
価格帯は5,000~8,000円くらい。このクラスになると、ラテックスチューブが使われる事はありません。軽さは二の次になり、擦り減りにくさやパンクしにくさを重視したモデルになります。
- Continental Sprinter
- Continental Sprinter Gatorskin
- Vittoria RUBINO PRO G+
- TUFO S3 Lite <215g
実は、このゾーンを埋めるチューブラータイヤのラインナップって多くないんです。僕個人の事情で言うと、より減りやすい後輪にスプリンターを取り付けるのが好きなのですが、スプリンターに代わる競合他社製品がほぼ存在しない、という悩みがあります。
廉価グレードタイヤ及びライオンタイヤ
ライオンタイヤって何ぞや?と思われた事でしょう。
ライオンタイヤとはVittoria傘下のタイヤメーカーで、タイに工場を持っています。CBN本館レビューを熟読しておられる方はご存じかもしれませんが、大抵のタイヤメーカーの廉価チューブラータイヤはライオンがOEM製造しています。
ライオン製のタイヤを挙げると、
- Vittoria RALLY
- Vittoria STRADA
- Continental Giro
- Panaracer Practice
- SOYO Super Maximum 290
- Ritchey Comp Slick
くらいです。廃版品を含めるなら、もう少し増えるかもしれません。
ライオンタイヤは、タイヤの脇の質感とトレッドの硬さが独特で、どこのブランドのロゴが印字してあろうが分かる人が見れば一発で分かります。
上記6モデルも、違いと言えばせいぜいバルブコアが外れるか否か、あとはGiroが唯一スキンサイドである、くらいしか思いつきません。
ライオン製でない、メーカー内製の廉価タイヤとしては
- TUFO S33
- TUFO JET PRO
あたりが挙げられます。いずれも定価4,000円もしないものなので、グリップ力は当然ながら中堅以上のタイヤに大きく劣ります。
パンクしやすいという程でもないものの、コスト削減のためか耐パンクベルトを省いているものも多いので、長期的な使用には向きません。スペアタイヤにするのがいいかもしれません。
初めてのチューブラーに最適なのは?
やはり、コンチネンタルのスプリンターでしょう。重量は決して軽くはないものの、そのグリップ力と耐久性は他の追随を許さないものがあります。
22Cと25Cがラインナップにありますが、22Cでも実測23mmくらいある事、チューブラータイヤで下手に幅広タイヤを選ぶと転がりが重たくなる事から22Cがオススメです。
パンクリスクの低さもあり、安さにつられてライオンタイヤ系のものを選ぶよりは良い選択肢だと思います。
スプリンターは数年前にマイナーチェンジしまして、上の画像のContinentalロゴがオレンジ文字の方が現行モデル、黒文字ロゴの方が旧モデルです。
旧モデルは現行モデルより若干嵌めにくく、ショップによっては長期在庫品の旧モデルを渡されたりしますので要注意です(ちなみに旧モデルの方がやや軽い)。
オススメのチューブラー完組ホイール
一般ユーザーの関心が急激に薄れてきたのも相まって、チューブラーリムの完組ホイールはカーボンリムのものしか現存しません。
MAVICキシリウムSLも、カンパニョーロ・シャマルウルトラも、フルクラム・レーシングZEROも、チューブラーリム版は2015年限りで製造終了です。
なので、ここは事実上「オススメのカーボンチューブラーホイール」になってしまいます。ご了承ください。
MAVIC COSMIC PRO CARBON SL T
言わずと知れたディープリムの代名詞的ホイールです。最近のコスミックカーボンはリムハイトが40mmとやや控えめになっていて、その分リムが軽く扱いやすくなっています。
元々コスミックカーボンといえば、アルミリムにカーボンフードを被せた疑似エアロホイールでしたが、これはフルカーボンリムとなっています。
ベアリングは傷みにくく、全体の剛性も高い優秀なホイールですが、付属している「イエローキング」というブレーキシューがリムを傷めやすいという欠点があります。
定価30万円という価格の高さも、手を出しづらい要因のひとつになっています。
CAMPAGNOLO BORA ONE 35
筆者の愛用ホイールです。後輪単体の実測重量691gという驚異的な軽さを誇ります。
