ここ数年、欧米の自転車メーカー・パーツメーカー、ウェアやバッグメーカーなどでサステナビリティ(持続可能性)を意識したモノ作りやサービスが活発化している印象を受けていましたが、Pinkbike(カナダのMTB系ウェブメディア)がこれについて記事を公開しているので紹介しながら考察してみます。
植林から製品の修理サービスまで多様な活動
記事中で紹介されている取り組みからいくつか紹介します。
- Enduraは2021年、130万本以上の木を植えた(2024年までにカーボン・ネガティブになることを目指し毎年100万本以上植える計画がある)
- Five Tenは2021年春、リサイクルされた海洋プラスチックゴミを利用したシューズFreeriderを発表した
- SRAMは2020年9月、カーボンパーツ製造の際に発生する大量のカーボンゴミを再利用する特許を申請した(新素材の剛性や柔軟性を調整するための材料にするものと思われる)
- Apiduraは製品の修理サービスを充実させており、本社に直接送付してもらう以外に18のショップが修理のための収集サービスを行っている(可能ならショップでの修理やライダーによる自力での修理も推奨。リペアガイドをショップに提供している)
- フランス政府は自動車をスクラップしeBIKEを購入する人に対し2500ユーロ(2975ドル 日本円で約32〜33万円)の補助金を出す法案を検討中(2030年までに1990年時点での二酸化炭素排出量の40%削減を目指す気候法案への修正条項)。実現すれば同種の法案としては世界初になる
- Selle Italiaは素早く製造できて低価格、かつエコフレンドリーなサドルを開発した。接着剤やポリウレタンを使用せず環境への影響が少ない素材を採用する(Model X Green Superflowが最初の製品となった)。イタリアで製造することによりサプライチェーンの問題を回避できるだけでなく、無駄なゴミや海外から製品を運搬する際の二酸化炭素排出量削減も目論める
- 4iiiiは新規ユーザーや特定の左クランクを余らせている人に対し45ドルでそのクランクを買い取るリサイクル・プログラムを発表。送付されたクランクには4iiiiのパワーメーターが取り付けられ、「reCYCLEDモデル」として20%引きの値段で販売される(現在は北米でのみ提供しているサービスだが世界展開を計画中)
- スペシャライズドはバッテリーのリサイクルプログラムを北米に次いで英国でも開始すると発表した。受け取ったバッテリーは100%リサイクルされ、ゴミ集積場に運ばれることはない。北米では今年の年末までにプログラムが展開され、他の国では2022年までにより大規模に展開する考え
他にMTBerにはおなじみのThuleやShred Gogglesの製品も紹介されています。また、Pinkbikeの記事では紹介されていませんが、Schwalbeは数年前からチューブのリサイクルプログラムを一部地域で実施しており、バッグメーカーの独OrtliebもCO2削減活動を行っています。
様々な領域でのサステナビリティ
「サステナビリティ」と言うと「自然や社会が長く持続するための方策」がまず想像されますが、こうした動きの背景にはそれに加え、Selle Italiaの例で言及されているように、「コロナ禍で打撃を受けたサプライチェーンに依存しないモノ作り」を目指したい、という事情もあるようです。アジアで生産されたベースパーツを輸入した後にイタリアで加工する、という方法をやめたいということです。
またApiduraは提携ショップに修理ガイドを送付することにより、ショップ内でユーザーと一緒に簡単な修理ができないか試してみることを推奨しているようです。こうした活動を通じてショップとお客さんの接点が増え、最終的にはショップの売上が増える・ユーザーは買い替えのための支出が減る・壊れた製品は廃棄されてゴミにならない、と、関係者全員がWin-Winになる構図です。
地球環境を保護しないといけない、という観点は勿論、コロナ後に混乱したサプライチェーン構造への依存から脱却したい、通販で打撃を受けているリアルショップの業績向上を目指したい、支出を減らしたい、等々、複数のモチベーションが絡み合いながら「サステイナブルでグリーンな製品・サービス」が今後も拡大していきそうな気がします。
「サステナビリティ」というと、なんとなくフワっとした、具体的な成果や効果が目に見えないものに思えてしまいますが、EUや北米で行われているこれらの取り組みは具体的で確実な成果を目指しているように感じられるのが面白いですね。
企業にとってサステナビリティへの取り組みは社会的責任であるだけでなく、ビジネスの維持・業績向上のために不可欠な活動になってきているのだと思います。