国土地理院が紙で刊行・インターネットでも公開している「地理院地図」というものがあります。登山・ハイキングの愛好家にとっては必須の資料で、特に縮尺1/25000の地図は「地形」を読み取るために重宝されています。
Google Mapのような一般地図は「道路」や「交通網」の判別に便利ですが、「地理院地図」は眺めているとそこがどんな地形なのか、どんな植物が生えているのか、といった「風景」が浮かんできます。普段のサイクリングで活用する機会は多くないかもしれませんが、非常に楽しいものなので、基本的な眺め方をご紹介します。
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参考 地図記号一覧 | 国土地理院
等高線について
国土地理院の地形図では、全部で134個の記号が使われています。その中からサイクリスト的に重要視すると面白そうなものを紹介していきます。まずは最重要と思われる「等高線」を見ていきましょう。
下の画像の、木の年輪みたいなものが「等高線」です。これは「標高が等しい地点をずっと繋いでいった線」で、1/25000地形図では、細い線(=主曲線)と線のあいだは「10mの標高差」があります。太い線(=計曲線)は、50mおきに引かれています(1/50000地図の場合は主曲線が20m、計曲線が100mになります)。
等高線が密集しているなら「短距離で標高差が多い」ことを意味します。つまり「険しい斜面」であることがわかります(そこを道が貫いていたら激坂)。反対に線と線との間隔が広い場合は、標高差が少ない地形で、山の頂上の平たい場所だったり、頂上と頂上のあいだのなだらかなエリアだったりします。
これから走りに行こうとしている場所の等高線と道路の関係を見ておくと、どの程度の強度の道なのか、どのあたりで坂がキツくなるのか、といったことがわかります。これがまず、地形を把握する上での最初のステップと言って良いでしょう。
道路の記号
次に「道路」をあらわす記号を見ていきましょう。以下の中で特に注目しておきたいのが「徒歩道・軽車道・道路橋・トンネル」です。
破線で示される徒歩道は、山の中でハイカーが歩くような非舗装のシングルトラックであることが多いです。自転車は禁止されている道がほとんどですが、まれに走れる道もあります。もしこういう道がルートに含まれている場合、パニアバッグだとバタついて落ちてしまうかも、ロードバイクよりグラベルバイクのほうが良いだろうか、という想像ができます。
軽車道、ならグラベルライドを楽しめるダブルトラック(クルマが通れる二本轍)かもしれません。また道路橋とトンネルの記号を覚えておくとランドマーク的に便利です(このあたりに橋があるはずなんだけどなぁ…あ、あれか! という感じで役立ちます)。
地形(陸部)の記号
次に「陸部の地形」をあらわす記号を見ていきます。「主曲線・計曲線・補助曲線」は最初に紹介した「等高線」の種類です。ここで注目したいのが「岩崖」と「土崖」。特に「土がけ」は、道の左右に盛土がされているのか? それとも片側だけ削れた崖のようになっているのか? などを想像できます。下の画像中の「定規の目盛り」みたいなものが生えているやつです。
ちなみに「砂れき地」の「れき」は「小石」という意味で、砂れき地=グラベル、なのですが、道路の線上にこの記号が置かれることはないと思います(グラベルライド愛好家にとってはあったら便利ですけどね!)。道が舗装路かそうでないかは、地理院地図では判別できません。
植生の記号
次は「植生」(どんな植物が生息しているか)に関する記号を見ていきましょう。「えー、植物なんかあんまり興味ないよ!」という方もいるかもしれません。しかし植物に興味がなくともそこに生えている植物の種類がわかれば、地形・風景も少し見えてくるので、眺めてみましょう。
「ハイマツ」は「地面を這う松」のこと。森林限界より上の高山帯に生えていることが多いです。つまりこの記号があるところは高所で寒くて、まわりには高い木がないから、風も強いのかもしれない… などと推測できるわけです(※必ずしもそうであるとは限りません)。
また最初に見た「等高線」の知識と合わせてみた場合、例えば「等高線が密集している場所」なのに「田」の記号があるとします。険しい斜面なのに、田んぼ… そうか、ひょっとして「棚田」が拡がっている風景かも? などと想像できたりもします。これだけでも、ちょっと楽しくないですか。