カンパニョーロには、かつてハイペロンウルトラという山岳向け軽量カーボンチューブラーホイールがあり、当時のボーラは50mm高リムのものしか存在しなかったため、「アップダウンが激しい時はハイペロン、それ以外はボーラ」とするプロチームが多かったのです。
2014年にボーラ35がデビューしたのですが、初代ボーラ35はリムの重量がハイペロンよりも微かに軽いという恐ろしい特徴がありました。35mm高のリムが、21mmしかないリムよりも却って軽い逆転現象が起こったのです。
リムが高くて重量が軽いボーラ35は、プロ選手からすれば「ハイペロンの完全上位互換品」です。2014年以降、当時の新城幸也が在籍していたユーロップカーをはじめ、カンパニョーロにサポートされているチームのハイペロン使用率は激減していきました。
ボーラには、ベーシックグレードのBora Oneと、ハブ胴がカーボンになってCULTベアリングに換装されたBora Ultraがあります。リムとスポークは同じものなので、走り出してしまえば両者の違いはほぼ無くなります。
定価ではボーラウルトラの方が13万円も高いので、僕はボーラワンをオススメします。
注意するべき点として、ベアリングの防水性が低く、コスミックに比べるとハブのメンテナンス頻度が高くなる事が挙げられます。
それ以外には特に欠点のない優等生です。初めてのカーボンホイール、初めてのチューブラーホイールにうってつけです。
CORIMA 32mm S Black
コリマはフランスのリムメーカーで、ロードバイクにおけるカーボンホイールの先駆者であり、いち早くバトンホイールやディスクホイールをカーボンで製造したメーカーでもあります。
コリマのリムは「内部が空洞ではない」という珍しい特徴を持っていまして、その構造ゆえ、軽さとリム強度のバランスが飛びぬけています。マスプロメーカーのカーボンリムを壊れにくい順に並べたなら、コリマのリムはかなり上位に入ると思われます。
元祖コリマリムは「エアロ」「ミディアム」「ウィニウム」という3種類の展開だったところ、現在のコリマでは「32mm」「47mm」「58mm」の3種類展開に変更されていて、これはリム高がそのまま名前になっているだけです。
コリマは、カーボンリムの単品販売も行っています。これも現代ホイールメーカーとしては珍しいポイントです。
それによると、「32mm」のリム重量は290gだそうで、これはマスプロメーカーの30mm以上のカーボンチューブラーリムとしてはかなり軽いほうです(最軽量ではない)。
完組ホイールとしての性能は、ボーラワンに若干劣る程度ですが、体重が軽い人なら気にならない程度の違いだとは思います。「S」は、税別定価165,000円とカーボンチューブラーの完組ホイールとしては破格に安いので、こちらもチューブラーデビューに最適です。
コリマホイールの欠点は、カンパニョーロよりも悪いハブの防水性能と、雨が降った時の純正ブレーキシューの制動力の低さです。
付け加えると、材質に関わらず26インチチューブラーリムの完組ホイールを販売し続けている大手のホイールメーカーは、現在では(恐らく)コリマだけです。
手組ホイール用チューブラーリム
「完組ホイールが無い!?じゃあ手組みすればいいんじゃな!!」
そんな貴方へご紹介します。そう、完組ホイールが無いなら自分で組めばいいじゃない。
ニッチで深い、いちど入ったら戻れない手組ワールドへようこそ。
KINLIN TB-25
ロードバイクに取り付ける上では、軽さもさることながら、スポークの少なさも大事だったりします(少なすぎるのはNG)。
アルミリムでチューブラー、かつ24Hや20Hがラインナップにあるリム、となると僕は2種類しか知りません。そのうちの1つです。
軽量かつ高強度、ブレーキの効きも良い。ヴィットリアのタイヤとの相性が悪いのが欠点です。
国内代理店では28Hまでしか取り扱いが無いのですが、福島県のショップ、PAXCYCLEではなぜか20Hと24Hの取り扱いがあるので、気になる方はお問い合わせをどうぞ。
AMBROSIO NEMESIS
今ではほとんど見かけなくなったローハイトアルミリムです。
ネメシスは元々パリ・ルーベをはじめとするクラシックレースのために作られたもので、アンブロッシオの他のリムでネメシスより軽いものはあります。
それでもネメシスが人気なのは、このリム特有の頑丈さ・振れにくさを気に入っている人が多いという事なのでしょう。僕がいま一番欲しいリムのひとつです。
CORIMA 32mm
コリマが単品販売しているカーボンリムですが、自社製ホイールの補修用リムだけでなく汎用ハブで組める普通の穴数のリム(例えば24Hや28H、32Hなど)も用意しているところが珍しいです。