現実と照らし合わせてみる
ここまでは「地理院地図を読む」ための準備、基礎知識でした。ここからは私が先日実際に走ってきたエリアについて、現地で撮影した写真と地理院地図とを見比べていきます。
例として挙げる道は、下の記事で紹介した長野県東御市の「湯の丸高峰林道」です。
その林道のあるエリアの地理院地図(Web版)がこちら。これまでに紹介してきた「等高線」や地形の記号、植生の記号を思い出しながら眺めてみて下さい。また、どんな道なのか、頭の中で想像してみると楽しいと思います。私が出発したのは左側の「2061」という数字が書かれているあたり(コマクサ峠付近)です。
舗装されているかどうかは不明ですが、「幅3〜5.5mの1車線」道路が東西に伸びているのがわかります。ざっくり考えると、道の両側は崖。道の北側は「切り取られて」おり、南側は「盛土」されているのだろうか。道の前半は、南側が急峻な斜面になっているようだ。下に青色の沢が見える。ここは谷になっているのか。
北側は、反対に緩やかな斜面。植生は、針葉樹が多いみたいだけど、広葉樹もそこそこあるように見える…
この林道(両側が崖の部分)で私が最初に、遠く右手側に見たのは、次のような風景でした。
私と被写体との位置関係は、こんな感じです。
もう一度、同じ方向を拡大して見てみましょう。岩肌が露出した崖があって、その奥に建物が見えますね。あれは、何でしょうか。
同じ場所の地図も拡大してみましょう。左側の矢印で示しているのは、崖です。中央の矢印で示している赤枠の長方形は、構造物(建物)を示します。右側の矢印で示している三角形の付いた線は「索道(リフト等)」を示しています。つまり、あそこに見えているのは「スキー場の建物とリフト」です。
等高線を眺めると、スキー場が周囲と比べて少しなだらかな場所に作られているのもわかりますね(「アサマ2000パークスキー場」といいますが、地理院地図にはそういう名称は普通、記載されていません)。
下の写真は、大体同じような場所で道の先を撮ったものです。地理院地図には左右の崖は勿論、笹が生えている場所まで記載されています(たまたまかもしれませんが、すごすぎて尊敬しかない… でもWeb版の地図は更新頻度高いらしいです。紙版の更新は数年おき)。
もうひとつ地図と見比べてみましょう。下の写真映えする美しい場所、これは何処だったか言うと…
下の地図上の、赤丸が撮影位置。矢印の先が、上の写真で見えている崖です。地理院地図でもあの崖がちゃんと反映されています。とっても丁寧な仕事ですよね。
記号化・抽象化のおもしろさ
と、こんなふうに「ライド後」に地理院地図を眺め、どんな地形を走ったのかをあらためて確認するのも楽しいですが、登山メインの方は出発前や行動中にこうした地図を眺め、どのあたりが険しそうか、ピークが連続している場所はないか、あるとしたらその付近は疲れるだろうからそこまでは体力を温存してゆっくりと歩こう… といったふうにペース配分を考えたりするのだそうです。
筆者はこの日、こうした事前の観察なしにこの道を走ったので、現地で「自分はいま何処にいるのだろう」と何度か考えました。それはそれで楽しいのですが、事前に地理院地図で地形を把握して行っても面白いと思います。特に「交通の主役」ではないこうしたマイナーな道に関しては便利。地形を読む、という点ではGoogle Mapよりも使いやすいです。
Google Mapの航空写真も、これはこれで楽しい。写真というのは、現実の「再現」です。一方、地図というものは現実の「抽象」で、抽象は人間精神にとって理解しやすく、道具として扱いやすい。なので航空写真があっても、地理院地図の魅力は決して廃れないと思います。地理院地図には、人間の高度な知性と記号化・抽象化の能力が溢れています。
▼ 地理院地図にも3D表示機能があります。これもなかなか楽しい
と、こんなわけで地理院地図の超基本的な読み方・役立て方・楽しみ方をご紹介しました。自転車趣味の人が使ってもとても便利で面白いものだと思うので、いつか是非お試し下さい。とりあえずヒルクライムしたことのある山を地理院地図で検索してみると、発見があると思います。