コリマの「58mm」というリムですが、このリム高で32Hを用意しているカーボンリムメーカーはまずありません。カンパニョーロのレコードハブやシマノハブなど、32Hしかラインナップが無いハブメーカーも未だにありますので、ハブありきでホイールを考える場合には大変ありがたい存在です。
また、「47mm」リムには26インチサイズのラインナップがあります。
リムセメントの違いについて
書き忘れていましたが、リムセメントもメーカーによって性能差があります。
が、迷ったらパナレーサーを選んでおけば間違いはありません。
パナレーサーの青い容器に入ったリムセメントですが、乾燥にかかる時間が極端に短く、どれだけ念入りにベッド作りをやったとしても半日はかかりません。
隣に置いてあるヴィットリアのリムセメントですが、某ショップにて偶然目にしたので買ってみたところ、接着力はともかく乾燥時間が異常に長く、
今回のタイヤ交換の際、ベッド作りをヴィットリアで行ったところ、セメント塗布から15時間も経っているというのに乾ききっていませんでした。
しかも、どこから湧いてきたのか大量の気泡がセメント内部に生じているのも鬱陶しいです。
↑別の箇所
「特価で」350円という事は、定価だともっと高いという訳でして、パナレーサーという上位互換品があるにも関わらずわざわざヴィットリアのセメントを使う理由は無い、と断ずる他ありません。残念ながら。
コンチネンタルもリムセメントを出していますが、カーボンリムへのダメージ軽減のため接着力を弱くしてあると聞いた事があります。
「接着力が強いとカーボンリムへのダメージが大きくなる」というのは、リム表面にベッドをしっかり作っておかなかった場合に限る話ですので、コンチネンタルもやはり選ぶには値しません。
両面テープについて
ミヤタから、「TTP-1」「TTP-2」などの名前がついた両面テープがリリースされています。
両面テープは、「タイヤを取り付けてからテープのフィルムを剥いて貼り付ける」という取り付け手順の都合上、「タイヤのセンター出しに幾らでも時間がかけられる」というメリットがあり、セメント嫌いを後押ししているのかなぁと思ったりします。
が、両面テープには2つ弱点があり、ひとつは「タイヤの空気圧が下げられない」という点です。
例えば競技シクロクロスの世界では、プロアマ問わずチューブラータイヤの使用率が高いですが、両面テープで貼ったタイヤに2Barだけ空気を入れて使用すると、コーナーでタイヤが剥がれるトラブルが頻発するそうです。リムセメントで貼ったタイヤは剥がれないらしいので、「低圧運用できない」というデメリットがあります。
もうひとつは、「出先でパンクした時のタイヤ交換が死ぬほど面倒」という事です。僕がテープ嫌いな理由はここにあります。
まず、「スペアタイヤ用の両面テープ」を携帯しておく必要があるんです。この時点で既にめんどくさい。スペアタイヤに予め両面テープを貼っておけば多少は楽かもしれませんが、スペアタイヤのたたみ方次第ではテープの保護フィルムが剥がれてしまう恐れもあります。
もっと面倒なのは、パンクしたタイヤを剥がした後、リムの表面に残った両面テープの切れ端を綺麗に除去しなければいけないのです(残ったままだと接着力が落ちて危険です)。
剥がしたタイヤがテープを巻き上げていってくれたら楽なのですが、大抵はリムにベッタリ残ります。
剥がしたテープの切れ端はというと、道端に捨てるわけにもいきませんから、丸めて最寄りのゴミ捨て場まで持っていきます。テープにくっついていた透明なフィルムもゴミとして出ます。
両面テープにも、ブレーキ熱に強いとか臭くないとか、メリットもあるのですが、少なくとも僕にとってはデメリットの方が多かったので今では使っていません。
5年以上前までは両面テープを使っていた事もあったものの、あまりのランニングコストの高さと後処理の面倒さに嫌気がさして使用をやめました。
最後に
だいぶ長くなりましたが、「チューブラータイヤの使い方」はだいたい伝わったでしょうか。
今となってはチューブラーユーザー、特にリムセメント派の人は少数派になってしまったため、少しでもチューブラータイヤを使いたいと思う人が増えてほしいと思って筆を執りました。
チューブラータイヤは決して「めんどくさいタイヤ」ではないのです。これを読んで、少しでもチューブラーに対するマイナスイメージが払拭できたなら幸いです。
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